咲-Saki- とりあえずタバコが吸いたい先輩   作:隠戸海斗

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どうでもいい小ネタ:100点棒は歯で挟まず、奥歯と頬の間に差し込んでます。
だから喋るのに支障なし(

とうとうこの時が来ましたよ。



15竹井久その4 決着と用件

繰り返すようだが秀介の対面に座る男、藤はいかなる手段を用いてか相手の手牌を見通す。

 

いや、正確には手牌だけではない、山の牌も見通している。

 

次にツモる牌は何か?

誰が何をツモるか?

裏ドラは何か?

嶺上牌は?

槓ドラは?

 

そこまで見えていれば、誰が何の牌を欲しがっているかも分かり、逆に誰にとってどの牌が不要牌かも分かる。

 

手の進行の妨害、有効牌の横取り、リーチ一発ツモ、敵の不要牌でのロン上がり。

 

これだけの事が出来る藤が負けるはずがない。

 

 

そう、

 

 

「・・・・・・ずいぶん」

 

 

通常の人間が相手ならば。

 

 

「しぶといじゃないか。

 聴牌」

「くっ・・・・・・聴牌」

「「ノーテン」」

 

秀介と藤が聴牌、そして久と老人がノーテン。

すでにそれが4回繰り返された。

 

状況はさっきまでと全く逆。

すなわち、秀介の上がりを藤が凌ぐだけで精いっぱいという状況だ。

 

こんなバカな、と藤は拳を握る。

 

 

 

東二局4本場 親・秀介 ドラ{六}

 

藤手牌

 

{四四八①②③⑤⑥⑧(横④)2367}

 

(よし、一枚入った)

 

{八}を切り出し、山と全員の手牌を確認する。

 

(途中妨害がなければ次巡ツモるのは{⑨}。

 その後は・・・・・・{8}か。

 それで一通聴牌だ)

 

しかし問題なのは、と対面の秀介を見る。

 

秀介手牌

 

{二五(ドラ)六七⑦⑧⑨⑨(横3)4599}

 

(・・・・・・奴も一枚入ったか。

 だがこのままいけば奴に有効牌は入らない)

 

秀介が切るのはどう見ても{二}。

久も老人も鳴けない牌だ、喰いずらされることもない。

そう、このまま行けば、だ。

 

秀介は暫し考え。

 

「・・・・・・ご老人」

 

手牌から{(ドラ)}を抜いた。

 

「もしや、これ欲しいですかな?」

「!?」

 

{(ドラ)}!?

それは老人の手牌で対子の牌!

しかも喰いタン狙いには絶好の手牌!

まずい! 喰いずらされたら自分の手が遅れるし・・・・・・その後奴に有効牌が入る!

 

「おお、なら遠慮なく・・・・・・」

「ま、待ってください!」

 

それを藤は必死に止めた。

何事?と老人も久も藤の方を見る。

 

「・・・・・・それを鳴いてはいけません。

 お願いします」

「・・・・・・ふむ」

 

藤の言葉に老人は手をひっこめた。

 

「・・・・・・お前がそう言うのならそうしようか」

 

そう言って普通に山から牌をツモった。

ほっと一息。

そして。

 

{四四八①②③④⑤⑥⑧(横⑨)2367}

 

(よし、3巡後に{8}が入る。

 ならここで切るのは・・・・・・)

 

藤は{2}に手をかけ、それを切る。

 

(今度はやらせないぞ!)

 

藤は秀介を睨むように見る。

 

と。

 

「・・・・・・久」

「え? 何?」

 

牌をツモろうと山に手を伸ばしていた久に、秀介は声をかけた。

 

「・・・・・・本当に済まないと思ってるんだが、俺の為にその牌鳴いてくれないか?

 もし鳴けたらでいいんだけど」

「!?」

 

な、何を言っている?と藤は動揺する。

表情も明らかに変わる。

何故そんな事を?

決まってる、奴に有効牌が入るからだ。

しかし・・・・・・。

 

(何故!? 何でわかるんだ!?)

 

自分が山を見通せるのは分かる。

しかし、何故対面が山を見通せる!?

 

こいつ、まさか!?

自分と同じ・・・・・・!?

 

 

藤があからさまな動揺を見せる中、久は手をひっこめた。

 

「・・・・・・まぁ、別にいいけど。

 失礼、チーします」

 

カシャンと久は手牌で既に面子になっている部分を崩して{横234}と晒した。

 

「ありがとう、恩に着るよ」

「いーえ」

 

そして、秀介のツモ。

藤が見通した通り、それは秀介の有効牌だ。

 

{二五(ドラ)七⑦⑧⑨⑨3(横三)4599}

 

平和ドラ1聴牌。

 

「リーチはかけないでおくよ」

 

そう言って{⑨}を切る秀介。

 

くっ!と藤は秀介を睨みつつ、山を見る。

 

(奴の上がり牌{一-四}・・・・・・あった、4巡後に{一}。

 ツモは・・・・・・私。

 {一}を抱え込めば奴は上がれないが・・・・・・その代わり私も聴牌から遠のく)

 

どうする?と、しかし藤はそれほど慌てない。

別に自分がツモらなくてもいいのだ。

老人でも。

 

そして久でも。

 

秀介が久からロン上がりするということは、久が敗北に一歩近づくということだ。

秀介もそれは避けたいところだろう。

ならば久がツモっても良し。

 

が、一つだけ問題がある。

先程もされた喰いずらしだ。

久がツモるはずの牌をツモらずにチーで飛ばせば、それをツモるのは秀介。

つまり上がられる。

 

結局のところ確実な場合を除き、藤か老人がツモるしかない。

 

そうして時に老人に鳴いてもらってツモを飛ばし、ある時は自分で鳴いてツモを飛ばし、何とかこの局も凌いだ。

 

「「聴牌」」

「「ノーテン」」

 

そしてまた次局に突入する。

 

 

 

東二局5本場 親・秀介

 

が、今度は流れが変わる。

 

(よし!)

 

藤に先に聴牌が入ったのだ。

秀介は一向聴、これから流れをいじればノーテンで終わらせることもできる。

いや、場合によっては自分に振り込ませることも。

 

そして追いかけっこが始まった。

秀介が藤の当たり牌を引き、それを抱え込む。

ならばと今度は藤が待ちを変えて狙い打つ。

 

それを繰り返し繰り返し、

 

しかし、追いつけなかった。

 

「「聴牌」」

「「ノーテン」」

 

いつまで続くのか、と藤が舌打ちしかけた時。

 

「・・・・・・なぁ」

 

秀介から声がかかる。

 

「・・・・・・何でしょうか?」

 

藤が返事をすると、秀介は少しつまらなそうに告げた。

 

「・・・・・・そっちが先にやってたから俺もやってみたけど。

 余計な発言は無しにしようぜ、やっぱりこれじゃつまらない」

「・・・・・・!」

 

確かに、今の状況はもはやまともな麻雀ではない。

互いに山が見え、互いに相方を使って上がり崩しと聴牌維持、それの繰り返しだ。

 

助言を無しにすればそれは不可能。

しかしそれは同時に、相方を狙われた時に守れないということだ。

 

お互いに。

 

ならば藤は久を、秀介は老人を狙えばいい。

 

「・・・・・・いいでしょう」

 

確かに勝算があるわけではない。

しかし、ここまで来て引くわけにもいかない。

 

「決まりだな」

 

秀介は笑って、牌を自動卓に入れていく。

ここからは如何に相方を守り、敵の相方を狙うかという戦いになる。

 

「・・・・・・と、そう言うわけだから久。

 先にメールを見ておいてくれと言っておく」

「メール?」

 

秀介の言葉にキョトンとしながら久は自分の携帯を開いた。

 

「・・・・・・あ、届いてたんだ。

 ごめん、気づかなくて」

「いや、いいよ。

 大変だったみたいだからな」

 

ピピピッと操作して先に届いていた順番にメールを確認する久。

まずは「喫茶店に向かうぞと言うメール」。

そして。

 

(・・・・・・? 用事が済んだら話がある?)

 

何の用事?と首を傾げる。

まぁいい、終われば聞けるのだ。

 

「・・・・・・何の話か分からないけど、終わったら聞くわ」

「ああ、終わったら言うよ」

 

自動卓から山が出てきて、秀介は賽を回しながら言った。

 

 

 

東二局6本場 親・秀介 ドラ{6}

 

久配牌

 

{二三七九①⑦⑧⑨[5](横⑧)78白發}

 

(・・・・・・ん、この手)

 

純チャンかチャンタの三色が狙えそうな手だ。

 

(シュウの親番、本来なら私が上がるのはあんまりよくないんだけど・・・・・・。

 トビは終了のこのルール、まだ東場だし点数を稼いでおけばノーテンが続いても対面のご老人の方が先にトビで終了。

 なら・・・・・・上がりを目指すわ)

 

そう思い手を進めて行く久。

 

 

しかし、やはり藤が立ちはだかる。

 

「ポン」

 

「チーです」

 

久に有効牌が入らないように鳴きを入れているようだ。

 

(折角のいい手だったのに・・・・・・くっ!)

 

久手牌

 

{二三七八九⑦⑧⑨5[5]788}

 

結局久の手は聴牌すらできず。

 

「「聴牌」」

「「ノーテン」」

 

秀介

 

{②②⑤[⑤]⑨117799西西}

 

 

{一二三⑦⑧33} {横345横東東東}

 

相変わらず秀介と藤のみが聴牌だ。

 

(シュウを狙いつつ私の上がりを阻止・・・・・・さっきのまこの時と同じだわ。

 一体どうすれば・・・・・・)

 

久の表情が歪む。

が、フッと秀介が笑ったのが聞こえた。

何事?とそちらを見ると秀介は藤の手牌を見ていた。

 

「何かおかしいのですか?」

 

藤も怪訝な表情で問い掛ける。

秀介は笑いながら答えた。

 

「いや何、俺狙いを止めたんだな、と思って」

 

「!?」

 

その言葉に久が藤と秀介の手牌をよく見る。

それからさらに捨て牌も。

 

(藤の捨て牌から手牌の移行を考えると・・・・・・確かにシュウの不要牌を狙い打つ形になって無い!)

 

そうしてハッと思い出す。

 

(・・・・・・そう言えばまこを狙い撃ちしつつ私の上がりを阻止しているのかと思ってたけど・・・・・・。

 よく思い返せば私の上がりを妨害していた時はまこを狙っていなかった? 狙っていたように見せていだけ・・・・・・?

 つまり・・・・・・どっちかしかできないの?)

 

よく考えればそうだ。

一人を狙い撃ちしつつもう一人の手の進行を妨害する、そんな手牌や山が何度も何度も揃うわけがない。

 

「・・・・・・なるほど、騙されてたわけね」

 

久がそう呟くと秀介は「いや」と声を上げる。

 

「・・・・・・って言うかお前らテンパりすぎ。

 冷静になればそれくらいちゃんと気づいただろうに」

 

秀介はそう言って久とまこをチラッと見てくる。

「うぐ・・・・・・」と言い返せない二人。

思いの外頭が回っていなかったようだ。

 

しかしその反面秀介の指摘があればすぐに気づくことができる。

いや、やはり秀介がいるだけで冷静になれる。

もっといえば、落ち着くのだ。

 

 

久はちらっと秀介を見る。

 

幼馴染でいて欲しいなんて、こちらの想いを断られたこともあったけど。

 

それでもやっぱり私は・・・・・・。

 

 

 

 

 

東二局7本場 親・秀介 ドラ{7}

 

(・・・・・・ん?)

 

配牌の偏り、それに早くも藤が気づく。

そこから山のツモを追っていく。

 

(な、何!?)

 

対面の秀介、その手牌。

偏りを色濃く受けた役満が見える。

 

 

{一九①⑦⑨38東西北白白中} {6}

 

 

九種十牌、国士無双三向聴である。

 

しかもツモが順調に進めば7巡で聴牌だ。

 

(そうはさせるか!)

 

{二三七七①⑤⑧147西發發}

 

藤の手牌はあまりよくない。

だが秀介の国士無双に必要な{發}を二枚押さえている。

上手く喰いずらして秀介がツモる予定の{發}をさらに抑えれば、ツモられる可能性はさらに下がる。

その隙に上がりに持ち込めれば・・・・・・。

 

少し進んで4巡目。

 

「チー」

 

{横二三四}と晒し、ツモをずらす。

そして次巡。

 

{七七①⑤⑧47(横發)9發發} {横二三四}

 

三枚目の{發}を喰い取った。

これで奴の上がり目は薄くなった、と藤はひそかに笑う。

 

しかし喰いずらしたら喰いずらしたで、左右の二人に入るはずだったヤオチュー牌が秀介の手に舞い込む。

 

{一九①⑦⑨39東西(横1)北白白中}

 

チッと舌打ちした後、藤は山を見る。

{南}は一枚切られているがまだすぐ近くに二牌もある。

ツモるのは容易だろう。

となると肝心なのは最後の{發}だ。

どこだ?と探す。

 

そして見つけた。

 

(流局間際! ならば多少無茶をしてでも私が聴牌すれば必ず先に上がれる!)

 

ここだ! ここで仮面の男を蹴落として自分が上がれば連荘の積み棒も加えてリードを取れる。

後は今までの状況が逆転、自分が連荘を続けることになる!

必ずここで上がりきる!と藤は手を進める。

 

そして3巡後。

 

{七七⑦⑧479(横8)發發發} {横二三四}

 

藤、聴牌。

勝ちが見えて来た。

当然{4}を切って聴牌に取る。

そして次巡の秀介。

 

{一九①⑦⑨19東西(横南)北白白中}

 

(国士を聴牌したか。

 だが残念、お前が欲しい最後の{發}は山の奥底だ。

 お前よりも先に私が上がる!)

 

藤の待ちは{⑥-⑨}。

どこから出てもツモでもOK。

山にもあるし左右二人の手牌にもある。

 

特に久。

 

{七八九⑤⑤⑥⑦⑧⑨2347}

 

一向聴で{68を引けば両面に受けて⑥か⑨}が切られる可能性大だ。

さらに一度も上がらせていない藤は知らない事だが、3巡後に久が{⑤をツモった時、悪待ちに受けて7単騎を選択してしまうと⑥⑨}が溢れる形になっている。

藤が勝ちを確信したまま巡目は進む。

 

そして3巡後、老人が{三をツモ切りした後、藤は九}をツモる。

当然不要牌、とそれを切り捨てた。

 

「・・・・・・やっと来たか」

「ん?」

 

ふぅ、とため息交じりに秀介が呟いた。

 

「何か来ましたか?」

 

藤がフッと笑いながら問い掛ける。

何を言われようが自分の勝ちは決まっているのだから。

 

「いやなに」

 

対する秀介も笑いながら返した。

 

「罠自体は大分前から張ってたんだけど、タイミングが悪くてな。

 ようやくハマってくれたよ」

 

秀介はそう言って手牌に手を添えた。

 

「・・・・・・何が言いたいんです?」

 

藤の問い掛けに秀介は答えた。

 

 

「ああ、失礼した、言いたいことは一言だけだ。

 

 

 ロン」

 

 

秀介はシュッと左から右に手を振るい、ジャラララと手牌を倒して行く。

 

「バカな!?」

 

手牌の裏側から藤は改めて秀介の手牌を確認する。

 

 

{一九①⑨19東南西北白白中}

 

 

何度見ても間違いない、国士無双{發}待ちのはず!

 

何故手牌を倒す!? ただのチョンボだろう!?

 

 

そしてパタパタと最後まで手牌が倒された。

 

 

 

{一九①⑨19東南西北}・・・・・・

 

 

 

・・・・・・{白發中}

 

 

 

「なんだと!?」

 

 

{白じゃない!? 發}!?

 

 

「国士無双、48000・・・・・・と7本付けで、トビだ」

 

 

「やったぁ!」

「やったなぁ! 先輩!」

 

久とまこが声を上げる。

少し遠巻きに見ていた常連客達からも歓声が上がった。

 

「そ、そんなバカな!?」

 

藤はバッと山に手を伸ばす。

{發}があるはずの場所に。

 

だが、その山を返して現れたのは・・・・・・{白}。

 

「ば・・・・・・バカな!?」

 

 

{白と發}が・・・・・・私が見間違えるはずが!?

 

 

ピーン、パシッと音がする。

見てみると秀介の左手には何かが握られていた。

再びそれをピーンと跳ね上げ、パシッと受け取る。

 

「・・・・・・10円玉?」

 

いつの間にそんな物を・・・・・・というより、何故そんな物を握っている?

 

「さて、まこ」

「は、はい、先輩?」

 

不意の呼び掛けにびくっとするまこ。

 

「こいつらはどちらかがトンだらこの雀荘から出て行くって話だったな」

「そ、そうです!

 ほら、あんたら!自分達で言い出したことじゃろ! 早いとこ・・・・・・」

 

秀介の言葉にまこが男達を追い出そうとすると、秀介は笑いながら言葉を続けた。

 

 

「追い出す前に、傷だらけの麻雀牌の代金も貰っとけ」

 

 

「なっ!?」

 

「傷だらけの麻雀牌?」

 

驚愕する藤をよそに、首を傾げながらまこも久も揃って山を見る。

そう言われてみれば確かに小さな傷がいくつか。

 

「・・・・・・ん、確かにおかしいな。

 いつも閉店時に牌は片付けとるけど、こんなに傷あったかなぁ?」

「・・・・・・気付かなかったけど、そう言われてみると傷多いわね。

 どうしてかしら?」

 

首を傾げる二人をよそに、青い顔で席から立ち上がる藤。

その頭の中で既に自分が牌を見間違えたカラクリが組み上がっていた。

 

傷だらけの麻雀牌に気付いていた秀介。

その手には10円玉。

 

「お、お前・・・・・・!」

 

藤が震える指で秀介を指差す。

秀介は笑いながら返事をした。

 

「こいつは麻雀牌に傷を付けて、その傷で牌が何なのか見通していたんだ」

「なっ! ガン牌ってやつじゃな!?」

 

まこの言葉に頷く秀介。

 

「俺がこうして打つまで大分人数がいただろうから、傷を付ける時間は十分にあったわけだ。

 しかもそれだけの人数が全く気づかないような小さな傷だ。

 大胆というか間抜けというか、傷の付き方に法則性がある」

 

ピーンと10円玉を弾き上げる秀介。

 

「だから、こいつで似た法則を持つ{白と發}の傷を1枚だけ書き換えさせてもらった。

 {白と發}を見間違えたこいつは、俺が国士無双{發}待ちだと勘違いし、無防備にもヤオチュー牌を切った。

 俺は十三面待ちだから何を切られても上がりだったんだが、どうせならお前から上がっておきたかったからな。

 そちらのご老人がヤオチュー牌を切っても無視し続けた」

 

「あー・・・・・・さっき言ってた「タイミングが悪かった」ってそういうこと?」

「そういうこと」

 

ポンと手を叩いて納得したような久に秀介が頷く。

藤は秀介の説明を受け、ガクッと膝をついた。

 

「さて、可愛い後輩の実家に迷惑をかけたんだ。

 大人しく立ち去ってもらおうか」

「そうじゃね。

 イカサマも発覚したことじゃし、傷つけた牌の代金置いていってもらおか」

 

未だに項垂れる藤にそう告げる秀介とまこ。

 

と、老人の方からバサッと音がする。

見ると麻雀牌の代金にしてはあまりに多い札束。

 

「・・・・・・迷惑かけたからな。

 ワシらはもうここには来ない、安心してくれ」

 

老人はそう言うと席を立ち、藤を置いて立ち去ろうとする。

 

「ま、待ってください・・・・・・川北さん」

 

老人の名を呼んで追いすがる藤。

が、川北と呼ばれた老人はため息交じりに告げる。

 

「・・・・・・お前なら、かつてのワシの兄貴分のように神がかり的な打ち手になるかと思ったのだが・・・・・・。

 その正体はイカサマの使い手、期待はずれだ」

「そ、そんな・・・・・・」

 

再びがっくりと項垂れる藤。

それを見かねて川北は残った男二人に告げる。

 

「めんどくさい奴だ。

 連れて行け」

「は、はい・・・・・・」

 

男は藤を連れてさっさと喫茶店のドアに向かう。

が、もう一人、秀介の背中に傷を残した男がチラッと秀介の方を見る。

 

「・・・・・・いいんですか? 川北さん。

 こいつの正体・・・・・・」

 

仮面越しに秀介と男の視線が交わる。

途端、バッと久が二人の間に立ちはだかり、男を睨みつける。

 

「・・・・・・」

 

たじろぎ、一歩引いたのは男の方だった。

助けを求めるように川北に視線を戻す男。

フッと笑いながら川北は返事をした。

 

「普通に負けたのならまだしも、イカサマなんぞでこちらが迷惑をかけたのだ。

 それに服装からして学生さんだろう、これ以上余計なことはするな」

「・・・・・・分かりました」

 

男はそのまま秀介達とすれ違い、店を後にした。

残った川北は秀介、久、まこにそれぞれ頭を下げる。

 

「申し訳ない、と謝って済むことではないが、迷惑をかけた。

 それと・・・・・・」

 

フッと秀介に笑いかける。

 

「イカサマの藤と互角以上の戦いをするとは、素晴らしい麻雀を見せてもらったよ。

 まるでかつての兄貴分を見ていた気分だ、ありがとう」

 

 

その笑顔、そして川北という名前に、秀介の記憶が一人の男を導き出す。

それはこの時代ではなく、前世で繋がった縁。

 

「まさか・・・・・・」

 

・・・・・・面影がある。

ごくりとつばを飲み込み、秀介は問いかけた。

 

 

「・・・・・・あなたの言う兄貴分・・・・・・もしや・・・・・・」

 

 

新木桂というのでは・・・・・・?

 

 

だが、その言葉は出てこなかった。

今更それを言ってどうする。

生まれ変わりだとでも告げる気か?

誰が信じるというのだ。

 

続きの言葉が出てこない秀介に、川北は首を傾げながらも笑いかけた。

 

「今はもういない。

 30年近く前に死んだからな」

 

そう言って川北はくるりと背を向け、喫茶店の出口に向かう。

 

そして不意に言葉を続けて来た。

 

 

「・・・・・・お前さん、もしかして生まれ変わりかね?」

 

 

そう言った後、まさかなと川北は一人笑って去っていった。

 

 

 

「・・・・・・シュウ、なんか気に入られた?」

 

久は川北の言葉をよく理解できずにそう結論を出してみた。

機嫌は良かったようだし、間違いなさそうだ。

秀介はとりあえず仮面を外して麻雀卓に置く。

 

その心の内は嬉しい気持ちと悲しい気持ちがぐるぐると入り乱れていた。

 

かつての自分を知っている人間に再び出会えた喜び。

その人間が人様に迷惑をかけて、おそらくそれが常識の世界にいるという悲しみ。

 

確かに新木桂は裏の人間だったが、出会った川北はその道に進まないという選択肢がまだ十分にあった状態だ。

完全に裏の道に進むきっかけと言ったら、やはり自分だろう。

 

それともう一つ。

おそらく藤はかつての自分の代わりにさせられていたのだ。

そんな影を背負わせてしまった、負い目というか辛さというか、やはり悲しみというか。

 

 

不意に傷ついた牌が目に入った。

 

ガン牌、か。

 

自分の力も似たようなものだな、と思う。

 

もっともこちらは証拠がなくて、さらにもっと酷いものだけれども。

 

 

「あ、そうだシュウ」

 

不意に久が携帯を取り出して言った。

 

「用事が済んだら話があるってメールで言ってたじゃない。

 その話って何?」

 

あ、そうだった、と秀介も思い出したように手を叩く。

そしてぐるりと周囲を見渡した。

 

「・・・・・・今言った方がいいか?」

「・・・・・・まぁ、ちょっと気になるし」

 

秀介の言葉に久は頷く。

そうか、と秀介も頷いた。

ここにはまこもいるし、それから余計な常連客もちょっといるけど。

 

まぁ、いいか。

 

軽く呼吸を整え、秀介は久に笑いかけながら言った。

 

 

 

「お前が好きだ、久」

 

 

 

「え?」

 

 

 

キョトンとした表情の久。

 

 

 

「ん? 何だ、冗談とでも思ってるのか?」

 

心外だな、と秀介は言葉を続けた。

 

 

 

「俺と付き合ってくれ、久。

 

 もっと言うなら・・・・・・俺の女になれ」

 

 

 




やっべ、レリウスって名乗らせてたの忘れてた(
まぁ、久ちゃんの幸せが有頂天だし、些細なことは別にいいか。

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