咲-Saki- とりあえずタバコが吸いたい先輩   作:隠戸海斗

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ちょい短かったか、後で追加とか修正とかするかもしれません。

第一話での秀介とのやりとりで久がどんな想いをしていたのか。
その描写をせず皆様のご想像にお任せするのも筆者の嗜み()です。



18志野崎秀介その4 追及と再会

二度目に倒れてから一週間、秀介は既に一人で歩くこともできるようになっていた。

が、まだ長時間は無理。

ゆっくり歩いているだけでも病院をぐるっと一周すればもう息を切らしてぐったりとしてしまう。

まだまだ体力不足である。

それに検査もある。

まだ退院の見込みは無いし、麻雀もできないし暇なものだ。

 

久達は今日もお見舞いだ。

秀介は「腕が落ちないようにたまにはまっすぐ喫茶店へ向かって打ったらどうだ?」と言うのだが、久は「それもそうね」と返しつつ毎日来る。

秀介としてはそれはそれで断る理由も無いので、それ以上は何も言わない。

 

 

 

しかし、今日は驚かされた。

そんな事を聞かれるなんて全く想像もしていなかったからだ。

何の前兆も無く、不意に秀介に声がかけられたのだ。

 

「志野崎先輩、倒れた日は麻雀打っとったって覚えとりますか?」

「・・・・・・突然どうした? 全く覚えていないが」

 

まこの言葉に首を傾げる秀介。

 

血を吐いて倒れたということはつまり麻雀で本気を出したということだ。

自分の事だしそれくらいは推測しているだろう。

それに死神と会ってきた記憶もある。

最後の別れだったというのに所々記憶が欠けているのは残念だが、覚えていることに変わりは無い。

あの日何があったかは覚えていないが、また全力を出したのだろうなと、推測だが秀介は結論を出している。

 

「・・・・・・で、それがどうしたんだ?」

 

秀介はまこにそう問いかけるが、気がつくとまこはこちらを見ていない。

そちらに視線を向けるとそこにいるのは久だ。

 

「・・・・・・ほれ、早く言いんしゃい」

「ちょ、まこ・・・・・・」

 

なにやらおろおろしている。

何だ?と秀介はやはり首を傾げる。

やがてまこに何やら言われて久は途切れ途切れに言葉を紡ぎ出した。

 

「・・・・・・あの・・・・・・ね・・・・・・?」

「うん」

 

「・・・・・・その・・・・・・ね・・・・・・?」

「うん」

 

「・・・・・・えっと・・・・・・ね・・・・・・?」

「うん」

 

「まどろっこしいな! さっさと言いんしゃい!」

 

がーっとまこが声を上げる。

久はまこを何やら恨めしげに睨むとため息をついて秀介に向き直った。

 

「・・・・・・た、単刀直入に聞くわ、シュウ」

「おう、何だ?」

 

久は深呼吸をするとその質問を浴びせて来た。

 

 

「シュウ、あんた麻雀で本気出すと・・・・・・し、死んじゃうの・・・・・・?」

 

 

「もっと言いようは無かったんかい」

 

やれやれとまこはため息をつく。

その態度に久は「だって・・・・・・」と俯いてしまう。

 

秀介はポカーンと口を開けていた。

 

「・・・・・・急にどうした?」

「い、いえ! 何でも無いの! ほら! まこ! やっぱり違うのよ!」

 

久はそう言うとプイッとそっぽを向いてしまった。

そんな久の態度に、まこはつかつかと歩み寄ってその頭を叩く。

 

「痛っ・・・・・・何よ!?」

「それじゃいかんじゃろ! ちゃんと聞かんかったら志野崎先輩だって答えようがないじゃろ!」

「うぅ・・・・・・」

 

久は涙目でまこに撤退を訴えかけるがまこは拒否、逆に徹底抗戦を告げる。

 

 

一方の秀介は表向きポカーンとして見せたが、その心の内は動揺しまくっている。

 

何故? どうして?

 

どうして分かったんだ!? 俺の能力の代償が!!

 

いや、考えてみろ。

久には二回もその現場を見せた。

二回目は憶測だが間違いは無いだろう。

そこから推測したのか。

 

だが待て。

だからと言ってそんな突拍子もない結論に思い至るか?

仮に思い至ったとして、それを本人に突き付けるだと?

久もまこもデジタル寄りの打ち手だ。

悪待ちがいい結果になったりだとか、染め手になりやすいだとか能力めいた物は持っているが。

しかし、本気を出したら死ぬなんて代償付きの能力をあっさり受け入れるような子達ではないはずだ。

 

そうなると・・・・・・とさらに頭を捻る。

 

それだけの葛藤をし続けて来た、ってことか?

 

あり得ない事だ。

でももしかしたら。

そんな事を延々と考え続けて来たのかもしれない。

 

いつから気づいたのは知らないが、久の性格からしてかなり長いこと悩んだのだろう。

 

そしてそれをとうとう本人にぶつけて来た。

 

なるほど。

むしろ二回も現場を見せておいてバレないと思っていた自分の方が甘かったか。

 

 

「久、まこ」

「何よ、シュウ・・・・・・」

「何じゃ? 志野崎先輩」

 

二人は未だに何やら言い争っていたので声をかけてそれを止める。

そして秀介はため息をつき、そっぽを向きながら言葉を続けた。

 

 

「・・・・・・他の人には内緒にしておいてくれよ。

 親とか靖子姉さんにもな」

 

 

今度は久達がポカーンとする番だった。

 

その表情を見て秀介はフッと笑いながら近くに置いてあった差し入れのリンゴジュースに口をつける。

それはまるで久達の顔を肴にして酒でも飲んでいるかのように。

 

「・・・・・・し、シュウ!? まさか本当に!?」

「おいおい、あそこまで単刀直入に問い詰めておいて今更それかよ」

 

ははっと笑う秀介の姿はまさに酒飲みのよう。

どうやら完全に開き直ったようだ。

そしてその態度に逆に慌てふためく久達。

 

「し、志野崎先輩? じ、実はそれは冗談なんじゃろ?

 わしらをからかっとるだけなんじゃろ?」

「あそこまで問い詰めておいて認めたら逆に疑うとか。

 黙ってとぼけておけばよかったかな」

 

ふぅと一息つくと今度はやれやれと首を振る秀介。

 

だがその内心は楽しくて仕方がないのだろう。

 

何せ前世で10年以上も能力を使い続けて、誰一人として「能力」という可能性に気付かなかったのだ。

まぁ、代償付きで使った事が一度しかなく、その一度で死んでしまったので無理も無いが。

それを秀介にとって身近なこの二人が気づいてくれたというのは、驚きもあるが嬉しくて仕方がないのだろう。

 

 

久達も慌てていたようだが、秀介がからかっていると少しずつ落ち着いていき、やがて普通に会話をするようになった。

そして一つ一つ確認するように聞いてくる。

秀介はそれにしっかりと返答した。

もっとも転生だとか前世が関わるものついては完全に返答を拒否したが。

それとリンゴジュース関係も。

 

 

「いつからそんな能力使えるようになったの?」

「小学校、割と低学年」

 

「代償に気付いたんは?」

「同じく小学生だったか」

 

「や、役満上がったらシュウが倒れちゃうのかな、とか思ったんだけど・・・・・・」

「それはないよ。

 まぁ、確かに普段は役満なんて上がらないしそもそも狙わないしなぁ」

 

「具体的にどういう能力なん?」

「それは秘密。

 何故ならその方が格好いいからだ」

「なんじゃそら」

 

「普段ヤスコと打ってる時は具合悪くなったりしない?」

「本気じゃないから平気」

「本気じゃなくてあんなに強いの?」

「まだいけるだろうけど・・・・・・その内手抜きじゃ勝てなくなるかもな」

 

「普段藤田プロをいじめてるんはなんで?」

「負けた時のあの魂の抜けたような表情が何となく見ていて笑える」

「・・・・・・わしをいじめてたのも同じ理由?」

「バカな、可愛い後輩をいじめる奴がどこにいるというんだ」

「鏡見んさい」

 

 

わいわい騒ぎながら、適当なタイミングで話に区切りをつける。

 

「しかし・・・・・・そんな不思議な能力を持ったもんがおるなんてなぁ」

「探せば他にもいるかもしれないな」

 

まこの言葉に秀介はそう返す。

実際前世でも城ヶ崎や南浦がそういう能力を持っていたし、あり得ない事ではないだろう。

いや、城ヶ崎はとんでもなく強い「ただの強運」らしいが。

全国大会の様子をテレビで見た時もそれらしい人物はいたし、そもそも久やまこもそんなような能力を持ってるし。

それを指摘してみると二人は顔を見合わせる。

 

「・・・・・・私の悪待ちも、似たような能力なの・・・・・・?」

「わしの染め手もか?」

「いや、知らんけど。

 でも可能性はあるだろ。

 他にも靖子姉さんのまくりとか」

「あれはシュウが狙ってみればって言ったんじゃなかったっけ?」

 

そうだったか、と秀介は笑って返す。

 

そしてそんな話題も落ち着いた頃、久が不安げに話を切り出した。

 

「・・・・・・シュウ・・・・・・つまりあんたは自分の代償を知った上で麻雀を打って、倒れてたってわけ・・・・・・?」

 

その指摘に、む?と考え込む秀介。

確かにそうだと言われればそうだが。

 

「前回のは覚えていないが、多分コテンパンに倒しておかないとしつこく付きまとって来るとか思ったんだろう。

 無茶したというか加減を誤ったというか」

 

藤との試合の事は覚えていないが死神との会話でそんな事を言った気がする。

そこから推測して答えてみたのだが、久はさらに落ち込んだように質問を続けて来た。

 

 

「じゃあ、その・・・・・・最初に倒れた時は・・・・・・?」

 

 

あの役満講座の日の事か。

秀介は頭を抱えてバツが悪そうに視線を逸らす。

 

「・・・・・・久、それを聞くのは野暮じゃないか?」

「・・・・・・やっぱり、知ってた上で無茶したんだ・・・・・・。

 ・・・・・・私の為に・・・・・・」

 

ポロッと涙がこぼれた。

 

「・・・・・・ずるいよ、シュウ・・・・・・そんなことまでされてたなんて・・・・・・。

 私・・・・・・シュウに何にも返せてない・・・・・・」

「・・・・・・いいんだ、久。

 俺が好きでやったんだからな」

 

スッと歩み寄ってポンポンと頭を撫でる。

久は秀介に寄りかかってされるがままだ。

 

 

まこの方から「そこじゃ! 行け! 押し倒すんじゃ!」とかボソボソ聞こえる気がするが無視しておく。

 

 

 

結局話をまとめると能力による吐血であり、原因が不明なのも仕方ないのかと久もまこも理解した。

理解はしたが納得はいかない模様だ。

それは秀介自身も同じだが。

何かしら現代的な理由を付けてもらいたかった。

ウイルスにしろ病気にしろ。

能力の一言で片づけるのも限度があるだろう。

それからリンゴジュースで症状軽減なんて身体にしたことも忘れていない。

まぁ、そのおかげで普通より回復が早いのかもしれないが。

 

 

「とにかくシュウ、今後無茶な麻雀は禁止ね」

「ああ、分かってる」

 

久の言葉に秀介は頷いたが、しかし久は首を横に振る。

 

「ダメね、分かってないから二回も倒れるんでしょう。

 ・・・・・・か、感謝はしてるけどね・・・・・・。

 それはともかく!

 今後もし私の見てる目の前で無茶してるようなら無理矢理でも卓から引き離すから」

「どうやって?」

 

秀介の言葉に久は少し考えて返事をする。

 

「椅子を引っ張ったり引き摺り下ろしたり」

「膝に乗ったり後ろから抱きついてみたり?」

「そ、そんなことしないわよ!」

 

まこの突っ込みをガー!と追い払う。

そんな反応は秀介とまこをニヤニヤさせるだけなのだが。

 

「ああ、ともかく今後無茶はしないよ」

 

「次来たらもう戻れない」と死神にも言われてるし、と秀介は一人自分に言い聞かせる。

 

「・・・・・・分かった、信じるからね」

 

久も渋々といった様子で頷いた。

 

「しかしここしばらく打ってないから退屈だ。

 退院して学校にも通えるようになったらすぐにでも部室に行きたい」

「ちゃんと退院したらね」

 

秀介の言葉に久がそう返す。

「約束だぞ」と念押しして秀介は笑った。

つられて久もまこも笑顔になる。

そもそも麻雀を禁止!と言わない辺り、二人とも秀介の麻雀好きを知っているのだ。

 

 

 

だが、それから長らく秀介は退院できなかった。

オカルトな能力の話ができない医者にとっては、吐血の原因不明は何としても解決しなければならないもの。

その内年を越して、1月、2月と経過していく。

体調は安定していたので定期的に病院に来るということで手を打ってはもらえないかという秀介の訴えに、医者も渋々だがOKを出した。

入院中も久に勉強を見てもらっていたので成績は何とかなった。

学年末テストも無事に赤点無し、出席日数は本当に何とかギリギリで留年は免れた。

 

 

それからまた少し入院したり家でのんびりしていたりしていたが、3年生になってから秀介は学校で授業を受けてはいなかった。

いや、学校自体には来ていた。

だがいつも保健室か特別教室で、いつ倒れてもいいようにと半ば看護されている身。

別にもはや何ともないのだが、と訴えても信じてはもらえないだろう。

 

 

その内に久達麻雀部員は合宿やら大会やらで遠出。

そしてすれ違いで秀介は医者からの許可が出て授業復帰、会えない日が続いた。

 

それはまた寂しいことだったが、大会に出たということはつまり部員が規定人数集まったということだ。

それを考えれば逆に嬉しいことでもあった。

 

 

 

ガチャリとドアを開ける。

 

やってきたのは部室。

 

ここへ来るのも久しぶりだ。

 

きょろきょろと部室内を見渡してみる。

本が新しくなっていたり、カーテンが外されていたり、外にビーチベッドみたいなものが設置されていたり、誰の物か分からない私物が増えていたり。

一人取り残されたような気分。

しかし戻って来たんだという喜びも一入(ひとしお)

 

ふと目に着いたのは雀卓。

確かここに仕舞っていたはず、と麻雀牌を取り出し、卓にセットする。

 

久しぶりの麻雀は一人か。

 

苦笑いをしながら山をじっと見る。

 

能力に変わりは無い、相変わらず山は見通せた。

 

山に手を伸ばし、{東}をカシャッと表にする。

あれも、それも。

一つだけ下山にあった。

上の牌を下ろしてその牌を表にする。

{東}が四つ表になった。

 

これを見て、久は自分が来たことに気づくだろうか。

些細ないたずらを仕掛けた子供のように秀介は笑った。

 

そして今度はベッドに近寄る。

ここで寝るのも久しぶりだ、とごろんと横になった。

 

久達が部室に来るまでには帰るか。

 

そう思いながらもうつらうつらと意識を手放して行く。

 

完全に睡眠に着く前にフッと笑った。

 

 

 

久、俺は戻って来たぞ。

 

そう言っているかのように。

 

 


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