咲-Saki- とりあえずタバコが吸いたい先輩 作:隠戸海斗
あの時釣り針に引っ掛かtt・・・げふん、評価して下さった方々のおかげでここまで形にすることができました。
あの頃からここまで読んでくださってる方いるー?と思ってたんだけどいたんだよなー、感想でその辺ほのめかしてくれる方々がいた時は嬉しかったです。
このサイトでもこれが第一話だったらどんな反応だったのだろう?
多分、いっぱい矛盾が出て修正だらけに(
あとバッドエンドを匂わせてもダメージが少なかったか、チッ(
まぁ、そんなことを20話くらい投稿してから思ったものですが、これはこれで一つの作品の形。
乗り込めー、「アフター阿知賀編」スタートです。
01高鴨穏乃 挑戦と推測
勝てない・・・・・・!!
「また衣の勝ちだー」
阿知賀女子学院一同は練習試合にとやってきた龍門渕高校でボコされていた。
しかしまぁなんというか、ポジティブな人間はいたもので。
「もうひと勝負お願いします!」
「いいのか?」
「はい!」
レジェンド赤土晴絵率いる阿知賀女子学院一同は、インターハイが始まるまでの休日を使って各県の2位との練習試合に挑んでいた。
今日は4番目に向かった長野の2位、龍門渕高校との練習試合である。
「ほら、そろそろ帰るよ」
どれほど打った頃か、ポンと頭に手を乗せて赤土晴絵は高鴨穏乃にストップをかける。
「えー! もう少し打ってたい・・・・・・」
常にポジティブで引くことを知らない穏乃の要望により練習試合は延長され、そろそろ夕日も沈もうかと言う時間帯である。
「そろそろ帰らないと龍門渕さんにも迷惑になるよ」
「うぅー・・・・・・そっか、なら仕方ないか」
新子憧にも言われ、穏乃はようやく席を離れた。
「もう終わりか・・・・・・衣も楽しかったのだ。
時間があれば明日にもまた打ってほしいのだ!」
「ぜひとも!」
衣の言葉にダダダッと駆け寄ってその手を取る穏乃。
「いいですよね!? 先生!」
「ん・・・・・・まぁ、時間はあるしね。
ただ今日みたいに遅くまでは打てないよ」
帰りの時間もあるしね、と条件付きで頷く晴絵。
「やったぁ!」
衣も嬉しそうだった。
そうしてその日はお開きになりまた明日という段階で、不意に衣が思い出したように声をかける。
「お前達、確かインターハイに備えて強い奴らと戦ってるのだったな」
「はい、そうですよ」
穏乃が頷きながら返事をする。
その返事にまたさらに衣の表情がパァと明るくなる。
「それなら是非ともしゅーすけに会っていくべきなのだ!
麻雀を打ちにここまで来たらしゅーすけに会っていかないのは損なのだ!」
「・・・・・・しゅーすけ?」
誰?と顔を見合わせる阿知賀一同。
名前からして男のようだがどういう知り合いなのだろう?
そんな反応をよそに衣は透華の方に振り向く。
「トーカ、しゅーすけに連絡して」
「・・・・・・それは別に構いませんけど。
彼も一応インハイ出場の清澄の生徒ですし、もしかしたら規定に引っ掛かるかもしれませんわよ?」
透華の言葉に衣はキョトンと首を傾げる。
「それだとまずいのか?」
「まずいですわ。
最悪清澄も阿知賀さんも規程違反で失格と言う可能性もありますもの」
「・・・・・・それはまずいのだ」
むむむと考え込む衣。
それを見かねて透華はため息交じりに携帯を取り出す。
「まずは大会委員に確認を取ってからですわね」
「頼むのだ!」
やれやれと電話をかけ始める透華。
その一連のやり取りを、「何の話をしているのかさっぱり分からない」と言う表情で阿知賀一同は見守るしかできなかった。
しばらくして透華は電話を終えた。
「OKが出ましたわ」
「やったー!」
「インハイ出場を決めたのは女子で、彼はインハイに関わっていないということ。
そして女子同士で会わず彼個人が会う分には問題ないということですわ。
それに加えてさらに私が直にお願いしたというのもあるのでしょうけど」
透華は飛び跳ねる衣の頭をよしよしと撫でながら、おーっほっほっほっと説明をした。
「ただ清澄に出向くのはまずいとのことですわ。
明日もここで私達と打つというのでしたらこの場に呼べば済みますけれども」
未だに置いてきぼりの阿知賀一同は透華の言葉に顔を見合わせ、よく分からないような表情のまま頷いた。
「・・・・・・よろしくお願いします」
その返事を受けて透華は再び携帯でどこかに電話をかける。
と思いきや。
「ほら、衣。
ちゃんと用件は伝えられますわね?」
そう言って携帯を衣に渡した。
「もちろんなのだ」
衣はそれを受け取ると満面の笑みで話し始めた。
「もしもし? しゅーすけか?」
話が落ち着いたところでようやく思考が動き出した阿知賀一同。
とりあえず晴絵が透華に確認を取る。
「えっと・・・・・・どなたか強い人と戦わせてもらえるという事かしら?」
「ええ、確かに衣が言う通り、麻雀を打ちにここまで来て彼に会わないのは損ですわ。
ただあちらもインハイ出場を決めた清澄の麻雀部員、何かと忙しかったりしますしね」
透華の言葉に再び顔を見合わせる阿知賀一同。
これだけ強い龍門渕の麻雀部員がそこまで言うとはよほどの人物に違いない。
「でも、その人男子なんですよね?」
憧が手を上げて質問すると透華は頷いた。
「ええ、男子ですわ。
以前決勝に残った清澄、鶴賀、風越と一緒に合宿をやった時に知り合ったんですの」
その言葉に、不意に松実玄が声を上げる。
「あ、あの、天江さんずいぶん楽しそうに話してますけど・・・・・・その・・・・・・も、もももしかしてそのしゅーすけという人と天江さ・・・・・・」
「それはありませんわ」
思春期特有の思考をあっさりと否定される。
ありゃ、と玄は落胆した。
「確かに衣はあの男に懐いていますし、外で待ち合わせて打つこともありますし何度かここにも招待しておりますけれども。
私やはじめはどちらかと言えばあの男苦手ですし。
もしそんな話が出てきたら二度と龍門渕高校の敷居は跨がせませんわ!」
くきー!と一人盛り上がる透華。
その様子を龍門渕の一同は面白そうな目で見ているのだった。
特に純が。
「トーカ!」
と、衣が戻ってきた。
「しゅーすけ来るって!」
「そう、それはよかったですわね」
言葉とは裏腹にあまり笑顔ではない透華。
衣はそんな透華に携帯を差し出す。
「しゅーすけが代わって欲しいと言っているのだ」
「・・・・・・私に? まぁいいでしょう」
透華は携帯を受け取ると話し始める。
「もしもし、代わりましたわ。
明日お越し下さるそうで・・・・・・いえ、別に、言い出したのは衣ですし。
え? ・・・・・・いえ、そんな、悪いですわ・・・・・・そ、そう・・・・・・そういうことでしたら受け取っておいて差し上げてもよろしいですわよ?
では明日、朝10時頃お迎えに・・・・・・いえ、お昼はこちらで用意しますし・・・・・・。
いえいえ! 龍門渕の令嬢である私が客人を自転車で来させるなどと!
お迎えに上がります! 待っていてください! いいですわね!?
それではまた明日。
ええ、ごきげんよう」
ピッと通話を切る。
「では明日10時頃またいらしてくださいまし。
それから少し遅れますが必ずあの男を連れてまいりますので」
先程までの電話の様子とは打って変わって透華はキリッと阿知賀一同にそう告げる。
一同はそれに対して何やらニヤニヤと笑っていた。
「・・・・・・な、何ですの?」
「いえ、勘違いをしていたようで」
そう玄が言った後、憧も笑いながら告げる。
「付き合っていたのは天江さんじゃなくて龍門渕・・・・・・」
「だから私あの男苦手だと言ったじゃありませんの」
きっぱりと告げる透華。
そうは言われても先程の態度は好きな人を前にしたツンデレお嬢様の反応に見えなくもない。
ところがどっこい、透華はしゅーすけにそんな感情は全く抱いていない、これが現実です。
そんなところで今日はお開きとなった。
最後に憧が透華に尋ねる。
「明日来るそのしゅーすけって人、どんな人なんですか?」
「どんな人・・・・・・」
むぅと考え込む透華。
「捕え所がなくてのらりくらりとしていると言いますか。
よく人をからかって、こちらが怒らない程度にいじめてくると言いますか。
しかしそれでいて面倒見が良くて気の効くところもあるという・・・・・・」
そこまで告げて少し考え、最後に透華は告げる。
「どうしようもない男ですわ」
何故最後にそれでまとまった、阿知賀一同はやれやれと首を振った。
「・・・・・・それもそうですけど」
と、鷺森灼が口を開く。
「どんな麻雀を打つのか・・・・・・」
「灼さん待った!」
灼の言葉にストップをかけたのは穏乃だ。
「・・・・・・何?」
「そのしゅーすけって人がどんな麻雀を打つのか、それは打てば分かりますよ!
ううん、打つまで分からないのが楽しいんじゃないですか!」
そうでしょ?と笑顔で告げる。
「・・・・・・確かにそうだけど」
むぅ、と不満気ながらもその考えを否定できない灼。
「だから、明日までの楽しみですよ」
んふふ、と笑う穏乃に灼は肩をすくめながらも頷いた。
のだが。
「・・・・・・そうですわね、初めに説明しておいた方がいいですわね。
あの男は・・・・・・」
「ちょ! 待って!」
楽しみを奪われる!?と穏乃が話し出した透華を遮った。
「明日打つまでの楽しみって言いましたよね!? 今言ったところですよね!?
何で話し始めちゃうんですか!?」
ぐわっ!と喰ってかかる穏乃を憧と玄が「どうどう」と抑え込み、透華の話の続きを促す。
「いえ、別に楽しみを奪うつもりは無くて・・・・・・。
というか彼の麻雀を口で説明するのは中々難しいものですわ」
「・・・・・・そうなんですか?」
確かにそう言う麻雀を打つ人間もいるだろう。
衣の麻雀なんかもそうだ。
誰かが説明をしたとしても実際に体験しないとその怖さも実感もわかないという物。
「ただ・・・・・・注意点が二つほど」
ビシッと指を二本立て、透華は告げる。
「一つ、彼は既にピークを過ぎた打ち手。
つまり本気で麻雀を打つことはできませんし、彼の全力を知る者からしてみれば今の彼の麻雀にはそれほど脅威を感じないということ」
「・・・・・・何かあったんですか?」
晴絵が不安げに聞く。
かつての、いや、今なおトラウマを抱えている自分のように何か酷い経験でもあったのだろうか、と。
しかし透華は首を横に振ってそれには答えない。
「・・・・・・それを私達の口から語るのは野暮というものですわ。
本人の気が向いたら話してくれるかもしれませんけれどもね」
そう言われては「そうですか」と引き下がることしかできない。
「そしてもう一つ」
透華は続けてもう一つの注意点を告げた。
「それでもなお、彼は衣と渡り合う実力者であるという事ですわ」
阿知賀一同は近くに借りた旅館でくつろいでいた。
費用節約のため少し大きめの部屋に6人泊まりである。
「強かったねー、龍門渕の人たち」
松実宥がお風呂上がりのほかほかとした状態で幸せそうに呟く。
「天江さんも龍門渕さんも井上さんも・・・・・・皆強かったねー。
私はドラがあるから一回上がるだけで逆転できたけど、その一回も難しいこともあったし」
玄も宥と共にほわーっと幸せそうに呟いた。
さすが姉妹である。
「明日こそもう少し善戦できるようになりたいですね!」
穏乃がぐっと拳を作りながら言うとくつろいでいた他のメンバーからも「そうだねー」と気合いの入っていない声が上がった。
「・・・・・・それに、明日にはしゅーすけって謎の人も加わるんでしょ?」
「どんな人なんだろうね」
灼と憧の言葉に一同は揃って首を傾げた。
想像で色々言うのは勝手だがその判断材料になるものも無いし。
「衣さんと渡り合う実力者って言ってたね」
「つまり衣さんと同じように人の聴牌率を下げる・・・・・・?」
「衣さんと渡り合うのなら毎回地和で上がるとか」
「それ、手に負えな・・・」
そんな感じでわいわい騒いでいると、一人いなかった晴絵が部屋に入ってくる。
「お疲れー、皆揃ってる?」
手を上げながら挨拶すると一同から返事が来る。
「揃ってますよ」
「先生、どこ行ってたんですか?」
「もうみんなお風呂入っちゃいましたよー」
ごめんごめんと謝る晴絵のその手には、何かメモ帳が握られている。
「ちょっとそのしゅーすけって人の事調べてみたんだ」
「おー! 何か分かったの? ハルエ」
「教えて先生!」
憧と穏乃が真っ先に食いつく。
他の皆も興味ありげだ。
が。
「残念、麻雀に関することはほとんど分からなかった。
公式大会にも名前無かったし」
その言葉に一同は揃ってコケるのだった。
「分かったのはこれくらいかな。
志野崎秀介、清澄高校3年生。
過去三回ほど入院経験あり」
「入院って・・・・・・怪我? 事故? 病気?」
晴絵の言葉に穏乃が喰いつくが、それにも首を横に振るのみ。
「詳しいことは何にも教えてくれなかった。
ま、私も警察じゃないしジャーナリストでもないしね」
やれやれと首を振る晴絵。
一同も大した情報が得られず残念そうだ。
「・・・・・・それからもう一個、彼が良く現れるという喫茶店があったわ」
「喫茶店?」
行きつけ喫茶店が分かったからってどうだというのだ。
「無駄なことに時間使って・・・・・・」
頼りないコーチ、と憧がため息をつくと晴絵はむっとした表情で言葉を返した。
「その喫茶店は麻雀卓が置いてあって、プロも出入りしてるって話よ」
「プロ!?」
途端に全員の反応が変わる。
「つまりプロとよく手合わせしてるってことかなーと思ってちょっと調べてみたんだけど、どうやらそんな情報いらないようね。
じゃ、この話はここでおしまい」
「待ってー!」
パタンとメモ帳を閉じてしまった晴絵に穏乃が縋りつく。
「ごめんなさいコーチ! 憧が怒らせちゃったみたいで!
後でちゃんと謝らせますから!」
「ちょ! 何私に責任押し付けてんのよ!?」
穏乃の言葉に憧が立ちあがって突っ込む。
「お、教えてください赤土さん!」
「気になって眠れませんー」
玄と宥も晴絵に頼み込む。
ちらっと灼を見ると、そちらも興味あり気にうずうずしている。
「仕方ないな、そこまで言うのなら教えてあげよう」
こほんと咳払いまでして勿体付けて晴絵は話し始めた。
「彼の麻雀に関する逸話がここでようやく見つかったわ。
その逸話と言うのが・・・・・・。
この喫茶店の麻雀卓で14連勝していた二人組を東二局で追い払った。
この喫茶店によく来るプロは毎回のように彼に負けて帰っている。
しかし常連さんと打つ時は安定せず、1位だったり2位だったり3位だったり、ビリを引くこともある。
彼の打ち方を後ろで見ていても理解できず、しかし彼と麻雀を打っていると勝っても負けても楽しい。
などなど・・・・・・」
色々出て来たわ、と報告をしてメモ帳を閉じる。
それを聞いた阿知賀一同の反応はまちまちだった。
「プロを毎回負かしている・・・・・・!?」
「でも安定しないって、なんで?
プロより常連さんの方が強いの?」
「後ろで見ていても打ち方が理解できない・・・・・・?」
「勝っても負けても楽しいって素敵ねー」
「何かよく分かんないけど凄そうです!」
各々の感想を聞いたところで、晴絵は付け加えるように話を続けた。
「それから・・・・・・彼には一つ不思議な癖がある」
「癖って麻雀の?」
憧の言葉に晴絵は首を横に振る。
それはそうだ、麻雀の癖なんてバレていたらあっという間に狙い撃ちだろう。
それ以外の癖と言うと何であろうか?
晴絵は面白そうに言葉を続けた。
「彼が本気を出す時は、100点棒を口に銜える」
「なんで?」
「いや、それは分からなかったけど・・・・・・」
だって龍門渕が一番最初だったら合宿の前っぽいじゃないですかー。
なんか適当な事情があって最初に対戦できなかったと思ってください。
えーと、なんかほら、秀介が混じった事によるバタフライエフェクトとかカオス理論とか世界線がどーのこーのとかなんかそんな感じの(