咲-Saki- とりあえずタバコが吸いたい先輩   作:隠戸海斗

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07藤田靖子その1 プロとゲーム

打ち始めてしばらく経ち、一通り全員が打ち終えた。

まだ打っているメンバーもいるが、休憩のような雰囲気となっている。

 

 

「どう? 須賀くん、存分に打てたかしら?」

「・・・・・・存分に負けてきましたよ」

 

久の言葉に苦笑いしながら答える京太郎。

あれからまた他の人と打って負けてきたらしい。

 

「でもまぁ、参考になる打ち方とかあったんじゃないか?」

「参考?」

 

同じく打ち終えて戻ってきた秀介がそういうが京太郎はキョトンとしている。

 

「・・・・・・もしかしてただ負けてきただけか?」

「いや、健闘しましたけど・・・・・・」

「そういうことじゃなくて」

 

はぁ、とため息をついて言葉を続ける秀介。

 

「あのなぁ、自分の都合だけで打ってたらそりゃ成長しないよ。

 他の人の打ち方とか見て、相手の手の進み具合とか手の高さとかを判断していかないと。

 例えば自分のリーチに対して他の人がどう打ってくるか、他の人のリーチに対してどう打って行ったか。

 おかしな打ち方をしたところがあったら、そこは他校の生徒相手でも聞かなきゃ。

 そうやって疑問を解決して自分の打ち方に取り込んでいかないと、強くなれないぞ」

「は、はぁ・・・・・・」

 

軽くお説教されて落ち込む京太郎。

それを見て秀介は軽くフォローを入れる。

 

「ま、合宿終わってからでもいいから原村さんとかと話しながら打つようにしていきな。

 何かしら成長できるからさ」

「あ、はい、わかりました」

 

一通り話すと秀介は財布を取り出した。

 

「リンゴが切れた、ちょっと買ってくる」

「いっそ買い溜めしておきなさいよ」

「んなことしたらぬるくなっちまうよ」

 

久の言葉にそう返し、秀介は去って行った。

 

 

「・・・・・・先輩、いつもそんな難しいこと考えて打ってたんですね・・・」

「・・・・・・どうかしらね」

 

京太郎の呟きに笑いながら久が答える。

 

「あいつは普段感性で打ってるようなところがあるから、今言われたことを実行するなら・・・・・・」

 

そう言いかけて止まる。

何か思い出したかのように。

 

「・・・・・・そうだった、あいつ普段あんな打ち方してるくせにネット麻雀だとデジタル打ちなのよね・・・・・・」

「え、ま、まさか?」

 

和が思わず声を上げる。

 

「う、嘘ですそんなの。

 あんな打ち方をしていてネットではデジタルなんて・・・・・・」

「ま、マジですか?」

 

和と京太郎の言葉に小さく頷く久。

 

「信じられないかもしれないけど事実よ。

 宮永さんの時みたいにネット麻雀は苦手じゃないかと思って打ってもらった事があるの。

 ネットでは現実で足りない情報を補うためにデジタル思考を使ってるんだと思うんだけど・・・・・・」

 

まったくよく分からない奴よね、と苦笑いした。

 

「ま、シュウの言っていた事を実行するなら、本人とか和とかまこに聞いた方がいいと思うわ」

「私や咲ちゃんは?」

「あんたたちはどっちか言ったら感性で打ってる方でしょ」

 

不満そうに手を上げた優希に久はそう返す。

 

「ま、でもね須賀くん、ちょっとずつでいいわ。

 ちょっとずつ今言われたことを参考にして、自分のものになるように頑張れば。

 他人の手の進みばかりに気を配って自分の持ち味が崩れるようじゃ本末転倒だしね」

「分かりました、頑張ってみます」

 

ぐっと握り拳を作る京太郎を、久は頼もしそうに見ていた。

 

 

 

「よっ、盛り上がってるじゃないか」

「ん?」

 

不意に声を掛けられて振り向く久。

 

「あ・・・・・・」

「わっ」

「カツ丼さん・・・」

 

そこには藤田靖子プロが立っていた。

 

 

「ねぇ、あそこにいるのって・・・・・・」

「藤田プロ?」

 

周囲もそれに気付いたのか声が上がる。

 

 

「な、なんでここに藤田プロがいらっしゃるのかしら」

「連絡は受けておりましたのでお迎えしておりました」

 

透華の独り言に答えたのは、執事のハギヨシであった。

 

「私は聞いておりませんわよ!?」

「透華様には麻雀に集中していただきたかったもので」

「いらぬ気を回さないでくださいまし!」

 

笑顔のハギヨシにそう言う透華だった。

 

 

「昨日にはもう来てたけどね。

 やっと起きた? 藤田さん」

「・・・・・・プロは色々と忙しいんだよ」

 

久の言葉に靖子はポリポリと頬をかきながら空いているソファーに座る。

 

「で? これからまた気になるメンバー集めて打つわけ?」

「まぁな」

 

靖子はそういいながら煙管を取り出す。

それを久が止めた。

 

「・・・・・・ここでタバコはまずいと思いますけど」

「・・・・・・それもそうか」

 

苦笑いしながら煙管を仕舞う。

と。

 

「あれ・・・・・・?」

「ん?」

 

戻ってきた秀介と目が合った靖子。

 

 

「靖子姉さん?」

「シ、シュウ!?」

 

 

しばし硬直した後、がたっと立ち上がった。

どうやら知り合いのようだ。

 

「な、何故お前がここに!?」

「俺、清澄の麻雀部だもん。

 何もおかしくないでしょう」

 

秀介は新たに買ってきたリンゴジュースを近くのテーブルに置くと、靖子の隣に座る。

 

「・・・・・・にしても、お久しぶりです」

「あ、ああ・・・・・・。

 お前・・・・・・もう体調はいいのか?」

「OKですよ、ご心配ありがとうございます」

 

座ったまま軽く頭を下げる秀介。

 

「・・・・・・そうか・・・・・・もう元気か・・・・・・ははっ・・・・・・!」

 

それを見て何やら嬉しそうな靖子。

そこに咲から声がかかる。

 

「あの・・・・・・志野崎先輩はカツ丼さんとお知り合いなんですか・・・・・・?」

「カツ丼さん?」

「あ、えっと・・・・・・」

 

しまった、という表情の咲だったが秀介はポンと手を叩く。

 

「ああ、カツ丼好きだからか、ははは」

 

秀介が笑うと靖子は少し膨れた。

 

「なんだ・・・・・・カツ丼さんって・・・・・・」

「いいじゃない、的確で」

「食べ物で呼ばれる覚えはないぞ。

 それを言ったらお前はリンゴジュースじゃないか」

「歓迎するよ、リンゴジュースはもはや俺の血肉だし。

 それはそれとして宮永さん、そんな呼び方したらその頭をぐりぐりする」

「ふぇ!?」

 

その言葉に咲は自分の頭を両手で押さえるのだった。

三人のやり取りを見ながらくすくす笑う久が口を挟んできた。

 

「シュウは藤田さんの親戚なのよ、ね?」

「そーです」

 

秀介の答えに、へーっと声を上げる一同。

 

「しかし靖子姉さん、わざわざこんなところに来てていいの?

 麻雀プロは麻雀打つのが仕事でしょう?」

「ちゃんと打つよ、これも仕事の内だ。

 お前もプロになろうという気は無いのか?」

「さぁて、どうだろうねー」

 

秀介は靖子の言葉を軽くいなすとジュースを飲む。

 

「・・・・・・プロにはならないんですか?」

 

和が聞くと、秀介が答えるよりも先に靖子が口を開いた。

 

「そうだ、こいつはどうもプロをバカにしている節があってな。

 私が「麻雀のプロを目指す!」と言った時、当時小学生だったこいつが何て言ったと思う?」

「「麻雀でお金稼いで食っていこうなんて、昭和40年くらいの人間の考えですね、おんぷ」、でしたか」

「ほーう、さすが言った本人、よく覚えているな」

 

すーっと手を上げた靖子はその手を秀介の首に回してぐいっと引き寄せる。

 

「ぐっ・・・・・・」

「まったく生意気な口をききおって、え?

 それだけの腕がありながらまったく・・・・・・」

 

ついでにぐりぐりと頭に拳を押しつけた。

 

「・・・・・・全ての打牌を理性と知識で解説しようなんて堅苦しい連中の群れになんか入っていくのは中々気が引ける」

「んー? それでもオカルトの連中だってゴロゴロいるぞ?」

「オカルトだって「~~のときは~~しろ」って言うような条件式組んでるじゃない。

 堅苦しいしめんどくさいし」

「お前はどっちにも当てはまらないってか」

 

秀介は軽くため息をつくと、首に腕を回されたまま呟くように言う。

 

「・・・・・・俺はもっと自由にやる」

「・・・・・・フン、プロでも自由にやればいいさ」

「自由にやったらやったで「あの一打はどういう理由で?」なんて解説を求められるに決まってる」

「それは確かにある」

 

くすくすと笑う靖子。

 

周りはそれについていけずにポカーンとしていたが。

 

 

 

「・・・・・・しっかし、お前も来ていたとは・・・・・・」

 

靖子はそう呟くと懐から一枚の用紙を取り出し、何やら考え始める。

 

「靖子姉さん、その紙は?」

「お前が入るとなると・・・・・・人数的に・・・・・・むぅ、私が外れるしかないか、仕方がない・・・・・・」

「・・・・・・聞いてる?」

 

秀介の言葉も耳に入らないのか、靖子はブツブツと独り言を続ける。

 

「・・・・・・っていうかそろそろ腕離してよ」

「やだ、お前と触れ合うのも久しぶりだし」

「だからそういうのはそろそろ彼氏でも作tt・・・ぐえっ」

 

失礼、しっかり聞こえた上で無視していたようだ。

 

 

 

そしてやがて、唐突に立ち上がった。

 

「全員揃っているな?」

 

全員に聞こえるようにそう告げる。

突然何事?と注目する一同。

それは清澄メンバーも同じだ。

 

「む・・・・・・まだ来ていないか。

 まぁいい、他のところから進めれば」

 

そんな中、付き合いが長いらしい久とまこと秀介だけが、その表情から何かを悟ったらしい。

 

「・・・・・・何やらかす気さ、靖子姉さん」

 

秀介の呟きが聞こえなかったかのように靖子は声を上げる。

 

 

 

「これからゲームをやろう」

 

 

 

「「「「「ゲーム・・・・・・?」」」」」

 

 

靖子の言葉に全員が顔を見合わせる。

そんな反応を面白そうに見ながら、靖子は話を続けた。

 

 

「まず全員に50000点支給し、それを持ち越しで半荘3回打ってもらう。

 箱割れはその場で終了、箱割れした者はその場で失格だ。

 参加者全員が3回終わった時点の上位4名で決勝を行う、というものだ。

 

 強制全員参加、あとまだ来てないメンバーも。

 

 見学、休憩も兼ねて一度に二試合ずつ行う。

 

 ルールは一発あり。

 裏ドラ、槓ドラ、槓裏あり。

 赤あり、喰いタン後付けあり、とまぁ標準なルールで行う。

 あぁ、純粋な役満重複もありだ。

 

 分かったら今やっているゲームを終了して、それから10分休憩の後にゲームを始めるぞ」

 

 

周囲から上がる「「「えぇ~!?」」」という声を無視して、靖子は一人満足気に笑った。

 

 

一方そんな靖子の行いにも慣れているのか、清澄のメンバーの一部は冷静だった。

 

「5万点支給の持ち越し?」

「珍しいルールだな」

 

久と秀介が呟く。

 

「一度体制を崩したら立て直すのが大変じゃの」

 

まこも普段と変わりなく話す。

その様子に他の清澄メンバーはいち早く持ち直したらしい。

 

「ボロボロに負けても次は原点から、とは行きませんからね」

「でも勝てばその分次に持ち越せるとも考えられるじぇ」

 

京太郎、優希もそういう。

 

「宮永さん、勝ちましょうね」

「うん!」

 

そんな中、和と咲はこっそり手を繋ぎ、気合を入れるのだった。

 

 

 

「ではメンバーを発表する。

 第一試合、清澄-竹井久、鶴賀-東横桃子、風越女子-池田華菜、龍門渕-龍門渕透華。

 第二試合、清澄-志野崎秀介、鶴賀-妹尾佳織、龍門渕-国広一、同じく龍門渕-井上純。

 

 他のメンバーは試合の邪魔や手助けなどしないようにな」

 

靖子がメモを片手にそう宣言する。

 

 

 

「ふ、藤田プロ、結構強引だなぁ・・・・・・」

「・・・・・・噂には聞いていましたが」

 

一の呟きに答える智紀。

 

「清澄のキャプテンも私も無視してそんなゲームを始めるなんて・・・・・・」

「いや、清澄はまだしもお前は関係ないだろ」

 

透華の言葉にあきれる純であった。

 

「何はともあれ、一番手はボク達だね、透華、純くん」

「・・・・・・そうですわね、私たちの強さを改めて教えて差し上げましょう!」

「ああ、せいぜい頑張ってこようぜ」

 

二人は立ち上がり、透華と共に卓に向かう。

 

「お二人とも、頑張ってらっしゃいまし」

「おう」

「うん!」

 

一言交わし、両者は分かれた。

 

 

 

「華菜、一番手ね」

「頑張ってきてね」

 

風越でも一番手の励ましをしていた。

池田はそれに笑顔で答える。

 

「先頭だし、がっつり稼いでくるし!」

「「「「いってらっしゃい」」」」

 

 

 

「で、では、行ってきます!」

 

妹尾は自分に気合を入れるように大きな声で言った。

 

「ああ、気楽に行って来い」

「50000点あるんだから、無理しないようにねー」

 

ゆみと蒲原に見送られる。

 

「えっと・・・・・・あれ? 桃子さんは・・・・・・」

「私ならここにいるっすよ」

 

ポンと肩に手を置かれ、ようやくその存在を見つけた妹尾。

 

「ああ、びっくりしました」

「ふふっ、一緒に行きましょうか」

「はい!」

 

二人は揃って卓へと向う。

 

 

 

「あら、私達が先頭?」

「負けたら次以降の士気に影響が出るな、負けないように」

「ふふっ、何それ、プレッシャーのつもり?」

「いや、冗談だ」

 

秀介と久は向き合い、パァンと軽くハイタッチをする。

 

「頑張ってらっしゃい」

「ああ、久もな」

 

そう笑い合って二人は卓に向っていく。

 

「・・・・・・なんかホント・・・・・・仲良さげだね」

「そうですね・・・・・・」

 

咲と和が揃ってその様子を見て少し顔を赤らめている。

 

「あの二人は以前からあんなもんじゃったよ」

 

まこはそう言って二人の肩を叩き「応援に行くぞ」とそのまま押して行った。

 

「シュウ」

 

ふと靖子が秀介に声をかける。

 

「久しぶりにお前の麻雀見させてもらうが、楽しみにしてるぞ」

「・・・・・・期待に沿えるように頑張りまーす」

 

秀介は手を振ってその場を離れた。

 

「フフ、さて見学に行くか」

 

二人が卓へついたのを見ると、靖子も腰を上げた。

 

「二人っきりね、あなた」

「バカ言ってないで応援行くぞ」

 

優希と京太郎も二人の応援へと向う。

 

 

そして、試合が始まる。

 

 




「・・・・・・ちなみに靖子姉さん、そのメンバーどうやって決めたの?」
「ん? 麻雀牌にそれぞれのメンバーの名前を割り当てて、引いた順」
「おい」


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