咲-Saki- とりあえずタバコが吸いたい先輩 作:隠戸海斗
千里山 3
風越 3
清澄 2
阿知賀 1
龍門渕 1
白糸台 1?
投票の結果、この小ネタは「秀介のいる清澄高校」に決まりました。
2位が風越と千里山で同着。
千里山は別のネタ考えてるんですけど、風越はどうしよう?
きよすみこーこーゆとりまーじゃんぶー!って感じで読んでもらいたい、声優さん達に(希望
実際ここまでゆとりなキャラは一人もいないでしょうけど。
現実でもいないでしょうけど。
ほら、ギャグだから(
時間軸的にはアフター阿知賀編の前かな。
清澄高校ゆとり麻雀部
卓を囲うメンバーは咲、和、優希、久。
先程までメンバーに交じって打っていた秀介は、今はベッドで大きく伸びをしている。
京太郎は買い物、まこは用事があるとかで遅れてくるそうだ。
それは秀介が退院し、再び部室で清澄麻雀部のメンバーと麻雀を打つようになったある日の事だった。
「・・・・・・ありゃ?」
ガタンガタンゴトンとおかしな音がして、清澄高校唯一の麻雀卓が停止した。
優希が卓をバンバンと叩くが動く様子は無い。
「動かなくなっちゃった、どうしたんだろうね?」
咲もそう言って卓を揺すってみるがやはり動かない。
牌を流し込む部分を開けて中をのぞき込んでみるが、さすがにそれだけでは暗くてわからないだろう。
「ちょっと中を見てみましょうか」
和がそう言って卓の蓋を開ける。
だがパッと見ではどこがおかしいのか分からない。
仕方が無いので全員で協力して牌を取り出してから隅々まで見渡してみた。
が、やはり故障の原因が分からない。
「シュウ、ちょっと見てもらえる?」
久がベッドにいた秀介を呼ぶ。
「どれどれ」とやってきた秀介はライトで卓の中を照らしたり、ドライバーを使って別の蓋を開けたりして隅々まで確認する。
何度か電源を入れ直したりしてみるが、やはり動く様子は無い。
10分ほどあれこれやってみて結果的に出た結論は。
「・・・・・・完全に故障だな。
業者でも呼ばないと無理じゃないかな」
そうなってしまうか。
「仕方がないわね」
久はそう言ってスマホを取り出すと生徒会の副会長に修理依頼の連絡を入れたらしい。
後で正式に書類を書いたり見積もりを見たりする必要はあるだろうがとりあえずOKだ。
さて、そうなると困るのは故障が直るまでどうするかである。
替えを用意するにしてもお金がかかるし、発注すれば届くまでどれくらいかかるか不明、買いに行くとしても今日は活動できなくなってしまう。
「まぁ、手積みでやるしかないだろうな」
秀介の言葉に一同はテーブルやマットの準備をしながらも、お互いに不安そうに顔を見合わせていた。
原因はそう、普段から自動卓でしか打っていないことである。
「私、手積みってやったことないよ」
「私もだじぇ」
「・・・・・・あいにくと私もです」
「そういえば私もだわ」
どうやら女性陣は誰一人として手積みで打ったことが無いらしい。
つまり今この部室には手積み経験者が秀介しかいないことになる。
ハイテク時代の弊害である。
「まぁ、やってみろよ。
普段と何かが変わっていい刺激になるかもしれないぞ」
秀介にそう言われて一同は頷く。
確かに、久に提案されてツモ切り動作を繰り返した和が上達したように、あえて手積みにすることで何かに覚醒するメンバーがいるかもしれない。
それならばやってみよう、ということで。
「卓の準備はOKね」
久が確認する。
テーブルにマットを敷いて、四人が椅子に座って囲む、通常通りの配置である。
「じゃあ、どかした牌を用意するじぇ」
「そうしましょう」
そう言って優希と和は揃って卓に牌をドジャァと撒いた。
「点棒はどこに置いておきましょうか?」
「空いた箱を使えばいい」
咲の言葉に秀介が答える。
「どれ、点棒は分けてやるから箱を貸してみな」
「はい、じゃあお願いしますね」
そう言って咲は秀介に空の箱を8つ渡した。
「・・・・・・8つ、だと?」
「え? そうですけど・・・・・・?」
バッと卓上を確認する秀介。
そこには8箱分の麻雀牌が積まれていた。
通常麻雀牌1セットは4箱に収められているはずである。
「おい、何で2セットもあけてるんだよ」
「え? 何が?」
秀介の言葉に久が首を傾げる。
「普段から2セットではないですか」
和も「何を言っているんですか?」と呆れたような視線を寄越してくる。
だがむしろ呆れているのはこちらだ。
確かに自動卓では一組の麻雀牌で打っている間にもう一組が卓の中で混ぜられ、山として積まれている仕組みになっている。
だから一局終わって使用していた牌を卓に流し込むと、すぐに新たな山が作られ間を開けずに連続して試合ができるようになっているのだ。
なので彼女たちにとって麻雀とは牌を二組使うのが常識。
だがしかし、だからと言ってこれは無いだろう!
混ぜてどうするんだ!
秀介の軽い説教を受けた後、とりあえず混ざってしまったものは仕方がないから、まずは牌を種類ごとに分別してきっちり二組に分けた。
そして片方を回収して仕舞う。
なんかもう他のメンバーには任せられないのでそれは秀介の仕事だ。
「じゃ、改めて混ぜましょう」
ジャラジャラジャラと音を立てて牌がかきまぜられていく。
それを横目に見ながら秀介は点棒を分けていく。
まずは1万点棒が1本ずつ。
ジャラジャラジャラ。
5000点棒を1本ずつ。
1000点棒を9本ずつ。
ジャラジャラジャラ。
5000点棒が2本で1000点棒が4本の分け方もあるが、頻繁に両替の必要が出そうだし普段からこちらで分けている。
ジャラジャラジャラ。
最後に100点棒を10本、これで合計25000点だ。
ジャラジャラジャラ。
分け終わったので秀介は各々に点棒の入った箱を配る。
ジャラジャラジャラ。
ところで混ぜ過ぎではないだろうか?
「いつまで混ぜてるんだ」
秀介にそう言われて一同は、はっと手を止める。
「そ、そうですね」
「お、おう、これくらいで勘弁してやるんだじぇ」
「さ、最初に種類ごとに分けてしまったから心配だったんですよ」
「そ、そうよ、別に混ぜるのが楽しかったとかじゃないんだからね?」
積み木か何かで遊ぶ子供か、という突っ込みは飲み込んでおいた。
さて、ではいよいよ手積みと名の付く通り山を手で作っていくわけだ。
が。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
一同はじーっとぐしゃぐしゃに混ぜられた山を見ていた。
何してるんだ、早く積めよと言いかけたところで、突然和から声が上がる。
「み、皆さん! わ、私は凄いことに気付いてしまいました!」
「な、何?」
「ど、どうしたの、和ちゃん?」
一同が注目する中、和はわなわなと震えながら卓上の牌を指さす。
「自動卓でないということはもしかして・・・・・・私達が自分達の手で山を作らなければならないのではないでしょうか!?」
な、何を今更?と言いかけて危うく秀介は飲み込んだ。
だって自動卓は自動で山を積むから自動卓だろう?
それが使えないってことは手で積むのは当然ではないか?
手積みをやったことが無いから知らない?
そういうレベルで知らないというのか!?
「はっ!? ま、待つんだじぇ! みんな!」
不意に今度は優希が声を上げた。
今度は何だ?
全員が注目する中、優希はおそるおそるといった感じに言葉を紡ぎだした。
「・・・・・・手で山を積むから・・・・・・「手積み」って言うんじゃないか?」
当たり前だろう!?という秀介の発言は女性陣の声でかき消される。
「た、確かにその可能性はあるよ!」
「こ、これは大発見です!」
「驚いた・・・・・・優希、あなた冴えてるわね!」
逆だよ! お前らが冴えてないんだよ!
そう突っ込んでやりたいがどこまで本気か分からない以上下手な発言はできない。
そうとも、全員グルになったドッキリという可能性もあるのだ。
むしろその可能性が高い。
っていうかそうであってほしい。
「じゃあ、積みましょうか」
ごくりと息を飲み込むような重い緊張感の中、久の言葉を合図に牌に手を伸ばしていく女性陣。
初めての手積みとはいえそんな重苦しい空気に包まれる必要があるのだろうか?
きっと麻雀が大流行した世界だからこそあるのだろう、多分。
「・・・・・・っていうかめんどうね、これ」
「あ、もしかしてこれ毎局やるんでしょうか・・・・・・?」
「え? 一局ごとに?」
「て、手積みってこんなに面倒だったんですね・・・・・・」
「あっ、だから自動卓というものが開発されたんだじぇ!」
「なるほど! これは面倒だもんね!」
「誰だか知らないけど発明者には感謝しないとね」
「まったくです。
でもこうして自動卓のありがたみを知れただけでも手積みをやった甲斐があるのではないでしょうか」
「そうだね」
「同感だわ」
「まったくだじぇ」
なんかもういい、深く気にするのはやめようと秀介は自分に言い聞かせた。
まぁ、積んでいる間に飲み物でも用意してやろうかと、秀介はコップにお茶を入れる。
冷蔵庫もあるし氷を入れて冷やしてやった。
もう夏だしこれくらいの配慮はした方がいいだろう。
それをトレイに乗せて持っていく。
まだ山は完成していなかった。
「しゅ、シュウ、クイズよ!」
「何だ、いきなり」
「山は横に何牌並べるでしょうか!?」
突然の久の出題に、秀介は一瞬で理解した。
この状況でそんなクイズを出す理由は一つ。
「山の枚数位覚えておけよ」
「お、覚えてるわよ!? これはシュウがちゃんと知っているかのクイズなんだから!」
はいはい、そういうことにしておこうか、と秀介はため息をつきながら答えた。
「18牌×2段」
「せ、正解よ! さすがシュウね、やるじゃない!」
「本当は17牌だけどな」
固まっている久を放置してお茶を配る。
しばし固まった後、再起動した久はぷーっと膨れながらぶつぶつと秀介に文句をぶつけた。
「ま、全くシュウってば人を試すような真似をして・・・・・・そんな子に育てた覚えは無いわよ?」
育てられた覚えはないし、むしろ秀介の方が育ててあげたようなものだが。
「ふぅ、危ない危ない、恥かくところだったわ」
かいてるかいてる、とてつもなく。
「・・・・・・ん・・・・・・あっ、ちょっと!!」
お茶を配り終わったところで久がまた唐突に声を上げる。
視線を向けると、やはり久はぷーっと膨れていた。
というか、全員が不満気に睨んでいた。
今度は何だろうか。
「志野崎先輩は嘘つきです!」
「そうだじぇ! こんな人だとは思わなかったじぇ!」
「酷いです! 冗談ならもっとわかりやすくやってください!」
「・・・・・・何がだよ」
意味が分からず卓をのぞき込む。
そこには完成した山と、真ん中に8牌が転がっていた。
久がそれを指さしながら声を上げる。
「全員17牌×2段ずつ積んだのに8牌余ってるじゃない!
これって全員がさらに2牌ずつ積める・・・・・・つまり本当はやっぱり18牌×2段が正解だったのよ!」
は?そんな馬鹿な、と言いかけて秀介はふと思い至る。
そういえば余り牌が無い。
花牌とか、赤牌を入れる代わりに抜かれるはずの牌とか。
先程点箱として利用した箱にも無かったし。
ぐるっと山を見渡すと牌の透視ですぐに見つけた。
こういう時は便利である。
秀介はその周辺の牌ごと掴み、がしゃっと表に返した。
「な、何をするんですか!? せっかく積んだのに!」
咲が文句を言うのを、取り出した花牌を見せつけて黙らせる。
「花牌も赤牌の代わりの牌も抜いてないだろう。
{五、5}が5枚と{⑤}が6枚ある花牌麻雀なんて珍しいことをやるつもりかい?」
その言葉に全員が、はっとした表情で山を崩して牌を表にする。
「そ、そういうことは早めに言って欲しいじぇ!」
「そ、そうよ! まったく、シュウもしっかりしてよね!?」
おかしい、普段からちゃんと抜いてやっているはずなのに。
これが全国行きを決めた麻雀部員のやることなのか?
ゆとりにもほどがある。
せっかくの合宿の後だというのに気が抜けすぎではないだろうか。
とにかく全員が協力して不要牌を抜くことには成功した(仕舞っておく箱が無いからと秀介に手渡されたのだが渡されても困る、一応麻雀セットのケースの中には入れておいた)。
「じゃあ、積み直しね」
「仕方がありませんね」
ジャラジャラジャラと牌を混ぜていく一同。
一体いつになったら麻雀が始まるのだろうか。
再び混ぜ過ぎと思われるほどかき混ぜていたのだが、秀介が声をかける前にそれを察した久が「さ、さぁ! 混ぜるのはこの辺にしましょうか!」と止めたので文句を言わずに済んだ。
そして一同は山を積んでいく。
左右の手に一つずつ牌を持ち、片方の牌の上にもう片方を重ねて左に寄せる。
もう一度左右の手に一つずつ牌を持ち、片方の牌の上にもう片方を重ねて左に寄せる、これで2トンだ。
それをもう一度繰り返し先程の牌の横に並べる、これで3トン。
それをもう一度繰り返し先程の牌の横に並べ、さらにそれをもう一度。
「・・・・・・久、ちょっと変われ」
「え? 何?」
すいっと久の横から手を伸ばす秀介。
カカカカッと17牌×2段を並べる。
そして上山をスッと持ち上げると下山に重ね、そのまま定位置にずらして持っていく。
さらに6・5・6で分かりやすく区切るというおまけつきだ。
「え!? な、何今の!?」
「一瞬で山が積み上がったじぇ!?」
「す、すごい! 手品みたい!」
「そ、そんなオカルトありえません!」
「お前らどんだけ手積みを知らないんだよ!」
カシャカシャと全員分の山を積み終えたところで、秀介は一人離れた椅子に座りぐったりと頭を垂れていた。
「・・・・・・何でだよ・・・・・・何でこんなことも知らないんだよ・・・・・・出来ないならまだしも知らないって・・・・・・
「先輩がなんか落ち込んでるじぇ」
「きっと疲れたんだよ」
「そうですね、これだけの山を一瞬で作る技術・・・・・・よほど体力を消耗したのでしょう」
「シュウに無理はさせられないわ、ここからは私達が頑張って山を作りましょう」
秀介の気も知らず一同は頷き合った。
「じゃあ、まずは親決めね」
久はそう言って小さな賽を2つ手に持つ。
「小さいから無くしそうね」などと呟きながらそれをヒュッと投げる。
コロコロと転がったそれらは対面の山にぶつかり、やがて静止する。
出た目は2と4で6。
久の下家に当たる優希がもう一度振ろうと賽に手を伸ばす。
その途端。
「こ、これは・・・・・・!?」
久が声を上げた。
「ど、どうしたんだじぇ? 部長?」
優希がビクッと手をひっこめる。
咲と和もどうしたものかと久の方に視線を向けた。
「・・・・・・振れば分かるわ」
「???」
よく分からないと思いながらも優希は賽を手に取り転がした。
やはり賽はコロコロと転がり、やがて静止する。
そして。
「こ、これは!?」
やはり優希も声を上げた。
「え? 何?」
「どうしたというのですか、部長も優希も」
二人はおろおろしながら優希の様子をうかがう。
優希は何やら興奮した様子で二人に声を掛けた。
「のどちゃん! 賽を振るんだじぇ!」
「え? なぜ私が?」
「いいから! 振ればわかるじぇ!
あと咲ちゃんも!」
「え? 私も振るの?」
こくこくと頷く優希。
二人は顔を見合わせながら順番に賽を振る。
コロコロコロ・・・・・・コロコロコロ・・・・・・
「・・・・・・これは・・・・・・!?」
「え、何これ・・・・・・?」
一同は顔を見合わせる。
どうやら揃って同じ考えに至ったようだ。
サイコロを振るというこの行為は・・・・・・
た、
楽しい!!
「もう一回! もう一回やりましょう!」
「わ、私も振るじぇ!」
「ずるい! 私も振りたいよ!」
「こ、これは単純なようでいて中々不思議な魅力が・・・・・・!」
コロコロ、コロコロと賽は何度も振られた。
秀介は相変わらず何やらぶつぶつと呟いている様子。
なので誰も彼女達に対して、「お前らさっさと麻雀やれよ!」と突っ込む人間はいないのだった。
何度賽が転がされただろうか。
やがて彼女たちは「麻雀をやる」という本来の目的を思い出し、親を決めた後に山を区切り配牌を取っていくのだった。
山を積み直すのには時間がかかっているが、試合の進行は慣れたものだ。
出親の優希がさっそく満貫を2回上がってリードを取る。
が、久や和に狙われて点数を削られた後、咲が相変わらず嶺上開花を上がったり久が高い手をツモったりしているうちに気が付けば南入。
一時期50000近くあった優希の点棒はあっという間に削られ、最下位にまで落ち込んでしまった。
一方久が変わって35000程あった点棒を守っていく。
そしてオーラス。
「ツモ、1000・2000です」
和の上がりにより対局は終了となった。
小さくため息をつきながら挨拶を交わす。
「ありがとうございました」
「ありがとうございました、さすが和ねぇ」
「ありがとうございましたじぇ。
うぅ、点棒が目に見えて少なく・・・・・・」
「ありがとうございました。
えっと・・・・・・」
ここに来て全員揃って点箱を卓上に持ってきた。
そして。
「・・・・・・誰が何点ですか?」
「・・・・・・うん、私もそれ気になってたところよ」
咲の言葉に久も賛同する。
そしてお互いに自身の点数を申告するのだった。
「・・・・・・13200点、きっと最下位だじぇ・・・・・・」
優希が悲しげに告げる。
「私は33900、これだけあれば多分トップよね」
久は自分の好成績を誇らしげに伝える。
とはいえ原点プラス8900はぶっちぎりではない。
さすがに同校のメンバー同士、実力が拮抗してきているということか。
「私は25600です。
その前まで21600でしたけど、まぁ原点あればきっと2位になれると思ってあの手を上がりました」
和は少し自慢気にそう告げる。
トップでなかったのは残念だが2位なら上出来だ。
が。
「え? ごめん、私27300あるんだけど・・・・・・」
残った咲の言葉に固まった。
「ま、まさかそんな・・・・・・!」
和は何度か全員の点棒を数えてみるが、合計点数はちゃんと10万点でずれていない。
点棒のやり取りは普段からやっているし、差し出す側も受け取る側も全員が見ている目の前でやり取りするから間違っていたらすぐに分かるはずだ。
と言うことはこれは単純に和の計算ミスになる。
「た、確かに何度か咲さんの上がりはありましたけど・・・・・・ま、まさか原点確保しても捲れていなかったなんて・・・・・・」
しょぼんと落ち込む和。
「慣れない手積みだったからしょうがないよ」と慰めようとする咲だったが。
「原村和ぁー!!」
「ひっ!?」
突然雷が落とされた。
秀介によって。
「お前! お前ぇ!
デジタル雀士を名乗る者が計算ミスだと!?
一流なら毎局の点棒のやり取りどころか、それぞれの上がり手牌、人によっては河に至るまで完全に記憶するぞ!
それが何だ!? 所持点数を把握してなくて捲れませんでしただとぉ!?
そこに直れ! 俺が修正してやる!」
「ちょ、シュウ! 落ち着きなさいって!」
「再教育だ! 人間でいられると思うなよっ!」
「そこまで!? 何でそんなに怒ってるの!?
落ち着いて! 落ち着きなさいよ!」
どうどうと久が宥めてようやく少しは落ち着いたようだった。
秀介は詳しく語らなかったが、おそらく(久からはそうは見えないが)同じデジタル雀士として少なからず和に期待していたところがあったのだろう。
それが学校内での練習とはいえ、オーラスに目指す点数を間違えて捲れなかったというあまりにも単純なミスが許せなかったのだと思われる。
決してそれまでの手積みの知らなさで溜まっていた鬱憤をまとめて晴らしたわけではない、多分。
と言うことを久がこっそりと話すことで、何とか一年生トリオも落ち着いた。
「し、志野崎先輩って怒るとあんなになったんですね・・・・・・」
「私もあんなの初めて見たわよ」
「のどちゃん、大丈夫か?」
「あぅ・・・・・・あぅ・・・・・・怖かったです・・・・・・」
カタカタと小さく震える和。
その姿は例えるならば咲が迷子になって「ここどこ・・・・・・?」と泣いている姿を思わせた。
さすが親友同士、似たところがある。
が、そんな和もすぐに落ち着いた。
「・・・・・・で、でも、言われてみれば確かに志野崎先輩の言う通りです。
私としたことが、いくら慣れない手積みで集中を削がれていたからと言ってあのミスは酷かったと思います。
ここからは点数の把握も目指しながら挑みたいと思います!」
「その意気だよ、和ちゃん!」
「おう! 私も次こそはトップを目指すじぇ!」
「手積み、やってみてよかったわね」
こうして清澄一同はどうやら手積み卓による特訓で一層強固な絆を作るのであった。
和はその日の部活が終わるころには頭から煙を出していたが、そんな状態がものの三日も続くと少しは慣れ、いくらか成長につながったようであった。
「来たぞい、遅れてスマンなぁ。
・・・・・・ん? 何をしとるんじゃ?」
その日、遅れてやってきたまこは目の前に自動卓があるにもかかわらず、わざわざ他の場所で麻雀をやっているメンバーを目撃する。
故障でもしとるんか?と卓を見ようとすると、それに気付いた秀介が即座に駆け寄ってきた。
「まこ!」
「な、なんじゃ?」
「お前は手積みをやったことがあるよな!?
いや、やったことがなくても知ってるよな!?」
今まで見たことが無いその迫力に押されながらも、まこは返事をする。
「志野崎先輩・・・・・・?」
秀介はいつになく真剣な表情。
「まこ、お前だけが頼りなんだ」とでも言いそうな切羽詰まった感じだ。
それを見て全てを察したまこは一息つき、
首を傾げながら答えた。
「手積みって何じゃ?
いや、すまん嘘、ちゃんと知っとるよ。
いや、知っとるって先輩。
先輩? どこ行くんじゃ?
え? 「かみはしんだ」? 何を言っとるんじゃ。
なんで窓に向かうんじゃ?
先輩!? なんで窓の縁に足を掛けた!? そっから先はホンマに危ないて!
ちょ! 待った! 待って先輩!
おい! みんな! 先輩を止めるのを手伝え!」
なんかそんなやり取りがあったが、それは些細なことであった。
げに恐ろしきゆとり世代・・・・・・。
ちなみに千里山だったら雅枝さんがフォロー、宮守だったら熊倉さんがフォロー。
風越や姫松の若い監督だったり、監督すらろくに出ていない高校だったらツッコミ不在だったという恐怖(
それでも選ばれてたら書いたけどね!
え? 誰かまともな選手を一人用意して
いや、そんな気さらさら無かったけど。
だってボケてる方が可愛いじゃない(
京「・・・・・・先輩達、何騒いでるんすか?」
秀「須賀君! 君は手積みを知ってるよな!?」
京「え? 何ですか急に。
そりゃ手積みくらい知ってますよ、当たり前じゃないすか」
秀「ありがとう、結婚しよう」
京「ファッ!?」
久「ファッ!?」