咲-Saki- とりあえずタバコが吸いたい先輩   作:隠戸海斗

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説明しよう!
(チュン)に愛された男、志野崎秀介は手元に来た中を額に掲げ「変身ッ!」と叫ぶことで、大三元戦隊(チュン)レッドに変身することができるのだ!
その効力は!

1.無駄ヅモが無くなる!
2.聴牌したら必ず一発でツモる!
3.リーチ、カンがあったら必ず中がドラになる!
4.中を逆さまに捨て「中ビーム!」と叫ぶことで、対面の手を封殺することができる!
  封殺された手牌は燃え上がりあまりの熱さに触れることが出来なくなり、相手は手牌を晒すことが出来ないので鳴くことも上がることもできず、ツモ切りしかできなくなる!
5.変身時間は一局で、変身する度に中を一つ消費する!
  すなわち半荘で4回しか変身できない!
6.中を消費する度に手元に「中カウンター」が1つ溜まる!
  中カウンターを消費することで、他家のツモ上がり、ロン上がりに割り込んで手牌を封殺することができる!
  封殺された手牌は以下略!
7.もしも変身した半荘で敗北した場合、大三元戦士としての資格を失い、二度と変身することが出来なくなる!

新番組! 三人揃って正義の印! 麻雀戦士! 大三元戦隊白發中!!!
いくつもの(戦場)を巡り、彼らは何を思い、何を成すのか!
20××年4月×日(日)、朝7:30から放送!

↓以下、温度差がある本編開始(



02Aislinn Wishart からかいと記憶

東一局0本場 親・塞 ドラ{②}

 

(・・・・・・おや?)

 

秀介は配牌を受け取りながら、その後のツモの流れに目を向ける。

 

秀介配牌

 

{一二三四五七③⑥⑧267西中}

 

言い出しっぺは自分だったわけだが、そのあまりの偶然に声をあげて笑いたくなる。

突然そんな事をするわけにもいかないのでそれは抑えたが。

 

塞の第一打は{南}。

エイスリンと胡桃の第一打は{北}。

特に不思議は無い、ごく普通の打ち方だ。

秀介は第一ツモに手を伸ばしながらフッと笑った。

牌を入れ替えていなくてもその牌が手元に来ると分かったから思わず笑ってしまったのだ。

 

(・・・・・・今回はこれで行くか)

 

初対面だから通用する、この宮守女子メンバーをどうやって()()()()かが決まった。

 

4巡目。

 

塞手牌

 

{二二三①③⑤⑧13(横中)3378}

 

上手くツモが噛み合えば三色まで伸ばせそうな手牌だ。

とりあえず今ツモってきた{中}は不要なのでそのまま切る。

 

「ポン」

 

秀介から声が上がった。

 

({中}ポン・・・・・・?)

 

む?と少しだけ怪訝な表情を浮かべる塞。

別にただの役牌ポン、本来なら気にすることは無いのだが。

 

そして8巡目。

 

「ツモ」

 

あっさりと秀介がツモ上がった。

 

{一二三(ドラ)③④⑤⑥77} {中中横中} {(ツモ)}

 

「中ドラ1、500(ゴッ)1000(トー)

 

 

 

東二局0本場 親・エイスリン ドラ{六}

 

秀介 27000

 

{南八9東②一7東一九①2②}

 

今回は入れ替えが必要のようだ。

それも2牌。

配牌は受け取ったまま開けていない、裏向きのままだ。

そして山にまだその牌が3牌ある事を確認すると、小さく息をつき、それらを入れ替えた。

完了したところで配牌を起こし整理する。

 

{一一八九①②②79東東中中}

 

エイスリンの第一打は既に切られてしまったが、その次の胡桃の第一打には間に合った。

パシッと切られた{中}に、秀介は手牌の一部を倒して声をあげる。

 

「ポン」

 

カシャッと牌を晒して{九}切り、ペンチャン整理だ。

 

(・・・・・・また{中}ポン・・・・・・)

 

胡桃は変わらぬ表情のまま秀介の手元に視線を向ける。

その後も鳴きを入れて手を進め、対面のエイスリンから切られた{8}に手牌を倒す。

 

「ロン」

 

{②②67東東東} {横一一一横中中中} {(ロン)}

 

「東中、2600」

「・・・・・・ハイ」

 

点棒を受け取るとさっさと手牌を崩し、卓の穴に流し込んでいく秀介。

その様子を見ながら胡桃は、むぅ~と少しだけ眉をしかめる。

 

(大三元戦隊中レッド・・・・・・さっきの自己紹介、あながち嘘じゃなかったのかな?)

 

突っ込みどころ満載の自己紹介を真正面から受けた胡桃、それだけに反応は誰よりも早かった。

 

 

 

東三局0本場 親・胡桃 ドラ{2}

 

7巡目。

 

「リーチ」

 

この局も秀介の先制となった。

 

捨牌

 

{⑨東南九⑤1} {横一(リーチ)}

 

(リーチかぁ・・・・・・)

 

胡桃 24500

手牌

 

{三七八④[⑤]⑥⑧⑨4(横8)79西西}

 

チラッと秀介の捨て牌に目を向ける。

 

(・・・・・・今までは鳴きで確定していたけど、今度は待ちに絡んでるのかな?

 そうなると・・・・・・あんまりスジとか当てにできないなぁ)

 

胡桃は一人そんな事を考えながら安牌の{⑨}を切り出す。

それからすぐに秀介が上がるわけでもなく、三人も振り込みは避けようと牌を打って行くという膠着状態が続いた。

 

そして12巡目。

 

(・・・・・・ア・・・・・・)

 

エイスリンに聴牌が入る。

 

エイスリン 21900

手牌

 

{七八九①①②④[⑤]⑦(横⑨)⑧567}

 

{②}切りで平和赤の聴牌。

リーヅモと裏が絡めば満貫だ。

まだ東三局とは言え現在最下位のエイスリン、できればここで上がっておきたいが。

 

(リーチ・・・・・・ドウシヨウ・・・・・・?)

 

リーチをかけなければツモっても平和ツモ赤で700・1300。

上がれば一先ず2位になれるが、秀介との点差はそれほど詰まらない。

エイスリンの和了率を持ってすれば安手でも最終的に逆転はできるだろうけれども。

チラッと対面の秀介に目を向ける。

リーチから5巡、まだ手を倒す様子は無い。

待ちが悪いのだろうか。

それなら勝負に行く価値はある。

 

(ナラ・・・・・・イキマショウ)

 

和了率が高いエイスリン。

そんな彼女が上がれる時に毎回極力リーチをかけて点数を稼ぐようにしていれば、必然他家の逆転の目は無くなってくる。

麻雀歴が短い分、そう言う決断は単純な損得勘定で動いても構わないだろう。

 

「リーチ、シマス」

 

{②}を切って千点棒を取り出す。

エイスリンの「能力」をよく知っている塞達は、このリーチでこの局を上がるのはエイスリンだと思った事だろう。

 

(・・・・・・出て来たか)

 

秀介が今まで上がりを待っていた目的が、その1000点棒にあるとは思わずに。

 

「ツモ」

 

次巡、あっさりと秀介はツモった。

 

{三四五五六七②②789中中} {(ツモ)}

 

「リーチ中ツモ、1000(いち)2000(にー)

 

エイスリンはリーチ棒を攫われて早くも2万点割れ。

一方の秀介はこの上がりで早くも3万を超えた。

だが問題はそこでは無い。

 

(エッ!?)

 

エイスリンに限らず、宮守メンバーは揃って表情を変える。

 

({②と中}のシャボ待ち!?)

(リーチノトキ、キッタケド・・・・・・!?)

(エイちゃんの切った当たり牌{②}を無視してツモ・・・・・・?)

 

秀介とエイスリンの差はこれで14700。

エイスリンの和了率ならもしかしたらここまでトップから引き離された経験は珍しいかもしれない。

少しばかり顔をしかめた。

塞と胡桃もそんなエイスリンの表情が珍しいのか、心配そうにしている。

 

(エイスリンがここまで削られるのか)

(この人・・・・・・熊倉先生が呼んできただけの事はあるね!)

 

チラッと秀介に視線を向けながらそんな事を思う二人。

だがそう怖い事ばかりでは無い。

何せここまでくれば彼の能力は明白なのだから。

 

(・・・・・・ここまで志野崎さんの上がりには全て{中}が絡んでいる)

(毎回{中}が上がり役に絡む能力、なのかな?

 エイちゃんの上がり牌をスルーしたところを見ると、逆に必ず{中}を絡めて上がらなきゃいけない制限とかありそうだね!)

 

だとすれば対策はできる。

{中}を手にしたら絶対に手放さないようにすればいいのだ。

仮に誰かが{中}を二枚押さえれば、もう秀介の手役に{中}が絡む事は無くなる。

全員がそれを徹底すれば秀介が上がる事はできなくなるだろう。

 

(ヤラレッパナシデハ、イラレマセン!)

 

エイスリンも今のでそれを把握している。

故にぐっと拳を作ってここからの反撃を胸に誓うのだった。

 

 

もちろんそう言う思考に至るというのは、秀介の思い通りに他ならないのだが。

 

 

 

東四局0本場 親・秀介 ドラ{9}

 

秀介 34600

配牌

 

{一四②⑦25888西北北白} {中}

 

(さて、これだけ偏らせて上がっていれば、そろそろ警戒する頃だろうな)

 

ひたすらに{中}絡みで上がって意識をそちらへ振る。

これは「能力」だとか「特性」だとかいうものに理解がある人間ほど容易く引っかかることだろう。

ましてやデータの無い初対面、罠にかかるのも仕方がない。

そうしておいて後から別のところで狙い打ちをするのが常套手段。

なのだが。

 

(・・・・・・肝心の熊倉って人が来てないからな。

 今回はこのまま、からかい続けさせてもらおうかな)

 

秀介は小さく笑い、{8}を切り出した。

そして、7巡目。

 

「リーチ」

 

捨て牌が横向きになる。

 

秀介捨牌

 

{8白一西⑦東} {横2(リーチ)}

 

(リーチ・・・・・・また{中}待ちか・・・・・・?)

 

塞の手には既に{中}が一枚。

切らずにいることで手の進行の妨げになってしまっているが、秀介がまた{中}のシャボ待ちを選択していたとしたら待ち牌の一つを握り潰している事になる。

とりあえず切ったのは安牌。

そして次巡。

 

塞 23000

手牌

 

{六七八九②③④⑥⑦(横中)355中}

 

(よし、重ねた!)

 

{中}対子、これでもう秀介の手役に{中が}絡む事は無い。

頭にすれば平和は消えるが上がり自体はまだ目指せる。

 

(熊倉先生が呼んできてくれたお客さんとはいえ、そうそういつまでも好き勝手はさせられない。

 それに私達も・・・・・・)

 

塞は{九}を切り出す。

 

(格好悪いところばかり見せるわけにはいかない!)

 

そして2巡後。

 

{六七八②③④⑥⑦35(横4)5中中}

 

塞も聴牌に至る。

今更引くわけがない。

 

「リーチ!」

 

1000点棒を出して勝負だ。

 

(さァ、めくり合いと行こうじゃないか!)

 

秀介に視線を向けてフッと笑って見せる。

その挑発的な視線に秀介も笑って返し、

 

「ツモ」

 

次巡あっさりと上がり牌を引いた。

 

(あら?)

 

勝負になるかと思った矢先にそれか。

やれやれと塞は秀介の手牌に目を向ける。

 

(・・・・・・え? ちょっと待って?)

 

ツモを宣言し秀介が晒したツモ牌に視線が釘付けになる。

何故ならその牌は、塞が二枚押さえている{中}だったからだ。

手牌を改めて確認するが間違いない。

 

(私が{中}を二枚押さえているのに{中}ツモ上がり!?)

 

一体どんな手牌・・・・・・!?と倒された秀介の手牌を確認した。

 

{四四②②5588西西北北中} {(ツモ)}

 

「リーヅモ七対子、裏無しで3200オール」

 

{中}は手役では無く単騎待ち!

 

(まさか・・・・・・役にならなくても待ち牌ならツモれるのか!?)

 

てっきり{中}が役に絡むように打ってくると思っていたのに。

いや、逆にその程度の相手を熊倉先生がわざわざ呼んだと考えたのが浅はかだったか。

塞は小さく息をつく。

 

(・・・・・・? サエ・・・・・・ナンカドウヨウシテル?)

 

そんな塞の様子が気になったのか、エイスリンが小首を傾げながら様子を見ている。

すぐに塞ははっとした。

 

(まずい、私が{中}を二枚抱えている事は私しか知らない。

 かと言って今分かった情報を口頭で伝えるなんてマナー違反だし・・・・・・)

 

少し考え、塞は自分の手牌をジャラッと公開した。

 

「??」

 

胡桃もエイスリンも思わずそちらに目を向ける。

秀介の眉がピクッと跳ねた。

 

「いやァ残念、上がれませんでしたか。

 {中}は二枚押さえてたんですけどね」

 

塞はそんな事を言ってすぐにパタンと手牌を伏せる。

今まで塞がそんな動作を見せた事など無い。

だから二人はすぐに感づいた。

 

(サエノテハイ、{中}ガアッタンダ・・・・・・)

(私も手役に{中}が絡むものだと思ってたけど。

 なるほど、残り牌の枚数が一枚だろうが{中}なら引けるんだね!)

 

二人の表情から言いたいことが伝わったらしい事を察し、塞は一息つく。

そして秀介にも視線を向けた。

 

(・・・・・・それから、追いかけだろうが先制だろうがリーチをかけたら直後に上がられるという事態が続いている。

 豊音と逆・・・・・・追っかけられたら上がるってことかな。

 もしかしたら彼の「特性」は{中}絡みだけじゃないのかもしれない)

 

そうと分かれば対策が打てるぞ、と塞も改めて気合いを入れ直した。

 

 

(・・・・・・なんて事を思ってるんだろうなぁ)

 

秀介は一人笑いながら100点棒を脇に積む。

 

 

 

東四局1本場 親・秀介 ドラ{八}

 

秀介 45200

配牌

 

{二二四五⑧⑨2356東西白}

 

(・・・・・・今回は、ちょっと工夫しないとダメかな)

 

ちらっと視線を向けた先は胡桃。

 

胡桃 19300

配牌

 

{三七八⑤⑥⑧1225北中中}

 

(よし、配牌で{中}二枚!)

 

フフンと胡桃は自慢げに笑っていた。

 

(・・・・・・まぁ、対策された時の対策は用意してあるがね)

 

それを実行する時が来たか、と秀介は{西}を切り捨てる。

そして、7巡目。

 

「リーチ」

 

{西東3⑨8九} {横⑧(リーチ)}

 

秀介はリーチを宣言した。

そんな秀介に胡桃は、むぅと顔をしかめる。

 

({中}は二枚押さえてるけど・・・・・・またさっきみたいに上がられちゃうかな?)

 

そして二巡後、胡桃の元にもう一枚それが舞い込む。

 

(おや?)

 

{七八九⑤⑥⑦⑧12(横中)35中中}

 

(三枚目だ)

 

{中}暗刻、聴牌だ。

ちらっと秀介に視線を向ける。

 

(これは・・・・・・上がり牌を抑えたってことでいいのかな?)

 

秀介の待ちが先程と同じ{中}単騎だとしたらこれで上がり目0だ。

{中}のみに支配が及ぶのなら、逆にその分支配力は高そうなものだが。

 

(・・・・・・思ったより強い能力じゃないのかな?

 それとも短期決戦用の能力で、もう息切れしちゃったとか?)

 

そんな事を思いながら{5}を切って聴牌にとる。

リーチはかけない。

次巡、胡桃がツモったのは{⑦}。

おしいおしいと思いながらそれをツモ切りした。

直後。

 

「ツモ」

 

秀介がツモ上がった。

 

(え? ちょ・・・・・・)

 

{中}は自分が三枚押さえている。

にもかかわらずツモ上がり?

まさか・・・・・・国士無双!?

 

(だったらなんでリーチかけたの!?)

 

思わず秀介の手牌に注目する。

 

 

{二二三四五234456白白} {(ツモ)}

 

 

「リーヅモ白」

 

(ええっ!?)

(はァ!?)

(!?!?)

 

胡桃に限らず、塞もエイスリンも声をあげるところだった。

{中}は!? {中}はどこに行ったの!?と言わんばかりに慌てふためく。

{中}を警戒していたのに、実際は{中}が無くても上がれる・・・・・・?

 

(まさか・・・・・・今までのは全部フェイクだったのか!?)

 

騙された!と悔しがる塞に秀介は言った。

 

「裏ドラ、めくって貰えますか?」

「・・・・・・はい」

 

塞は大人しく目の前の王牌から裏ドラを抜き出して表にする。

 

現れた牌を見て全員が表情を変えた。

 

(・・・・・・こ、ここかぁ!!)

 

{中}はそこにいた。

 

「裏3、6000オールの1本付け」

 

({中}・・・・・・そんな風にも使えるんだ)

 

胡桃もむぅと顔をしかめる。

この上がりで秀介の得点は6万を超えた。

一方最下位のエイスリンはギリギリ1万を超えている程度。

もう2局ほど同じ展開を繰り返せばもはや秀介の勝利で終わるだろう。

 

だが秀介は小さく息をついて、全く反対の事を考えていた。

 

(ここまで使()()()のは「23」。

 さすがに偏らせすぎたか。

 これから何があるか分からないし、これだけ挑発したのに彼女達()()は一切何の能力も見せてこない。

 腰が重いのか俺が気づいてないのか、あるいはそう言うモノを持っていない一般人だったか。

 この点差もあるし・・・・・・)

 

新しい山が現れると、秀介は賽をカラララと回す。

 

(店仕舞いさせて貰おうか)

 

 

(どうする・・・・・・?)

 

一方塞は思わず顔に手を当てていた。

 

(・・・・・・塞ぐか?)

 

秀介の店仕舞いを知らずに塞はちらっと秀介に視線を向け、しかしすぐに首を横に振った。

 

(これに頼ってばかりじゃダメだ。

 {中}絡みの能力だってことは分かってるんだし、「これ」無しで勝負して勝てるようにならないと)

 

せっかく熊倉が呼んでくれたゲスト、能力で「塞いで」追い返すというのも気が引ける。

まぁ、だからと言って。

 

(一方的にやられていい気はしないけどね!)

 

フンッ!と塞は秀介に続いて配牌を取り始める。

 

 

ここで「塞がなかった」という決断が、後に彼女をどういう事態に追い込むかを彼女は知らない。

もし知っていたらここで一先ず塞いでいた事だろう。

 

後にメンバー全員が揃った前で、意識を失いかけるほどのショックを受ける事になると知っていれば。

 

 

この局、秀介はあっさりと塞に振り込んだ。

いや、正確には差し込んだと言うべきか。

 

「ロン」

 

{一二三四①②(ドラ)4[5]6南南南} {(ロン)}

 

「リーチ南ドラ1赤1、裏1で8600」

「はい」

 

チャラッと点棒を渡して秀介はさっさと手牌を伏せる。

塞は晒した自分の手牌に視線を落としていた。

 

(・・・・・・裏ドラ表示牌は{三}。

 {四}で上がってたらもう一本追加で跳満だったのか・・・・・・)

 

そこまで見切って差し込んできたのか?と思いつつ、いやまさかとその考えを切り捨てた。

 

(ともかくこれで少し差は詰まった。

 出来るだけ直撃を狙いつつツモでも構わずに上がって行くようにしようか)

 

そして秀介はその差し込みを切っ掛けに、南場では完全に静観して彼女達の上がりを見守った。

手牌が分かる秀介が大物手に振り込むわけもないし、喰いずらしたりして上がり牌を他家に回したり安目をツモらせたりするのも出来る。

危なげなく局を消化していった。

そして。

 

 

 

南四局0本場 親・秀介 ドラ{三}

 

「ウゥッ・・・・・・ツ、ツモ、デス」

 

{一二(ドラ)④④⑤⑥⑦⑦⑧⑨[5]6} {(ツモ)}

 

「リーヅモピンフドラアカ、ウラ1。

 3000・6000デス」

 

試合はエイスリンの上がりで終わりとなった。

 

 

秀介    37200

塞     25400

エイスリン 24900

胡桃    12500

 

 

 

一番秀介に点数が近かった塞には手が入らない様子で降り打ち、胡桃も珍しく渋い表情で手は入っていないらしい。

それに対して秀介が早々に一副露で好調な様子。

そんな様子を見せられては逆転狙いで手作りなんて難しい。

元々3万点以上離れていたエイスリンと秀介の点差は倍満直撃でなければ逆転できなかったのだが、平和手になってしまったこの手はどんなに頑張ってもリーチ一発平和ドラ赤裏2で跳満止まり。

本来ならやりたくなかった上がりだが、最後に秀介に上がられて更に引き離されて終わるよりはマシと考え、泣く泣く上がりを取ったのだ。

 

「ありがとうございました」

「・・・・・・ありがとうございました」

「アリガトウゴザイマシタ」

「お疲れ様でした」

 

結局逆転には届かず、宮守メンバーは悔しげに挨拶をするしかできなかった。

特にエイスリンは自分の思い描いた展開を悉く崩され、半分涙目であった。

 

(・・・・・・ゼンゼン・・・・・・アガレナカッタ・・・・・・ふぐっ・・・・・・)

「エイちゃん・・・・・・」

 

見かねた胡桃がその肩をポンポンと叩いて慰める。

 

一方の秀介は後半(けん)に回ったことで収穫があった。

能力を使っていたらしい彼女に関してのみであるが。

 

(対面・・・・・・ウィッシュアートさんって言ったな)

 

たどたどしい日本語で話す愛らしい金髪の少女。

 

(・・・・・・あれは能力っていうのかな。

 どちらかといえば・・・・・・)

 

才能というかなんというか。

多分分類としては秀介寄りでは無く。

 

(・・・・・・城ヶ崎寄りだな)

 

彼女の配牌とツモを見て行くと毎局必ず、遅くても13巡目までに聴牌に至る。

それは手成りで打っているだけに見えるが、その打ち方とツモが毎回必ず噛み合い、必ず聴牌に至るのだ。

途中で鳴きが入るのを考慮したとしても。

東四局で2本場まで積んでそれ以降連荘は無かったので、この半荘で打ったのは10局。

その10局で毎回必ず同じ現象が起こっていればそれはもう偶然では片付けられない。

それが彼女の能力なのだろう。

 

もう少し早い巡目で高い手が入っていればかつての城ヶ崎に匹敵する。

だが彼女が城ヶ崎の血を引いている可能性はあるまい。

日本人である城ヶ崎の孫とかなら、もう少し日本語がスムーズに話せていいはずだ。

また他家が聴牌を目指して入れた鳴きに対してはツモが対応していたが、秀介が意図してずらした鳴きには対応できていない。

そんなところも、城ヶ崎らしくない。

まだ力が目覚めていない、というよりは完全に血筋では無いのだろう。

 

少しばかり残念に思いながら秀介は席を立った。

そこでふと、先程までソファーに座っていたはずのシロと呼ばれた少女が卓を見学するように立っている事に気付いた。

 

「・・・・・・シロ、珍しいね。

 人の卓を見学するなんて」

「ん・・・・・・ちょっと気になって」

 

塞の言葉にそう言ってじっと卓を見つめるシロ。

 

(・・・・・・彼女も何かあるな)

 

秀介はそんなシロにちらっと視線を向ける。

対局していないにもかかわらず何かを感じさせる打ち手。

となれば中々の強者だと予測できる。

 

それはそうと、と秀介は部室のドアに目を向けた。

 

(・・・・・・来てるな、誰か)

 

おそらくこちらも麻雀が強い誰か。

もうしばらくすればドアを開けて入ってくるだろう。

 

(・・・・・・ここまで明確に分かるのは珍しいな。

 よっぽどの強い打ち手か・・・・・・もしくは・・・・・・)

 

ガチャリ、とドアが開いたので思考を中断する。

さて、入ってくるのは誰か。

と言っても決まっている。

秀介を呼び出した熊倉という人物だろう。

 

「遅れてごめんなさいね」

「おはよー、みんな」

 

背の低い年配の女性と、その後ろから長身の女性が入ってくる。

 

「あ、トヨネおはよう」

「・・・・・・熊倉先生もおはようございます」

 

一早く胡桃が立ち上がって出迎える。

塞もエイスリンもそれに続いた。

そんな様子を見て熊倉と呼ばれた年配の女性は「あらあら」と表情を変える。

 

「皆、ちょっと元気無いかしら」

 

そう言いつつちらっと視線を秀介に向けた。

 

(・・・・・・彼にヘコまされたのかしら?)

 

だとしたら、それはそれで予定通りではあるのだけれど。

 

(程度によるわね)

 

そう思いつつニコッと笑いかけた。

 

「初めまして、あなたが志野崎秀介さんね」

 

それを聞いて一同がキョトンとする。

 

(・・・・・・ハジメマシテ?)

(知り合いじゃない・・・・・・?)

(え? じゃあ何で呼んだの?)

 

宮守女子メンバーが五人揃って秀介と熊倉を交互に見る。

 

(・・・・・・おや?)

 

一番に秀介の様子がおかしい事に気付いたのはシロだった。

今まで卓についていて余裕ありげに三人を弄んでいた表情とはまったく異なる、

驚愕に染まった表情。

 

その通り、秀介は今驚いていた、とてつもなく。

 

視線の先にいるのは今しがた入ってきた人物。

 

 

 

ずいぶんと昔の記憶、大分色あせたがはっきりと覚えている事もある。

 

その笑顔と、朗らかな空気と、

 

それに反した強力な麻雀の打ち方。

 

その姿と、今の目の前の人物が重なる。

 

 

(・・・・・・似てる・・・・・・!)

 

 

『ねぇ、お兄さん』

 

 

彼女の名前は何と言ったか。

 

 

『私と麻雀しましょう?』

 

 




秀介さんマジ策士。
まぁ、秀介の能力がズバ抜けて応用利き過ぎるのは認めますが。
ちなみに胡桃の「毎回ダマで聴牌気配を知らせない」という能力らしいものは、牌が見える秀介相手に何の効力も発揮しておらず、塞同様最後まで能力を見せなかったなぁ程度に思われてます、残念。

なお「大三元戦隊白發中!!!」はまず連載しません(

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