いつか救われたかった英雄譚   作:英雄好きの馬鹿

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いつか救われたかった英雄

 折木 竜童(おりき りゅうどう)は異能者である。

 

 ネメシスという常人には扱えない力があり、その代償としてアンチテーゼと呼ばれる副作用がある。

 

 そして折木 竜童は――ネメシスを憎んでいる。

 

 

 

 

 

「はっはっはっはっ」

 

 俺はいつも道理のコースを、いつも通りのペースで走っている。

 

 物心付いた時からボクサーを目指していた俺にとっては、ロードワークなんてのは日常の中に組み込まれて外せないものになっている。

 

 子供の頃から走り続けている道はもはや壁の壊れかたすら覚えてしまっているほどだ。

 

 しかし、いつも通りの道の中に少しだけ異物が混ざっているようで、チャラチャラとした三人組が銀髪の少年を殴っている。

 

 ボクサーを目指していて、それなりの強さを誇る俺は当然のように――逃げ出した。

 

 勘違いしないでほしいのだが、別に俺はあの少年を見捨てたいわけではないのだ。

 

 結果的には変わらない以上言い訳でしかないが。

 

 俺はそんな自分に嫌気がさし、歯軋りをする。

 

 俺がもしあの三人と戦おうものなら死んでしまうのだ。

 

 俺のアンチテーゼは非異能者との敵対時に死ぬというものだ。

 

 ネメシスを発現した七年前。

 

 俺はボクシングを止めざるを得ず、ひたすらにシャドーボクシングをして、ひたすらにロードワークを続けた。

 

 ――戦うこともできないのに。

 

 クソ。考えがマイナス方向に向かっている。

 

 俺は走るペースを更に早めてなにも考えないようにした。

 

 そもそもなぜ俺がネメシスに目覚めたかというと、七年前に起こった『木漏れ日現象』と呼ばれる不思議な光を浴びたことが原因だ。

 

 『木漏れ日現象』は殆どの人を眠りに着かせ、ごく希に眠りにつかなかった人にネメシスを与えた。

 

 そして『木漏れ日現象』が起きてから十年以内に『一握りの希望(リプレイ)』所持者を決まった日付の時に殺すと、ネメシスが強化され、『木漏れ日現象』発動の数時間前に戻れる。

 

 しかし十年経ってもこの『木漏れ日現象』を解決せず、『一握りの希望(リプレイ)』所持者も殺さないと、世界が滅ぶらしい。

 

 つまりこの世界は巻き戻るにしても滅ぶにしても続くにしても、あと三年待てば俺はボクサーに戻れる。

 

 あと三年で完全に体を仕上げなければいけない代わりに故障の可能性はぐんと減ったのだろう。

 

「三年か……三年たてば……」

 

 俺は休憩ポイントにしている公園にたどり着いて呟く。

 

 ベンチにドスンと腰を下ろし、スポーツドリンクを煽る。

 

 すると視界の端の方に金髪碧眼の美少女が座り込んでいるのが見えた。

 

 俺は大きく息を吐いて呼吸を整えると金髪の少女に近づいた。

 

「おい、大丈夫か?」

 

「っ!?」

 

「そうびびるなよ。ほら、迷子か?」

 

 声をかけただけで身を竦めさせる少女にてを差し伸べる。

 

「お前はボクを知らないのか?」

 

「ああ? しらない。そんなに有名なのか?」

 

 そういうと少女は肩をおろして視線を和らげた。

 

「ほら、いい加減立てよ。俺が襲ってるみたいじゃねぇか」

 

「う、うん」

 

 少女は俺の手を取って立ち上がった。

 

「お前、名前は何て言うんだ?」

 

「ボクの名前はアルル。名字は記憶がないからわからないんだ」

 

「はぁ? 親はどうした」

 

 名字がないのか? いろいろおかしいことはあってもここは日本だぞ。

 

 それにたいしてアルルは平然とした表情で、答えてくれる。

 

「最近まで面倒を見てくれていた人がいたけど死んじゃった。でも、血が繋がってないって言ってた」

 

「そりゃわりぃな。変なこと聞いちまって」

 

「別に大丈夫だ!」 

 

 そう元気よく答えると、アルルのお腹がなったのがわかった。

 

「……お前、腹減ってるのか?」

 

「何日もご飯食べれなかったからな!」

 

 今までは面倒を見てくれていた人が飯でも作ってやってたんだろうが、その人がいなくなってからは飯もなしか。

 

「お前俺の家に来るか? 飯くらい食わせてやるよ」

 

「本当か! ありがとう!」

 

 アルルは満面の笑みを浮かべて抱きついてくる。

 

「いきなり抱きつくな! まったく」

 

「すまない、体が勝手に」

 

 俺がアルルを引き剥がすとしゅんとして、肩を落とした。

 

「……まったく、ほら行くぞ」

 

「うん!」

 

 俺はこの後二年間に渡ってアルルの面倒を見続けることになった。

 

 更にアルルは『一握りの希望(リプレイ)』所持者であり、俺と過ごした二年の間にアルルを殺して時を巻き戻そうとする奴と戦うことになった。

 

 その事に後悔はしていない。

 

 後悔はしていないが、アルルを守りきることは出来なくなったのが残念だった。

 

 やはり俺の日常を壊すのはいつだって、ネメシスだ。

 

 俺からボクサーの夢を取り上げ、今度はアルルまでも取り上げたのだ。

 

 なぜアルルまで失うことになったか。

 

 アルルを殺して巻き戻りたい能力者が、『忘却の唄(イレイザーヘッド)』と呼ばれる異能者以外の記憶を消す能力者を殺し、アルルの存在を世界に公表したのだ。

 

 それにより、木漏れ日現象で知人や家族を眠りに落とされた人たちなどの、一般人や、世界各国の軍まで動き始めた。

 

 そして俺の能力は異能者以外の人間を相手にした瞬間死ぬのだ。

 

 今までは襲ってきた奴等は全員能力者だった。

 

 そして俺は能力者相手には無敵だったからアルルを守ることができたのだ。

 

 世界崩壊まであと半年の時点まではアルルに気づかれずに守続けられた。

 

 だが、ちょうど半月前にアルルに知られてしまい、アルルが俺を気遣って逃げ出した。

 

 俺の戦う意味は無くなり、俺のいきる意味も無くなり、俺の好きな人も消えたのだ。

 

 せいぜい今できることはアルルに拾ってもらった命を無駄遣いせずに生きることだけだろう。

 

 それだけが俺の人生だった。

 

 

 

 

 

 

 アルルが俺から離れていき、早くも5ヶ月。

 

 次の特異点で最後。

 

 今世界が救われていない以上アルルは誰かによって殺されるのだろう。

 

 ――いや、分かっているとも。

 

 アルルは世界が滅ぶ位なら自ら命を差し出す。

 

 そして巻き戻った世界で今度こそは世界が救えるように自分を殺す誰かに願いを託すのだろう。

 

 世界にとっての、本当の一握りの希望となって。

 

 いや、こんな世界は巻き戻って正解だ。

 

 世界崩壊まで半年を切った段階で、全世界がアルルを狙い、全人類が木漏れ日現象を無くそうとした。

 

 ライフラインは既にぐちゃぐちゃで復興の目なんてなく、誰もが諦めを目に宿して生きている。

 

 今も爆発音が断続的に鳴り響き、怒号が飛び交う。

 

 そして力なき人々は隅の方で膝を抱えているだけなのだ。

 

 この世界は終わる。

 

 どんな結末も未来には繋がらない。

 

 人類の敗北だろう。

 

 そんな時に、二人組の少年、少女達が隠れるようにビルから出てくる。

 

 一人は染めていたのであろう銀髪と黒い色が見えてしまっている青年。

 

 もう一人は忘れるはずもない。

 

 アルルだ。

 

 二人が出てきたビルからは未だに戦闘音が鳴り響いている。

 

 俺は気づいたら走り出していた。

 

 そして、ビルの中に入り、足止めをしている三人の少年少女達のそばに行った。

 

 そして一番話がしやすそうな少女に話しかける。

 

「一つ聞かせてくれ」

 

「何よあんた! こっちは忙しいのよっ!」

 

 少女は唐突に二人に増えて鎧を着こんだ方が俺の首に剣を突きつける。

 

「そのままでいいから聞いてくれ。――お前らはアルルの味方か?」

 

「それ普通の人に言ったら殺されるわよ」

 

 少女は面倒くさそうに言った。

 

 やはりアルルの味方のようだ。

 

 つまり俺が助けるべき相手だ。

 

「となるとお前らも普通の人じゃなさそうだな。なら加勢しよう。相手に無能力者はいるか?」

 

「いたら私たちに喧嘩売らないでしょう」

 

「それもそうだな。じゃあ全員片付ける仲間の避難は頼んだ」 

 

「はぁ? 何いってんの!」

 

 驚く少女達を背に、俺はまっすぐに敵に向かう。

 

 少女は二人の仲間に向かって声をかけて下がらせた。

 

 それを確認してから俺は能力を発動する。

 

 能力発動の瞬間にも何十もの攻撃が飛んできたが関係ない。

 

「――唯人の世に『英雄(シグルズ)』」 

 

 俺の手には巨大な剣が現れ、それ以外の能力は全て消えた。

 

 そして三七の敵に剣を振るい能力を二度と使えないようにした。

 

 そう。

 

 俺の能力は異能の無効、又は封印だ。

 

 俺の剣は異能にしか効かないが全ての異能を消すことができる。

 

 俺はこの場の敵全てを切り裂き無力化したのだ。

 

 そして、少女達と合流した。

 

 しかし三人とも既に満身創痍で、少女以外の二人は重症だった。

 

 医療機関もない今、助かる見込みは……ない。

 

「おい。お前はリュードーか?」

 

 今にも死にそうな男が話しかけてくる。

 

 目の下にはくまが出来ており不健康そうだ。

 

「ああ。そうだ俺は折木 竜童だ」

 

「俺達は無能力者をできるだけ道ずれにしてやる。アルルは頼んだ」

 

「わ、わ、わ私からもお願いします! 私ももう助かりませんから」

 

 死にそうな男ともう一人、左腕を無くした少女が言った。

 

「了解だ。だが、世界が滅ぶ時には守ることは出来ないぞ?」

 

「それまで守ってくれ。あの子もそれを望んでる」

 

「分かった」

 

 そして俺はもう一人の少年とアルルの向かった場所に行く。

 

 そこでは既に少年は死んでいて、アルルは呆然とへたりこみ、五十人はかたい死体が転がっている。

 

 この少年がやったのか?

 

「アルル」

 

「リュー……ドーか」

 

 アルルはすがるように俺を見たあと、逃げ出そうとして転んだ。

 

「駄目だっ! ボクといたらみんな死んじゃうんだっ!」

 

「大丈夫だ俺は死なない」

 

「アスナもコーイチもカオルもウノもキョージもみんな死んじゃったんだよぉ!」

 

 アルルは泣きじゃくりながら俺から離れる。

 

 俺は何も言わずにアルルを抱き締める。

 

 二度と離さないように。

 

「お前はこの世界はまだ生きて行けると思うか?」

 

「……ボクを殺してほしい」

 

 アルルは全てを理解した上でそう答えた。

 

 俺は世界を救うことに決めた。

 

 俺だけに可能性があるの方法で。

 

 そして特異点になった。

 

 世界中の人々が死にたくないと叫んでいる。

 

 俺はアルルと二人で山に引きこもり、生きてきた。

 

 残された時間を笑いながら、泣きながら、喜びながら。

 

 そして特異点が来てアルルを殺した。

 

 最後まで笑っていたアルルの顔を俺は忘れることはない。

 

 世界を巻き戻すため。

 

 木漏れ日現象を無くすため。

 

 ――アルルが笑える世界にするため。

 

 俺はその結末を見る資格はない。

 

 それでも。

 

 それでも俺はアルルのためにアルルを殺した。

 

 誰に許されなくてもいい。

 

 だから俺は俺の仕事をしよう。

 

 巻き戻った世界で俺は唯一ネメシスを持っている。

 

 そして俺は木漏れ日現象を強化された『英雄(シグルズ)』で破壊する。

 

 俺は唯異能を発動し、力を溜める。

 

 命ごと絞り出すように。

 

 アルルの笑顔を思いながらひたすらに『英雄(シグルズ)』に力を注ぐ。

 

 ――世界に光が注ぐのを見た。

 

 俺は全ての力を込めて剣を振るった。

 

「――巨悪を屠れ『異常殺しの聖剣(グラム)』」

 

 俺の剣から溢れた光は世界に満ちて、この星を覆う。

 

 だけどきっとこの光を見ることが出来るのは俺だけなのだろう。

 

 これは全ての異常を無くす剣。

 

 アルルから授かったものの一つ。

 

 木漏れ日現象を透明な光が防ぎ、拮抗し、押し返す。

 

 そして最後に――破壊した。

 

 世界は滅ばず、光は降らず、ネメシスはない。

 

 いつも通りの平凡な世界になったのだ。

 

「これで終わりか……」

 

 最後にわがままを一つだけしよう。

 

 それが世界を救った褒美としてもらおう。

 

 俺は一目だけ、たった一目だけ記憶があった頃のアルルを見たい。

 

 その願いだけでアルルの捜索をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アルルと言う少女は存在していなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アルルと共通点がある少女を片っ端から当たっても存在しなかったのだ。

 

 そう。

 

 つまりアルルは木漏れ日現象が産み出したトリガーとしての人間と言うだけで、木漏れ日現象のない世界に存在などしていない。

 

 だとするのならば。

 

 俺は。

 

 俺は。

 

 俺は俺は俺は!

 

「俺はなんのためにアルルを殺したんだぁぁぁぁぁぁぉぁぁぁっっ!!」

 

 未来で殺し、過去で生まれることすら無くさせた。

 

 完全に存在を殺したのだ。

 

 俺は、ふらつきながらいつかアルルと暮らした山に行き、そこで首を吊って死んだ。

 

 もしも死後の世界があるのならこの魂がどうなってもいい。

 

 俺は神を絶対に赦さない。

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