TALES OF CANVAS テイルズオブキャンバス 作:のばら
プロローグ
人が何人連なろうとも囲みきれない程の幹を持つ大木の森。森閑としたその森は木の葉の間から光が差し込み神聖な光景を保っている。
その中を二つの影が飛び交っていた。影が素早く重なる度に森には甲高い音が響き渡った。影は美しい剣を持った男と身の丈程の杖を持った女であった。
男は無表情で女に切り掛かっていき、女は悲痛の表情を浮かべ杖でただ防いでいった。しかし女は素早い剣戟を防ぎきれず、傷は増えていくばかりであった。
「なぜ!なぜあのようなことを!」
女は男に叫んだ。その声には悲しみと困惑が含まれていた。しかし、男はその声を聞いてもなお、表情を変えなかった。
「そうする必要があったからだ」
必要なこと、そう聞いた女の脳裏には静まり返った村と、血の海の中で二度と目覚めない眠りに就く住人達の姿が浮かんだ。そこは男と女の生まれ育った故郷であった。
混乱する中、不意に女の瞳に緑の光が反射した。左袖の下に隠されるようにはめられたバングル。そこに収まっている緑に淡く光る鉱石を見た瞬間、女は雷に打たれたかのように顔色を変えた。
「それはまさか……!」
息を呑んだ女は何かを言おうとし、しかし木の根に茂る苔に足を取られよろめいた。男はその隙を見逃さず剣を振るい、女は強烈な剣戟に耐えられず吹き飛ばされた。
女は大木の一つにぶつかった。打ち所が悪かったのか体に激痛が走り、鉛の様に重くなった。満足に動けなくなった女を見た男はそのまま背を向け、森の中でもひときわ大きい大木へと向かった。
女は男を追わなければならなかった。体に力が入らず、僅かに動かす度に激痛が走った。立つことさえも困難な状態であった。しかし女は諦めなかった。歯を食いしばり、杖を支えに震えながらも立ち上がった。女はただただ男を追うことだけを考えた。そしてゆっくりとだが確かに男の後を追っていった。男がどこに向かったかはもう分かっていた。
男は一つの大木に辿り着いた。周りの木々と違い祀られている大木は特別な存在として扱われてきた。己の血脈のおかげか、男にはその大木に大きな力が宿っていることが感じ取れた。
男は意識を集中させある祝歌を囁いていった。男の足下に何重もの魔法陣が浮かび上がり、祝歌が終わりに向かうにつれ眩い光を強めていった。
女が男に追い付いた時、男の祝歌は終わった。
その瞬間ひときわ強い光が女諸共辺りを包み、そしてーーーーそして、光が消えた時、そこには誰もいなかった。