元野球選手が鎮守府に着任しました。   作:ポンセ

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赤城さんのイベントです。


赤い月(1)

ッシュ! パンッ!

 

ブルペンでは1組のバッテリーが投球練習を行っていた。

常にクイック気味のスリークウォーター。ストレートにはノビがあり、スライダー・フォークともに打者を仕留めるに十分なキレを備えている。

顔つきは穏やかながら、その凛々しい雰囲気は歴戦をほうふつとさせるような圧を備えている。彼女の名は

 

「一航戦 赤城」

 

パンッ!「ナイスボール」

 

受けるキャッチャーは赤城の女房役。

背中まで伸びる長い髪は美しい藍色。大きな瞳はその形からどこかはかない印象を受ける。しかし、それとは反対に瞳の色は鮮血を思わせるような赤。肌は陶器のように白く滑らかであり、その白さがより一層赤い瞳を際立たせている。

女性らしい体つきから伸びる足は艶やかな質感と強靭な筋力を備えているのがうっすらと見て取れる。彼女の名は

 

「扶桑型 一番艦 扶桑」

 

「赤城さん。そろそろお昼ですので休憩にしましょう。」

立ち上がり赤城に近づきながら提案する扶桑。この時扶桑は違和感を抱いていた。

その違和感とは女房役として一緒に練習することが多い彼女だからこそわかる普段との差異・・・ではなく赤城のことを知っている鎮守府のものならばほとんどが違和感を抱く大きなものである。

 

(赤城さんが昼食のことを忘れていた・・・?)

昼食は基本昼の12時からとこの鎮守府では決まっている。現在の時刻は12時10分。扶桑自身は「そういえば12時だ」という形で気が付いた。

(いつもなら12時ちょうどに「扶桑さん、昼食の時間です!休憩しましょう!」と言うのに・・・)

時計がないブレペンの中で、これまで正確な時間に昼食が取れていたのはほかでもない赤城のもつ腹時計のおかげだった。しかしここ最近はその腹時計も鳴らずの日々が続いている。今日も扶桑が提案しなかったら大きく時間を過ぎても投球練習を続けていただろう。

(赤城さんが昼食を忘れる・・・。なにか悩みが、それもとても大きな悩みを抱えているのかも・・・)

女房役とはただピッチャーのリードをするのではなく、時にはピッチャーの悩みを危機解決するのも仕事の一つだ。ならば私も実践しなくてはならない。

いつもは提督に「空はこんなに青いのに私の心は曇っている」と秘書官になるたびに相談していた扶桑だが官界は相談される側だ。

・・・すこし心細い。自分に人様の悩みを解決に導くだけの器量があるのだろうか。こんな時提督がいてくれたら・・・。

悩みがあるのかと聞き、仮にあったとしたらその悩みを聞かなくてはならない。自信がない分聞くか聞くまいかで迷いが生じてしまう。踏みとどまっていた彼女だったが目の前に広がった異常な光景を見た瞬間、そんな迷いは吹き飛んだ。

 

(お・・・おにぎりが小さい・・!?)

普段の赤城ならソフトボールくらいの大きさである。

(数が少ない・・・)

今日は3つ。いつもは9つくらい平気で平らげる。

「・・・はぁ・・。」

(食事時にため息・・・!?)

いつも食事時の笑顔は欠かさない。

「・・・」

(食の進みが悪い・・・)

いつもは飲み込むかのようなスピードで平らげている。

「・・・ごちそうさまでした。」

(の・・・残した!!??)

扶桑は目の前が真っ暗になるのを感じた。

(危ない・・・あまりの光景に貧血になりかけてしまった。)

暗転していく中思い出したのは昔の戦場の記憶。作戦海域最深部にいた人型深海棲艦。削ったはずの敵勢力が時間とともに回復する現象。レ級・・・

今起こっている現象はこれらの出来事と何らそん色ないくらいの衝撃だった。

おそらく事態は刻一刻を争うものだ。もはや不安などといっている場合ではない。心なしか赤城も少しやつれているように見えなくもないかもしれない。

 

「あ、赤城さん!」

「!?」

普段、物静かな彼女からは考えられないくらいの勢いで名前を呼ばれ少し驚いてしまった。

「な、なんでしょうか。」

扶桑は赤城の手を取りながら詰め寄る。

「何か悩んでいるのなら私に相談してください!!いつでもお相手しますから!!」

「扶桑さん・・・」

野球を始めた時からバッテリーを組んできたのだ。自分のわずかな違和感に気付いてここまで気を使ってくれているのだろう。自分を心配してくれる扶桑を見てうれしく思いながら、しかし確かに赤城には悩みがあった。

(扶桑さんに話してみよう・・・)

目の前で心配そうにこちらを見ている扶桑に悩みを打ち明けることにした。

 

 

「ウイニングショットがほしい・・・ですか。」

「はい・・」

すこし考え込む表情で赤城は続ける。

「この前カ・リーグ開幕宣言がありました。試合ができるのはうれしいですがやはりやるからには勝ちに行きたいのも事実です。しかしこの鎮守府のピッチャーは皆優秀な子たちばかりです。また蒼龍のオリジナル変化球をはじめ、なにかしら独自の変化球を持っています。唯一持っていなかった瑞鶴ちゃんもウイニングショットが完成間近と聞きました。私だけ何もなくてはたしてこれから渡り合っていけるのでしょうか・・・。」

赤城のボールはストレート・スライダー・フォークのどれもが一級品の質を誇っている。これだけでも十分なのだが・・・

(確かに・・決め手に欠ける気がしますね・・)

「困ったときの○○」これでピンチを凌げるピッチャーは打ち崩すのが難しいと提督は言っていた。要はある程度投げるのを予測されてもなお打たれない球だ。

「この前提督に本気で一打席勝負を挑みましたよね。」

「はい。あのときはどこに構えても打ち取れる気がしませんでした。」

ポンポンと追い込んだため打ち取れると思ったバッテリーだったが、プロの世界でしかも一線級の場所で一流を相手にしのぎを削ったバッターはそう簡単には打ち取れなかった。

ストライクからボールへ空振りを誘う変化球は簡単に見逃され、同じコースへのストレートはカット。フルカウントまでカウントを作られ粘られた挙句、甘く浮いたスライダーをセンター前へ弾き返されてしまった。

「私の今持っている球種だけでは粘り強いバッターをアウトにするのは難しいように思えます。」

「だから何か決め手がほしいと・・・」

「ええ」

確かに赤城の言っていることは正しい。しかしウイニングショットなんて簡単には手に入らない。そもそも何をベースにどんな工夫をするのか全く見当がつかない・・・。

「あ・・あった。」

「?」

突然思い出したかのように扶桑がつぶやく。

「あります!赤城さん!」

 

昔、野球を始めたばかりのころ。

 

「資料室で読んだことがあるんです!」

 

不可解な変化をする変化球に関する文献を。

 

「確か名前がありました!」

 

その変化はまるで月をなぞるかのような曲線を描き。

 

「えっと・・・確か・・。」

 

しかし、球速は落ちず変化するスピードボール。

 

「そうだ!名前は・・・」

 

その変化球の名は。

 

「クレッセント・ムーン!」

「クレッセント・ムーン?」

「はい。私が読んだ資料通りならクレッセント・ムーンは相当な威力の変化球です!これがあれば他のバッテリーとも、巧打者たちとも互角に渡り合えます!」

「・・・ほしいですね。今の私にはその変化球が必要です!」

「でしたら今からでも資料を探しに行きましょう!実戦用に仕上げるためには今から行動しないと間に合わないかもしれません。」

初試合の予定日まであと3週間。通常ならばあまりに時間が足らない。間に合わせるために投げ込んだとしても肩が壊れるかもしれない。しかし、彼女らは艦娘だ。たとえ靭帯が断裂しようとTJ手術が必要なくらいの大けがを負っても入渠で最大2時間。高速修復剤を使用すれば一瞬で完治する。この条件ならば3週間は比較的長い期間だろう。

「行きましょう赤城さん!私も力の限り協力します。」

力強い扶桑の言葉。あなたならできると彼女の瞳は赤城に訴えかけている。

「ありがとう扶桑。あなたに相談して本当に良かった。」

悩まずに初めから相談しておけばよかった。

「必ずクレッセント・ムーンを習得して私たちの初試合で勝利を刻みましょう!」

親しい相棒とともに必ず試合に勝つ。先ほどの赤城とは違う。迷いは捨て目標もできた。彼女の瞳は今静かに闘志を燃やしている。

「一航戦の誇りにかけて・・・必ず!!」

必ず勝とう・・赤城は自分に言い聞かせるようにつぶやいた。

 

 




3000字到達。
やはりこれだけ文字数があると疲れますね。
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