急にお腹が減ってきたため間宮で小一時間休憩をとった後、赤城と扶桑は資料室を訪れていた。
「その資料のタイトルはなんだったんですか?」
「確か・・何とかの書だった気がするんですけど・・・」
「扶桑、そういう時は「あ」から「ん」まで順番に頭文字に当てはめてみるのです。少しでも記憶に残っているのならきっと思い出せるはずです。」
「わかりました。やってみましょう。」
そういうと扶桑はあ・い・う・え・お・・・と50音をつぶやき始めた。
・・・扶桑は誰もが認める正統派な美人だ。日の光の下で見ればはかなげなイメージも相まってまさに和服美人。駆逐艦の間にもファンが多いのもうなずける。しかし・・・
「か・・き・・く・・け・・こ・・」
暗いところでひたすらつぶやく彼女を見ているとなにやら見えてはいけないものを見てしまった気分になる。
(心なしか少し背筋が冷えてきました。おかげでお腹もすいてしまいました。)
すっかり赤城は絶好調のようだ。
「そ・・た・・ち・・・たち?」
そんなことを考えていたら扶桑のつぶやきが不意に止まった。
「扶桑?」
「たち・・・○○の書・・・こんな感じだった気が・・・」
「扶桑!頑張って!」
どうやら思い出しそうらしい
「たち・・たちば・・・ああ!そうだ、「タチバナの書」。そうですこれです。」
「タチバナの書ですね。わかりました!」
資料名を聞いた赤城はタ行の棚に向かう。
「・・・・あった。これですか?」
棚の中でも最上段の隅のほう、梯子がなければタイトルすら見えない場所にその資料はあった。水色のファイル、題名には「タチバナの書」と書かれている。
「はい、私が見た資料は確かにこれでした。早速読んでみましょう、赤城。」
扶桑に促され赤城はファイルを開く。幸いここは資料室の中でもかなり奥に位置している。騒いだりしなければまず誰かと出会うということはないだろう。
「クレッセント・ムーン。ベースの変化球は右ならシンカー、左ならスクリューを使用。球速を大幅に落とすことなく投げることが可能、変化の軌道は三日月の弧をなぞるようなもの・・・ですか。」
「何回みても不思議な変化をする球種です。」
「握り方は・・私は右だからシンカーの握りに・・・・こういうひねりを加えて・・」
赤城は早速資料通りに真似てみる。しかし、流石にボールがなければ具体的な実践はできない。
「赤城。貸し出し可能な資料のようですので借りてブルペンで試してみましょう。」
「そうですね。手続きをしてきますので扶桑は先に入口で待っていてください。私もすぐに向かいます。」
そういうと赤城は貸し出しブースへと向かった。その背中には先ほどの元気のない赤城の姿はもうない。
「よかった。元気を出してくれて。」
そんな赤城の背中を見ながら扶桑は思わず微笑んでいた。
呟きながら入口へ向かう扶桑。しかし安心するにはまだ早い。資料が見つかったからと言って確実に習得できるとは限らない。本当の試練はこれからなのだ。
改めて気を引き締めなおした扶桑だった。
土日の2日間で4000字は越えたのでとりあえず目標は達成・・。
赤城、扶桑の能力に関してはこのお話の最後のあとがきで紹介するつもりです。