「もらってきたわ!」
勢いよくあけられた扉から暁と響が帰ってきた。
注文の品を配り終え、野球観戦の準備を整えると
「早速試合の続きを見ましょう!」と暁が待ちきれないように声を上げる。
しかし、それはほかの三人にもいえることであったようで
「「「おー!」」」という掛け声とともに4人でテーブルを囲み野球観戦を再開した。
□ □ □ 観戦中 □ □ □
カントクハイイマシタ・・・ ナンノタメノゼンシンシュビダー!コレハイケマセーン! ユーケシューウヘー シュウヘイ・・
終わってみればスコアは7-8
「司令官のチームが勝ったわ!」
およそレディにはふさわしくない音量で暁が声を上げる。
まあ確かに真正面からの乱打戦だった。楽しい試合だったし興奮する試合でもあった。
暁のテンションが爆上がりするのも無理ないね。
私も実際テンションは上がってる。もちろんポーカーフェイスは作ってるけど、レディだからね。
・・おっと失礼。私としたことが、名乗るのを忘れていたよ。
ハラショー。ベールヌイだ。みんなからは響と呼ばれているよ。
心配しなくてもいい。別に嫌がらせとかじゃないよ。響のほうが呼ばれなれてるからね。
私がそう呼んでほしいとお願いしただけさ。
自己紹介は軽めにしておこう。あまり長く自分を語るのはレディとして好ましくないからね。
さて、今私たちは部屋で野球観戦を見終えたところだ。テレビでは解説による戦評とヒーローインタビューが流れてる。
さっきも言ったけど非常に見ごたえのあるタフな乱打戦だった。
負けたチームの監督が言っていたんだ。間違いないね、トゥモアナ。
おかげで暁はさっきからテンションが上がりっぱなし。
雷と電もいつもより口数が多い。
辟易してるみたいな口ぶりだって?そんなことはない、私としてはすごく嬉しい。
なにせ世界にたった四人の姉妹だ。楽しんでいるのをみると思わず頬も緩むよ。
「しっかし司令官はテンション低いわねー。インタビューくらいもっとこう・・はっちゃけてもいいと思うんだけど。」
雷がテレビを観ながら、そして若干呆れながらつぶやいた。
今まさにヒーローインタビューの真っ最中。映っている今日のヒーローは我らが司令官さ。
確かにテンションが低いね。あれだけの観衆を前に緊張しているのかといえばそうでもない。
ただテンションが低いんだ。私的にももう少しこう・・・何というか・・ファンサービスというのか、心がけたほうがいいと思うよ。
・・・そうだね。ここで軽く、我らが司令官について話しておこう。
司令官の名前は「福端 由之助」 男性 今年で33歳だ。
身長は185センチ前後。体重は多分身長マイナス100くらいじゃないかな。
顔は・・・インタビュー中も黄色い声援がひっきりなしに飛び交うくらいには良いよ。
大人気選手というのもうなずける。
性格は・・まあどうしても私個人の感想が入ってしまうけど、誠実で優しいんじゃないかな。
口数は少ない。でも伝えるのはうまいからすれ違いとかはないよ、多分ね。
大きすぎないけどがっしりとした体つき。初めて会った時からなにかプロスポーツをやっていたとは思っていたけどね。
野球選手か、納得。
普段から私たち姉妹もよくかまってもらっている。司令官は困り顔が多いけどね。
あまり子どもと関わる機会がなかったんだろう。
やたら世話を焼きたがる雷、やたらそばに待機している電、やたらめったらに動いて仕事を増やす暁。
そしてやたら背中に組みついてくる私。
・・・・まあ誰でも手を焼くか。
まあしょうがない。司令官の背中から見る景色は見晴らしがいいんだ。ハラショーさ。
ん?他の人に頼めばいいって?長門さんとか?
嫌だよ。長門さん。嫌いじゃないし好きではあるけど。
あの人からはなにか邪な欲望を感じるんだ。自意識過剰じゃないよ。駆逐艦の間じゃもっぱらの噂さ。
接触すると露骨に口元がニヤつくってね。
勘違いしないでくれ。みんな長門さんのことは尊敬してるし好きだ。
ただそういうのとは別問題ってだけ。
話が逸れたね。
手を焼く子供にも彼なりにしっかりと対応をする。いい人だよ。
そんな彼だから鎮守府内の人気も高い。
食堂では彼の周辺席が即座に埋まる。速いよ。かなり速い。
低速艦も残像が残るくらい速いよ。
司令官はあまり自分のことを話さないからね。
みんな彼とお話がしてみたいのさ。
っと。司令官については軽くこんなところにしておこうかな。
そこそこ長かった?フフン、本気を出したらもっと長いよ。出会ったとこから話してしまうからね。
それにしても司令官のインタビューは・・・いい方向に解釈しても真面目過ぎる。
正直あまり面白くないね。
「もう少し・・なんだろ。強気に発言してもいいんじゃないかしら。勝ったんだし。」
「あまり相手を煽るような司令官さんはあまり見たくないのです。でももう少し笑顔は見せてほしいのです。」
「そうだね。ちょっと無表情すぎるよ。これはよくない、ノットスパシィーバだ。」
「ノットスパシィーバ・・・英語混じって・・。まあいいや、ポーカーフェイスはジェントルメンには必要だけど。」
「確かにもう少し笑顔が見たいわ。」
つまらないと感じたのは私だけじゃなかったみたいだ。
いくら司令官のインタビューでもこう単調だと盛り上がりにも欠ける。
部屋のボルテージもすっかりと冷めてしまった。
「ちょっとお手洗いにお花摘みに行ってくるわ。」
心配はいらないよ。いつものことさ。
暁の十八番、とんちんかんだよ。
「何しに行くんだい、暁。」
「お手洗いに行く。か、お花摘みに行ってきます。合体させたら意味変わっちゃうわよ。」
「それじゃあ花を摘みにお手洗いに行くことになっちゃうのです。」
流石は姉妹。流れるようなツッコミだ。
誇りに思うよ、ほんと。
「うっうるさい!お花!お花摘みに行ってくるわ!!」
顔を真っ赤にして暁が出て行ってしまった。
レディの道は険しいね。
「ハラショー。私も行ってくるよ。」
「お花を摘みに?」
「私はお手洗いのほうが使いやすいかな。」
「いってらっしゃいなのです。」
「お化粧直しに行ってきます。」もいいかもね。
要は聞き苦しくなければいいのさ。
□ □ □
さて、トイレの前まで来たよ。
きちんと掃除をされていてとても清潔なトイレさ。
・・・誰かの話し声が聞こえるね。
私としては、トイレの中で長い時間を潰すのはあまりよろしいとは思わない。
あくまで「私としては」だよ。
きっと誰かが鏡の前で話してるんだろうなと思って中に入ったけど・・だれもいないね。
個室も前にも人はいない。けど話し声は聞こえる。ということは個室の中からだろうね。
携帯で話してるのかな。とも思ったけど声の主が分かった。携帯ではないね。
だって暁は携帯電話もってないし。
暁以外に人はいない。気配もないし声もしない。
ということは独り言。
うーん。これはよくない。レディポイントを著しく損なう。ノットスパシィーバだ。
レディならもっと周りに気を巡らせないと。
えーっと。なんだったかな。
気を付けましょうってことを表す便利なことわざ。
遠征で一緒になった別鎮守府のビスマルクに教えてもらったのに。えーっと・・。そうだ。
□ □ □
「いいかしらヴェールヌイ。」
「響でいいよ。」
「そう。だったら響。」
「なんだい。」
「一人前のレディは常に周りに気を巡らせる必要があるわ。」
高い鼻をさらに高くしながらビスマルクさんが語る。
見た目は凄い大人っぽいよ。ナイスレイディだね。
「例え一人の空間であろうとボロを出してはいけないわ。」
「常にこう心がけるの。」
「壁にミザリー障子にメアリー、とね。」(パチッとウィンク☆)
壁にはミザリーが障子にはメアリーが、使ってるニュアンス的にはこっちを凝視でもしているのかな。
ミザリーとメアリーの戦闘能力次第では非常に危険な状況だね。
流石は戦艦ビスマルク。「でかい暁」と揶揄されるだけのことはあるよ。とってもプリティーさ。
ちなみに正解は「壁に耳あり障子に目あり」。使い方としてはどこでだれが聞いているかわからないから無暗に秘め事は話さないように。
こんな感じだよ。
プリンツといいビスマルクさんといいドイツ艦は見た目に全振りなのかな。
フフ。嘘だよ。イッツロシアンジョークさ。
□ □ □
暁は今まさに壁に障子に大変な状況なんだ。(適当でごめんね。)
・・・しかし1人で何を言ってるんだろうね。
いや、ほんとはすぐにでも声をかけてやるのが正しいんだろう。
だけど・・そう、例えば暁が声をかけられる心構えができていなかったら?
きっとびっくりしてひっくり返ってしまうよ。トイレでそれはマズイ。マズイよ。
・・・細かいことはいいや。他人の独り言は面白い。聞いてみたいな。聞いてみたいよ。
耳を澄まして・・・聞いてみよう。
□ □ □
暁(低い声)「今日のヒーローインタビューは3打席連続ホームランを放った暁選手です。ナイスバッティングでしたね!」
暁「そうですね。でも一人前のレディーならできて当然の結果だしほめるほどのことではないわ!」
暁(低い声)「3打席目のホームランは試合を決定づける一打でした。あのときはどんな思いで打席に入ったのでしょうか?」
暁「どんな球が来ても打とうと思ってたし打てる自信もあったわ!」
暁(低い声)「これでホームラン数はリーグトップへ躍り出ました!なにか特別な思いはありますか?」
暁「特にないわ!一人前のレディーならタイトルの一つや二つ取れて当たり前だもの!」
???「このホームラン。誰か伝えたい相手はいるのかい?」
暁「そうね・・・大事な妹たちに伝えたいわ!きっと喜んでくれるはずだもの!」
???「ハラショー。私はもちろん雷や電もきっと喜ぶよ。」
暁「もちろん!だって私たちはとっても仲がいいんだ・・から・・・。」
暁「え・・?」
大事な妹たち・・・か。うれしいね。目に来るよ。グッドスパシィーバ。グッドスパシィーバだよ。
あと4回グッドスパシィーバが出たら「銀の響ちゃん缶バッチ」をあげよう。頑張ってくれ、暁。
暁「あ・・あの・・。」
扉越しにもわかるテンションの急落具合と焦り、焦燥。
暁は顔を真っ赤にしていることだろう。なんだか興奮するね。
レディからの問いかけだ。答えてあげるのもまたレディさ。
「スパシーバ。とてもナイスなヒーローインタビューだったよ。」
「しかも大事な妹たちって・・・。フフ、なんだか照れるね。ありがとう暁。」
感謝はしっかりと伝える。言葉にしなくても伝わるなんて中々ないよ。
伝えたいことははっきりと言葉にしなくちゃ。これもレディのたしなみさ。
「・・・き、聞かなかったことに・・・してくれないかしら・・・」
「大事な妹たちをかい?私は嬉しかったんだけど・・悲しいな。」
「そっちじゃなくて・・その・・。」
「・・・どっちだい?はっきり言ってくれないともしかしたら口が滑ってしまうかもしれない。」
「・・・イ、インタビューのほう・・忘れて・・。」
「ああ。」
「暁が3打席連続でホームランを打ってホームラン数リーグトップに躍り出て何が来てもなんでも打てる司令官以上のスーパーバッターでタイトルなんて取って当然の」
「や、もうやめてー!」
今度からは気をつけようね。暁。
非常にお見苦しい文章でしたので。
多少はましになったかと思います。メイビー。