これからは試合編へと・・・。シルバーウィークには必ず試合開始まで・・・!
「赤城!赤城!今すぐブルペンにきてください!」
なにやら興奮している扶桑に呼び出され、赤城はブルペンへ向かった。
試合まであと3日。新しい取得したシンカーとクレッセント・ムーン。当初の予想は下回るものの十分戦力になる球種である。
「2球種増えた。リードに幅が出ますね。」
これ以上の徒労はチームのみんなにも迷惑をかける。ウイニングショットは諦めなければ。そう思っていてもやはり心にはやりきれない何かが引っ掛かる。
「・・・」
加賀のスライダーを見てきた。蒼龍の決め球も見てきた。龍驤も瑞鳳も千代田も祥鳳もみな自分だけのオリジナルを持っている。瑞鶴だってもうすぐ決め球が完成すると聞く。
(私だけ・・・おいて行かれている気がしますね。)
劣っているわけでは決してないのだが・・・
「それにしてもブルペンに呼び出すなんて・・・」
クレッセント・ムーンに関してはすでに決着している。だとしたらこれからブルペンで行われることはクレッセント・ムーンもどきとシンカーの使いどころについての話し合いだろうか。
「あそこは様々な便利機能がそろってますからね。作戦を練るにはもってこいでしょうし。」
もはや完成させる気は完全に摩耗しきってしまった。彼女に中に湧き出す闘志はもうない。
「扶桑のことです。きっと良い考えがあるのでしょう。」
投げるのは自分だというのにどうにも他人事の赤城。自身でも気づいていながらそれを修正できないのは、それだけクレッセント・ムーンにかける思いが大きかったからなのだろう。
「扶桑。ブルペンに呼び出していったい何をするんですか・・・。」
ブルペンに入るとそこにはキャッチャー装備をフルに装着した扶桑がいた。
「赤城。どことなく気が入っていないように見えます。そんな状態では今からの新球開発で怪我をしてしまうかもしれませんよ。」
「・・・扶桑。クレッセント・ムーンはもう完成しました。私ではあの変化量が限界です。」
「ええ。クレッセント・ムーンはもう完成なのでしょう。しかし赤城。あなたのウイニングショットはまだ完成していませんよ。」
「・・・扶桑。」
「赤城は今クレッセント・ムーンの変化を持っています。ならばそれをベースにしてあなただけのオリジナルを作ればいい。」
「・・・」
「簡単に言いすぎていることは重々承知です。しかしこんな結果で終わってしまってはあまりにもやりきれません。」
「・・・」
「赤城。あなたの疲労を考えていないことは申し訳なく思います。それをわかったうえでもう一度!もう一度私の提案に・・乗ってはくれませんか・・。」
「・・・・」
一度目は悩み苦しんでいた自分に希望の光を。そして2度目は心折れた自分に救いの手を。
(・・・そう考えてみると私は扶桑に甘えすぎていたのかもしれませんね。)
女房役は小さい声を大きく上げ訴える。
(助けてくれる傍らで私はいつも抱え込んで、諦めて・・・)
淑やかな雰囲気で、しかし常に全力で私を考えてくれている。
(だったら・・頑張ってみましょうか!)
一度は消えた火。だとしたら
(次に燃えるのは私の魂・・!)
体が湧きあがる。指先までに心地よい熱がこもる。
平和ボケが過ぎていた。野球の試合とて立派な「戦い」だ。戦いに臨むのに不安を残しておいては・・・
(勝つものも勝てません。)
最後の一瞬まで最高の自分を達成するためにあがき、戦いに臨むべきだった。
「赤城・・。やはりむずかしいでしょうか・・・。」
こちらが長く黙っていたためか扶桑も自分の提案への自信が薄れてしまった。
(ああ。やはり根は自信がないのでしょうか。これ以上彼女の心労を増やすわけにはいきません。)
「試合前日は・・・。」
「?」
「試合前日は修復剤100%のお風呂に入らなければいけませんね。」
「赤城・・・!」
「ありがとう、扶桑。必ずウイニングショットを完成させます。」
「ええ!私も力の限り協力します!」
赤城は風格を取り戻した。やけくそだったころのではなく、深海棲艦との戦いのときのような威厳ある風格に。
(ようやく成れたでしょうか。赤城のパートナーに。)
満足しかけた扶桑だがもう一度気を引き締めなおす。
(ウイニングショットの完成・・・!これの完遂を持ってようやく自覚することにしましょう。)
「クレッセント・ムーンにジャイロ回転を加える・・・ですか。」
「ええ。ジャイロ回転は誰にでもできるものではありません。この鎮守府では赤城、あなたしか投げられない回転です。それに・・」
「それに?」
「今から開発する必要のない技術です。一度はまれば恐らくそこから完成までははやいのではないでしょうか。」
「確かに。既存の技術同士の掛け合わせならば一から作るより効率がいいのかもしれませんね。」
「早速実践してみましょう。赤城。」
シュッ ククッ パンッ!
(月の弧を描くように・・・いえ、違いますね。)
今までは三日月をイメージしていた。しかし今は違う。
(ジャイロ回転は・・・そう、満月のような。)
シュッ ククッ パンッ!
(思えば私は半人前だった。)
1球1球、魂を込めて投げる。
シュッ ククッ パンッ!
(だけど扶桑がいてくれたからここまでこれた。足りない半分を満たしてくれた。)
指先まで感覚がいきわたる。放す寸前までボールをコントロールできている。
シュッ ククッ パンッ!
(だとしたらこのボールは満月をイメージして・・・)
ボールにも自分の神経を通したような、それほどまでにイメージ通りにボールは回転を変えていく。
シュッ ククッ パンッ!
(夜空に輝く満月を描いて・・・)
見逃すことなくボールの回転が見える。この瞬間赤城は確かに超一流のステージにいる。自身ですらその確信が持てるほどに明確に。
(満願の思いを込めて・・・)
全神経は右腕に集中。今から投げる球の軌道はもう見えた。
(この1球がっ!!)
最高のウイニングショットへと成る。
シュッ! ギュウン! バンッ!!
「・・・」
「・・・」
「今のは・・・。」
赤城が声を発する。その声は自信と歓喜に満ち溢れている。
「ええ・・。完成しましたね・・・!」
クレッセント・ムーンとは違う。
単に曲がる変化球ではない。変化しながら・・・
「異常なノビがあります。」
「ジャイロ回転の影響でしょうか。」
首をかしげながら考える赤城。
その最中、扶桑は一人戦慄していた。
(この変化球のノビは・・・相手打者を差し込める!)
扶桑の中に今までとは全く違うリードが展開した。
(この変化球さえあれば・・・赤城は負けない!)
「名前はどうしますか。赤城。」
ウイニングショットを完成させ、その調整を終え万全の状態まで仕上げた二人はその帰り道、居酒屋鳳翔へと足を運んでいた。
「名前はまだ・・・でも、持たせたい意味はもう決まっています。」
「持たせたい意味・・・?」
「ええ」
この変化球は一人では決して完成しえなかった。だからこそ・・・
「「満月」という意味を名前に込めたいですね。」
「なるほど・・・ジャイロ回転とも合いますし、いいアイデアだと思います。」
赤城は内心苦笑する。
(やっぱり伝わりませんでしたか。私と扶桑の二人で満月という意味だったのですが。)
まあ正確には「半人前の赤城とそれに助力した扶桑で作り上げた満月」という意味なのだが。
(この思いはまた今度、しっかり伝えましょう。ちょっと気恥ずかしいですしね。)
そんなことを思っていると扶桑から名前の提案が飛んできた。
「「プレーヌ・リュンヌ」なんてどうでしょうか。」
「プレーヌ・リュンヌ・・・?」
「え、ええ・・フル・ムーンでは何か味気ない気がしなくもなくもないんです。ですからフランス語で満月という意味のこの言葉はどうかと思って・・。」
「・・・。」
「あ、あんまりよくなかったですね!ほかのにしま」
「いいですね!「プレーヌ・リュンヌ」!おしゃれでかっこいいです!それにしましょう!」
「ほ、ほんとうですか!」
「ええ!扶桑ってばネーミングセンスあるんですね!意外な一面です。」
「そ、それはどういういみでしょうか・・・赤城?」
朗らかな笑い声に包まれ二人の夜は更けていく。
どんな窮地が訪れようと、プレーヌ・リュンヌとこの頼れるパートナーがいれば何も恐れることはない。
ようやく二人はバッテリーとしての道を歩み始めた。
話乗れり込みが甘い?締めが弱い?これ以上は無理です。勘弁してください。
本当に物語というのは難しいですね。
これからも精進していきます。
・・・赤城と扶桑の能力はまた後日ということで・・・。