私の名前は第六駆逐隊 一番艦 暁。
同型艦の響・雷・電と野球の試合を見た後、トイレへ行ってへ一人、独りヒーローインタビューに熱中した。
ヒーローインタビューに夢中になっていた私は、個室の外から近づいてくる響に気がつかなかった。
ちょうどヒーローインタビューが盛り上がってきたところで思わず声が大きくなってしまい・・・。
独りヒーローインタビューを聞かれてしまった!
トイレの個室で一人、独りヒーローインタビューをしてるって雷・電にばれたらまた小ばかにされて、最悪他の艦娘にまで知られてしまう。
どうにか響にこのことを黙っていてもらおうとした私は、扉の向こうで笑いを押し殺しているであろう響に「大した妄想だね(笑)」みたいな趣旨のことを言われ、
咄嗟に「もうやめてー!」と答える。
これ以上私の痴態の情報を外に漏らさない為に、響が居るトイレの外に転がりだした。
たった一つの秘密を守る、見た目は子供、実年齢は数十歳。
その名は、駆逐艦 暁。
ふーふーふーふふーん、ふーふーふん、ちゃららちゃららちゃらら・・・・Wake uーーーーーp!
□□□
私の頭の中にBGMが流れ出す。
そういえば2期が始まるんだったわね。今度も出番があるといいな。
こんにちは。
第六駆逐隊 一番艦 暁よ。
この鎮守府でも恐らく五本の腕に入るくらいの大人のレディ。
それが私、暁。暁なの。
そんな大人のレディでも隙の一つや二つはあるわ。
例えば試合で活躍した気になってヒーローインタビューの妄想をするとか。
ええ、皆あるはず。長門さんも山城さんもこの前遠征で会ったビスマルクさんだってきっとこんな感じのことしてるはずよ。
それに司令官の試合がすごいエキサイトな内容だったから。
しょうがないのよ、しょうがないの。
あんなの見せられたらレディの私だって3打席連続ホームランの妄想しちゃう。
だから私は変じゃないわ、少しだけ、少しだけ声が大きかっただけなんだから。
そしてゆっくり個室の扉に手をかける。
くっ、扉越しにも響のにやけてる顔が分かるわ。
失礼しちゃうじゃない。
でも大丈夫、一人前のレディだもの。
肝心なのは第一声、ここでバシッと決めれば響も態度を改めるはずよ。
あなたの姉がどれだけレディなのか、はっきりと分からせてやるんだから!
□□□
「・・~---!!!」
「?~~♪」
「!!・・・※△□・・・。」
「~~♪・・・・○※□?」
「・・・。」
暁の第一声は強かに打ち付けるような、張りのある声でバシッと決める。
しかし、響は暖簾のごとくそれを受け流し、事実のみを口にする。
覆しようのない事実を突きつけられ、暁の背中に冷たい汗が流れ始める。
響は歌うように言葉をつむぐ、流れるような滑らかな発声は否応なしに暁の頭に響いてくる。
顔を真っ赤にしながらもにょもにょと口ごもる暁と涼しげな笑みを浮かべる響。
一蹴。
誰が見てもこの場の優勢は明らか、レディ格付けも同時に決してしまった。
暁はまだまだ、一人前のレディには遠いらしい。
□□□
響だよ。
さっきは我らが長女、暁が失礼したね。
最近ね、探偵物のアニメを見たんだ。きっとその影響なんだろうね。
まあ、そんな話は置いておいて。
暁、暁さ。トイレの個室で独りヒーローインタビュー・・ね。
前にも言ったけど、心の中なら別にいいと思うんだ。
実際私もトイレに来る途中には三冠王を達成していたしね。
鳳翔さんも香取さんも間宮さんだって秘めたる妄想くらいはあると思うんだ、うん。
誰でもそうさ。でもこれが声に出てきちゃうと少し問題だよね。
それがレディを自称する暁ならなおさらさ。フフ、わきが甘いよね。
だから今後は気をつけるように言い含めておいたよ。
フフ、顔を真っ赤にして。いいね、かわいいね、Прекрасно。
だけど、ヒーローインタビューを妄想しちゃう気持ちは分かるよ。
エキサイトな試合を見た後は自分が活躍してる妄想も捗る、捗らない?私は捗るよ。
実際にプレイしたい、グラウンドに立って試合に出たい、そういう気持ちの発露がそうさせるんだろうね。
・・・・実際にプレイか。暁もそう思ってるのかな。どうなんだろ。
□□□
「うぅ・・。もっと気をつけるんだった。」
目じりに涙を滲ませながら、自分の迂闊さを後悔する暁。
聞かれたのが響のみだったのは不幸中の幸いと言えるだろう。
その場ではからかいこそするが、人の恥ずかしい過去を話の肴にするような性格ではない。
これまでも、今回のような場面はたくさんあった。そう、たくさんあったのだ。
暁のわきの甘さは天性のものなのだろう。
くぅっ・・と唸っている暁へ、響が声をかける。
「暁、少し話があるんだけどいいかい?」
「え、ええ・・・。いいけど・・。」
「そんなに警戒しなくてもいいさ。さっきのことは私の心にしまっておくよ。」
「それは・・・助かるわ・・。ありがとう。」
「どういたしまして。それでね、暁。」
「なに?」
「さっきの試合、見ていて凄く楽しい試合だったよね。」
「ええ!それはもう、もちのろんよ!!」
(言葉のチョイスが随分と昭和な。)
暁の偏った知識には少し不安になる。
まあそんな話はどうでもいい。
「私も凄く楽しかったよ。暁が独りインタビューをする気持ちも分かる。」
「うぐっ!!・・・その話はしまっておくって・・・言ったじゃないのぉ。」
自身の胸倉を掴みながら唸る暁。
フフ、そんな姿もかわいいね。流石はチョベリグにチャーミングお姉さんさ。
「すまない、思わずね。引っ張り出してきちゃったよ。」
「うぅ。もうこれっきりにしてほしいわね。」
「うん。もうしないよ。・・・っと話が逸れてしまったね。そう、試合。すごく楽しかった、私も凄い楽しかったよ。」
「特に司令官のホームラン!打った後のポーズまでかっこよかったわ!こう・・打球の方向にバットを向けて見送るやつ!」
「そのポーズはフォロースルーっていうんだってね。選手それぞれで違うんだ。」
「ええ!司令官のチームのミナガワ・・・?って人も2本打ってたけどそのふぉろーするー?は違ったわね。」
顔を紅潮させながら、暁は熱弁を続ける。
あの見逃し三振は痺れた、あのピッチャーのフォークは凄い落差があった・・等々。
汲めども汲めども話題は尽きない。
そんな暁の話を聞きながら、響切り出す頃合を計っていた。
そして。
「暁。」
「それで~・・・ん?どうしたの響。」
「私はあの試合を見ていて思ったことがあるんだ。」
「うん。」
「単刀直入に言おうかな、うん。私たちも野球を始めてみないかい?」
「する!」
速い。
逡巡なしの即答、私じゃなかったら聞き逃してたね。
「流石は暁、即断即決はレディの証だよ。」
「そ、そう?ふへへ。」
「鳳翔さんのことだからきっと皆に野球を布教してるだろうから。多分私たちが一番下手だろうけど。」
私がそう言いかけると不意に、暁が手のひらを突き出し制止する。
「大丈夫よ、モーマンタイ!」
なぜ中国語・・。いや、この前見た香港映画かな?
なんにせよ、やっぱり知識に偏りがあるね。バブリーな香りがするよ。
「最初は下手かもだけど、練習をすればきっとうまくなるし!今までもそうしてきたじゃない。」
「うん、そうだったね。」
「ええ、そうなの。きっと私たち姉妹ならあっという間に・・。」
そこまで言って暁が止まる。
ああ、そうだった。私も内心盛り上がっていたからね。少し忘れていたよ。
私たちはいつも一緒だったからね。
「そういえば雷と電のことすっかり忘れてたわ。」
「私も、すっかり忘れてたよ。あの2人にも聞かないとね。」
「そうよね、いつも4人一緒だったもの。今回も4人一緒じゃないと。」
「そうなれば善は急げ、二人にも聞きに行こうか。」
「ええ!そうね、それがいいわ。」
そういって身を翻しトイレを出る暁。
4人一緒じゃないと・・・ね。フフ、いいよねこういうの。
中々口に出すのは気恥ずかしいもんなんだけど、あっさり口に出すところは暁のパワーを感じる。
立派なレディではないかもしれないけど、立派なお姉さんさ。
私も暁を追うようにトイレを出る。
あの2人も野球やるかな。・・・・きっとやるね、うん。間違いない。
だっていつも一緒の仲良し姉妹だから・・・。やっぱり恥ずかしいね、うん。