「さあ!現在はツーアウトながらランナー2塁という一打先制の場面!ここで迎えるバッターはビックナインズの4番キャプテンの長門!ぜひともここはキャプテンであり4番でもある長門さんのバットで先制したいところですねぇ提督。」
「ああ。ビックナインズとしてはここで先制し試合の流れを掴んでおきたいところだな。」
4番が打てばチームに勢いがつく。多くの野球解説者が口にする言葉であり、オカルトのようにも思える意見ではあるがあながち間違いでもない。
「たいてい4番とはそのチームで最も頼りになるバッターを据えることが多いからな。それが打てなければチームの雰囲気も悪く、逆に打てれば良くなる。なんとなくそういう傾向になりがちなんだ。」
まあ正確に言うと「4番が打つチーム」ではなく「クリーンアップが打つチーム」が勢いの強いチームなのだが。
「なんにせよ、ここで打てばビックナインズが試合の主導権を、ここで抑えればウィングスが主導権とまではいかないが試合をいい雰囲気で進めることができるはずだ。」
「この試合最初の分かれ道。ということですね?」
「まぁ、そうなるな。」
「ところで提督。長門さんはシミュレーションや成績から見るにどのようなバッターなんでしょうか?」
「そうだな。4番キャッチャー長門。.264 42本 84打点。成績通りのわかりやすい長距離砲タイプのバッターだ。」
あふれでるパワフルな気風。それに見合う圧倒的なパワー。その破壊力は彼女のホームラン数が物語っている。だが・・
「私が打率に偏重しているのかもしれないがそれでもあまりいい打率ではない。それに、ホームラン数の割に打点が少ないのも気になる。この数ならせめて100打点は越えていてほしいな。」
事実、彼女の得点圏打率は平均で.230前後。最高でも.270以上のシーズンがない。
「ホームラン数の割に打点が少ない・・・。つまりそれは・・。」
「ああ。青葉の考えていることで正解だ。長門は・・・チャンスに弱い。」
(一打先制の場面・・・。私がここで打つ。そうすればチームは勢いづく。そう・・)
打席に入る彼女の表情はひどく険しい。しかしそれは当然だ。なぜなら彼女のバットはチームを担っているから。彼女自身、それを自覚しているから。
(私がここで打つからこそ・・・この打順に私がいるのだから。)
チームの皆が「長門さんこそ」と据えてくれたこの打順。思わずバットを握る腕に力が入る。
(・・・必ず打つ!)
翔鶴は打席に立つ長門に視線を送る。
(・・・大丈夫、瑞鶴。)
そして彼女は確信にも似た感覚を得る。
(長門さんは・・・少なくとも今の長門さんは・・)
サインを送る翔鶴。
(夕立ちゃんよりも遙かに御しやすいから・・・。)
「打ったー!がしかしこの打球に伸びはありません!ショート金剛が手を挙げてしっかりと捕球。4番長門、一打先制のチャンスで手痛いショートフライに倒れスリーアウトチェンジ!」
「一球目に外角ボール球のスライダーを空振り。二球目に同じコースのスラーブを慎重になりすぎたのか見逃しツーストライク。三球目に外角低めの浮き上がるストレートを引っかけショートフライ・・・。翔鶴がうまかったのか長門が打ち逸ったのか・・おそらくこの打席、バッテリーは怖さを感じることなく勝負に臨んでいただろうな。翔鶴・瑞鶴の完勝だ。」
艦隊の旗艦を務めていたころの長門とはまるで違う印象を受ける。ここまで簡単に抑え込まれるとは私も予想していなかった。
(いくら得点圏に弱いとはいえこれは・・・。「4番の重圧」というものはあると聞くがここまでのものなのか。)
凡退を喫しベンチへと戻る長門の背中が気のせいか小さく見えた。
ベクトルは違えど長門さんも夕立に負けず劣らずのスペックなんですが・・・。自分の力を最大限発揮するには何が決め手になるんだって話ですね。
テンポアップのせいで長門さんが何だかしょっぱく・・・。というわけではありません。この打席の彼女はもともとこんな感じで予定していましたので・・。
次回もよろしくお願いします。