元野球選手が鎮守府に着任しました。   作:ポンセ

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岬ビックナインズ VS  鶴翼ウィングス 第一回戦 (12)

「伝家の宝刀「スライダー」一閃!!響、空振り三振!!」

「相変わらずの切れ味だな。失投のように思えたが長門のミットはど真ん中に構えていた。となると長門はあえて真ん中の絶好球を要求したことになる。」

「そのリードの意図はいったい・・・?」

「おそらくはスライダーの威力をわからせるため・・・だろう・・・と思うのだが・・。」

「歯切れが悪いですねぇ。」

「んー・・・。普通じゃ考えられないリードだからなぁ。とはいえ今の三振で少なくとも響のイメージは壊れたはずだ。」

「イメージ?」

「あぁ。加賀を打ち崩すというイメージ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ベンチへ戻る響。

(確かに甘く入ってきた。確実にとらえ切れるはずだった。間違いなくスタンドに運んでいたはずだった・・・。なのに・・・・。)

その体に残るのはバットが空を切った衝撃のみ。

(・・・すごい!!加賀さんはやっぱりハラショーなピッチャーだ。ますます打ち崩したくなったよ。)

提督の予想とは裏腹に再選に燃える響。

思わずバットを握る手に力が入る。その時起きていたかすかな手の震えも同時に押し殺すように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「随分コテンパンにやられたわね響。」

と、ベンチに戻る響に声をかける者がいた。

「まあね。私も意識の外で油断していたみたいだ。」

「まあ、シミュレーションでいい成績を残してすぐにこの試合だし、勝気になっていても無理はないわね。」

「ああ。自分でも勢いづいてる感じはあったよ。粉々になっちゃったけどね。次からは気を引き締めて挑むつもりだよ。スパシィーバ。」

「いい心がけね。まああんたがリベンジを果たす前に私が一撃食らわせるつもりだけど。」

「期待しているよ。なんたって君はこの鎮守府の最古参プレイヤーだ。」

「ええ。加賀の鼻っ柱をへし折ってくるわ。」

長い髪をなびかせ、歌うように言葉をかわし彼女は打席へと向かう。

一番初めに野球を始めた艦娘であり、おそらく唯一提督に一から十まで野球を教えてもらった艦娘。

「ええ。あんたの弟子な以上、そう簡単に負けるわけにはいかないわ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

水色の長い髪をなびかせて彼女は打席に立つ。

白い肌に黄色く輝く大きな瞳。軽く釣った眉や目は彼女を勝気な自身に満ち溢れる女性へと思わせる。

 

その構えは独特且つ威圧的。通算打率を3割で終えた超一流の打者に似ている。

3割30本を毎年のように残した彼は、その独特な構えからいつしかこう呼ばれるようになった。「北の侍」と。

持ち前の華麗さと「侍」の威圧感を併せ持った独特な雰囲気の打者・・・

 

吹雪型 5番艦 叢雲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ふうっと息をつきマウンド上の相手を見つめる叢雲。

(加賀・・・。相手にとって不足は無しね・・。)

相手が百戦錬磨の投手であろうと関係ない。こちらも同じ百戦錬磨だ。

叢雲のシミュレーションのシーズン経験回数は「12シーズン」

(後れを取るつもりはないわ・・・。)

ゆっくりと構えをとる。

(加賀もすごいけど・・・。それ以上のピッチャーを私は知っている。)

昔、鎮守府を訪れていた提督の元チームメイト。ドライアンツの「V5時代」を築いた黄金メンバーの右のエース。

彼女はその投手と実際に対戦した。

(比べるまでもなくあんたはひよっこよ・・・。もちろん私もだけど。)

本物の威圧感を知っているからこそ叢雲はひるむことなく向かっていける。

(エース級との対戦・・・。ストライクゾーンは広めに。)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウイングスは2番サード「叢雲」!提督、叢雲ちゃんはどんなバッターなんですか?」

「.313 8本 50打点 25盗塁 35犠打。打ってよし、送って良しの2番バッターだ。パワーは若干足りない感じがするがそれを補って余りある技術がある。特に「流し打ち」に関しては芸術的と言っても差し支えないほど美しいものを持っている。守備の面ではキャッチャー、ピッチャーを除けば内野すべてをこなすことのできる器用さを持っている。響に続きこちらも優れた選手だ。」

「流石は最古参の選手ですねぇ。培われた技術もそれ相応の厚みを持っているわけですか。」

「ああ。彼女は昔から野球が好きで練習熱心だったからな。「岡部さん」やほかのナインが来た時も目を輝かせていたよ。」

「岡部さん・・?とはいったいどなたで?」

「ん?ああ青葉は知らないのか・・・。いや、あのときは叢雲以外いなかったから誰も知らないのか。岡部栄太郎。私が所属していたドライアンツの先輩だ。」

「プロ野球選手の方ですか!?」

「ああ。戦争が激化する前は遊びに来てくれていた。彼だけでなくほかのナインも遊びに来てくれていたがその中でも岡部さんはよく叢雲に野球を教えに足を運んでくれていたなぁ。」

「プロ野球選手から直接師事を受けていたんですか・・・。どうりであの自信・・。その岡部さんはどれくらいの選手だったんですか?加賀さん並くらいだったのでしょうか?」

「加賀並かぁ・・・。それは岡部さんに失礼だなぁ青葉。」

「それじゃあ加賀さん以上の・・・?」

「今度調べてみるといい。そうだな・・・キーワードは「日本シリーズ第6戦。延長11回179球1失点完投勝利」だな。」

「・・・わかりました。この回が終わったら早急にググります!!」

「・・・それでいいのか。まぁ、そうなるか。」

 

思い起こす懐かしい記憶。叢雲は昔から本当に楽しそうに野球をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

打席に立つ叢雲を見つめ眉をひそめる長門。

(叢雲・・。この鎮守府の最古参プレイヤー。醸し出す雰囲気はもはや駆逐艦の括りに入れていいものではないな・・。)

この手の打者に手の内を見せるのはあまり得策ではない。8シーズンを経験してきた長門は培った勘がある。その勘が見せびらかすのはまずいと告げている。

(様子見がてら・・・。打ち損じを誘いやすいコースならうかつに手も出してはこまい・・。)

外角低めにストレート。このコースを一球目から振ってくるバッターはまずいない。

(焦ることはない。じっくりと追い込んでいこう、加賀。)

サインを送り加賀が振りかぶる。焦らず追い込み伝家の宝刀で息の根を止める。

必勝パターンに揺るぎはない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~回想~

「いいかぁ!!叢雲ちゃんんん!!!エースと対戦するときには追い込まれる前に、即ちっ!!!「早いカウントのうちに行く」のが定石だぁ!!!・・・聞こえてんのか叢雲ちゃんんんんん!!!!」

「うるっさいわねぇ・・・。聞こえてるわよこの大男!!!!!トスバッティングの距離でしゃべりかける音量じゃないわよ!!ねぇ。こいつはいつもこんな感じなの提督?」

「あぁ。ちなみに私はもう慣れたよ。」

「・・・プロの世界も大変ね。」

「お客さんの声援とかで声がかき消されるからね。声が大きくなるのは仕方がないんだ。」

「そうだぞ叢雲ちゃんんんんん!!!!!むしろ由之助の声が小さすぎるくらいだあ!!!」

「ん~~・・!やかましい!!!!!!」

 

~回想終了~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(エースをリードしている以上はね長門・・。)

 

外角低めに決まる際どいコースのストレート。しかし叢雲は迷いなくスイングモーションに入る。

 

(どんなカウントからでも「打たれないように」リードをする必要があるの。)

 

何故ならエースは優れたピッチャーだから。優れている以上わずかに不用意であろう球が驚くほどに甘い球に見えてしまう。特に叢雲のような「スーパーエース」を知っているバッターには。

 

(ストライクゾーンを広げてみていた私からすればこのコースは・・・)

 

さらに球種は「様子見」のストレート。

 

(絶好球よ!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

叢雲渾身のフルスイングはボールを捕らえバットは快音を響かせる。

打球はショート夕立の頭の上を越し、左中間を鋭く割った。

 

 

 

 

 

 

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