「那珂ちゃんのゲッツーによってウィングスの攻撃は終わってしまいましたが金剛さんのタイムリーで一点は先制しました。」
「勢いのままに攻め込みたかったが加賀もそんな簡単なピッチャーではなかったということだな。」
「・・・すまない。私のリードが読まれていた。」
ベンチの隅に腰を下ろす長門。そしてその横につける加賀。
長門はマスクを外し打つむいている。
「・・醜態だ。お前をリードしておいて3連打を許すなんて。」
「長門。」
「それにその前に自分の打席・・・。そこで私がタイムリーを打てていればここまで重い展開にはならなかった。」
「長門!」
「私は・・・私はいつもそうだ。得点圏では打てずリードが優れているわけでもない・・・!期待を託されていうのにこれでは・・・!」
「長門!!」
「!?」
長門が顔を上げるとそこには真っ直ぐ長門を見つめる加賀があった。
「誰も・・あなた一人の活躍で勝たせてもらおうだなんて思っていません。その悩みは思い上がりです。」
「・・・。」
「しかし、それでもあなたの活躍が勝利に必要なことは確かです。気落ちはしないで、挽回の機会はまだいくらでもあるのだから。」
相変わらずきつい口調ではあるがそれでも加賀は長門が必要だと言っている。
「・・・そうか。気負いすぎていたか。」
「ええ。さっきまでのあなたの顔は真っ青でひどいものでしたよ。」
思い出すように、そしてほのかに笑って語る加賀。
「・・・それこそ醜態だな。加賀から見えていたということは・・・夕立、時雨あたりにもばっちり見られていたかもな。」
そういって斜め前に視線を送ると・・
「「!?」」
急いで前に向き直る夕立と時雨の姿があった。
「私は・・・自分が思っている以上に弱かったのかもなぁ。」
「誰も完全無欠とは思っていませんよ。そんな期待を寄せている者はいません。大なり小なりあなたの弱点は皆知っていますし。」
「え?」
「とりあえずカレー大会で辛いものが苦手だと判明しました。」
「表情は取り繕ったはずだが・・。」
「艦娘の観察眼は侮れませんよ。」
「・・・。」
「それに・・・知っている者は少ないですが、あなたがリスやハムスターを甘ったるく愛でる小さいもの好きということも・・・。」
「ちょっと待て!・・・なんでそれを。」
「陸奥が楽しそうに話していましたよ。」
「・・・陸奥。我が妹ながらなんて卑劣な・・!!」
「・・・だいぶ緊張はほぐれましたか?」
長門は一息ついて言葉を紡ぐ。その表情は先ほどよりも和らいでいた。
「気を遣わせてしまったな。申し訳ない。」
「いえ。バッテリーですから。」
「そうか・・・。さて、今回は5番からの攻撃だ。一点差は一発で埋まる。期待できるバッターがそろっているが、どうだろうか。」
「・・・癪ですが、瑞鶴のポテンシャルは高い。加えてあの子は勢いに乗れるタイプの選手です。・・・蒸し返すわけではありませんが、先ほどの失点は意外に・・・。」
「この一点はビックナインズにとって重くのしかかるかもしれないな。」
マウンド上の瑞鶴を見て提督は語る。
「たった一点ですよ?それにこの回は強打者が3人。高雄・大井・山城と全員がホームランを狙えるバッターです。」
「先制点をもらっていなければ、この回は危険な回だったかもしれない。しかし、今の瑞鶴を見る限り・・・。」
瑞鶴の投球練習。その投じられた球の球速は「154キロ」
「案外安心して見られるだろう。」
「その根拠は?」
「私の勘だ。」
「あれま。」
「プロ野球選手の勘は意外にあたるものだぞ?」
「なるほど。ならばこの回、こうご期待!ということで。いろんな意味で。」
「そ、そういわれると・・・なんだか・・・ん~・・。」
(まあ、勘とはいってもちょっとした根拠はあるんだがな。)
簡単に言ってしまえば「先制してもらった後の状態」である。
(気が抜ける投手もいるんだよなぁ。そんな投手を思い浮かべるとやっぱり「黛」がでてくるなぁ。)
ドライアンツの左腕サブマリン。大卒1年目からV5時代を支えた戦友。
(・・・その点瑞鶴は違うように思える。あいつとは雰囲気が違う。)
提督の言う根拠とはたったこれだけである。
(・・・やっぱり気分が浮かれているのかな。こんなもの根拠になんてならないんだが。なんなら居酒屋のおっさんの難癖予想とかわらないな。)
口元には若干の笑み。
(やっぱり野球は楽しいな。)
(そして瑞鶴。ここは間違いなくピッチングの見せ所だぞ。)
ここを危なげなく抑えるか。否か。
(それがエースピッチャーの分かれ道・・・。まあいくつもある条件のうちの一つだが。)
ッシュ!! バンッ!!!
(・・・)
投げた後自分の手を開いて握っては見つめる瑞鶴。
(点とってもらったんだし、この回失点ってのはちょっと情けないよねぇ。)
しかし、その目には失点の不安なんてものは一切ない。
(5番からの好打順。さっくっと抑えればさらにイケイケ!!)
(・・・この球の走り。)
受ける翔鶴が一番瑞鶴の今の状態をわかっている。
翔鶴はそんなに過信をするタイプではないが。
(この守備で一気に流れを引き寄せる。)
(ッ!!不幸だわ・・・!)
「7番山城!ワンツーから真ん中ストレートを打つもどん詰まりのセカンドフライでスリーアウトチェンジ!!瑞鶴!ビックナインズの5・6・7番を12球、時間にして5分で抑え切りました!!」
「3人ともストレートを狙っての凡退だった。当てるのがやっとで自分のスイングをさせてもらっていなかったな。」
「提督の予想も的中ですねぇ!!」
「ん・・まあ・・・勘はまだ鈍っていなかったというわけだな。」
「提督、この三者凡退はウィングスにとって強い追い風になうのではないでしょうか。」
「ああ。次は6番からではあるがビッグナインズのバッテリーを見ていると中々攻略がしやすそうな気がする。次の回に点が入るようなことがあれば・・・。」
(・・・)
「どうしました?赤城、険しい表情をして。」
「あ、いいえ、別に。ただ・・。」
「提督の解説ですか?」
「ご明察。加賀さんを攻略しやすいというところにちょっと引っ掛かってしまって。提督が思うほど加賀さんは甘くないと思うので・・。」
「ん~まあ、この試合のみをみていたらそういう評価になるのも仕方ないのではないでしょうか。確かに前半はもたついていた印象ですし・・・。」
「そうなんですけど・・まあ、そこの評価はこの回以降の加賀さん次第ですね。私が気にすることじゃあありませんでした。」
「そうですよ。それに、この試合も気になりますがそれ以上に私たちのナイター。これに向けてもう少し詰めていきましょう。」
「ええ、相手は蒼龍ちゃんたち。そう簡単にいきませんし、いろいろ見直していきましょう。」
そういってスコアブックに目を戻す2人。
結果的に、加賀に対する赤城の考察が正しかったのは流石というべきだろう。
「ッフー・・・。」
(さあ長門。)
マウンドに仁王立つは歴戦の猛者。
(ここからが本番です。)
ミットを叩き加賀は打席の足柄を射抜く。
(魅せましょう、刻みましょう。私のピッチングを。)
ここに、伝家の宝刀は迸る。
瑞鶴のピッチングを見てしまったのだ。彼女の魂に火が灯らないわけがない。
何故なら彼女もまた「エース」なのだから。
「8番翔鶴3球目の外角のスライダーに空振り三振!!!三者連続三球三振!!!まさに圧巻のピッチング!!!」
「・・・訂正しよう。攻略しやすいといったがあれは間違いだったようだ。」
何事もなかったかのようにマウンドを降りる加賀。
「素晴らしい。ナイスピッチングだ。」
瑞鶴に負けじと加賀も本領を発揮してきた。
ならば、どちらのほうがより優れたピッチングだったかといえば・・。
(瑞鶴もよかった。しかし加賀のピッチングは一枚上手だ。流れが一気にイーブンに戻った。)
「この試合、しばらく投手戦になるかもしれないな。」
そんな予感がした。