(少しはハッタリが効いたかな?)
時雨は一度打席を外れ瑞鶴・翔鶴に目を向ける。
無論、2人に動揺は一切見られない。
(少しでもZライジングに疑問を持ってくれればいいんだけど・・。)
(今のもコース自体は甘かった。一応狙って打ちに行ったんだけどなぁ。)
「Zライジングを引っ張って強い打球・・・。」
「提督、時雨ちゃんはZライジングにかなり慣れてきているのではないでしょうか。
確かに青葉の言う通り、速球を引っ張れているということはある程度その球に慣れてきたということだ。
少なくとも差し込まれるよりはいい。しかし今のは・・・
「引っ張ってファールということはある程度Zライジングに狙いを絞っていたと思うんだ。」
「でなければあそこまで大きく切れるファールは打てない。」
「だけど狙っていたのならばあの甘いコースは仕留めなきゃいけない。」
しかし結果は一塁線を大きく切れるファール。
大きく切れてしまった理由は一つ。
「仮に攻略した上で狙ったのなら今の打席は振り出すタイミングが早い。」
「速球に合わせるのならそれなりに振り出す始動も早める必要があるからある程度は仕方ないんじゃないですか?」
確かに青葉の意見は正しい。よほどスイングスピードに自信がない限り、速球に対してはスイングの始動を早く起こす必要がある。150キロを超えるならなおさらだ。
だが今の時雨の打席は・・。
「それにしても早すぎるんだ。攻略できているなら切れるのしてももう少しフェアゾーンによってもいいはずだ。特に、投げる球種がわかっていてタイミングもあっているのなら仕留め切るか、もしくは力んで打ちそこなうかのどちらかだと思う。」
「では今の打席は時雨ちゃんが力んで打ちそこなったということでしょうか。」
仕留め切っていないということはそういうことになる。
なるのだが・・。
「力んだ時というのはスイングの始動に余計な力が入ってバットが遅れて出てくるか、もしくはピッチャー側の肩と顎が上がってスイングの軌道がいつもよりアッパー気味になるか。はたまたその両方か。」
「少なくともまともにスイングできない以上強い当たりは滅多に出ない。」
「なるほど。」
「だけど今の時雨の打球を見るとタイミングは早いがしっかりと芯でボールを捉えている。」
「バットが遅れて出てくるわけでもなく、肩や顎が上がって歪なスイングになっているわけでもない。」
「なのに強い打球が飛んだ・・・つまりどういうことなんでしょうか。」
「多分なので間違ったら申し訳ないが・・」
「球種は読んでいたんだろう。だからこその始動の早さだ。」
「だがタイミングは全く合わせられていない。今の打球はほとんど勘で振っているんだと思う。」
「えぇ・・」
青葉が思わず素直な感想を漏らす。
つまるところ当てずっぽうで振ったら少しいい当たりが出ただけなのだから何となく青葉の感想もわかる。
「多分、時雨は今の打席でZライジング攻略はまだ難しいと感じているはずだ。」
「特に時雨はミートがうまい。それは時雨自身が一番痛感していると思う。」
そこまで話し終えるといったん青葉へ視線を合わせる。
するとそこには
「うーん」と。
腕を組み唸りながら何かを考えている青葉がいた。
「わざわざ難しい球を初球に狙うっていうのはどうなんでしょうかねぇ。」
「私だったら狙い球一本で待って確実に仕留められるよう準備をしますけど・・・。」
どうやら今の時雨の打席について考えていたようだ。
なるほど青葉はその考えなのか。
「もちろんその考えも正しい。難しい球に手を出してスイングを崩してしまっては打てる球も打てなくなる。」
「私も時雨ちゃんは頭のいい子だと思っています。だからなおさら今の打席がわからないんですよねぇ。」
「何も考えず来た球を振っているだけに思えてしまいます。」
時雨に限ってそれはあり得ない。
しかし、結果だけを見れば自分のスイングを崩してまで難しい球を打ちに行ってファール。
ちょっとした矛盾に青葉は頭を悩ませていた。
「これも多分だから深読みだったら申し訳ないのだが・・。」
「提督は今の打席に他の意味があるとお考えなんですか?」
考え込んでいた青葉が顔を上げる。
あくまで予想なので期待されると困るのだが・・。
「ああ。多分時雨はZライジングを多用してほしくないんだろう。」
「はい。」
「なら投げさせないようにするにはどうすればいいのか。」
「例えば青葉がZライジングを投げるとして、どんな時に投げたくないなぁと思う?」
「うーん。明らかに球の調子が悪い時やあからさまに狙われている時。あとはー・・。」
「あとは?」
「いい当たりをされたときですかねぇ・・・あ」
「そう。今回バッテリー側が思うとしたら”あからさまに狙われていて””いい当たりをされてしまった”」
「そう思ったのならZライジングを多用するのも少しはためらいが出てくるんじゃないかな。」
「じゃあ時雨ちゃんはZライジングを投げられないためにけん制の意味で打ちに行ったということですか。」
「俺の考えが正しければそうだと思う。まあこの辺は試合後、時雨に確認するといい。」
問題は今の打席を見てバッテリー側がZライジングに少しでも不安を覚えるかだ。
正直、自分がバッテリー側だったらそこまで不安には思わない。
なにせあれだけ大きく外れたファールだ。タイミングなんてからっきしあっていない。
少なくとも俺はそう判断する。だから少なくともこの打席はZライジングで押していく配球で勝負を選ぶ。
だがこれはあくまで客観的に見た側での意見だ。
当事者はここまで冷静に判断できるかといえば絶対にイエスとはならない。
ここまで膠着状態で来ている以上、攻める側も守る側も慎重になるはずだ。
特に守る側は少しでも安全な策を選びたい。となればこの場面ではもしかするとZライジングに不安を持つかもしれない。
相手の心理状態を読んでの今の打席だとしたら時雨は思った以上に思い切りがある。
なにせ今の一球で空振りでもしようものなら恐らくZライジングに対応できていない思われる。
そうなれば少なくともこの打席でのZライジングの比率は多くなるだろう。
(そうなれば時雨もかなりやりにくいだろうに・・・)
無論、空振りをすることでZライジングを誘い狙い撃つということも十分考えられる。
ここで肝心なのはバッテリー側に考え込ませること。
スッキリした状態で勝負をされるよりは考え込ませて集中力を散らしたほうがバッター的にはやりやすい。
(まあ、どちらにしても今の打席で強い打球を打った時点で時雨の思惑は成功してるか。)
ここで考えずに勝負に挑むバッテリーはそれこそ問題がある。
そして少なくとも翔鶴はしっかりと考えを巡らすはずだ。
時雨はバットを見つめている。
(瑞鶴はある程度考えがこんがらがると開き直りそうだし・・。)
バットの先に捉えているのはマウンドではなく・・
(出来ればここは翔鶴に考え込んでほしいな。)
歯切れが悪く・・難しいですね。