元野球選手が鎮守府に着任しました。   作:ポンセ

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20000UAありがとうございます。
これからも細々続けていきますのでよろしくお願いします。


勝負所

(そろそろスライダーくらいくるかな。)

 

 

打席の中で時雨は考えを巡らせる。

いまだZライジングを打てるビジョンが浮かばない。

 

 

(真ん中に入ってくればなんとかなりそうな感じはあるけど・・。今の瑞鶴は状態がほんとに良い。)

 

 

普段なら真ん中に入れまいと意識しすぎて体付近にボールが抜けてくるのだが、この打席の瑞鶴はそれがない。

 

 

(ノッテきてる。インコースにガンガン決まるし・・・何とか粘れば調子も狂うかな。)

(・・・とはいってもあのコースを続けられるとそれも限度があるし。)

(僕自身インコースを無視できなくなってる。アウトコースにきわどく来るとファールのするのも難しい。)

 

 

 

フルカウントなら瑞鶴にもプレッシャーはある。

しかし2-2のカウントではそれも期待できない。

 

 

(・・・。とにかく今は厳しいところに食らいつくこと、ボール球には手を出さないこと!この2つの徹底しかない!)

 

 

バットを構え瑞鶴に向き直る時雨。

マウンドの瑞鶴は不敵に笑みを浮かべている.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

□ □ □

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翔鶴からの返球を受け取る瑞鶴。

 

 

(いい・・。)

(今の私めっちゃ調子いい!!)

 

 

投げる球は全て狙ったところにピンポイントで決まる。

全能感とはまさにこのことなのだろう。瑞鶴はマウンド上で湧き上がる感情を抑えきれなかった。

 

 

(・・・とはいえZライジングを決め切ってるのに空振りが取れないのはさすが時雨ってとこかな。)

 

 

わずか3打席の間に対応を見せた時雨はやはり好打者だと再認識する。

多分Zライジングでも真ん中付近に入っていったらはじき返されるだろう。かなり高い集中力を維持できていることは自分でも意識できている。だがそれは時雨も同じ。

不用意に甘く入るとヒットコースに運ばれる。この程よい緊張感が途切れた時が勝負の決まる時。

 

 

(どっちが先に集中を切らすか。我慢比べってことね。)

 

 

正直、集中力には自信がない。

より詳しく言うなら集中力が長続きしない。

その証拠に自分は少しでも気が緩むとピッチングに影響が出る。ボールゾーンに外れてファールか、もしくは甘く入って痛打をくらうか。

どうにも試合中の調子すら安定しない日まである。

今まではシミュレーションだったから自分の成績が悪化するしかなかったが・・・。

 

(今回はチームの勝敗がかかわってくる。集中が切れて負けましたなんて情けない結果は嫌だし!)

 

 

今背負っているのはチームの勝敗だ。先発としてマウンドに上がった以上チームの勝ちは譲れない。

ましてや相手は”一航戦 加賀”

 

(嫌ってるわけじゃない・・・。ただ認めてほしいだけ。)

 

 

加賀が小言を言うのは自分を心配しているからこそ。

それはわかっている。しかしそればっかりでは嫌なのだ。

偉大な先輩だということはわかっている。だからこそ乗り越えたい目標でもある。

 

 

(加賀さんのピッチングは尻上がりによくなってる。今じゃもう手が付けられないくらいに・・。)

(打線が加賀さんの立ち上がりを叩いてくれた。これ以上ない攻め方だったと思う。)

 

 

実際、加賀から点を取るチャンスは現時点では初回のみ。それ以降はお世辞にも渡り合えているとは言えない。

それを考えれば打線の功績は大きい。欲を言えばあと1.2点は狙えた状況ではあったが・・。

 

 

(・・・まあ那珂ちゃんの打ちたがりは今に始まったことじゃないし。ある程度はあり得ることだから。)

(まあ少しムカついたけど!)

 

 

 

 

 

 

 

□ □ □

 

 

 

 

 

 

「ハッックシュン!!!」

「うー・・・。那珂ちゃんのファンが噂してるのかなぁ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

□ □ □

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翔鶴からサインを受け取る。

(ここが勝負所。必ず決める!)

 

 

手についたロージンを吹き飛ばす。

 

(時雨を抑えて電でこの回はフィニッシュ!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

□ □ □

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

インコースに目がけて投げられたボールは途中でその軌道を変える。

ベルトの高さからボールゾーン、時雨のひざ元に抜けていく。

 

 

(スライダー!!しかもこのコース!)

 

 

時雨が思っているよりもずっと時雨はZライジングに意識を割いていた。

インコースに変化球が来ることももちろん予測していた。

それでもZライジングのイメージが頭に焼き付いていた。

 

(スイングを・・・とまれ!!!)

 

 

 

振り切ってはいない。すんでのところでバットは止まった。

しかし

 

 

主審からのコールはない。

 

「スイング!!」

 

 

翔鶴は立ち上がり3塁塁審へスイングの確認を取る。

しかし塁審は両手を広げるのみ。

主審のコールはなく、時雨のスイングもセーフ。

 

 

(・・・フルカウントか。)

 

 

Zライジングをインコースに見せた。

変化球はアウトコースへ集めた。

スライダーは今の打席で初めて使った。

時雨はスライダーを狙っているとある程度予想もついていた。

今の反応を見てもスライダー狙いは間違いないだろう。

だからこそボールに抜けるスライダーで誘い出したのだ。

それでも止まったということは・・・

 

 

(素直に時雨ちゃんの反応が良かった。本当に良くバットを止めたわ。)

 

確かに目論見は外れた。

だが落胆している暇はない。

今の一球は時雨も相当神経を使った。疲労や安堵感なども強いはず。

 

(息はつかせない。)

 

時雨を観察する。

打席を外すそぶりはない。なおさら好都合だ。

瑞鶴へ返球後すぐにサインを送る。

切り替える余裕を与えない。

 

 

(OK翔鶴姉。今の振らなかった時雨は流石だけど今の私は調子がいいの!!)

 

 

時雨へ視線を送る。

タイムを取るそぶりはない。

瑞鶴は投球の準備に入る。それを見て時雨も構えを作る。

いつもならここからサインを受け取るがそれはもう事前に終わらせている。

 

 

(ちょっと卑怯な気もするけど・・これも野球なんだよね!!)

 

いつもとは違うテンポで投球モーションへ入る。

 

(心の準備はナッシング。これでほんとに終わり!!)

 

 

球種はZライジング。投げ込むはインコース。

 

 

時雨は慌ててスイングに入る。

しかしその始動は遅い。

 

 

 

(ちょっ今までよりモーションが速い!!)

(まだ考えがまとまってないよ!!)

(だめだ!スイングが・・・間に合わない!)

 

 

 

 

 

乾いた音がグラウンドに響く。

Zライジングは翔鶴の構えるミットへ突き刺さった。

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