「バッター夕立、7球目のZライジングをカットしてカウントは変わらず2-2。」
「外角低めの厳しいコースに2球でしたが何とかバットに当ててますねえ。」
「長打だけは絶対に打たれてはいけない場面、出来ればホームゲッツーを狙いたい。となれば自信のある球を打ちにくい外角低めに集めるのはセオリーの一つだ。そして瑞鶴が一番自信を持っている球はZライジング。」
「彼女はスタミナのあるピッチャーだ。球威も落ちていないだろう。なので、ある程度のコースに決まってしまうとZライジングは夕立といえど打ちあぐねるのは当然だ。」
そういって夕立に目を向ける。
彼女の表情は苦い。眉間には皺が刻まれ、いつもの天真爛漫な表情はなりを潜めている。
あの顔は間違いなく打ちあぐねている顔だ。
「夕立ちゃん見るからに打てない顔してますねぇ。」
夕立の表情をみて青葉も同じ感想を持ったのだろう。
わかりやすいですね~とニヤついている。
「ここまで何球かZライジングを見ていてもなお打ちあぐね、さらに変化球・・・少なくともスライダーを頭に入れておかなければならない。本格的に厳しい状況だ。あの表情もしかたないよ。」
心中お察し。
攻略の目途が立っていない時の「どうすんだこれ感」はよくわかる。
加えて相手は絶好調。
(・・・懐かしいなぁ。俺もこんな場面は何度もあった。)
失敗したり失敗したりラッキーだったり偶に成功したり。
まあバッターは本来3割の成功しかなくても一流といわれるくらい不利な立場だ。
一度や二度の失敗なら流しても罰は当たらない。
「・・・正念場だ。だけど気負わず、双方この状況を楽しんでほしい。」
この緊張感も野球の醍醐味だ。
心行くまで楽しんで、納得の行く決着を目指してほしい。
おっ夕立と目が合った。あの子、あんな顔もするんだな。
気づけば口角が上がっている。観る野球もも楽しいな
「提督・・。いやらしい顔してますよ?」
「青葉。鎮守府内新聞は発禁だ。」
「う↑っそ↓でー→っす↓。いつもと変わらず、精悍な顔つきでしたよぉ。」
隣人のおかげで退屈もしないしな。
□ □ □
(あ~っぽい。)
眉間に皺を作りながらスイングの軌道を確認する。
清々しいほどに表情に出ている。心なしかオーラも見える。「打てない」と。
(ここまでZライジングを見てもまともに捉えられないなんて・・。見込みが甘すぎたっぽい。)
チェンジアップはもう待たない。待てる余裕もないから。
実質あとはZライジングとスライダーの二択・・・なんだけど。
(いつかは甘いコースに入ってくる。それは間違いないっぽい。)
瑞鶴さんは本来コントロールがいいピッチャーじゃない。
今は好調でもいつかは元に戻る。そうすればZライジングとも渡り合える。
(だからって次の球から元に戻るなんてことはちょっと都合が良すぎる。)
加えてスライダーが来る可能性も十分ある。
今の調子ならコースもある程度は決まってくるはず。
いつもなら打てるけど今は果たして打てるだろうか。
断言するにはZライジングの印象が強く残りすぎてる。
(いつまででも粘れると、万が一予想外の球種が来ても反応で打てると思ってるのは驕りかしら。提督ならどうするっぽい・・?)
放送席に目をやる。
提督は真っすぐこちらを見下ろす形で見ている。少し笑ってるっぽい?
青葉さんはニヤつきながら見ている。ちょっと腹立つ。
提督の顔を見ているとふと、ある記事のことを思い出した。
(昔見た野球雑誌に提督のインタビューが載ってたっけ。)
『ウィークリー:野球』プロ野球発足から今なお続くプロ野球の情報誌。
野球を始めたころの夕立はよく提督特集のナンバーを読み漁っていた。
(たしか・・・『迷って振れないくらいなら豪快に読みを外したほうが後腐れもなくていい』だったっけ。)
プロ野球選手のくせに大雑把すぎじゃない?と
その時は思ったり。だけど今ならなんとなくわかる。
(『思い切っていけばよかった』よりも『そっちだったか~』のほうが引きずらないっぽい。)
ふう。
だったらさらに絞ろう。Zライジングかスライダーかどちらかに。
色々考えなきゃいけないと思うけど、この選択は私自身の心情に従おう。
そのほうがより後腐れがないしね。
(ウィニングショットを叩く。Zライジングを仕留める!!)
そう心に決めて夕立は打席に入る。
眉間の皺は取れ、表情には天真爛漫が戻っていた。
(Zライジング!どんとこいっぽい!!)