元野球選手が鎮守府に着任しました。   作:ポンセ

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It's gone!

「5番高雄!三遊間を抜ける鋭い当たり!セカンドランナーの時雨も今滑り込んでホームイン!」

「ツーアウトからの勝ち越し打!!2点タイムリーヒットォ!!! 3対1!ビックナインズ勝ち越しぃ!!!!」

 

 

「肩口から入ってくる甘いスライダーをしっかりと捉えた、ナイスバッティングだ。」

 

「瑞鶴さんは踏ん張りきれませんでしたねぇ!」

 

「ああ、夕立へのデッドボールから一気に崩れていったな。さっきまでの瑞鶴とは明らかに別人だ。」

 

「翔鶴さんの構えた位置は外角低めでしたが結果的にボールは真ん中に来てしまいました。」

 

「うん、その前に3球、Zライジングを要求したが全部が違う抜け方をしていた。

その状況でもう一度Zライジングを要求するのはリスキーだと、翔鶴は判断したんだろうな。」

「そこで比較的まともにコントロールできていたスライダーで一つストライクを取って

瑞鶴に落ち着いてもらおうと、そういう算段だったのかもしれない。かもしれなかったんだが。」

 

「制球が乱れていたのはZライジングだけでは無かった、ということですね。」

 

「ああ。スライダーも同様に制球が乱れ、甘く入ってしまったところを高雄に捉えられた。」

 

「ふんふん、例えば今の攻防。バッテリー側で防ぐことはできたんでしょうか。」

 

「う~ん。正直どうしようも無かった気がするなぁ。Zライジングは明らかに抜けてたし。

様子を見るために要求したスライダーが途端に甘く入ってきた。今のはしっかり捉えきった高雄を褒めるべきだと思う。」

 

「ほうほう、なるほどぉ。」

 

 

 

そう、4番が一球で打ち取られた後の、この雰囲気の中でよく捉えきった。

確かに、今のは瑞鶴の失投だったが失投を確実に捉えきるのは優秀なバッターの特徴だ。

 

 

 

「出来れば次の大井も打って畳み掛けたいな。」

 

「セカンドランナーが夕立ちゃんですからね、ツーアウトならシングルでも帰ってこれますし。」

 

 

視線を青葉からグラウンドへ移す。

その先では瑞鶴が大井に向けて一球目を投げ込んでいた。

 

外角へのZライジング。しかし高く浮いている。

大井は逆らわずに逆方向へ、一二塁間へ打球を飛ばす。

 

これも抜けたか、と思ったがここは響のファインプレーだ。

一塁方向へ体を折りながら寸でのところで捕球。

勢いそのままにライト方向へ体を回転させながらランニングスロー。

 

送球は逸れることなく愛宕のグラブに収まりスリーアウト。

これは瑞鶴助かったなぁ~。

 

「セカンド送球!バッターランナーアウトッ!!ここで響のビッグプレーが飛び出したぁ!!」

 

 

実況の青葉も拳を握りながら熱のこもった実況を披露している。

確かに、それだけ大きなファインプレーだよ、うん。

 

走りながら回転するってことは一回ファーストが視界から外れるってことだ。

そして外れてる間、自分の体は移動し続けてる。

 

自分の位置とファーストの位置関係が正確に把握できない中であの送球精度は凄い。

 

ベンチに戻っていく響は相変わらずの澄まし顔・・・あ、若干ドヤ感出てるな。

わかる、わかるぞ。ファインプレーの後は口元にやけるよな。

幸い注意深く見なければドヤ感はわからない、響のクールな印象は崩れないだろう。

 

 

「ベンチに戻っていく響!流石はファインプレーの後でしょう!口元のドヤ感が隠せません!!!」

 

 

全く、この艦娘は・・・。

言わんでいいものの。

 

 

「あー、今のはほんとにビッグプレーだ。致命傷は免れたってところだな。」

 

「2点差ならばまだまだチャンスはある!と見てもいいのでしょうか?」

 

「ああ、なんせツーラン一本で同点だ。まともなバッテリーならランナーが一人出た途端に緊張が走ると思う。」

 

 

ここまで膠着していた試合が一気に動いたんだ。

点を取った次の回に同点にされた、逆転されたなんてのは数え切れないくらいよくあるし。

 

 

「できれば次の回は一点でも返しておきたいな。」

 

でなければ形勢は一気にビックナインズ側に傾く。

なんとしても一点を。最高はあっけないくらい簡単に逆転。

 

 

「次は・・瑞鶴からか。逆転されたんだ。ここは彼女の意地を見せてほしいな!」

 

「それに瑞鶴さんが出ればランナーが出た状態で1番からの上位打線ですしね。」

 

「ああ、きっとバッテリーも大胆には攻めてこられない。そこを逆手にとった攻撃を見せてほしい。」

 

 

 

視線の先で加賀の投球練習が終わった。

打席には瑞鶴、なにを考えて打席に入ってるんだろうな。

たとえ思い通りに行かなかったとしてもやろうとしてることがあってれば次にも繋がる。

それにそういう姿勢は味方の士気も上げる。

自分は何をするべきか、しっかりと示せるだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「ぅぅぁ圧倒的ぃいいいいい!!!!!」

 

 

 

隣の青葉が立ち上がり、マイクスタンドを抱えながら叫ぶ。

 

 

 

「瑞鶴・響・叢雲をわずか12球で抑え込むっ!表情一つ変えずマウンドを降りる様はまさしくエース!!」

 

 

 

もしこれがプロ野球の試合で、実際に観客が入っていたら間違いなく大歓声が起こるだろうなぁ。

 

寄せ付けない、付け入らせない。気迫の篭ったいいピッチング。

てっきり慎重に入るもんだと思ったらほとんどストライク勝負だった。

 

右の瑞鶴には外角低めのストレートを2球見せた後、外角から真ん中に沈むスライダーで三振を奪い。

 

左の響と叢雲に対してはインコースを大胆に突いていき、追い込んだところで外角のスライダーで三振とセカンドゴロ。

 

 

一切表情を変えなかったなあ加賀。

めちゃくちゃ怖かったわ、いやほんと。

美人って顔が整ってるからかなぁ、無表情で威圧感だけあると迫力凄いよね。

 

 

 

 

「今の回、加賀さんは非常にキレのあるピッチングでしたねぇ!」

 

「ああ、正直これ、というような甘い球は見当たらなかった。特にスライダーはコース・キレの両方が完璧。あれでは中々打てんわな。」

 

 

一つだけ気になることがあるとすれば瑞鶴。

どこか気が入ってないような、表情からは読み取れなかったが気落ちをしてるような。

マウンドを降りるときは気丈に振舞っていたようだが、さて。

 

 

「とりあえず、瑞鶴はこの回をしっかり無失点で抑えたいな。」

 

「加賀さんがきっちり抑えましたからねぇ。ここでまた失点をするようなら、流れを完全に掴まれてしまう。ってことですかね?」

 

「そうだ。さっきも言ったが2点ならワンチャンスで返せる。だけど3点になると途端に難しくなる。まあこの辺はウイングス側も感じているはずだ。だから、バッテリー側は丁寧に、守っている野手もミスがないように引き締めて臨んでもらいたいな。」

 

 

次は山城からか。

直近の成績で.234 35本 76点

 

これまたピーキーな。

でもこの成績が7番にいるのはちょっと怖いよなぁ。

打率だけで判断して置きに行くようなピッチングをしようもんなら痛い目に合いそうだ。

 

 

「次は山城からの攻撃だ。」

 

「打率が低いけど一発は十分に期待できますね。」

 

「ああ、痛い目を見ないように。前の回を引きずるとガツンとやられるかもなぁ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「イ~~ッツッ・・・・ゴーーーーンヌッ!!!!」

 

「なんとなんとなんとぉ!リーグ発足第一号ホームランは山城の一発だぁ!!!!!」

 

 

本日2回目の盛り上がり。青葉はスタンディングでマイクを抱え、拳を握り締めながら声を上げる。

 

山城は3球目の甘く浮いたスライダーを逃さなかった。

ドアスイング気味だがしっかりと振りぬき、放った打球は放物線を描きレフトスタンドへ吸い込まれた。

 

翔鶴は打球を少し見送ってから天を仰ぎ、瑞鶴は打球の行方を追わず膝に手をつく。

山城は信じられないような顔で放心しながら打球を見送り、味方ベンチの「走って山城!」という声でようやく我に返って走り出した。

 

ふらついた足取りでダイヤモンドを一周すると、出迎えた夕張の力強いハイタッチ&ハグでようやく意識を取り戻した。

視線をベンチに向けるとこれまた笑顔で山城を待ち構えるナインたち。

真っ先に腰付近へ抱きつく駆逐艦、高雄、大井はハイタッチ。

長門は熱い抱擁の後に「よくやった!山城!」と熱血さながら。

最後に控えていた加賀もにっこり微笑みグータッチ。

 

そこまでいって山城はようやく実感する。

 

「私、もしかしてホームラン打ったの・・・?」

 

「打ったよ、山城。」

 

そこに時雨のダメ押しハイタッチ。

 

 

「フ、フフフ・・。」

 

肩を震わせ突如山城は笑い出す。

青葉が広報用に使う映像を収めるため、ベンチの端でカメラを回す妖精さんの元まで駆けて行き。

ガシッとカメラのフレームを掴むと。

 

「や、やりました姉さま!!山城は、山城は・・・山城はやりましたっ姉さまぁ!!!!!」

 

 

ボキャブラリーが少ないですねぇ。と。

カメラの前ではしゃぐ山城を見ながら青葉がつぶやく。

明日の一面にしたいんですけど・・・パンチが足りないなぁ、といいながらメモを取る。

どこの場面を一面に使うんだろうな。カメラに詰め寄ってる絵は使わないでやってほしいが。

 

普段は物静かなんだが、まあリーグ発足の第一号は特別だよなぁ。

テンションも変な方向へ振り切れている。

打った場面もこれ以上ないくらいの場面だし、しょうがないか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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ブルペンのモニターに山城さんのホームランが映し出される。

高めに浮いたスライダーを捉えた見事なホームランですね。

 

前の試合ももうすぐ終わる、はずです。

私も試合前にエネルギーを蓄えるべく、おにぎりを少々。

ええ、ええ、おにぎりおいしいですね。

 

机をはさんで正面では扶桑がうどんを食べていたんですけど。

山城さんがホームランを打った途端、口元に手をやり動きが停止してしまいました。

 

山城さんがダイヤモンドを一周、チームメイトにもみくちゃにされながらもカメラの前まで来て

「姉さまぁ!」のくだりを言ったら大きな瞳からぽろぽろと涙が。

 

消え入るような声で「山城・・・やったのね・・・。」って。

ええ、美しきは姉妹愛。ところでうどん、伸びちゃいますよ。

 

声をかけても扶桑はぽろぽろ涙を流すだけ。

ああ、いわんこっちゃない。麺が膨れてきてる。

 

「扶桑ー。おうどん、伸びちゃいますよー。」

目の前で手を振るも反応なし。消え入るような声で「やったのね・・・山城・・・。」って。

 

う~ん、うどん。

伸びますね、これは。ぶくぶくに膨れてしまう。

 

これは救済せねばなりませんね。

いえ、おにぎり5個食べても満足できないとかではなく、単にうどんがもったいないからであって、ね。

 

そうときまれば膳まで急げです。

未だぽろぽろと涙を流し「山城・・・やったのね・・・。」と呟く壊れたスピーカーの手元からうどんのお椀を・・ゆっくりと・・。

もう少し、手が届く・・。

 

あと少し、お椀に届く寸でのところでそっと、私の指に真っ白な指が触れました。

目を上げると扶桑が。

 

「だめですよ赤城、試合前に食べ過ぎるとピッチングにも影響が出ます。たくさん食べたいのは分かりますがここはセーブして、ね。」

 

「あ、気づいてたんですね。」

 

 

赤い瞳が私を射抜く。

そして少し笑って、

 

「今夜、試合に勝ったらおいしいものをたくさん頂きましょう。」

 

 

伸びていた腕を胸元に戻してキリッと。

 

「ええ、今夜は鳳翔で豪華ディナーと洒落込みましょう。」

 

 

 

 

 

結局うどんは伸びきってしまいました。

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