試合の先、気になってる人いましたら申し訳ありません。
幕間 『島風ちゃんとフルスイング』 ①
私は走るのが好き。
ボールを追って思いっきり走るのが好き。だから守備範囲の広いセンターをやってる。
打ってから全力で走るのも好き。だから打席が一番回ってくる1番を打ってる。
バッテリーの隙をついてダッシュするのも好き。盗塁って言うんだよ。結構刺されちゃうけどね。
Q.では一番好きな走るシチュエーションは?
・・・ホームランを打ってゆっくりダイヤモンドを一周するとき・・かな。
なかなか打てないんだけどね。気持ちいんだ。一番ね。
□□□ ~島風ちゃんとフルスイング~ □□□
「.208 18本 37点か~」
シミュレーターから一人の少女が出てきた。
駆逐艦にしては高い等身。他と比べても手足が長く抜群のスタイルを誇る。
黒く大きなリボンに膝上何十センチだといわんばかりのミニスカにへそ出し、モロ出しの紐パン。
まあ簡単に言えばかなりきわどい衣装ということ。
島風型一番艦 島風
改二勢が増えてきた駆逐艦'sの中でも改二を持たず第一線を張れる高性能艦だ。
今、ワンシーズン分を終えたのだろう。残した成績を見て唸っているが・・。
□□□
「.208って・・。」
ひどい。
今まで2シーズンやってきたけどこれはひどい。
抜群でキャリアロー。
「でもホームランはキャリアハイだ・・。」
今までは打てても10本前半。
でも今回からは長打重視のバッティングフォームに改造して挑んだし、成果は十分かな。
このフォームに慣れていけば打率もついてくるはず。
「次のシーズンで.270 20本くらいいけるかな。」
□□□
『.215 19本 42点!』
『.221 17本 40点!!』
『.209 18本 41点!!!』
「・・・なんで?」
5シーズン分終わって通算成績がめちゃくちゃ落ちちゃった。
特に打率と出塁率・長打率。反面三振数はめちゃくちゃ増えちゃった。増えちゃだめだけどね。
「ホームランも増えないし。どうして・・。」
今の野球のトレンドはしっかり勉強した。
昔は上から叩けと言われていたが今は違う。
最短距離でバットを出すのではなく、最速でバットを振り切る。
その結果アッパー気味にバットが出てもかまわない。
転がすのではなく、フライを上げる。その先に長打、ホームランが待っているというもの。
もちろん私も取り入れている。
昔は上から叩いていたが今はボールをしたから掬えるようにフォームを改造。
しっかりと成果も出ている。フライもガンガン上がるようになったよ。
「何がよくないの・・?」
スイングは未だかつてないほどしっかりと振れている。その感触もある。
コンタクト率こそ下がっているが当てに行くことはしてないはず。
強くボールを打てれば結果はついてくるはずなのに。
「う~ん。分かんない。聞きに行こう。」
球歴が浅く野球への理解も深くないから仕方がない。
幸い、この鎮守府の提督は名球会入りの好打者がいるし。アドバイスには持ってこいの人選だよ。
そうと決まれば行動は速い。
自慢の快足を飛ばして、島風は提督の元へ走る。
□□□
「で、俺のところに聞きにきたと。」
「そう。」
私は速いからね。
司令官の部屋まであっという間だよ。
扉を開けたら目の前にいたのは我らが司令官。
なんだ。少し考えればうってつけの人が傍にいたじゃん。
なんたって司令官はプロ野球界でも歴代で3本の指に入る速さで2000本安打を達成した名選手だし。
通産打率だって.300を簡単に超えてるし。
そこまでの実力があればバッティング理論もしっかりしてるはず。
きっと私の不調も解決してくれるよね。
「ちなみにこれ。私の5シーズン分の成績だよ。参考になる?」
「ん。ああ、あとで新しいフォームも見せてもらうから。準備しておいてくれ。」
「うん。」
すぐにでも見せれるけどね。
成績の変わり方で私の狙いも分かるのかな。
□□□
島風の成績表を見る限り。
(多分ホームランを増やしたいんだろうなぁ。)
フォーム変更は多分3シーズン目から。
この成績表は打率や安打数・ホームラン数といった代表的な打撃成績から、アウトになった打席の内容なんかも見れる。
打撃だけに限らず、守備や走塁の指標なんかも記載してある。
その選手全体を数字で評価できる優れものだ。ご丁寧に各指標の数字の意味も解説してあるし。
妖精さんも気合入ってるな。凄いよ。
ん。話が逸れた。
島風のフォーム変更に話を戻そう。3シーズン目から変更した、まで話したな。
分かりやすいところから見ると、変更したと思われるシーズンからは安定してホームラン数が10本後半を打っている。
ただ、これだけじゃ単なる慣れたからホームランが増えただけかもしれない。
他のところにも目を向けてみよう。
例えばヒットの内訳。
2シーズン目まではゴロやライナーといった低い弾道のヒットが多い。
基本的には内野の間を抜けていく打球が多いということ。
だけど3シーズン目以降はフライ性のヒットの数が増えてる。
外野の前に落ちたり、たまに外野の頭を超えたり。弾道が比較的高い打球が増えてる。
その分、ゴロ・ライナー性のヒットは減ってるんだけど。
アウトの内容はどうだろう。
・・・やっぱり。ゴロ・ライナー性の打球は3シーズン目を境に減ってる。
それとは逆にフライ性の打球が多い。
(う~ん。)
打球の質に変化は出てるか。
・・・出てるな。
2シーズン目までは比較的強い打球が多い。
それ以降は明らかに弱くなってる。
艦娘は身体的な成長が無い。
筋力も変化はしない。
島風の筋力が落ちて、その結果打球が弱くなったわけではない。
だとしたら、バットの芯で捕らえる機会が減ってるんだろうな。
三振率は?
・・増えてる。
特に変化球への対応がひどい。ストレートは若干悪くなってるってところか。
フォームを変えて顕著になったが元々こういう傾向ではあったんだろうな。
打球方向はどうか。
思いっきり引っ張ってるな。
元々からしてライト方向への打球は多い。
だけどその傾向がさらに強くなってる。
変化球も前で捌くことが多くなってるし。
(う~ん。)
チラッと。資料から目を上げてみる。
そこには島風が。
いつものような気だるそうな目ではなく何かを期待するような、なんてらしくない目をしているのだろうか。
頭のデカリボンもいつも以上に糊が利いている。パリッと。
(う~ん。)
フォーム変更の理由は察しがついた。
やっぱりホームランや長打を増やしたいんだろう。
で、打球を上げようとフォームをアッパースイング気味に調整した。
その結果、ボールへのコンタクトがうまくいかず擦ったような打球や上げすぎて内野・外野フライを量産。
だけど理想としてたホームランや長打は確かに増えているからあと少し何かが違うのではないかと。
そして俺のところにアドバイスを求めてきた・・と。
(う~ん、困った。)
「もっとヒットを打ちたい」とか「逆方向にうまく打球を打ちたい」だったらアドバイスもできるんだが・・。
(ホームランはなあ。正直管轄外なんだよなぁ。)
確かに、俺は打率も残すしヒットもよく打つほうだった。
だけどホームランは・・誇れるよな本数を打ったことは無い。打てても精々20本前半くらい。
30以降は夢のまた夢だよ。
・・まあ打率が2割切ってもいいなら40本もいけるかもしれないけど。
果たして1割台の40本打者に価値はあるのか。
俺は無いと思った。だからホームランの本数も気にはしなかった。
(そもそも打球は「上げる」ものではなく自然と「上がる」ものなんだよなぁ。)
放物線を描けるバッターはそれだけで才能がある。
プロ野球のホームランバッターは一部を除きみんな簡単に打球が上がる。
そういう打球が多いからそのうちの一部、改心の当たりがホームランになっていく。
一部例外があるとすれば、規格外のパワーを持った打者。
あまりにもパワーがあるからライナー性でもスタンドまで届いてしまうっていう怪物じみた人だけ。
この鎮守府で言えば金剛なんかがそのタイプだ。強いて言えばだけど。
そのほか、鎮守府のホームランバッターはみんな放物線を描く。
その傾向は艦娘でも変わらない。そして残念だけど島風にも当てはまる。
全打席ホームランを狙ってこの結果。
それを3シーズン通してもこの結果。
(う~ん、なんて言おうか。)
『島風。お前にホームランを打つ才能は無い。だから諦めてフォームを戻したほうがいい。』
・・・あんまり言いたくない。
チラッと。目を上げて島風を見てみる。
いつの間にか机の傍まで寄ってきてた。期待の眼差しがよく見えるよ。気が重い。
頭のデカリボンは艶まで出てきてる。なんか塗ったか?
さて、極端に打撃成績を悪化させてまで打つホームランに意味はあるのか。
さっきも言ったが俺は無いと思う。
だけど島風は俺じゃない。島風だ。
理想を求めて考えた結果、俺を頼ってくれた。。
邪険にはしたくない。出来れば助けになってやりたい。
元プロの意地も見え隠れする。
(う~ん・・・。)
どうしたものか。
□□□
「大体分かった。一度島風の新しいフォームを見せてくれないか。」
資料を読み終わったんだね。司令官がグラウンドへ行く準備をし始めたよ。
「うん!」
どんなアドバイスが待ってるんだろ!楽しみ!