元野球選手が鎮守府に着任しました。   作:ポンセ

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幕間 『島風ちゃんとフルスイング』 ②

時間が解決してくれることもある。

もしかしたらスイングを完全にものにするかもしれない。

もしかしたら歩いているこの瞬間に島風が覚醒するかもしれない。

もしかしたら島風が体調を崩しててうまくいかなかっただけかもしれない。

 

 

こういうの、問題の先延ばしって言うんだよな。う~ん、気が重い。

そう思ってるうちにグラウンドに着いちゃったよ。

・・だめだ。具体的な解決策が思い浮かばない。

 

 

島風がバット片手に左打席へ。

その瞬間は刻一刻と迫っている。

スイングを見たら最後。あの眼差しで見つめられる。そのとき俺はアドバイスを送れるのか。

 

 

(艦娘は野球が出来るといっても所詮は素人。だとしたらフォームも穴が多いかもしれない。)

 

 

だとすれば何とかなるかもしれない。

スイングの穴を指摘して修正してやれば成績も良くなるのでは?

具体的なアドバイスは無くともやり過ごせるかもしれない。

・・・決してお茶を濁してるわけじゃない。

 

 

(って。今やり過ごせるかもなんて思ったか、俺。)

情けない。自己嫌悪だ。

 

 

しょうがない。

腹をくくろう。出来うる限りを尽くして島風の期待に答えよう。

 

俺の決意に答えるように島風がバッティング練習を開始した。

さあ、俺の経験はどこまで通用するのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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結論から言おう。

中々いいバランスのスイングだ。

 

 

打球を上げようと躍起になって右肩が上がりながら顎も上がり極端なアッパースイングになっているのだと。

てっきりそう思ってたけど。こいつはまずい。

 

 

実際は想像の遥か上をいった。

右肩は上がらず、顎も上がらず目はしっかりとボールを追っている。

アッパースイングというよりはアッパー気味のレベルスイング(大体角度が水平と思ってくれればいい。)でボールを捉え、捉えた後は前に大きくバットを振り抜いている。

自分の持てる最速でバットのヘッドを走らせるから打球にも勢いが付く。

打ち終わりに体勢が若干ぶれるほどのダイナミックなフルスイングだ。

 

 

 

(よく考えられたフォームだ。)

 

 

島風なりに考えた大胆ななフォーム。

俺の中ではもう少しシャープにしたほうがいいと思うが形は近い。

実際、今見ている限りでは大きく鋭い打球が飛んでいる。今は、だけど。

 

 

(直すところが少ない。これでは伸び白が・・。あともう一つ、まあやっぱりというべきかなんというか。。)

 

ピッチングマシンのリモコンを持つ。

そしてバッティングケージにいる島風に声をかける。

 

 

 

「島風。今から変化球も混ぜていく。球種はオーソドックスにスライダーとカーブ・フォークの3種類。ピッチャーは右投げだ。」

 

 

「う・・。わかった。」

 

 

一気に表情が曇ったな。

自覚はあるんだろうね。

 

 

(最初はストレート。)

 

 

リモコンを操作してピッチングマシンに指令を送る。

球速は大体140キロ後半くらいか。可も不可も無い右ピッチャーだ。

 

マシンは唸りを上げてボールを投げ込む。

 

「フッ。」

 

短く息を吐きながら島風はバットを走らせる。

小気味いい音を立てながら鋭い打球が右中間を割っていく。いい打球だ。

 

 

 

(次は同じコースにスライダー。)

 

 

 

「ッ!」

 

 

 

さっきとは打って変わって擦ったような音。

タイミングが外れたスイングはボールの下を捉え、打球は高々と上がっていく。

ファーストファールフライってとこかな。

 

 

(そんなに難しいコースじゃないんだけどね。)

真ん中外目のスライダー。浮いたスライダーとでもいうのか。

島風から見れば外から内に入ってくるんだから甘い一球だったよなぁ。

素直に逆方向へ打てば長打コースだ。

 

 

チラッと島風に目をやる。

目が合う。あ、逸らした。

 

 

(そんなに変化球がいやなら、一球ストレートを高めに。)

 

 

さっきのスライダーよりも若干高め・外目にストレート

 

 

 

「フッ!」

 

 

鋭いスイングが走る。

強い打球が飛ぶがファールゾーンへ大きくそれてファール。

若干タイミングが早い。スライダーの余韻が残ってるのか。

 

 

(目線が上がった。引っ張り傾向にあるなら。)

 

 

真ん中から落とすフォーク。

外角も必要ないだろう。素直に落とせば恐らく・・。

 

 

 

投げ込まれたボールは真ん中から低目に目掛けて勢いを落としていく。

 

 

「~ッ!!」

 

 

 

スイングの始動が早かった。

ストレートの余韻が強いことと思いっきり引っ張りたい気持ちが故にってところか。

 

 

体が前に、膝も折れながらフォークに食らい付いていったがボールはバットの遥か下を通過していった。

絵に描いたような豪快な空振り。

 

 

(う~ん。)

 

 

 

元々変化球は少し苦手だったというのは成績を見ても分かる。

引っ張る意識が強いのも分かる。

 

 

けど今の島風は以前よりもさらにその意識が強い。

大きい打球を打ちたい気持ちが全部のスイングで見て取れる。

フォームだけの話ではない。

ここまで何でもかんでも引っ張りたいんじゃ相手バッテリーも内角は投げないだろうな。

外に変化球とストレートを投げ込んでいけばそれで済む。

なんというか・・・簡単なバッターだ。

 

 

 

「OK島風。大体分かったよ。」

 

 

「うん。」

 

 

 

心なしか元気が無い。

デカリボンも垂れ下がってる。どうなってるんだろうな、あれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「大きい打球を打ちたいのは分かった。」

 

 

司令官が話し始める。

 

 

「逆方向に打つよりは引っ張ったほうが打球も強いしな。」

 

 

諭すように、何かを踏まないように、そんな感じでゆっくりと。

 

 

「ああ、フォームは綺麗だった。予想以上にいい出来だったよ。」

 

「うん。」

 

 

いいことを言ってもらえたのに何でだろうね。あんまり嬉しくないよ。

この場の雰囲気は今の言葉とはあってないんだろうね。

 

 

 

「話が逸れたな。引っ張りの意識が強い、まで言ったっけ。」

 

「うん。」

 

「そう。引っ張りの意識が強い。だから島風はボールを出来る限り前で捌こうとしてる。そうだよな。」

 

「うん。」

 

 

 

やっぱり分かるんだね。

少ないたった数打席で。それとも私がわかり易すぎたのかな。

 

 

 

「なんとなく自分でも分かってるとは思うが。恐らく成績が振るわないのはその意識が原因だと思うんだ。」

 

「・・・」

 

「強い打球を上げよう。そのためには思いっきり引っ張ろう。」

「ストレートなら合わせられるが変化球になると途端にタイミングが狂わされてる。」

「変化球の余韻が残っていると次のストレートにもタイミングが合わなくなる。」

 

 

流れが悪い。悪いよ。悪い方向に進んでるよ。

 

 

「正直なところ、その意識を変えていかないと今以上に打撃が良くなることはない。」

 

う。

断言。

珍しい。普段は結構はぐらかすことが多い人なんだけど。

それだけ自信があるのかな。

 

 

「島風。フォームはそのままでもいい。いい形で振れてるからな。」

「だけど大きい打球を積極的に狙うのは・・・うん。やめたほうがいいと思うぞ。」

 

 

うう。

でも簡単に諦められない。私もホームラン打ちたいんだもん。

 

 

「でも狙っていかないとホームラン打てないんだもん。」

 

「その結果が10本後半だ。この程度の増加で打率を犠牲にするのは流石にお勧めできない。」

 

 

ううう。

痛いところを突かれた。

だけど・・。

 

 

「でも長打は増えてるよ!打球だって昔より外野に飛ぶようになったし。」

 

「その割に外野の頭を超える打球は飛んでないよな。」

 

 

うううう。

 

 

「それに三振も増えてる。出塁率だって2割前半だ。」

 

「それは・・。」

 

「恐らく試合では一番を任されるはずだ。だけどこの出塁率じゃ一番は務まらないだろ。」

 

「・・・」

 

 

 

う~~~。

 

 

「島風。引っ張る意識はある程度捨てるんだ。来たボールを素直に打ち返す。」

「逆方向も意識できればある程度変化球も見れるようになる。

外角ばかりでカウントを悪くすれば相手バッテリーも内角を使わざる負えない。」

「強い打球がほしいならそこをしっかり叩いていけばいい。

そうやってヒットを打ち続けていけば、その中の改心がホームランにだってなる。」

 

司令官はさらに言葉を続ける。

結果的にはこの後が決定打だったよね。

 

 

「島風は狙ってホームランを打てるタイプじゃない。

ヒットを打ち続ける。その延長でホームランが出る。そんなタイプだ。」

 

 

「・・・もういい。」

 

 

「島風?」

 

 

「もういいよ!司令官のアホ!」

 

 

「なに!?」

 

 

「朴念仁!人たらし!独身三十路!!」

 

 

「ど、独身三十路・・・。」

 

 

「コミュ障筋肉マンなんかにはもう聞かない!!」

 

 

「コミュ障筋肉マ、島風!いくらなんでも言いすg」

 

 

「うるさいロリコン!第六と白露隊侍らしてそんなにうれしいか!!」

 

 

「それは誤解だ!!あっちが寄ってくるんであtt」

 

 

「知らない!べーっだ!!」

 

 

一通り悪口も言ってスッキリ!

つかまったら大変だからダッシュで逃げるよ!!

ふふん。鎮守府一の快速だからね。司令官といえど追いつけなんて・・。

 

 

 

「おいコラ待て島風ぇ!!!」

 

 

すぐ後ろに司令官。

(お``う``!!!はっやい!?!?)

 

うそうそうそ!

三十路過ぎてるのに私に追いつきそうなんだけど!!??

 

 

まずい。まずいよ。これはまずいよ!

走りながら司令官をまく方法を考える。

どうする。どうしよう。

フル回転する快速の脳細胞。だけど後ろから迫る司令官の足音のせいで集中できないよ~。

 

 

 

「俺もまだまだ捨てたもんじゃないなぁ!!6年連続50盗塁をなめるなよ!!」

 

 

勝ち誇った声が後ろから響く。むかつく!

どうする。どうする。

そう考えていると正面から扶桑がグラウンドへ入ってくる。

・・・いけるか?

 

迷っている暇は無い。つかまれば説教が待ってる。

一か八か。お願い!扶桑!!

意を決し私は走りながら叫ぶ。

 

 

《助けて扶桑!!司令官が私に欲情したの!!襲ってくる!!!》

 

 

「島風ぇ!!」

 

 

おっきな怒号。後ろから聞こえてくるよ。

っと。どうやら扶桑にも聞こえたみたい。

 

いつもと変わらない、病的に白い肌がさらに白く・・。ん、結構マズかったかな。

持っていた野球道具一式を真下に落としながら唇をワナワナと震わせている。

そして・・。

 

 

「ふぅ・・。」

 

パタッと気を失う扶桑。

・・・弱すぎないかな、扶桑。

 

でもこれはこれでオッケー!

私は倒れた扶桑を飛び越して走り抜ける。

追ってきた提督は・・。

 

 

「おおい!扶桑!大丈夫か!おい!」

 

 

流石司令官。放ってはおかないよね。

司令官が止まったことで私たちの差は完全に埋められないものになった。

 

 

「やーい!今度は未亡人もどき狙いかー!!!」

 

「島風ぇ!!!」

 

 

 

最後にもう一回スッキリして私はグラウンドを後にする。

ふふん。完全勝利だね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

□□□

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピンポンパンポーン♪

【業務連絡。】

【島風型駆逐艦 一番艦 島風、一番艦 島風】

【今すぐ提督室へ来なさい。今すぐ!!ご自慢の快速を飛ばして今すぐ来なさい!!】

 

 

まあ、そうなるよね。

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