いい動画だった!
何回見てもいい動画!
打った瞬間のホームランから至高のフォロースルー。
確信しながらボールを見届けゆっくりと一塁へ歩き出す一連の動作。
プロ野球の長い歴史、その中でも間違いなく3本の指に入るホームランだね。間違いないよ。
ん?ああ、ごめんね。
一人で盛り上がってたんだ。こんにちわ、島風だよ。
今日のヒトサンマルマルから来客があるって、司令官が言ってたからさ。
午前中は暇になってたんだ。
天津風と遊んであげても良かったんだけどね。
「も、もうちょっと!もうちょっと良いじゃない島風!」
って、最近なんか粘るんだよね、あの子。
なんだろうね。目がどことなく長門さんに似てるよ。
まあ長門さんだったら抱き上げられて間宮に連行されるんだけど、もちろん任意じゃないよ。
まあ時間にリミットがあったからね、今回はお気に入りの動画を見てたってわけ。
そんなこんなしてるうちにヒトフタゴーマルか。
そろそろ玄関に行こうかな。
5分前には準備完了。それがレディの嗜みだって、暁が言ってた。
部屋から出ると自慢の快速を飛ばして玄関へ向かう。
・・そういえば何が目的の来客なんだろう。そこ聞いてなかったな。
□□□
玄関へ着く。
約束の時間。その5分前に到着した。
(・・・もういるじゃん。)
遅れたわけじゃないよ。
来客側が若干早かったの。
(対応してるの司令官だし。)
自分あての来客を自分の上司が対応してる。
・・・時間に遅れたわけじゃないんだけどなんか遅れたみたいな感じになっちゃうよね。
思わず物陰に隠れちゃった。
(それにしても司令官・・・、楽しそうに話してる。)
私も司令官との付き合いはそこそこ長いはず。
だけどあんな親しげに笑う司令官はあんまり見ないな。
相手は誰だろう。・・・ここからじゃ良く見えない。
身長は司令官より大きい。うん、相当おっきいよあの人。
体つきはスーツの上からでも分かるくらい大きい。うん、大分分厚いなぁあの人。
短く切りそろえた頭髪はきちっと整えられている。
着ているスーツも多分オーダーメイド。高そう。
でも嫌味な感じはしない。なんだかやわらかい雰囲気の人。
耳を澄ますと声が聞こえてくる。
少し低いけど良く通る声。口調はその体つきに似合わず優しい感じ。
ん?司令官のこと「由之助」って呼んでる。珍しい。
同年代かな。司令官は・・・なんて呼んでるんだろう。はっきり聞こえないよ。
「ん、約束の時間なんだが・・・。島風のやつ遅いな。」
ん、出て行くタイミングを逃したよ。しまったね、こりゃ。
どうしよかな。こうなると一歩を踏み出すのに勇気いるよね。
ん~。(どう出てこうか考え中。)
唸ってると来客さんもあたりを見渡す。
お、顔が見えるぞ、誰なんだろ・・ぉぉぉおおおおあああああああああああ!!!
未だかつてないほどに、私の脚は瞬発力を見せる。
普通の神経伝達は無視して反射の速度で体が動く。
残像が残るほどの勢いで物陰から飛び出ると私は叫んでいた。
「み、皆川だぁああああああああああああああ!!!」(ユビサシッ!)
□□□
うん。
島風のやつ、きっと喜ぶぞ。
玄関へ向かう。足取りは軽い。
軍のお偉いさん達との会食とはわけが違う。
今日来るのは俺が提督になる前の戦友。
その中でも最も親しい、野球を離れた今でもその繋がりは強い。有難いことだ。
その名は「皆川 城一郎」同期入団のドラフト3位。日本屈指のスラッガーだ。
幸い今はオフシーズンだ。昨日電話をする機会があったからついでに島風のことを話してみた。
そしたら近くに寄るし一日くらいなら力になれるかもしれないと都合をつけてくれた。
非常に助かる。持つべきものはスラッガーだ。
それに島風は皆川の大ファンだと聞いている。きっと喜ぶはず。
あいつがくれば色々解決するかもしれない。
悔しいが島風のホームラン打ちたい問題は俺には解決が難しい。
スラッガーじゃないからな。
だけど皆川なら。
あの生粋の飛ばし屋なら。きっと何らかの解決に導いてくれるないし、ヒントをくれるはず。多分。
「提督。」
玄関に行くとそこには鳳翔さんがいた。
「お客様・・皆川様がいらしてますよ。」
どうやら対応をしてくれていたらしい。
「あぁ。ありがとう、鳳翔さん。」
「いえ、久しぶりにお話が出来て嬉しかったので、では失礼しますね、皆川さん。」
そういって鳳翔さんは奥へ下がっていく。
なんと落ち着いた人だろうか。助かる。
鳳翔さんを見届け、視線を玄関へ移す。
同時に声がかかる。
「久しぶりだね、由之助。」
こっちも負けず劣らずの落ち着いた口調。
試合中は恐怖の対象だというのに、普段受ける印象は真逆だよな。
「あぁ。久しぶり、城一郎。」
俺よりもさらに一回り大きい、ほんといつ見てもでかいよな。
□□□
「今シーズンは48本か。ちょっと少ないんじゃないか?」
「前半戦で苦労したからね。持ち直すのに時間がかかったんだよ。」
冗談半分だったんだがな。
本人の中では少ないと思ってるのか。
やっぱりスラッガーは意識が違うのか?
若干引いているところに城一郎は続ける。
「でも打率はなかなか上がらないよ。3割超えもキャリアで2回しかないし。
今回は不振も響いて.274だ。数字としては心もとないね。」
「ん~。まあよっぽどひどくない限り打率を気にする必要はないだろ。打点も100を超えてれば4番として十分見栄えもいいしな。」
ちなみに今シーズンの成績は.274 48本 121打点。それはまあ立派な成績だ。
「でもなぁ、3割超えると成績もかっこいいんだよね。ワンランク上な感じがしてさ。」
「確かに。それは確かにそうだな!
特に3割後半を超えてくると別格感がでてさらにいいな!」
思わず声に力が入る。
ここは負けられないし、まあ負ける気もしないところだ。鼻も高々に、だ。
話題は尽きない。
由之助の3シーズン分のホームランを1シーズンで打ったとか、3割なんて一回も割ったことないわぁとか。
少々意地を張り合いつつも和気藹々と懐かしい時間を楽しむ。
ふと、時計に目を落とすと13時を過ぎている。
島風のやつ、来客だって言ってるのになんで遅れるのか。
「ん、約束の時間なんだが・・・。島風のやつ遅いな。」
「なにかあったのかな。」
「ん~天津風のやつと遊んでるのかもしれないな。」
あの二人よくセットで見るし。天津風のほうが熱心な感じはするけど。
まだ来ていないかあたりを見渡す。
それにつられてか城一郎もあたりを見渡す。すると。
(物陰からデカいリボンが、なぜ隠れてるのか。)
島風だ。物陰からこっちを見てる。
そんな人見知りするほうだったか?まあ体格は大きいし警戒はするのか。
こっちから呼んでやれば出てきやすくもなるだろう。
島風に声を掛けようとした瞬間、島風が恐ろしい瞬発力で横に飛んだ。
速い。あっけに取られる俺たち二人の前に躍り出ると城一郎を指差しながら島風はこう叫んだ。
「み、皆川だぁああああああああああああああ!!!」
2日連続で島風を叱るのか。
あんまり得意じゃないんだけどな、こういうの。