元野球選手が鎮守府に着任しました。   作:ポンセ

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幕間 『島風ちゃんとフルスイング』 ⑥

「フッ!」

 

短く息を吐いてバットを振り切る。

10打席目の結果はレフトフライ。ちょっと下がっただけでほぼ定位置。

 

(芯で捉えたんだけどな~。)

 

 

最後は外角高めのストレート。

気持ち遅れはしたけどしっかり捉えたはず。なんだけどね。

反対方向に大きいのはなかなか打てないみたい。打球も上がんないし。

打球を上げる方法も聞かなきゃ。聞けることは聞いておかなきゃね。

 

 

 

結果は10打数の3安打。

打率的には問題ないよね。長打も1本出てるし私的には満足。

ただ、途中の甘い変化球を捉え切れなかったのは悔やまれるね。まれるよ。

 

浮いたスライダーとかチェンジアップとか。

今後はそれも頭に入れて打ってかないとね。

 

 

バッティングケージを出ると皆川さんと誰かが話しこんでる。

あれは・・む、司令官。

う~ん、さっき怒られちゃってるからな~。ちょっとだけ気まずいよ。気まずい。

1日経てば平気なんだけどね。さっきの今だから、ちょっとだけね。

 

 

「お疲れ様、島風ちゃん。」

 

 

島風ちゃんだって。いいね、紳士だよ。

司令官なんて出会った当初は「う~ん、どう呼んだらいい。島風、島風君、島風さん、島風ちゃん・・・。どうしようか。最近の子は呼び方一つでハラスメントって言うしなぁ。う~ん。」

って悩んでたし。結局「島風君」ってなりそうだった。全力で拒否したけどね。なんでって?

それはあの野郎(秋雲)に聞いて。

次あんな本書いたら張り倒す。(本気だよ)

 

 

「ど、どうでしたか?私のバッティング!」

 

 

テレビでしか見たことなかったからな~、やっぱり緊張するよ。

感想を聞くのもドキドキ。司令官ではこうもならないんだけどね。

 

 

「うん、良いスイングだったよ。打球も鋭いし。」

 

「あ、ありがとうございますっ。」

 

 

フフ。褒められた。

 

 

「速いストレートにもしっかりと対応していて・・。特に1打席目の右中間を割った打球、低めだったけど下半身を使ってうまく打ってた。あれは良かったよ。」

 

「ストレートには・・自身があるんですよ、はい。」

 

 

フフ、口元がニヤつくね。

 

 

「えーっとそれで・・。そうだ、今以上にホームランを打ちたいんだってね。由之助からアドバイスをしてほしいって聞いてるよ。」

 

「はい、出来れば30本くらい狙えるようになれればって思ってます!」

 

 

フフ、やっぱり司令官だったんだ、やるね。

皆川さんに取り次いでくれるなんて、元プロ野球選手は伊達じゃないね。

 

 

「30本か・・、うん。そうだね・・。」

 

 

少し考え込むようにする皆川さん。

・・・なんだろうね。この空気、最近も体験した気がするんだけど。デジャヴかな?

 

 

「順を追って説明しちゃうとややこしくなるから結論から言おうか。」

 

「は、はい!」

 

 

ドキドキ。

 

 

「はっきりと・・・、ごめんね。相手にもよるけど30本は正直難しい。」

 

 

・・・・。

 

 

「現実的なラインは高めに振れても20本がギリギリなんじゃないかな。」

 

 

・・・。

 

 

「打球に角度をつけようと意識しすぎている。これじゃ折角の良いスイングが台無しだよ。」

「長打やホームランを狙ってか島風ちゃんの意識がライト方向に向きすぎてもいる。これじゃ変化球には対応できない。」

「ストレートも内角はうまく引っ張れてはいるけど外角は無理に引っ張るとそのうちスイングも崩しちゃうんだ。」

「10打席目に逆方向にうまく捉えられたけどそれでも定位置付近だったよね。多分逆方向への打球はあまり伸びないんじゃないかな。」

 

 

・・。

 

「最後に甘い抜け球、何球かあったよね。あれを捉え損なうのは正直致命的だと思う。」

「僕も含めてホームランを多く打つバッターは相手の失投を高い確率でホームランにしてるんだ。難しい球を無理に運ぶことはあまりしないし、そう簡単には出来ないからね。」

 

 

・。

 

 

「ホームランバッターに限ったことじゃない。優秀なバッターは失投を確実に捉える。」

「そこを捉え損なうバッティングを僕は薦められない。」

 

 

 

 

「島風ちゃん。」

「ホームランは頭の隅に置いておく程度にして出塁を心がけてみるといい。」

「さっき由之助に動画を見せてもらったよ。君の足の速さはスタートからベースランニングまでどれも相手にとって脅威になr」

 

「し、島風ちゃん!?」

 

 

 

目の前が何も見えない。

私の心情が視神経に影響を与えたのか、いや違う。

頭のデカリボンが垂れ下がっているのだ。ちょうど二つのリボンが私の両目をふさぐ様にしてね。

これ、実は私の脳波を感知して形態を変えるセンサーみたいなものでね。

表情が少し乏しい私でも周りに今抱いている感情を発信できる優れものなんだ。

・・・嘘だよ。

なんで垂れ下がってるのかは私にも分からない。

 

だけど今の私には好都合だよ。

多分かなり落ち込んだ顔してるし。折角教えてもらっておきながらこんな顔見せるのは失礼だからね。

 

 

「ああ、ごめんね。少しきつく言い過ぎたかもしれない。」

 

「だけど、今君は向いていないことをやろうとしている。それに艦娘はそれ以上の成長がないんだろう?」

 

「そうなると申し訳ないが根本的な解決は難しいよ。だったら出来ることを思いっきり伸ばしていくべきだ。」

 

「島風ちゃんなら間違いなく活躍できる。例えホームランが打てなくても、バッティングセンスはいいものを持ってる。」

 

「それに君のスピードはとんでもなく大きな武器になる。チームを勝たせられるくらいに大きな武器だよ。」

 

 

 

「あ、ありがとござます・・。」

 

 

ゆっくりと話す皆川さん。でも中々頭に入ってこないよ。

落ち込みが激しい。呂律も回ってない。

困ったな、どうしたらいい。

これ以上この場にいるのはちょっとつらいな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

□□□

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気づくと港にいた。

私のお気に入りスポット。いつも一人でボーっとしたいときはここにくるんだよね。

 

あの後どうしたんだろう。

多分なにかと理由をつけて抜け出してきたんだと思う。

何ていったかは分からないけど、皆川さんの申し訳なさそうな、困ったような顔は覚えてるよ。

・・・悪いことしたなぁ。折角教えに来てくれてたのに。

 

多分期待が大きすぎたんだ思う。

きっと私の希望を叶えてくれるって。司令官だって同じプロだったのにね。

皆川さんと同じくらいか、それ以上の野球選手。

どっちも同じこと言ってたし。2人が正しい、私のためを思ってのアドバイスだったと思う。

 

まあね、頭のどこかでは感づいてたんだよ。

駆逐艦は他の艦種に比べて機敏に動けるけど、その一方で筋力や体のサイズに劣る。

改二改装を経て駆逐艦の性能を逸脱した夕立ですら20本の壁は簡単には超えられないもんね。

 

周りの子に比べて一回り体が大きくても所詮は駆逐艦。

身体的には成長出来ない艦娘にとって艦種の差は絶対だし。

技術や向ける意識の方向である程度スタイルが変わってもあくまで"ある程度"

突然30.40本打てるようにはならないしなれない。

・・・でもな~。

 

見ちゃったんだもん、あのホームランを。

鳳翔さんと一緒に見たあの試合で。

うおおおおお!!って思ったよ。こんな風になりたいっ!ともね。

「駆逐艦だからしょうがない」って。諦められるほど大人じゃなかったよ。

 

 

 

体育座りの膝の間に顔を埋める。

デカリボンは相変わらず垂れ下がっている。

少し時間が経っただろうか。島風の隣に座る気配があった。

主張しすぎず、しかしはっきりと香る良いにおい。

少し前に、同じような香りを嗅いだことがある。

 

島風は顔を上げ隣へ向く。

そこには。

 

 

 

 

陶器のように白い肌。

青みがかった長い髪は肌の白さを一層際立たせている。

起伏のある体つきは彼女のもつ幻想的な雰囲気も合わさってある種の妖艶さを醸し出す。

赤い目は妖しくも優しい眼差しで島風を捉えていて。

 

 

 

「扶桑。どうしたの?」

 

 

 

扶桑型戦艦 一番艦 扶桑。

 

 

 

「頭の違法建築、まだ煙噴いてるよ?」

 

 

 

が、中破寄りの小破状態で島風の横に腰を下ろしていた。

 

 

 

 

「扶桑って結構直り遅いよね。」

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