隣に座るまで全く気づかなかった。
扶桑って結構身長高いんだよ。艦装が横にでっかいから目立たないけどね。
赤い目で見つめられるのは結構びびるけど、そのうち慣れるよ。目つきは優しいからね。
ゆっくりと隣に腰を下ろす。
雰囲気に似合わず結構なミニスカ穿いてるからさ、体育座りは結構きわどいよ。
・・・私が言えることじゃないか。でも今はジャージだから、別にきわどくないよ。
目線を上げると、お馴染みの違法建築髪飾り。
妹の山城とおそろの髪飾り。まあ二人とも美人さんだしね、何つけても似合っちゃうよ。
・・・流石に折れて煙噴いてると間抜けに見えちゃうけどね。
まだ小破してるの、そんなにダメージ入ってたのか。改めて申し訳ないな。
「小破・・、まだ直らないんだね。・・なんかごめんね。」
私が謝るとフフっと笑って。
「戦艦は直りが遅いから。気にしなくてもいいのよ。」
って。
まあ戦艦の人たちは少しの傷くらいなら平気でほっといちゃうからいいのかな。
・・・でも煙噴いてるのは・・・いいのかな、私はどうかと思っちゃうけど。
というか物理的な傷はなかったはずなんだけどね。
モクモクと煙を立ててる髪飾りはどうしても気になっちゃうけど。今は気にしないでおこう。
それよりどうしてここにいるのか、そっちのほうが気になる。
「なんでこんなところにいるの?直ってないなら病室でゆっくりしてればいいのに。」
「ええ、そうしておくつもりだったのだけれど。皆川さんがいらしてるって聞いたから。ご挨拶をと思って。」
そういえば鎮守府が発足した頃は司令官のチームメイトもよく遊びに来てたんだっけ。
深海棲艦もまだいたころなのに。まあ日本はかなり平和だったからね。
司令官は経緯が経緯だし、自覚が足りないなんていう人はほとんどいなかったんだろうね。
人型撃滅作戦はかなり激しかったけどその前後はほとんど侵攻もなかったっけ。
古株の艦娘だったらドライアンツの選手ともある程度面識があるんだよね。
叢雲なんかは初期艦だからレギュラーの面子に野球教えてもらってたらしいし。おかげで叢雲うまいし、ズルイ。
・・・そう考えると案外平和だったね、日本。
扶桑もそんな感じ。
買ってきてくれたお土産を食べながら色んなこと聞いてたんだって。
そのとき気に入ったんだろうね。ひよこのお饅頭はおいしいって、今でもよく食べてるよ。
「皆川さんには会えた?」
「ええ、お変わりなく元気そうでしたよ。」
「うん。元気そうだったね。」
私も会ったしね。
失礼なことしちゃったけど。
「島風ちゃんには悪いことをしたかなって言っていたわ。」
どこから取り出したかのか。
ひよこのお饅頭を食べながら話す扶桑。
「それ、私にも一つちょうだい。」
「ええ、どうぞ。」
私も一つほおばる。
これ皮もおいしいよね。甘くて。
一気にほおばると口の中モサモサするからゆっくり食べないと。
「そっか、悪いことしたのはこっちなんだけどね。」
「ほうなんふぇすふぁ?」
扶桑さぁ、一気に頬張ったな。
口に手を当てても膨らんでる頬っぺたは隠れてないよ。
ふぅ。見た目と物腰は大人っぽいけどこういうところあるよね。
いそいそと口の中の饅頭を処理していく扶桑。
飲み込んで落ち着くまで待とうか。
□□□
「そうなんですか?」
「うん。」
しばらくモソモソやってたけどようやく落ち着いたみたい。
扶桑が話の続きを始めた。
「ホームランをたくさん打つ方法を教えてほしいって。」
「ほう。」
「しばらくバッティングを見てもらってたんだけどね、あんまりホームラン狙わないほうがいいんだって。」
「それはどうして?」
「無理をしないと打球に角度がつかない、逆方向に大きい当たりが出にくい、まあ何よりパワーも足りてないんだと思う。」
「ふむ。」
「まあ駆逐艦の限界だよ。・・・扶桑は直近のシミュレーション、成績どのくらいだったの?」
ふと気になったんだ。
横にいるのはホームランの打てる戦艦クラスだからね。
「えーっと、ちょっと待ってくださいね。」
そういって扶桑は袖から取り出したタブレットを操作する。
あれ、鎮守府にいる艦娘は皆持ってるんだ。色んな機能があるんだけどね、その中に自分の成績が見れるアプリも入ってるんだ。
自動更新だよ。妖精さんすごいよね。
「ああ、ありました。私は.297 34本 83点ですね。」
立派な成績。
これで扶桑はキャッチャーだからね。貢献度は計り知れないよ。
あの赤城さんとバッテリー組んでるし。
「すごいね、ホームランたくさん打てて。」
「いえ、私は長打を打てないと塁を詰まらせてしまいますので。これくらいがやっと及第点ですよ。」
「詰まる・・?」
「私は足が遅いから、単打だけじゃ中々点に繋がらないの。」
「でもホームラン打ってるから問題ないんじゃないの。」
だって打てば足の速さなんて関係ないんだし。
一人で一点入るんだから、これ以上の得点効率は無いよね。
「でも打てないときのほうが多いの。特に相手が良いピッチャーならなおさらね。」
むう。まあ確かに一線級のピッチャーからは中々打てないけど。
「そもそも連打が期待できないような相手だと私が単打を打っても得点の期待は薄いわ。」
「・・・ヒット一本じゃホームに帰ってこれないから?」
「ええ、ランナー一塁に私が居たとして、後続のバッターがツーベースを打っても。」
「例えそれがツーアウトの時でも中継プレイで大きなミスが起きない限り私じゃ帰ってこれない。」
「・・。」
「そうするともう一本ヒットが必要になるの。」
「うん。」
「私が二塁に居て後続がヒットを打ったときも多分私は帰ってこれないわ。」
「うん。」
「チャンスが見込めないピッチャーを相手にしたとき、ヒット一本で帰ってこれる・これないはとても大きな差になるの。」
「余計に一手必要になると途端に得点の期待が出来なくなるから。」
「まあ、バッターは3割打てて一流だからね。裏を返せば7割はアウトになるってことだし。」
「ええ。やっと3割を手繰り寄せたと思ったらもう一度手繰り寄せなくてはいけなかった、大変なことよ。」
扶桑の言いたいことがなんとなく読めてきた。
ああ、だから司令官や皆川さんは・・。
「でもこれが島風ちゃんだったらどうかしら。」
「ツーアウト一塁でランナーが私?」
「ええ、そして後続のバッターがツーベースを打ったとして。」
「ツーアウトであろうと無かろうとホームに帰ってこれるよ。足柄さんのレーザービームでも余裕で帰れるね。」
「ランナー二塁のシングルだったら?」
「前進守備で正面の打球だったら難しいかな。でも少し横に逸れるようなら帰っていける、自信もあるしそうしてきたからね。」
「そうでしょうね。島風ちゃんが塁に居れば得点までの手数を大幅に減らせる。バッテリー側から言わせてもらうととても厄介な相手になるわ。」
だから出塁率か・・。
だからヒットをたくさん打つようにって・・。
「単打でも私が塁に出た時点で要警戒ってこと?」
「ええ。長打を打たれれば一点。警戒が疎かになれば盗塁をされて一気に得点圏でピンチに。島風ちゃんに気を割きすぎるとバッターとの勝負に支障をきたす。もちろん配球にも影響が出てくる。」
「わたしからすれば、2割30本の島風ちゃんより3割で出塁率の高い島風ちゃんのほうがよっぽど怖いわ。」
機動力で得点効率を上げる。
ホームランが打てなくても機動破壊なら出来る。
『それに君のスピードはとんでもなく大きな武器になる。チームを勝たせられるくらいに大きな武器だよ。』
皆川さんの言葉を思い出す。
チームを勝たせられるくらいの大きな武器か・・。
最近は自分の成績しか気にしてなかったから忘れてたけど、そういえば野球ってチームスポーツだったね。
私が塁に居ることでチームの得点効率を上げる。
・・・ふぅ。
「ありがと、扶桑。もう少しで吹っ切れそうだよ。」
「?」
「なんでもないよ。」
モヤモヤも若干晴れたよ。
完璧に晴れさせるにはあと一手ほしいね。
諦めるための一手。ある。あるよ。今この鎮守府にある、その一手が。私が一番諦められる一手がね。
帰っちゃう前にもう一度、しっかりと謝ってから見せてもらわないと。
そうと決まったら急ごう。
立ち上がったら目の前も晴れた。デカリボンがまっすぐ立ってるよ。
・・・ほんとに私の脳波をみてる?
横で「?」を浮かべてる扶桑に「ありがとね。」って。
「いえ、私は何も・・・。」だって。
奥ゆかしい美人さんだね、含みのある表情も様になってるよ。
□□□
扶桑にお礼を言うと島風はグラウンドへと走っていった。
あっという間にその背中が小さくなる。流石は鎮守府一の快速といったところか。
□□□
ふぅ。と一息。
何となしに伝えようと思ったのだけれど、結局直接的な表現になってしまったわ。
でもよかった。島風ちゃんは元気なほうがかわいいから。
皆川さんへ挨拶に行ったら提督と皆川さん、二人して落ち込んでるんだもの。
「お前ならうまくアドバイスを送ってくれると思ったのに・・。悪化したんじゃないか?」
「・・・いや僕もあんまり口はうまくないほうだし。」
「そういえばそうだったな。・・・どうしようか。」
「・・・やっぱり言い過ぎたのかな。」
ふふふ。今思い出しても面白い光景。
私もあんまり口はうまくないんだけれど、あの二人よりは・・・ね。
そういえばあともう少しで吹っ切れそうだって言ってたけど・・。
あと少し・・、なにかしら?