元野球選手が鎮守府に着任しました。   作:ポンセ

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幕間 『島風ちゃんとフルスイング』 終

っと。グラウンドへ到着。

私は足が速いからね。こんな距離なら速攻だよ。

 

 

皆川さん、まだ帰ってないといいけどな。

・・・よかった、まだいたよ。司令官と話してる、いいね司令官ナイスだよ。

 

 

「皆川さん。」

 

「ん、ああ島風ちゃん。さっきは・・ちょっときつく言い過ぎたよ、ごめんね。」

 

 

かがんで目線を合わせながら謝ってくれた。

う~ん、かなり気を使ってくれたよ。

すごい罪悪感。

 

 

 

 

 

 

□□□

 

 

 

 

 

 

「いえ、私のほうこそ、折角教えに来てくれたのに途中で飛び出したりしてごめんなさい。」

 

 

そう言うと島風は深く頭を下げる。

普段の印象とは違う、おふざけのない誠意ある謝罪だ。

 

また島風にきつく言わなきゃならんのかと思ってたけどこれなら。

それくらいにしっかりとした反省が見える一連の動作だった。

城一郎も気にしてないしこっちも悪かったって言ってたしなぁ。

まあ今回は後で俺が謝って終わりでいいか。

 

 

頭を上げた島風の表情を見て改めてそう思う。

今まで見たことないくらいしっかりしてる。それはそれでなんか腹立つけどまあいい。

 

 

 

 

 

 

□□□

 

 

 

 

 

 

 

こんなに真剣に謝ったのは多分はじめて。

それくらい悪いことしたと思ってるんだよ。ほんとにね。

・・・はじめては言い過ぎたかな、何度目か。数は少ないよ。

 

 

それはそれとして。

皆川さんにはどうしても見せてほしいものがあるんだった。

私が吹っ切れる最後の一手、見せてもらわなきゃね。

 

 

 

「あのお・・。それでですね。」

 

「?」

 

「出来ればでいいので、皆川さんのバッティングを見せてもらえませんか?」

 

「僕のバッティングを?・・・別に問題ないけど、なんでかな?」

 

「いつもテレビで見てて、是非一度目の前で見てみたいなあって。」

 

「おお、ありがとう。お安い御用だよ。」

 

 

 

そういうと皆川さんはバッティングケージへ向かってく。

左打席に立って、おぉ。テレビで見るフォームだ。なんて思ってると雰囲気が一気に変わる。

実際にマウンドから見たらどれだけの威圧感があるんだろうね。

私はピッチャーじゃないからわからないけどきっとすごいと思うよ。

 

 

マシンは司令官が。

設定は「読日ドライアンツ 岡部」だって。・・・おおぅ岡部!?

チームメイトじゃん、右のエースじゃん、投手4冠じゃん!

司令官さぁ。ちょっとは空気読んでよ。

私がジトーっと司令官を睨むと横目でこっち見てくる。気づいたみたい。

 

 

「島風、心配はいらん。実物じゃないんだ。マシンならあいつは打てるよ。」

 

「でもさぁ・・。」

 

「それに島風も本気の皆川 城一郎が見たいだろう?」

 

 

う~ん。それを言われるとそうだとしか言えないよ。

皆川さんも表示を見たみたい。ちょっと苦笑いしてるよ。

でも雰囲気はさっきと変わらず、むしろ凄みが増してる?

 

 

「城一郎。さっきの島風と同じ10打席勝負にしよう。」

 

「それでいいよ。」

 

 

だって。

司令官も表情が真剣になった。

大丈夫なのかな・・。

 

 

 

 

 

 

□□□

 

 

 

 

 

 

リモコンからマシンへ命令が送られる。

マシンは唸りを上げボールを射出する準備を開始した。

設定は右の豪腕、最速158kmのスーパーエースだ。

 

 

 

 

 

 

 

□□□

 

 

 

 

 

 

 

バアンッ!!

とんでもない音を上げてボールがミットへ収まる。

速度表示は156キロだって、はっやい。

 

そして皆川さんは豪快に空振り。

・・・あのさぁ司令官。司令官さぁ、あのねぇ。

ジトーっとした目を司令官に向ける。

む、横目で気づいたみたい。

 

 

「あのなぁ島風。シーズン中ならいざ知らずオフの期間中で尚且つ一球目だぞ。そんな簡単に合わせられるわけないだろ。」

 

「もう!だったらもうちょっとしょっぱいピッチャーにしなよっ!!これじゃぁ見たいものも見れない!」

 

 

いやほんとにそうだよ。

これで吹っ切ろうと思ってるのに!

 

 

「大丈夫だ。あいつは打席の中で修正が出来る。」

 

「でも相手がエースじゃ・・。」

 

「それにさっきも言ったが相手はマシンだ。」

「次は合わせてくるよ。」

 

 

司令官も自身満々。

むう、そこまでいうなら。

ヌッと司令官の手元を見てみる。ほうほう次はストレートか。

 

ピッと。リモコンの操作音がなるとマシンが唸りを上げる。

・・・大丈夫かな。って思ってると・・・。

 

 

ガンッ!!って何かがぶつかり合う音。

 

 

 

打球をあわてて目で追ったけど・・・どこ?

スタンドに目を向けるとボールが大きく跳ねてた。

あれ今打った打球だよね。・・・え、速過ぎない?

ボーっとスタンドの方向を見てると司令官が声をかけてくる。

 

 

「島風、リモコンを覗き込む余裕は無いぞ。」

 

「え、ああうん。」

 

「あいつの打球はなぜか綺麗な放物線を描くけどゆっくり眺めれれるほど情緒のあるもんじゃない。」

 

 

しまった・・。次は見逃さないようにしないと。

・・・でも次あるのかな。司令官は本気で仕留めにいこうとしてるし。

むう、大丈夫かな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

□□□

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結果から言えば心配はいらなかった。

皆川さんの打球を見ながら私は思う。

 

 

(やっぱり凄いよね。)

 

 

ボールが破裂したのかと錯覚するくらいの打球音。

放たれた打球は美しい放物線を描きながらスタンドへ突き刺さる。

こんな打球を打てるバッターはこの鎮守府にいるだろうか。

大和、長門、陸奥、金剛。・・・どれも遠く及ばない。差は歴然だった。

 

 

150キロを超えるストレートを。

キレのあるスライダーを。

ブレーキの効いたカーブを。

落差のあるフォークを。

 

 

巧みに組み立てられたはずの配球でも構わずスタンドへ弾き飛ばす。

打球を上げようという動作は見られない。

無理の無いスイング、ボールを捉えればそのほとんどが高々と舞い上がる。

 

 

打球方向も様々だ。

引っ張りもあれば逆方向もある。

来た球を素直にはじき返す。それだけであんなにも飛んでくなんて。

 

 

(やっぱ憧れるなぁ。)

 

 

持ってるものがまるで違う。

いくら皆川さんのようになりたいと頑張ってもこれでは無理。

 

 

皆川さんのバッティングを見てるとだんだん心が晴れてきた。

うん。これでようやく吹っ切れる。諦めが付くよ。

 

 

憧れは憧れのまま。

そこを目指して到達できる人のほうが少ないんだから。

 

それに私はこれからチームで戦うんだもん。

自分勝手な振る舞いは出来ないよ。

 

 

少しだけ悲しいけどホームランを追うのはおしまい。

気が付けば10打席目が終わる。打球は高々と舞い上がり当然のようにスタンドへ落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

□□□

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとうございました!」

 

 

オフシーズンなのにも関わらずバッティングを披露してくれた皆川さんにお礼。

とんでもないバッティングだったよ。いやほんと。

ガンガン打ってバンバン入るの、やっぱプロは違うよね。

 

 

「どういたしまして。」って。

やっぱり紳士だね、うん。

 

 

「今度はいつこれるんですか、また来てください。」

 

「うん、またくるよ。」

 

 

なんて会話をしながら玄関までお見送り。

タクシーに乗って帰ってくときは名残惜しいよ。

次はもう少し違った私を見せれるといいな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「ふう。」

 

 

シミュレーターから島風が出てくる。

ちょうど今1シーズン分を終えたところだ。

 

 

「.292 10本 57点 41盗 出塁率は・・・.347かぁ。」

 

 

ディスプレイを操作してより詳しい成績を確認していく。

 

「盗塁もうちょっと増やしたいな、増やしたい。・・うげ、成功率7割切ってたよ。」

 

「やっぱり変化球苦手だな~、外角の抜けてく変化球はどうにか見逃せないと三振減らない。」

 

「三振が89個か~、ちょーっと多いなぁ。」

 

 

大きなリボンを揺らしながら自分の残した成績に一喜一憂している。

その表情はどこか明るい。

 

 

「変化球をどうにか対応していきたいなあ。・・・あ、教えてくれる適任がいるじゃん。」

 

 

そう。我等が司令官だ。

 

通産3割を余裕で超える歴代屈指のアベレージヒッター。

そうと決まれば善は急げ、自慢の快速を飛ばして司令官の部屋へ駆けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

□□□

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、俺のところにきたと。」

 

 

「うん。」

 

 

 

このやりとり二回目だよね。

横には秘書官の叢雲がいる。こっちにもあとで色々聞こ。

 

 

「変化球の打ち方か・・。いいだろう、打ち方を教えてやる。」

 

「ほんとぉ!ありがとう司令官!!」

 

 

よっし!

流石司令官。太っ腹だよね!!

ふっと視線をずらすと叢雲が。ん、なんか微妙な表情で司令官見てるね。なんだろ。

 

 

「いいか島風、変化球を打つといっても基本的に待つのはストレートだ。」

 

「うんうん。」

 

「お、メモを取るのか。いいな、良い心がけだ。」

 

 

冷静に考えて司令官の成績って凄いからね。私の到達点みたいな成績。

ちょっと尊敬しちゃうし、メモも取ろうって思うよね。

 

 

「続けるぞ。基本はストレート待ち。」

 

メモメモ。

 

「そこで変化球を投げられたら。」

 

メモメモメモ。

 

「あっ思って、そうすると体が一瞬止まるんだ。」

 

メモメモメモメモ。

 

「そしたら自然と変化球にタイミングが合うからそのままスイングすれば捉えられる。」

 

・・・ふぅ。

 

「以上だ。」

 

 

はぁ。クシャクシャ、ごそごそ。

 

 

「待て島風、なんでメモをクシャクシャにしてポケットに入れたんだ。」

 

「なんでって、全く参考にならないからだよ、司令官。」

 

「いや、簡潔で分かりやすいだろ。」

 

「言ってること自体は分かりやすいよ。でも言ってる意味は全くわかんないよ。」

 

 

なんてこった。この司令官は理論っぽい理論を持ってないよ。

横を見ると叢雲が呆れた表情してる。知ってたんだ、司令官がこんなだってこと。

 

 

「はぁ、あのなぁ島風。俺はこれで2000本打ってるんだ、それだけで説得力のある打撃理論だぞ?」

 

「はぁ、あのさぁ司令官。今の説明で打撃理論なんてよく言えたよね?」

 

 

思わずジトーっとした視線を向けちゃう。

いや、ほんとひどくない?この司令官。叢雲も呆れとったわ!!

夕立に聞いたほうがまだ有意義だよ、ほんと。

 

 

「もう、バッティングは叢雲に教えてもらうからいいよぉ。あ、盗塁のコツ教えて!」

 

「叢雲聞くのか・・。まあいい、合う合わないはあるからな。ん、盗塁も教えてほしいのか。いいだろう。盗塁のコツを教えてやる。」

 

 

・・・デジャブ感じるなぁ。

一応メモしとこ。

 

 

「いいか島風。盗塁するにもまずは塁に出なきゃ話にならない。」

 

ふむ。

 

「まずは打撃を磨いてとにかく出塁率を上げる。ここがたくさん盗塁をする大前提なんだ。」

 

ふむふむ。

 

「あとは相手バッテリーの配球を読むこと。ストレートより変化球のほうが成功する確立は高いからな。」

 

ふむふむふむ。

 

「そして出来れば2球目までには走っておきたい。じゃないとバッターがどんどん不利になってしまう。」

 

おお。なるほど。

 

「ちなみに盗塁成功率は最低でも7割後半、及第点は8割だ。それ以下は走らないほうがましとまで言われてるしな。」

 

さっきとは違う。具体的に心がけることとか分かりやすいよ。

・・・でもなんでだろう、叢雲の表情がやっぱり微妙なままだよ。

 

「そして盗塁のコツだが・・・。」

 

「コツだが・・・?」

 

「まず1打席目に出塁をして相手ピッチャーの動きを良く見る。牽制と投げるタイミングをなんとなく把握できたらあとは走るだけだ。」

 

 

はぁ。

 

 

「・・・不服そうだな、島風。」

 

「今回は破らないでおくよ、ためになることあったしね。」

 

「大分わかりやすいコツを教えてはずだがなぁ。」

 

「牽制と投げるタイミングをなんとなく把握したらって・・・これコツって言えないよ。」

 

 

叢雲も思わず苦笑。

多分前に聞いたことあるんだろうな。

 

 

「むう、もういいよ。こっちも叢雲に聞くから。」

 

「う~ん。わかりやすく話したつもりなんだが・・。」

 

 

腕を組んで首を傾げる司令官。

もうちょこっとしっかりしてよね。

 

「叢雲、今から一緒に練習しようよ。」

 

 

前々から叢雲の教え方はわかりやすいって評判だったし。

最初からこっちを頼るべきだったかな。

叢雲のほうもちょうど仕事が終わったみたいで、ん~っと伸びながら

 

「いいわよ、司令官の不始末のフォローも秘書艦の仕事だし。」って。

司令官をみてからかうように笑いながら隣の部屋に、グラウンドに行く準備かな。

 

 

「不始末。そこまで分かりにくいか。夕立あたりは『ぽいぽい』言いながら理解してたんだがなぁ。」

 

ぽいぽい相槌するときの夕立はあんまり理解できてないと思うよ。

まあ司令官って天才だし。考えなくても出来ちゃうのかな。

でも悪いところとかは分かりやすく指摘してくれるんだよね。そこはいいとこ。

 

 

「お待たせ。いつでもいけるわよ、島風。」

 

 

叢雲の準備も終わったみたいだし、グラウンドに戻ろうかな。

 

 

「司令官。」

 

「ん、なんだ島風。」

 

「時間出来たらグラウンド来てね。」

 

「ああ、気をつけていってらっしゃい。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

□□□

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あんた、ホームランはもういいの?」

 

叢雲が不意にね。

聞いてきたんだ。

 

「あれだけ打ちたがってたわりに今は落ち着いてるじゃない?」

 

「う~ん、もういいってわけじゃないけど・・。重きは置かないって感じかな。」

 

「あら、またなんで。」

 

「ん~、話すと長いからなぁ・・。チームのことを考えたときに今の私のほうが絶対貢献できる。って感じで、意識をね。」

 

「ふ~ん。」

 

 

ふ~んだって。

あんまり興味ないのかな。って思ってたら。

 

 

「いいと思うわよ、私。そういう考え方って。」

 

「ふふん、ありがと。」

 

 

フフ、気分いいね。

これからはシミュレーションじゃないからね。自己満足じゃだめなんだ。

 

 

「でも。」

 

「ん?なに、叢雲?」

 

「完全にホームランを諦めたわけじゃないでしょ?」

 

 

 

・・・。

 

 

 

「もっちろん!やっぱり最高はホームラン!ここはずっと変わらないよ。」

 

 

無理に狙っていかないってだけ。

シチュエーションが許すならバッチリ狙っていくよ。

甘い球が来たら、だけどね。難しい球で無理するとバッティング崩れちゃうしね。

叢雲のほう見たらクスクス笑ってる。むう、玄人にはおかしく聞こえるのかな。

 

 

「いいわね~、やっぱホームランよね!打ってなんぼよ!」

 

 

流石は叢雲。分かってるね!

やっぱりホームランが最高だよ。

 

 

「叢雲も狙ってるの?」

 

「ん~、基本は狙ってないわね~。戦艦連中みたいにバカスカ打てないから。」

 

「艦種の差って残酷だよね。」

 

「ほんと、ほんとそう思うわ。でも大きいの打つだけが野球じゃないし。私たちは機動力で徹底的に破壊してやればいいのよ。」

 

「だよね。やっぱそうなると完成系は司令官かな~。」

 

「あら、随分高い目標ね。」

 

「あ、やっぱ凄い高いかな、司令官って。」

 

「アドバイスこそヘッポコだけど野球の実績は怪物そのものだから、司令官って。」

 

 

フフ、盛り上がるね。

目線が同じだと共感することも多いよ。

 

 

「そういえばこの前皆川さん来たんだってね。」

 

「うん。」

 

「バッティング、見せてもらった?」

 

「うん。」

 

「どうだった、皆川さんのバッティング。」

 

「ん~・・・神だったね。すっごい神だった、うん。」

 

「すごいわよね、あの打球。」

 

「憧れちゃうよ~。」

 

「あら、目標は司令官じゃなかったの?」

 

「目標はね、でも憧れは変わらないよ。」

 

 

目線が変わっても憧れは変わらないよ。

私が野球したい!って思うようになった原因だからね。

 

そこは心に留めておいて、これからも野球してくよ。

 

 

 

 

 

 

フフン、私バッティングセンスあるって、皆川さん言ってたからさ。

司令官だって超えちゃうかもよ?




これでこの幕間はおしまいです。
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