「うぅ。そんなにハッキリ言わなくてもいいじゃないですか・・。」
「あぁ。ごめんごめん。結構気にしてたんだね。」
そういってあっけらかんと少女は笑う。
球磨型軽巡洋艦 三番艦 北上。
その能天気な口調にだまされるべからず。
比類なき雷撃能力から繰り出される攻撃は敵主力といえど問答無用で撃滅。
海上に広がる爆炎を背に帰還するその様は武神のごとく。
相方の大井と共に戦場を駆けることが多く、称える意味もこめて「ハイパーズ」と呼ばれるようになった。
そんな彼女も大戦が終結以降は野球にのめりこんでいる。なぜかは分からない。
この鎮守府の艦娘は皆野球が好きなのだ。
なぜかは分からない。
□□□
アッハッハーって。
北上さんがケラケラ笑ってます。
悪意はからっきし、ないんでしょうけどね。
今の私のハートにはザクッとくるんですよ・・。グサッでしたっけ?
いつもは駆逐艦の子達に囲まれてるんですけどね。
もしくは大井さんが傍にいるか。
でも今日は珍しく一人ですね。
「今日はお一人で?」
「ん?うん。偶にはね。ていうか一人の時間好きだからこっちがデフォなんだけどね。」
「はあ。」
多分北上さんもシミュレーションをやってたんでしょうね。
横に並んでるディスプレイに「北上's result」って出てますし。
「隣失礼~。」
そう言って北上さんはディスプレイにタッチ。
おっと。人の成績を覗き見るのはちょっといけませんね。
・・・でも人の成績って気になりますよね。
それにさっき私の打点見て少ないって言ってましたし。
自分のディスプレイに目を向けつつちょーっと、ちょこーっと北上さんのディスプレイを横目に入れます。
「大和~、横目で見なくてもガッツリ見ていいって~。」
「・・・ばれてましたか。」
「目つきが怪しかったよ。すっごいわかりやすかった。」
「はは・・。すみません。」
「いいよ~別に。」
今度からはもっとうまくやりましょう。
気を取り直して。北上さんのディスプレイに目を移します。ガッツリと、それはもうガッツリと。
「~♪」
鼻歌歌いながらパスワードを入力してますね。
よほど成績が良かったと見えます。
フッフッフ、だったらお手並み拝見ですね。
拍子抜けだったら私の口もいささか辛くなっちゃいますよ?
パッと。画面が切り替わります。成績画面が開きました。
「ん~。安定感ないね~。打率は・・.274か。ホームランも16本だし。」
「大和~、どう?私の成績。パッと見どんな感じ?」
「ん?大和?お~い。」
スゥーン。(言語野機能がスリープする音)
・・・・!・・・・!?
??・・・・!・・・・???!!
※%$#!!??・・・???
「大和~。」バシバシ
カチ、スゥーン。(言語野機能が再起動する音)
ハッ!!
あぁ。言葉が・・。失われて・・・。
絶句!まさに絶句状態・・・!
「ご、ごめんなさい。ちょっとありえないものが見えてしまって。」
「ありえないもの?ん~、何か変なとこある?」
「ええ。色んな数字に比べて一つおかしいものが・・。」
「?」
まさか。本当に気にしていないと、この数字を?
「打点が・・・。」
「ああ。今回はまあまあだったね~。」
北上さんの数字。気になります?
発表しちゃいましょうか。以下、北上さんの成績、一部抜粋となります。
.274 16本 112点
ハハハ・・・、ハァ。
そんな馬鹿なことが・・・。16本のホームラン全部満塁ホームランでもぜんぜん足りない。一体どれだけのタイムリーを・・。
なんでしょう、信じられませんね。
「得点圏打率!得点圏打率を見せてくれませんか。北上さん!」
「ん?いいよ~。」
ピッピッとディスプレイの操作音が響きます。
あ、三振あんまりしてない。犠牲フライの数は多いですねぇ。
外角のほうが得意なんですか・・・ふむ。
「出たよ。」
「あ、ありがとうございます。」
他のデータにも気を取られていました。
他人の数字、気になりますよね。ね?
まあいいでしょう。
さてさて、どれどれ。
画面を確認しましょうか・・・と。
画面を覗き込んだ私の目に飛び込んできた数字はあまりに信じられないもの。
まぶたが目を覆うよりも速く、私の網膜に焼き付いてしまいました。
「.489・・って。」
得点圏で勝負するのが馬鹿らしくなっちゃいますね。
「状況別打率・・・。あぁ、ランナーの人数別の打率か。大和、こっちも見る?」
「ぜ、ぜひ!」
ランナー1塁の時、1.2塁の時、満塁の時、みたいな。
各状況時の打率も集計されてるんですね。このシミュレーター改めてすごい。
さて、どんなものか。・・・・満塁時.600。
フフ。なんでこんなに違うんでしょうね。(私は通算で.120でした)
「う~ん。1.2塁の時にゲッツー多いなぁ~。確かに正面つくこと多かったしな~。」
この成績で反省・・!(私もゲッツーは多いですよ。シーズン25個くらい。)
いつもは何点くらい取ってるのでしょうか。
聞いてみましょう。
「ちなみに北上さん。」
「ん?」
「平均では何打点くらいなんですか?」
「ん~大体120点台かな~。」
「120点・・。」
「今回はゲッツーがちょっと多かったのと4番の打ち漏らしが少なかったからね~。そこが影響してるのかな。」
「そ、そうなんですか・・。」
なんてハイレベル。というか北上さん5番打ってるんですか。
羨ましいです。
「所属チームはどこなんですか?」
「オリーンズだよ。千阪オリーンズ。」
どちらかといえば投手力寄りのチームですか。得点圏の打席数も平均ちょい少ないくらい。
ドライアンツにいたら何打点取れるんでしょうか。
てゆうかオリーンズ。随分と渋いチーム選択で。
「ドライアンツではないんですか?私もですけど、結構みんなドライアンツ選んでますよ?」
「ん~。ドライアンツも悪くないんだけどね。チームが一緒じゃん?出来れば提督とは日本シリーズで戦いたいんだよね。」
「ああ、だから別チームで。提督とは戦えたんですか?」
「戦えたよ、一回だけね。」
「おぉ。結果はどうでしたか?」
どちらかといえばあまり振るわないチームなんですけど、すごいですね。
「初戦はとったけどそこから4連敗。いや~強いわドライアンツ。5Vは伊達じゃないよ。」
「まぁ。」
「大和も思うでしょ、あの打線。回り始めると止まらないよねぇ。」
「収録されてるドライアンツ打線は歴史上でも上から5位以内には必ず入ってくるくらいの打線ですからね。」
「打っても打っても簡単にひっくり返されちゃうんだよね~。提督なんて毎打席塁にいたし。」
「1.2.3番の方々は出塁率が4割超えてますからね。誰かしら絶対塁にいますし。」
味方ながら私も引いてしまうことは多々ありましたよ、ええ。
打者一巡したと思ったら次の回にまた一巡するとか。
9点差をひっくり返すとか。
毎回2点ずつ丁寧に取っていくとか。
挙げたらキリがありません。
唯一のオアシスがピッチャーでしたから。
強いて言うなら私も・・。
あ、そういえば私一人で3アウトって場面もありましたね。
苦い記憶の扉が開きましたよ。ええ。