「では暁、これからテイクバックを見直していきマスヨ?」
「はいっ!」
場所は打って変わって室内練習場。
好き放題かっ飛ばすのなら屋外グラウンドで快晴の下が一番気持ちいい。
しかし、誰かに教えるなら話は別だ。
痛いくらいに照りつける日光灼熱地獄の中ではいくらなんでも気が散る。
とにかく今日は暑いのだ。
なので、ある程度空調の効いた室内練習場を選んだ。
汗だくで物を教えるのはまたしても、金剛の趣味ではなかった。
「さっきの映像を見ていると、暁はテイクバックを2回していまシタ。自分で意識してやっている分にはいいんですケドどうでショウ?」
「私はトップから降りおろしてるつもりでしたけど・・・2回。」
「ええ。トップの位置で一回、その後スイングに移る動きを始めるときに一回、テイクバックしてマス。」
スイングの動きを再現しながら金剛が解説する。
タイミングを取るために足を上げて、それと連動してバットをトップの位置へ。
そして足を下ろしたタイミングでもう一度バットを引き、そこからスイングへ。
「別に悪いことじゃないんデスヨ。一連の動作を折り込んでスイングしてるんだったらOK。でもこれが無意識のものだったら2回目のバットを引く時間分スイングの始動が遅れてしまいマス。これではインコースの速いボールには対応できまセン。」
「なるほど。」
「なので最初は素振りでテイクバックを一回にしてみまショウカ。」
「はいっ!」
威勢のいい返事をして暁はバットを構える。
そして金剛の前でスイングを。
□□□
「うん、いい感じデスネー。」
何回目だろうか。
ようやくトップの形が整ってきた。
「ふぅ、ふぅ、ありがとう・・ございます・・。」
肩で息をする暁。
実際スイングは優に300回を超える。
スイングの合間に金剛のアドバイスや指摘があったため、ぶっ続けでというわけではないが、それでもこの数はきつい。
それでもフォームを崩さず素振りをやりきっているのだ。
(気合は十分デスネ。)
感心感心。
しかし、気合十分とはいえこれ以上は逆にスイングを崩してしますかもしれない。
「OK、じゃあ少し休憩しまショウカ。」
「は、はい・・。」
時計に目をやると14時30分。
(ヒトヨンサンマルですカ・・。ティータイムには少し早いですケド。)
頃合としては悪くない。
とはいえ息も切れ切れの状態で紅茶は流石に楽しめない。
(ま、運動中はこれですヨネ。)
自前のティーセット・・・ではなく。
クーラーボックスからいい感じに冷えたスポーツ飲料。
ベンチへ座り休んでいる暁の横に腰を下ろし、これを手渡す。
屋内で空調が効いているとはいえ汗はでるもの。
適度な水分捕球と塩分摂取は体調管理の上でとても大切である。
「ありがとう。」
「どういたしマシテ。」
ごくごくと、喉を鳴らして飲む暁を横目に金剛は気になっていたことを聞く。
「暁は・・。」
「?」
「暁はなんで私に教えてもらおうと思ったんデスカ?」
同じ駆逐艦なら姉妹で抜群のセンスを持つ響がいるし、時雨やムラクモはガチガチの理論派、夕立もあれはあれで理論的なところもある。
艦娘同士仲が悪いという話は聞かないが、それでも同じ艦種のほうが相談もしやすいだろうに。
それにこの鎮守府には名球会入りのレジェンドバッター、福端由之助もいる。
教え方が壊滅的にへたくそだがそれでも一度は聞きに言ってみようと思うはず。
実際、金剛もそういう傾向にある。
しかし、人の考えなんてそれこそ人の数だけあるものだ。
別に同じ艦種には相談しにくいだったり、提督には聞きにくいだったりがあってもなんら不思議ではない。
だからこの質問は純粋に気になったから聞いてみただけ。
「えーっと・・。」
目を泳がせながらもにょもにょする暁。
答えにくいことなのだろうか。単純にインコース内がうまいからだけとか?
別に気にする必要なないのだが。
「ス、・・。」
「ス?」
「スマートでかっこいいと・・思ったから・・。」
「・・・ん?」
顔を真っ赤にしながらもにょもにょと暁は答える。
かっこいい・・・あまり言われたことがないからピンとこないのは金剛。
「バッティングフォームとか、あとインコース打つときのスイングとか。」
「ふむ。」
「あと細身なのにホームラン打てるところとか、力感ないところとかスマートで・・かっこいいって・・。」
「ふむふむ。」
確かに、金剛は他の戦艦勢と比べて「パワー重視」という印象は薄い。
姉妹艦の比叡、霧島と比べてもやはり薄い。
多分「他の戦艦と比べて」という所がポイントなのだろう。
パワーがあり、しかし反面鈍足である。これが戦艦のレッテルとでもいうのだろうか。
それでいえば、金剛は確かに毛色が違う。
戦艦でありながら、内野守備の要であるショートを守っている。
スイングに力感がない。足がそこそこ速い。
そしてインコース捌きに見られる高い技術。
戦艦でありながら戦艦らしからぬプレイスタイルは、もしかしたら他の艦種から目標・到達点として見られているのかもしれない。
まあ、肩の強さや外角も無理やり引っ張り込めるなど、実際は彼女も十分戦艦らしいのだが。
(ふむ、これはこれは・・。普通にうれしいデース。)
実を言うと、金剛もそうあろうと努力をしてきた。
比叡はパワー寄り、霧島にいたっては脳筋類と呼ばれるほどのパワータイプ。
長門はナガト・ナガトだし大和はそもそものサイズが大きい。
扶桑・山城もあまり機敏では無いし、あの陸奥ですら無理やりスタンドに押し込むような品のないホームランを打つ。
イギリスを愛するものとしては力こぶを想起させるプレイスタイルは好ましくない。
汗臭いイメージはここでも、金剛の趣味ではなかった。
だからスタイリッシュなイメージのあるショート守備をたくさん練習した。
スイングも提督の言う「芯で捉える」を金剛なりにどうすればいいか考え、ここを根幹に据えてスイングを作った。
芯で捉えれば力まずとも長打は打てる。
長門のような体は完全にレフト方向に振り切っているのに打球はライトへ飛んでそれがホームランになるあっちむいてほい打法はそれこそ美学に反する。
その他にもたくさんの練習をしてきたのだ。
それがこのような形で実を結んでいると知れば目頭も熱くなるというもの。
(これはますますどうにかしてあげたいネー。)
目の前の悩める女の子にどうにか打開策を授けたい。
頑張ろうと、そう心に決めた瞬間だった。
□□□
「OK、そういうことならますます張り切っちゃうネ!いきますよ?暁!」
「はいっ!」
ニカっと笑顔を浮かべ金剛は暁の手を引く。
大体20分くらいの休憩を経て、二人は練習を再開した。
「じゃあ次はマシンでさっきのスイングを試してみまショウ。」
「はいっ。」
威勢よく返事をし、暁はバッティングケージへ入る。
構えは今までよりもバットを引き気味に。
今まではトップまでの距離が長く、引かなければという意識が強かったのかもしれない。
そこで、トップの位置までの距離を短くすることでバットを引く動作を軽くするのがこのフォームの目的。
さて、どうなるのか。
マシンの設定は145~148キロのストレート。
コースはもちろんインコース。
マシンが唸りを上げる。
暁の緊張はもちろん、金剛も珍しく緊張。
うまくいくのかどうなのか。
そしてマシンはボールを放つ。
その後、マシンは30球ほどボールを放つこととなった。
□□□
「・・・まだ2回引いてますネ。」
暁のバッティングを見ながら金剛はつぶやいた。
今ちょうど20球が終わった。
これまで暁のバットから快音は聞こえていない。
正直、打球が鈍くともタイミングがあっていればとりあえずはそれでよかった。
テイクバックの調整はあくまで振り遅れを克服するためのもの。
芯で捉えるのはドアスイングの問題だからまた別問題である。
しかし、今暁は絶賛振り遅れ中だ。
理由は簡単。金剛のつぶやいた通りテイクバックの2段モーションは直っていないから。
「フォームは崩れてないのに・・・。なんででショウカ。」
実際、暁のフォームは崩れていない。
金剛と一緒に作ったフォームだ。素振りのときはこんなことなかったのだが。
「いっそのこと最初からトップの位置までバットを上げておいたほうが・・。いや、トップの位置から動いている以上最初の構えは問題じゃなかったのでショウカ。」
親指を顎に当て、考える。
暁はスイングが始まると同時にもう一度バットを引いてしまう。
では問題はスイング始めにあるということ・・・。
(なんでショウカネ・・・。)
いかんせん。
金剛はここで躓いたことがない。そのためいまいち問題点が掴めない。
そうこうしている間に30球が終わった。
(ちょうど区切りデスネ。今のまま続けても解決するとは思えないデスシ。)
「うーん。簡単には解決しないみたいですネー。」
「ご、ごめんなしゃい・・。」
「卑屈すぎデース。弱点を克服するんですから、誰でもトライ&エラーを繰り返すものデスヨ?」
「はい・・。」
「だからそんなに落ち込まないデ。明日からまた頑張りまショー!」
「は、はいっ!」
頭をグシグシと撫でながら暁を励ます。
落ち込みようもひどかったが少しは持ち直したようだ。
詰め込みすぎても効率は上がるどころか下がることもある。
練習場で暁と別れ、金剛は食堂へ向かう。
(時間が少し早いからですかネ。)
この鎮守府は大所帯のため、大体は賑やかなのだが今の時間帯は閑散としている。
ちょうどいい。
(その間に考えをまとめまショウカ。)
席に座りメモ帳を取り出す。
そこに暁のスイングについて思い当たる節を列挙していく。
○2段モーションの原因
・トップの位置がまだ浅い?
・スイングの瞬間、体が前後してそれに引っ張られている?
→体重移動が激しすぎるのかもしれない。
・強く振ろうとしすぎている?
→力んだ結果無意識で。
etc...
(うーん。この中では体重移動が一番それっぽいですネー。)
踏み込んだ足に体重が乗りすぎているのかもしれない。
そうなるとトップの位置も前に出てしまうのでもう一度後ろへ引く動作が生まれてるのかも。
(・・・ちょっと苦しい解釈ですかネ。)
確かに暁は踏み込んだ際のスタンスが広い。
しかし彼女も前のめりにならないように気を使っている。
(私だってそこは気をつけてみてましたシ。)
バッティングを見る限りでは特に突っ込みすぎの印象はなかった。
タブレットの録画映像を見ても感想は変わらない。
「う~ん・・・。ではどこが2段モーションの原因なんでショウネー。」
「どうした金剛。頭を抱えるなんて珍しいじゃないか。」
背後から低い声。
振り返るとそこにはお盆を持った男が一人。
いくら空調が効いているとはいえこのくそ暑い日に温かいソバを食そうとしているチャレンジャー。
「Wao!!テイトクゥー!」
そう、この鎮守府の提督。
福端 由之助である。