ノースティリス冒険譚(仮称)   作:ゆにお

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第六話 宝探し

 翌日。既に日もすっかり昇りきった朝。

 

「うわーっ!ここが私達の新居ですか!」

 

「……まぁ許可があるわけでもないがな」

 

 先日コルザードがエレアの二人に介抱を受けた洞窟に、二人はいた。臨時収入を得たものの、無闇に蓄えを吐き出すわけにはいかない。貧乏根性丸出しで、件の無人洞窟を不当占拠したというわけである。

 

「でも、いいじゃないですか、こういうのも。隠れ家的我が家って感じで」

 

「隠れ家なのか我が家なのかどっちかはっきりしろ」

 

 どうやら少女はすっかり気に入ったらしくコルザードの言葉に耳を傾ける様子は微塵もない。広い洞窟内をあっちにいったりこっちにいったりと、陽気に走り回っていた。ちょっとした広さであることも手伝いすっかり冒険気分と来たものだ。

 

「おお~っ! 棚も椅子も食器もあります! なんと! 冷蔵庫もありますよ! インテリアも充実してますね~。あはっ! 乞食の死体まである。 ……腐ってますけど」

 

 聞き過ごせない台詞がコルザードの耳に聞こえてきたが、とにかくシュフォンはこの仮の宿りが気に入ったようだ。

 

「まったく、シュフォンもそろそろ慎みってもんを身に着けても良い年頃だろうに……。ん……?」

 

 困ったやつだと独りごちながらも先日、エレア達と三人で談笑していた場所に目を向けてみる。

 

 すると、そこには一通の手紙が置いてあった。コルザードは訝しげにその手紙を手に取る。

 

 表書きを見るなりどうやら自分宛で間違いないようであった。

 

 "お互いに目的のある身の上なのは承知しているが、せっかくの誼なのだ。もう少し別れの挨拶に時間を費やす余裕は持てないものだろうか?"

 

 君が出て行った後、我々も旅立ちの仕度をしながら筆を取っている。どうせ君の事だ、おそらくは再び戻ってくることもあるだろうと思ってな。君に言いそびれていた事を思い出し、これを残そうと思っている。

 

 何、着の身着のままでノースティリスへ放り出された君に対する親切なエレアからの慈悲と受け取ってもらって構わない。そうだな。率直に言えばこの洞窟内に宝を埋めておいた。本当は君にノースティリスの講釈に使う予定だったのだが、機会に恵まれなかったのでな。もし困ったことがあれば何かの足しにするといい。

 

 縁あれば、また旅の作法の一つや二つ教授させていただこう。

                     

                     高貴なる異形の森の民 ロミアス

 

 

 先日、彼から受けた印象に反して、ずいぶんと律儀なことだとコルザードは思った。ほんの数時間共に過ごしだだけの縁であったのに心温まるロミアスの心遣いに、ついつい顔がほころぶ。

 

「コルザードさん。どうかしましたー?」

 

 洞窟探検に夢中に夢中だったシュフォンが駆け寄ってきた。背後からコルザードの肩に手をかけ、彼の手にある手紙を後ろから覗き込むようにして身を乗り出す。

 

「へぇ~。これがその世話になったエレアの人ですか? ……なんか鼻に付くような言い回しが気になりますけど良い人じゃないですか」

 

「ああ、全くだな。皮肉屋なのが玉に瑕だが、世話焼きでな。根は良い人だった」

 

 このような心配りをいただいたとあっては、ついつい好評してしまおうというものだ。

 なのでこの時コルザードは失念していた。その本当の意味を。

 

「それじゃ、今日は早速そのお宝を探しましょう」

 

「そうだな、せっかくだしな。……まぁ、探してみるか」

 

 

 ――ひょんなことから舞い込んだ一枚の手紙によって、二人の宝探しが始まった。

 

「埋めておいた。ということは地面を掘ればいいんでしょうか?」

 

「そうだろう。そうだろう。きっとそうだ」

 

「何か道具があればいいんですけどね? どうでしょう」

 

「そうだな。この洞窟にはそれなりの備えがある。何か使えるものがないか探そう」

 

 シュフォンとコルザードが二手に別れ洞窟内を物色し始めた。この洞窟は入り口からまっすぐ進むと開けた場所に行き当たる。その左右にいくつかの入り組んだ道に分かれており、目を通した限りでは前の居住者は入り組んだ袋小路を物置にしてたようだ。

 

「おっ」

 

 コルザードの足元につるはしが落ちていた。

 古いながらも造りのしっかりしたものでおそらくまだ現役で役に立ってくれるに違いない。

 

「よし。うん、これなら捗るな」

 

 手につるはしをパシッと当てほくそ笑む。

 洞窟の中央の方へと踵を返すのだった。

 

「――で、コルザードさん何か見つけました?」

 

 そこにはシュフォンが既に戻っていた。彼女も手に何かを携えているのを見て取り、順調に進む作業を脳裏に浮かべコルザードも微笑む。

 

「ああ、シュフォン。お前も早かったな。俺の方はこれだ」

 

そういって先ほど奥で手に入れたつるはしを掲げて見せた。

 

「おお~っ! いいですね。つるはしですか」

 

 元々、勝手も知らぬ洞穴である。大した期待はしていなかったこともあり、シュフォンは大いに喜んだ。

 

「まさにうってつけだよ。それで、シュフォン。そっちは何かあったか?」

 

「はい、ありましたよ。先ほど軽く冒険したときに見つけたんです……。といってもコルザードさんのそれみたいに使えるか分からないんですが」

 

 口を濁すシュフォンは手に丸い金属盤を抱えていた。

 

「う……ん? 何なんだそれ?」

 

「丈夫そうな金属で出来ていますからね。拝借してきたんですが……。スコップ代わりにでもなるかなぁ~と思って」

 

 シュフォンが両手で彼女の胴体を楽に隠せるほどの円盤を弄ぶ。

 

「ただ、これ……。ちょっと重いんですよね……。バラして使いましょうかね」

 

「どれどれ……」

 

 日は昇ったとはいえ、薄暗い洞窟の中。コルザードはシュフォンの方へと歩みより、その手に持っているものを目に留める。

 

「なんだろうなこれ。ん? シュフォンそっちの方見てみろ」

 

「はい、なんです?」

 

 コルザードがシュフォンが持つ円盤を指差した。

 

「ほらそこだ。なにやら文字が書いてある。ちょっとそこに置いてくれ」

 

「ええ、いいですけど……。よっと」

 

「んー。なになに? 『Cat's Cradle』と読むのかな?」

 

「そうですね。『猫の揺りかご』でしょうか? 名前には似つかわしくない無骨さですね」

 

「まぁ、何にせよ。こんなんじゃ採掘なんて出来ないだろ。まだつるはし余ってたからシュフォンも取って来い」

 

「そうですね。おあつらえ向きな道具があるならそうしましょう」

 

 コルザードはシュフォンを案内してつるはしを取りに戻った。

だが、これを利用すれば『採掘』はあっという間に終わるのだが、もちろん二人がそのことを知る由はない。

 

 

 

 間をおいて、そこには手につるはしを握った二人組みがいた。

 

「さて、それじゃあ始めるか」

 

「はい、コルザードさん。どっちが先に見つけるか競争ですね」

 

「負けても泣くんじゃないぞ?」

 

「こっちの台詞です!」

 

「しかし俺とお前じゃ力の差は歴然だと思うが……」

 

「いいでしょう。いいでしょう。そこまで言うなら負けた方は勝ったほうに絶対服従です。後で後悔しても知りませんからね?」

 

 負けず嫌いで子ども扱いされることも嫌いなシュフォン。その言葉で闘争心に火がついた。

 

「望むところだ」

 

 だが、負けず嫌いなのはコルザードとて同じ。不遜な表情でシュフォンの提案を呑んだ。

 

「それじゃ」

 

「ああ」

 

「勝負開始!」

 

 二人の言葉が重なる。そしてそれと同時につるはしを構え、別方向へと走り出した。

 

「うおぉぉぉぉっぉぉぉぉぉ」

 

 コルザードが勢いよく地面を掘り始めた。彼がピアニストとして培った筋力に物をいわせた削岩機顔負けの速さであった。

 

 そんな様子を遠目に眺めるシュフォン。その顔には不敵な笑みが張り付いていた。

 

「ふっふっふ。コルザードさんったら脳筋なんですから。手紙には『埋めた』と書いてありました。つまりいったん掘り起こしてから埋めた。結果として真新しい土の跡を辿っていけば分かるってもんですよ」

 

 なんという名推理と言わんばかりにシュフォンはほくそ笑む。悪戯っ子の本領発揮であった。

 

「ということで私は無駄な力を使うことなく、優雅に勝たせてもらいますかね」

 

 そういって、腰を屈め地面に視線を落としながら歩くシュフォン。

 

 余談だが、暗い洞窟内ゆえ仕方ないとはいえ、年若い少女が腰を折って、よぼよぼ歩むその姿に、優雅さなど微塵もなかったのは本人の名誉の為に言わぬが花というものだろう。

 

 ――コルザードが駆け抜ける先は瞬く間に洞窟のあちこちが採掘されていく。滝のような汗を流して地べたにへたり込む頃、見事にリフォームを終えた我が家がそこにはあった。といってもその有様は不恰好なもので荒れに荒れ果てた空間がそこにあった。

 

「はぁはぁ、くそっ! 一向に見つからない。ロミアスめ、まさか騙したんじゃないだろうな」

 

 肩で息をするコルザードの方へシュフォンが歩み寄った。

 

「ほんとですね。私の方もさっぱりです。本当にあるんでしょうか」

 

 くたびれたコルザードとは裏腹に、シュフォンの表情はさわやかだ。

 

「おい! シュフォン。どうしてそんなに余裕なんだ。勝負を持ちかけたのはそっちだろ」

 

そんな飄々としたシュフォンに対してコルザードは目を吊り上げ吠えた。

 

「やだな。コルザードさん。身体を動かすばかりが勝負じゃないんですよ。ココを使いましょうココを」

 

 つんつんとシュフォンが自分の頭を指でつつく。

 

「その手紙には埋めたって書いてあるじゃないですか。だったら掘り返した跡を調べれば分かります。無駄に体力を消費する必要なんてないですよね?」

 

 シュフォンが勝ち誇ったように笑う。

 

「しまった! その通りだ! くそっ! シュフォンなんかに諭されるなんて……」

 

 当然といえば当然の指摘にコルザードは頭を抱えた。だがそれにシュフォンが憮然とした表情で応える。

 

「ちょっとっ! コルザードさんひどいです! 私が能天気くるくるパー娘だと思ってるんですか?」

 

「……うん、割と」

 

「このーっ!」

 

「おい、ちょっ! まてまて、嘘だ。冗談だよ」

 

 コルザードに飛び掛り襟をつかみながらガクガクを揺さぶるシュフォン。シュフォンの髪から漂う甘い香りが汗に塗れたコルザードの鼻腔をくすぐる。妙な気恥ずかしさに顔を染めてしまうのだった。

 

「――悪かった。本気にするな」

 

「ふんだっ! コルザードさんなんて知りません。絶対この勝負に勝って、パシらせてやるんですからね。覚悟しててください」

 

 女心は秋の空。ただいまの天気は大雨。

 

「……とはいってもなぁ。本当にあるか分からなくなってきたぞ」

 

 じっとりとコルザードを睨みつけるシュフォンに目で促す。その視線の先には徹底的に掘り起こされた洞窟。

 

「ロミアスは初対面でも分かるぐらいの悪戯好きだからな。きっとどこかでこの現状を想像して嘲笑ってるに違いない」

 

「コルザードさん。分かっていませんね」

 

「何をだ?」

 

「いいですか? 悪戯好きなら笑うのは最後ですよ。宝の所在をほのめかした手紙を書いただけで笑うなんて三流の悪戯っ子です」

 

 悪戯に一流も三流もないと思うが。コルザードはまた話がこじれるのでそれを口にする事はなかった。

 

「ですからね。真の悪戯っ子なら仕掛けは周到に。そしてその餌に食いついたところを笑ってこそ一流ってもんです」

 

「理論に乏しいが、そうなのか?」

 

「ええそうですとも、私が言うんだから間違いありません」

 

「なるほど、そりゃ大した説得力だ」

 

 そういって気の無い拍手をシュフォンに送った。

 

「そうでしょう。そうでしょうとも」

 

 そして空っぽの賞賛を浴び胸を張るシュフォン。

 

「――だが、実際はどうだ? 宝なんて影もありゃしないぞ」

 

「うーん……。そうなんですよねぇ」

 

 シュフォンがあらためて手紙に視線を落とす。悪戯っ子の勘を働かせて暗号文になっているのではないか、縦読みになっているのではないかと文面に目を走らせる。しかし何度試しても、それっぽい構成は見受けられない。

 次第にその表情も曇っていくのだった。

 

「……」

 

「……」

 

沈黙すること数分。

 

「――っ! もしかして」

 

「おっ? 何か分かったのか」

 

「いえ、確証はないですけど。ほら、ここ洞窟じゃないですか」

 

「ああ、その通りだ」

 

「埋めるって、何も地面に限ったことじゃないですよね」

 

「おおっ! 言われてみれば確かに」

 

 上下左右ありとあらゆるところが土で出来た洞窟。シュフォンが言うとおり埋めるのは地中ばかりとは限らない。

 

「ということはつまりそういうことだな」

 

「ええ、壁にも埋められますし、最悪天井にも埋めれますね」

 

「なるほど」

 

「それじゃあ」

 

 二人は不敵な笑みを交わす。

 

「今度こそ」

 

「ええ、決着をつけるとしましょう」

 

 そうして二人は最初の繰り返し。再びつるはしを手に持ち二手に分かれて走り出すのであった。

 

 

 

 数十分後。

 息を切らした二人が洞窟の中央に座っていた。

 

 

「……はぁはぁ、コルザードさん。見つけましたよ。こ……これです」

 

「……はぁはぁはあ、なんだと? 俺も見つけたぞ? どうなってるんだ?」

 

 シュフォンが差し出したのは、土くれをまとった金属片――中からうっすらと輝くものが見える。そして一方コルザードの手元には古びた宝箱のようなものが一つ、そこに。

 

「どう、いう、ことでしょう? 気前よく、二つも置いて、行ってくれた、んですかね?」

 

 息も絶え絶えなシュフォンが疑問を口にする。

 

「さ、さあ、な。俺にも分からん。とりあえず、ブツをあらためようじゃないか」

 

「でも、そのロミアスさんが言ってたのってたぶん私が掘り当てたこれですよね? 宝石っぽいし、間違いないですよ」

 

「何を言う。宝というからには断然こういうものと相場が決まっているだろ。どこからどうみてもコレがロミアスの残していったものに違いない」

 

 そういって二人は自分の探し当てた物を手で弄んでいる。

 

「む……。鍵がかかっているな」

 

 コルザードは自分が見つけた丈夫な造りの箱を開けようとするもその口は堅く閉ざされていた。

 

「――おお~、これはすごいですよ! コルザードさん。きっと途方も無い価値があるに違いありません!」

 

 悪戦苦闘するコルザードの耳にシュフォンの声が届く。彼女が手には金色に輝く石があった。ゆらゆらと形を変える焚き火の炎を反射し、揺れ動くその光沢は黄金の水面の様に神秘的である。

 

「うっひょ~い、あったこともないけどロミアスさん! ありがとございまーす!」

 

 シュフォンは飛び跳ね金塊に頬ずりし、満面の笑みを浮かべている。

 

「……そうなるとこれは一体なんだろうな?」

 

「……なんなんでしょうね?」

 

 二人の目の前には古い宝箱が一つ。

 

「どれ、とりあえず空けてみるか」

 

 コルザードが懐からジューア七つ道具の一つ、ロックピックを取り出す。形状は細い針金のようなもので、古くから使われる御馴染みの開錠ツールだ。

 

「む……。これでもダメか? 空かないぞ?」

 

 鍵穴に差込みカチャカチャと作業すること数分。コルザードは手先が器用だ。これまでにも強固に閉ざされた鍵を開錠してきた実績もある。だが、どうやら目の前のコレは、それに輪をかけた難物らしく、彼をもってしても一向にその口を開こうとはしなかった。

 

「……構造がイマイチ理解できんな。これが、こうなって、よっと、それで、……ん……ダメだ。どうしてもつっかえるな……」

 

「コルザードさんちょっと私にやらせてください」

 

 見かねたシュフォンが選手交代といわんばかりに提案してくる。

 

「まぁ、こんなのは私にかかればちょちょいのちょいですから。まぁ見ててください」

 

「シュフォン、それはフラグというやつだぞ……」

 

 シュフォンではコルザードの器用さに及ばない。だが内心無駄だと考えているコルザードも、他に打つ手は無いので、言われるままシュフォンに任せた。

 

「ふっふっふ~、さぁ~て。人様の好奇心を弄ぶそのイケナイお口、是非ともご開帳願いますよぉ~。そう私は悪くないんです! あなたが魅力的すぎるのがイケナイんですよ!」

 

 シュフォンが犯罪者の常套句紛いのことを呟きながら、繊細かつ卑猥な手つきでロックピックを鍵穴へと差し込んでいく。だが鍵口からは小さくカチャカチャと音が響くばかり、時間ばかりが経過し一向に進展が見られない。

 

「……」

 

 集中しているのか、彼女の手元から聞こえる金属音以外に響く音はない。だが、時間が経つにつれ、逸る彼女の心を表すかのように段々と、鍵穴から響く音が大きく荒くなっていく。

 

 そして遂に――――

 

 "バキッ"

 

 シュフォンの手元から一際大きな音が響く。視線を向けるとそこには、破損したロックピックの無残な姿がそこにあった。

 

「……ほらな。言わんこっちゃない」

 

 やれやれと肩をすくめて息を吐くコルザードを見て、シュフォンが切れた。

 

 言葉なくシュフォンはすっと立ち上がり、そしておもむろに腰元の剣を抜いた。

 

「コルザードさん。"中身さえ無事なら"いいですよね?」

 

「お、おう? ……そうだな」

 

 額に青筋を浮かべ、そのにこやかな笑みを浮かべながらも似つかわしくない平坦な声に得たいの知れない圧力を感じたコルザードはただ頷く。

 

 そして、そんな彼女に対峙するのは悠然と佇む宝箱。既に二人の挑戦を退けたそれは威風堂々としており、オーラが見えそうである。

 シュフォンはそんな宝箱に対し、剣を上段に構え――――

 

「はあああぁぁぁぁぁあ!」

 

 そして呼気と共に一気に振り下ろすのであった!

 

「ちょっ! お前! それ中身もめちゃくちゃになるだろ!?」

 

 梃子の原理でも使うのかと思いきやまさかの一刀両断作戦!? コルザードの指摘はもはや手遅れ、彼の言葉が大気を振るわせる頃にはシュフォンは既に一刀を終えていた。

 

 空間に鈍い金属音響き渡る。

 洞窟内ということでひどく反響し、もうもうと土煙がたちこめる。

 

 ――静寂が場を支配する。そして徐々に晴れていく土煙。緊張の面持ちで見守る二人からゴクリ、と唾を嚥下する音がやけに鮮明に聞こえた。

 

「!?」

 

 土煙が晴れる。――だがそこにあったのは、先ほどと何変わらぬ有様で存在している宝箱の姿であった。渾身の剣戟を受けたにも関わらず泰然自若とするその風体は、此度の勝者が誰なのかを如実に物語っていた。

 

「そんな……び、びくともしないなんて――。って、ちょっとおおおおおお私の愛剣"闇を砕く長剣『ビューティームーンライト』が折れちゃいましたあああ!」

 

 全力を込めた一撃が通じないこと、そしてまさかまさか自慢の剣が折れてしまった事に動揺を隠せないシュフォンはその場にへたり込んでしまった。項垂れる彼女の表情はその前髪に隠れて分からない。

 

「シュフォン……」

 

 流石に精魂尽き果てたのか、その様子から感情を窺う事はできないがそんなシュフォンを慰めるようにコルザードは言葉をかける。

 

「ま、まぁいいじゃないか。その金塊だけでも十分だ。そうだろ? お前が掘り起こしたんだ胸をはれよ。ほら! 勝負はお前の勝ちでいいし。ヴェルニースに行って鑑定してもらおうじゃないか。……剣は、残念だがそのお金で新しいのを買おう? な?」

 

「ううう…… よくないですよぉ~。『ビューティームーンライト』には良質なエンチャントが着いてたのにぃ~」

 

 泣く泣く、手を引かれるように二人は洞窟を後にした。

 

 

 

 涙にぬれたシュフォンを必死に宥め今に至る。

 二人がいるのは鑑定店。手に持っているのは戦利品の金塊だ。

 

「――どうでしょう? きっと途方も無い価値の金塊だと思うんですけど。いやぁ苦労して手に入れたんですよねぇ~」

 

 自らの戦果を前にある程度落ち着きを取り戻したようで意気揚々と語るシュフォンに、鑑定の魔法をかけ終わった鑑定魔術師が目を向ける。

 

「……確かに、こりゃぁ途方も無い価値だなぁ」

 

「えっ! 本当ですか! やったーっ! 苦労した甲斐があるってもんですよー」

 

「……待ちな、お嬢さん。確かに途方も無い価値なんだが……」

 

 神妙な鑑定魔術師の態度に、シュフォンは息を呑む。

 

「途方も無い価値なんだが……どうなんです?」

 

「ああ、途方も無い価値ってことにゃー間違いねぇんだが、"途方も価値の無い"金塊だ……偽物のな」

 

「えええ! そんな馬鹿な。だってあんなに金ぴかに光ってたのに」

 

 納得がいかないと言わんばかりに、シュフォンが身を乗り出し金塊を覗き込む。

 

「うそ……」

 

 そこにあったのは誰の目にも明らかに錆の浮いた金属塊があった。

 

「まぁ、良くあるんだよなぁ。この手のもんには偽装の魔法がかけられてる事も珍しくは無ねぇ。まぁ、どういう経緯で手に入れたのか知らねぇが授業料だと思って諦めるこった。ああ、そうだ。ついでにこれ、呪われてるぜ?」

 

「な、なんですとーっ!」

 

 シュフォンは大いに憤慨し、地団駄踏んでいる。

 

「ちきしょー! ロミアス許すまじ! 今度あったら絶対! 絶対ぼこります! いいですね? コルザードさん」

 

「……ほどほどにな」

 

 コルザードはロミアスがこういう結末を予想していたかのように思えてならなかった。脳裏に彼のニヤリと笑った顔を空想した。

 

「まぁ、なんだ。とりあえず宝探しはシュフォンの勝ちだ。ほら、美味しいものでも食べようじゃないか。おごってやるぞ」

 

「ううぅ……そうですね。ありがとうございます」

 

 

 

 突如として訪れたシュフォンとコルザードの宝探し勝負。その勝者は誰なのか語るまでも無い。

 

 そこは先だって、徹底的に掘り起こされた洞窟。

 

「ふぅ。さてこんなものでいいかな」

 

「ですね」

 

 コルザード達の手によってある程度埋め返され、一応住めるという程度には修繕されていた。

 

「さて、この宝箱どうするかな」

 

「むー! 嫌ですよ私もうそれ見たくありません。隅っこのほうにでも置いてください」

 

「そうだな。まぁ鍵開けの修練に丁度いいし、置いておくか」

 

「はぁ~。剣がぁ……」

 

「シュフォン。残念だとは思うがまた買ってやる。元気だせよ。お前が元気ないと困るだろ」

 

「そうは言っても……。はい。まぁ、そうですね。くよくよしてたってしょうがないですもんね」

 

 自らに言い聞かせるようにシュフォンは呟く。だがその表情は未だ暗い。

 

「しょうがないやつだな」

 

「だって、あの剣。コルザードさんと始めて冒険したときに手に入れたやつなんですよ?」

 

「お前――」

 

 そんな昔のことまで覚えていてくれたのかと、シュフォンの何気ない言葉がコルザードの心に染みた。

 

 そんなシュフォンの頭にコルザードが手を置いた。

 

「……馬鹿だな。それじゃ、ノースティリスに来てから初めての剣を買ってやるよ。既にいろいろあったが、二人で無事にやってこれた記念だ。それなら帳尻もあうだろ? シーナさんからの報酬もあるしちょうどいいだろ?」

 

「うぇっ!? あっ……。は、はい! そうですね。それなら……」

 

 シュフォンの表情がちょっとだけ明るくなった。ぶっきらぼうにコルザードがシュフォンの頭を撫でる。

 

「シュフォンそういえばこれは何なんだろうな?」

 

「うーん……。分かんないです」

 

「ふむ、まぁ。この重さは丁度良いし、筋トレにでも使うとするか」

 

 そういってコルザードは金属盤を持ち上げる。

 

「普段は邪魔にならないようにしまって置いてくださいよ~」

 

「ああ。分かってるって」

 

 そういってコルザードはその金属盤を空かない宝箱の傍へと並べた。相変わらずそこには『Cat's Cradle』と書かれていた。

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