Fate/zero ~黒の魔王~   作:大嶽

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 出来るだけネタを排除し、シリアスに仕上げたつもりです。

 後、このIFルートは本編とは違う設定で書いてますので、今後似た内容が本編で登場してもこの話と同じように動くとは限りませんので、ご注意ください。


IFルート
IFルート サリエル 前編 「暗黒騎士」


冬木市海浜公園に隣接する形で広がる無味乾燥なプレハブ倉庫が延々と連なる倉庫街。

 

 夜になれば街灯による灯りもまばらであり、人通りも絶え、まさに空虚と言わざるとえない景観を醸し出している。

 

 しかし、ふとその場所を歩く二つの人影が現れた。

 

 その人影が暗闇の中から徐々にその姿を現し始める。もし、この光景を見ている人物がいたのならば、ここが歌劇か何かの舞台であると錯覚してしまうのではないかと思う程その人影は浮世離れした風貌をしていた。

 

 濃紺のドレスシャツとネクタイ、フレンチ・コンチネンタル風のダークスーツを身に纏い、男装の麗人というよりまだ男性なりの色気を纏わない美少年と称するべきなほどその衣装を着こなしている金髪碧眼の剣の英霊、セイバー。

 

 シルクのブラウスと膝上丈のロングブーツ、銀狐のファーをあしらったカジュアルコート。常人であれば明らかに着負けするであろう服装を完璧以上に着こなし、歩く所作だけでも隠しきれない気品を醸し出す銀髪赤眼の女性、アイリスフィール。

 

 その二人は今人気の無い倉庫街を緊迫した空気を纏いながらゆっくりと歩いていた。

 

 

「―――本当にこの先に敵のサーヴァントがいるの?セイバー」

 

 

 唐突にアイリスフィールが口を開く。彼女にはこの場所に敵のサーヴァントがいると感じる事が出来なかったが故の質問だった。

 

 正式に魔術を収めた訳ではなく、更には聖杯に選ばれたマスターですらないアイリスフィールがこの場にいる理由はただ一つ。本来のセイバーのマスターであり自身の夫である衛宮切嗣の指示により、彼が裏で動きやすいように表向きセイバーのマスターを演じるという囮の役割を果たす為。

 

 

「はい、間違いありません。敵はこの先に必ずいます」

 

 

 アイリスフィールの問いかけに絶対の自信を持って答えるセイバー。彼女は感じ取っていた。今はまだ並び立つコンテナの陰になり姿こそ見えないが、そう離れていない場所に姿を隠す気も無く堂々と己の気配を晒している存在を。

 

 そして、二人は今まで歩いてきた道路よりも大きい大型車両が通行する事を考慮された幅広の四車線の道路の間近まで近づいた。

 

 

「恐らく敵はこの先の道路で我々を待ち構えています。アイリスフィール、準備は宜しいですか?」

 

「ええ、大丈夫よセイバー。バックアップは任せて」

 

 

 アイリスフィールはセイバーの言葉に頷きと共に両手を上げ胸の位置で重ねるようにして自身の意思を伝えた。

 

 それを見てセイバーは躊躇することなく道路へとその身を曝け出す。アイリスフィールもその後ろに続いた。

 

 

「……居ました」

 

 

 セイバーの視線の先、街灯の灯りの影になっている為その姿の全容は分からないが、そこには明らかに人の姿があった。

 

 

「行きます。アイリスフィール」

 

「分かったわ」

 

 

 セイバーはアイリスフィールを促し歩みを進める。一歩、また一歩と足を進めるたびに今まで無音だった空間に二人の靴音が響き渡る。

 

 そしてそれに合わせるかのように灯りの影に居た相手のサーヴァントもゆっくりとセイバー達に向けて歩き出す。

 

 その時セイバーは気付いた。その人影があまりにも小さい事に。

 

 最初に見たときは相手との距離があったことと、しゃがみ込んでいるのかと思い気にもしていなかったが、こうして徐々に近づくごとに気配と反比例して小さく見える。

 

 

(あれでは私が召喚された城で見たマスターとアイリスフィールのご息女くらいの背丈しか―――)

 

 

 そこまで考えた時とうとう相手のサーヴァントの姿が暗闇の中から映し出され……。

 

 

「…………う、そ……」

 

 

 セイバーとアイリスフィールはその場で歩みを止めてしまった。

 

 その姿を見た時、アイリスフィールは思わず目を見開き口元を両手で押さえ、自身に沸き起こった驚きを隠すことが出来なかった。その目の前に立つセイバーもその様子を直接見ている訳では無いが、背後からの呟きと気配だけでどれだけ彼女が驚いているのか感じ取っていた。

 

 かくいうセイバー自身も表には出していなかったが、内心では同じ気持ちだった。

 

 今二人の目の前に姿を現したのは、筋骨隆々の偉丈夫でも端正な顔立ちをした騎士でもない。

 

 この極東の地より遠く離れたアインツベルン城にいる筈の少女(イリヤ)と瓜二つの姿だった。

 

 光り輝くような白銀の髪。紅く染まった眼。穢れを知らないかのような白い肌。そしてまるで人形のように整った愛らしい顔立ち。

 

 唯一の違いと言えば、自身の感情を素直に表に出すイリヤスフィールと異なり、この少女は全くの感情を出さず無表情でいること位であった。

 

 その体は修道女が纏う衣装に包まれており、一見すれば神に仕える敬虔(けいけん)な信徒に見えたことだろう。

 

 しかし、それを否定するかのようにその右手と両足に漆黒に染まった甲冑を装着し、更に唯一その白い肌を晒している左手にはこれまた同じく漆黒に染まっている十字槍が握られている。

 

 神に仇なす者を罰する者か、逆に彼女自身が神に仇なす者なのか。そのどちらにも取れる風貌にセイバーは彼女の正体を見抜く事が出来なかった。

 

 だが、悠長に相手の正体を見極めている時間は無い。そうセイバーは判断していた。相手の正体はこの後の戦闘で直接剣を交えれば見極める事も可能であるし、何よりこれ以上の相対はアイリスフィールへのダメージをより深刻にするだけであったからだ。

 

 アイリスフィールとて相応の覚悟を持ってこの聖杯戦争に臨んでいる。愛する夫の願いを叶える為、それと同じくらい愛している娘のこれからの為。妻として、母としての想いを秘めてこの極東の地までやってきたのだ。

 

 だが、その覚悟も今は頼りないほどに揺らぎきっていた。しかし、誰もこれを責める事は出来ないであろう。

 

 まさか、戦争の名を冠する殺し合いの戦場。その初戦の相手が己の愛娘と瓜二つの姿をしているなど誰が予想できようか。

 

 アイリスフィールには目の前の少女がイリヤスフィールとは別人だということは、当に分かっている。だが、それでもその風貌に愛する娘(イリヤスフィール)を幻視してしまい、心がかき乱される。

 

 やおらにセイバーがアイリスフィールの視線を遮るように前に踏み出し、目の前の少女に声を掛ける。

 

 

「問おう、貴女はランサーに相違ないか」

 

 

 その言葉に今まで彫像のように微動だにしていなかった少女がゆっくりと口を開き、まるで鈴を転がしたような声色でその問いに答えた。

 

 

「いいえ、私はただのシスターです」

 

 

 空気が一瞬で固まった。問いかけたセイバーも相手が正直に答えるとは思っていなかったが、この返しは想像していなかった。

 

 その様子を見て「あぁ……」と何かに気付いたかのように声を上げ、言葉を続けた。

 

 

「今の私はサーヴァントでしたね。それでしたらランサーでも間違いではありません」

 

「……そうか」

 

 

 何というか独特な感じの少女であった。そうセイバーは思った。その様子を見て後ろのアイリスフィールも僅かだが落ち着きを取り戻す。

 

 

「では、ランサーよ。尋常に果たしあうとしよう」

 

 

 これ以上の問答は不要。そう判断したセイバーは魔力を解放し、その身に甲冑を纏い自身の手の内に不可視の剣を現出させる。

 

 それに合わせて目の前のランサーも構える。幼い年齢とは裏腹にその立ち姿は歴戦の騎士を思わせる堂に入った構えであり、セイバーは警戒を強めた。

 

(見た目に騙されてはいけない。見た目は幼くとも彼女は聖杯に招かれた英霊の一人……)

 

 そう自身を戒め、己の内に宿る魔力を練り上げ戦闘態勢を整える。

 

 

「では――――」

 

 

 何の気負いも無しに紡がれた言葉を聞いた瞬間――――

 

 

「――――いきます」

 

 

 ―――己の直感が死の危機を伝えた。

 

 

「っ!?」

 

 

 その直感に促されるように、目の前に剣を翳したとき甲高い衝撃音が響いた。

 

 先ほどまで離れた位置に居たランサーが刹那の間に肉薄していた。その手に握られた十字槍がセイバーの剣に受け流され右側に逸れていく。

 

 そうセイバーが認識した時には、目の前のランサーはその小さな体躯を翻し十字槍を横薙ぎに振るった。

 

 

「くぅ!」

 

 

 その一撃を剣の腹の部分で受け止めるも、その重さに堪えきれず後ろへと押されてしまう。

 

 

「…………止めましたか」

 

 

 ランサーがぽつりと呟いていたが、即座に地面を凹ませる勢いでセイバーに突撃し、神速の突きを顔面へと見舞う。

 

 

「!?」

 

 

 その突きを身を屈ませることでかわしたセイバーは、そのまま攻勢に転じようとした。だが……。

 

 

「ん」

 

 

 まるで、機関銃の弾幕のようなランサーの突きの連撃に阻まれた。これが通常の槍ならば鎧で受け流す等の対処法もあるが、ランサーは十字槍の特性を活かしセイバーの反撃の芽を潰していた。

 

 穂先の両脇に飛び出した刃は、時として受け流す事を許さず強引に受け止めざるを得ない上に、紙一重でかわそうとすればその飛び出した刃が牙を剥く。

 

 だが、セイバーとてその名を世に轟かせる英霊の一人。徐々にその攻撃を捌きながらも反撃に転じていた。

 

 剣と槍の猛烈な応酬。既に常人には認識することすら難しい速度で両者は斬り結んでいた。

 

 空中にはぶつかり合った際の火花が舞い、大気は掻き乱され、地面は抉れていた。

 

 その様子は、殺し合いの場とは思えない程に幻想的であり、その中心にいる二人は互いに一歩も譲らない熾烈な戦いを繰り広げていた。

 

 誰もが時を忘れ見入ってしまうその舞踏は突如終わりを告げる。

 

 示し合わせたかのように両者は後方に飛びずさり、武器を構えなおした。

 

 

「見事だ。まさかその齢でここまでの武を身につけていようとは」

 

 

 セイバーは賞賛した。既に彼女の心中から手心という思いは消え去っていた。今あるのはただ強敵に対する賛辞しかない。聖杯戦争の初戦でここまでの猛者と戦えることに気分が高揚してすらいた。

 

 

「そうですか」

 

 

 その言葉に何の感情も浮かび上がらせず、ただの一言で終わらせてはいるが、ランサーとて何も感じていないという事は無い。

 

 目の前の騎士は紛れも無い強者。その事実さえ分かっていればそれでいい。

 

 そう思い、槍を構えなおそうとしたその時。

 

 

『なにを遊んでいる、ランサー』

 

 

 倉庫街に男の声が響き渡った。

 

 

「……なにか用で?」

 

 

 その声にランサーは目の前のセイバーから目を放さずに聞き返す。その声は小さいが男には十分だったのだろう。直ぐに声が響き渡る。

 

 

『これ以上戦いに時間をかけるな。じきに他のサーヴァントも集まってくる。早急に終わらせろ』

 

 

「………………」

 

 

 その見下しているとも取れる口調になんら感情を表さず返答すらない。その間に主従の絆など一切感じさせないやり取りであった。

 

 

「そう簡単にこの首を獲れると思うな、ランサー」

 

 

 そして、そのやり取りに何より反応したのはセイバーであった。まるでお前など直ぐに倒せると言うようなランサーのマスターの言葉に激発しそうだった。

 

 そう易々と獲れるほどこの首は安くは無いぞ。その思いを全身に行き渡らせ先の剣戟の時以上に闘気を練り上げた。

 

 しかし、次の瞬間己の直感が強烈な死の気配を感じた。

 

 セイバーは即座に最大級の警戒をした。先ほどとは異なり攻撃こそ無いものの、比べ物にならない警告をセイバーの直感が伝えてきた。

 

 ランサーの様子に変化は無い。だが、良く目を凝らすとその身体から微かに紫電が迸っているのが見て取れた。

 

 

(……来る)

 

 

 間違いなく次の一撃は今まで以上の攻撃。恐らくは宝具による必殺の一撃が来る。

 

 宝具には宝具による対処が一番ではあるが、セイバーにその選択肢を取る事は出来ない。

 

 『約束された勝利の剣(エクスカリバー)』は大量の魔力を消費し乱発出来ない上に、対城宝具に相応しい攻撃範囲を持っている。今この場で使うには周囲への被害が大きくなってしまう。

 

 なればこそ、その身一つで対処しなくてはならない現状にセイバーはなんら悲観していない。

 

 この一撃を凌ぎきり渾身のカウンターを叩き込む。自身ならばそれが出来るという自負が彼女の総身から溢れ出していた。

 

 その様を感情を灯さない紅眼で見つめながらランサーが攻撃を開始しようとした瞬間。

 

 その幼い身体が突如発生した爆発に飲み込まれた。

 

 

「なっ!?」

 

 

 突然の爆発により巻き起こった暴風から左手を翳す事で視界を保持したセイバーだったが、あまりにも唐突な爆発に出鼻を挫かれた。

 

 目の前には未だに連続して爆発が巻き起こっていた。まるで、航空機による爆撃のようにランサーが居た地点にはもうもうと粉塵が立ち込める。

 

 セイバー即座に後方に下がった。この爆発に巻き込まれては後ろに居るアイリスフィールを守ることが難しくなる。そう判断し、直ぐにアイリスフィールの下へと駆け寄り安否を確認する。

 

 

「無事ですか!?アイリスフィール!」

 

「えっえぇ、私は大丈夫よ」

 

 

 戸惑いがちに答えたが、その言葉の通りその身体に傷がついた形跡は無かった。運よくあの爆発はこちらまで届いていなかったのだろう。

 

 

「ここは危険です。一度撤退しましょう」

 

 

 アイリスフィールの身を案じ、後退する事を提案したが、その言葉にアイリスフィールは答えなかった。

 

 それを訝しんだセイバーが再度声を掛けようとした時、アイリスフィールが疑問を口にした。

 

 

「ねぇセイバー。どうしてあの爆発はこっちに来ないの(・・・・・・・・)?」

 

 

 その言葉にセイバーは不意を取られた。

 

 

(そういえば……)

 

 

 もし、あの爆発がサーヴァントの攻撃で無差別に攻撃してきているのだとしたら、今このように話している暇など無い。有無を言わさずアイリスフィールを抱え安全な所まで後退していただろう。

 

 だが、実際は違う。セイバー達の周りには一切の爆発は起こっておらず、先ほどのランサーと相対していた場所を線に向こう側のみでしか爆発は起きていない。

 

 そしてその時になって始めて気付いた。ランサーの居た地点の後方から何かが飛んできている事に。

 

 

(あれは……剣?)

 

 

 それは黒い直剣だった。何の変哲も無い普通の剣が空を飛び次々と地面へと向けて急降下していた。

 

 その剣が地面に突き立った瞬間、剣自身から爆発が巻き起こっていた。あれが爆発の正体であった。

 

 その黒い直剣は一振りたりともセイバー達の方へ向かわず、ランサーに襲い掛かっていた。

 

 何か途轍もない執念を感じさせるほどの執拗な爆撃。良く目凝らすと粉塵の中に小柄な影が動き回っているのが見て取れた。ランサーはあの攻撃を凌ぎきっていたのだ。

 

 

「サリエルぁあああああああ!!!」

 

 

 その声に渾身の怨念を込めた叫びが倉庫街に木霊した。黒い人影がその手に膨大な魔力を込めた武器を上段に構えながら、空中からランサーの居る地点目掛けて粉塵の中へと突入していった。

 

 ガキィンッ!!!

 

 そして強烈な激突音が響き渡ったと共にその衝撃で一気に粉塵が周囲へと拡散していった。

 

 その中心にはランサーに向け刃を振り下ろしながら、狂気に染まった笑みを浮かべ力を込め続ける男とその刃を両手で十字槍を保持しながら受け止め続けるランサーの姿があった。

 

 

「くっ」

 

「まさかここで会えるとはなぁ!!サリエル!!」

 

 

 言葉を発している間も一切力を緩めず、渾身の力で鍔競り合いを行う。

 

 

「どうして……貴方が……」

 

「今度こそ……今度こそ……!」

 

 

 ランサー、否、サリエルが困惑の声を上げるが、乱入した黒い人影は一切取り合わずに力を込め続け……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オマエヲコロシテヤル」

 

 

 

その両目を紅く染め上げ狂気の眼差しと共に殺意を溢れ出させた。

 




 狂気に染まり暴走するクロノ。そして猛威に身を晒し攻撃を凌ぐサリエル。

 その容赦の無い猛攻にサリエルはどう対処するのか?

 そしてサリエルは自身に宿る思いを貫き通すことが出来るのか?

 次回IFルート サリエル 中編「忠義」

 

 
 
 
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