トラウマ-ダークネス-   作:宮下

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10話

「探す前にヤミさん、ヤミさんと旦那様の関係性をはっきりと教えて下さい」

 

 

金色の闇とモモが2人きりになった所で、モモがそう切り出した。

 

 

「標的と殺し屋ですが、それが何か?」

 

 

悩む事なくそう切り返す金色の闇に、モモは一瞬だけ迷う素振りを見せる。そして、意を決したように話し出した。

 

 

「私、旦那様とは会って間もないですけど自分でも驚く程にあの人に好感を持ってるんです」

 

 

人格者で欲がなく、望まない婚約者であるモモが執拗にアプローチを掛けても無碍に扱わない誠実さがある。一定以上は踏み込めていないが、まだそれでも良いとモモは考えていた。

 

彼はこの銀河の歴史を学んだ者なら誰でも知っている存在。それを“独り占めしてみたい”という少々歪んだ気持もあるが、やはり本人が好感の持てる人物というのが大きかった。

 

 

「金色の闇にお願いします。今後、旦那様に危害を加える事を止めて下さい。ヤミさんにそういった仕事が多く入る事は知っていますので、その分のお金は支払います」

 

 

金色の闇はその言葉に思わず目を丸くした。

 

その頼みを受け入れる事は自分と彼との関係の終わりを意味する。金色の闇と彼は標的と殺し屋でしかない、それは自分で言ったことだ。

 

 

「こちらからの支払いは提示された依頼金の2割増、それならヤミさんも文句はありませんよね」

 

「それ、は……」

 

 

普通に考えたら申し分無い待遇だ。下手をすればデビルーク星を転覆させるだけの金額が動きかねない。

 

彼を探し出せるだけで金色の闇へ依頼する価値は計り知れない。だからこそ、何度取り逃がしても金色の闇への彼の捕縛、殺害の依頼は絶えなかった。

 

今も金色の闇の宇宙船の通信端末には彼を標的とした依頼が矢継ぎ早に送られてきている。約束を守れば殺し屋としての仕事をする必要がなくなるだけの財産が得られる。

 

 

「私は……」

 

 

しかし、それを了承するという意志が金色の闇には全く無かった。

 

何故、どうして。金色の闇は自分の事が分からなくなった。

 

 

「ヤミさんは、旦那様とどう在りたいんですか?」

 

 

金色の闇はそんな事は考えた事もない。今の関係がずっと続くのだと、ぼんやり思っていただけだ。

 

自分は、どうして……。

 

 

「……なるほど、大体解りました」

 

 

金色の闇は何も答えていないのに、モモは納得した様子でニコニコと微笑んだ。

 

 

「質問を変えますね。ヤミさんはあの人と話すのは楽しいですか?」

 

「……有意義には感じていると思います」

 

「じゃあ、あの人を傷付けるのは楽しいですか」

 

 

その質問は金色の闇の心に、ナイフを突き立てるかのように鋭く刺さった。そんな筈はないのだ。

 

金色の闇と彼とのコミュニケーションはおかしい。憎んでいる訳でも、嫌っている訳でもない。けれど、平気で金色の闇は彼を傷付ける。

 

それしか、彼との繋がりはないと勘違いをしていた。

 

彼を追う中で幾度と会話を重ねた。時には一緒に食事を取ったりもした。他の接し方は既に見つけている。

 

自分の行動は間違っている。

 

 

「彼に、言わなければならない事が出来ました」

 

「そうですか。なら、早く見つけないといけませんね」

 

 

許されたい訳ではない。けれど、言葉にしておきたい。そう、金色の闇は思った。

 

 

 

 

 

 

 

「それで、どうやって探すんですか?」

 

「これを使います」

 

 

金色の闇が取り出したのは小さな小瓶。中にはルビーの様に赤い液体が入っていた。

 

 

「綺麗ですね、香水か何かに見えますけど」

 

「これは彼の血ですよ」

 

 

途端に、モモは先日の惨劇を思い出し顔を真っ青にする。

 

 

「この血は彼から遠ざかる程に色が濁り、近づけば元の色に戻るんです。これだけ赤ければこの町にはいますよ」

 

「そ、そんな方法をどうやって思いついたんですか……」

 

「仕事で採取した血を運搬していた際に気付きました。以後、こうして持ち歩いています」

 

 

金色の闇は彼に自覚があるかどうかは解らないが好意を寄せているとモモは確信しているのだが、流石に血を持ち歩いているのにはドン引きである。

 

しかし、飲めばどんな傷や病も癒える薬だと思えば成程、お守り代わりに持ち歩くのも肯けると無理矢理納得した。

 

実際には、彼の血は小瓶1本でも喉から手が出るほどに欲しがる者が多勢いるので奪われない様に持ち歩いている訳だが。

 

 

「どの程度正確にわかるんです?」

 

「500メートルが限界ですね。ですが、そこまで近づければ空から簡単に探せます」

 

「ちなみに、今はどれくらい離れているんですか」

 

「1.5キロメートル程ですね。近いです」

 

「書き置きの内容の割には近いですね……」

 

 

探さないで下さいとあれば、もっと遠くまで行ってしまった事を考えていたモモからしたら拍子抜けだ。

 

 

 

 

 

 

 

彼はあっさり見つかった。場所は例の集合住宅(ぞうきばやし)である。

 

 

「あれ、どうかしたの? そんな疲れ切ったような顔をして」

 

 

話を聞けば、黙って出てきたのでその報告に戻っていたとの事。それと、世話になった礼として体調の悪い者達を回復させていたそうだ。

 

探さないで下さい、というのも大した用ではないから気にしなくていい。明け方に出たのは、集合住宅(ぞうきばやし)に全員が揃っている時間帯だったから、らしい。

 

 

「まぁ、実はこのまま別の国に行ってみようかなー、なんて事も考えてたけど」

 

「…………」

 

 

金色の闇は今にも斬りかかりたい衝動に駆られるが、それでは今までと同じなのでグッと堪らえる。

 

 

「でもさ、この国は島らしいし、流石に海を渡るには計画を練らないとなーって思い出して断念したよ。そうでなかったらもう少し遠出したかな」

 

 

悪びれた様子もなく、冗談の様にそう言う彼だが実際の所はどうか、金色の闇とモモには解らない。

 

 

「……えっと、私はナナやお姉様に連絡してきますね」

 

 

モモがデダイヤルを片手に遠ざかる。金色の闇が話しやすい様に2人だけにしたのだろう。

 

しかし、いざとなると話を切り出すのが難しい。

 

 

「あの……」

 

「なに? そんな思い詰めた顔をして」

 

 

彼の調子は軽い。いつも金色の闇が見てきた彼だ。

 

最初に会った時も、依頼を受けて見つけ出した時も、暇な時に会いに行った時も。彼はずっと、この調子だった。

 

 

「貴方が家を出たのは、私が鬱陶しいからでしょうか」

 

「はい?」

 

「思い返すと、つい最近まで貴方には危害しか加えていません。私は貴方に恩があったというのに、それを仇で返す様に何回も……殺しました」

 

 

極度の緊張のせいで、金色の闇の中で変なスイッチが入った。

 

罪を懺悔する罪人の様に死人の様な顔で今までの事を告白し始める金色の闇に彼はただ困惑する。

 

懇切丁寧に今までの殺害内容を連ねる金色の闇にストップをかけ、彼は困った様に話し始める。

 

 

「ソッチじゃないんだよね。うん、何れは君から離れないといけないんだけどさ、恨みとか嫌悪で離れる訳じゃない」

 

「では何故……?」

 

「副作用があるんだよ、俺の能力に」

 

 

初耳だった。万能の薬とまで言われた彼の能力に欠点があるなんて思いもしなかった。

 

 

「怪我や病気を治すのは問題ない。けど、若返りの方には限界がある」

 

「……それは、どういった?」

 

「精神の方が持たない。元々の寿命の倍も生きたら綻びが生じ、最後には生きた人形になるよ」

 

 

まるで見てきたかのように彼はそういう。いや、実際にそういった人物がいたのだろう。

 

金色の闇も本来の年齢より幼い姿をしているが、それは3,4年の話。誤差の範囲で済むズレである。

 

しかし、仮に100年も彼を追い続け、その過程で若返り続けたら。彼は金色の闇を廃人にしてしまう。

 

 

「貴方は、それを誰かで……」

 

 

そう言いかけて、金色の闇は口を噤む。

 

これ以上はまだ踏み込んではいけない。

 

 

「そういう事だ。今後も依頼を受けていくつもりなら、その事だけは覚えて置いて欲しい」

 

「もしかしたら精神が持つかもしれませんよ?」

 

「…………どうだろうね」

 

 

彼は笑ったが、それはないと断言するような、そんな悲しそうな顔をしていた。




・焚きつける
自覚してない相手から奪うのは気が引けるらしい

・血瓶
指針代わりにもなる薬

・その辺にいた
島国で良かった。
2日あれば逃走経路が確保出来た模様。

・病みちゃん
自己嫌悪スイッチが入る。

・まだ続いてたシリアル
そのうち終わるよ(適当)。

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