彼の家で事件から早数日。結城家の留守番は以前より多くなっていた。
「お邪魔します、たい焼きを買ってきました」
リト達が学校へ登校した後に、決まって金色の闇が訪ねてくるようになった。
それとは別に、結城家の庭に生えていた巨大植物が変化して幼女になった。美柑がセリーヌと名付けそれはリトに懐いているのだが、花に誘われた蝶のように彼に近寄っていく傾向がある。
モモの通訳によると、彼からは美味しそうないい匂いがするらしい。よく噛み付いている。
そんな訳で彼は長袖長ズボンと、無闇に肌を晒さない格好になったのは些細な事だ。
彼は最近になってようやく事態を理解した。思ってたよりこの家の住人に懐かれ始めている。
リトは家内にいる唯一の同性という事と、見た目はともかく自分よりずっと年上という事で彼に色々と相談する。
美柑は元々世話焼きな所があり、時間や身長的な問題で自分の手の届かない家事をしてくれる彼はそれなりに好感が持てた。更に兄と違ってラッキースケベが全くない彼には一定の信頼を置いている。代わりに出血が多いが。
ララは幼い頃に面識があったし、天真爛漫で基本的には誰とでも打ち解けられる性格だ。
モモは自身が婚約者であることを全面的に押し出してきている。決定当初は消去法のような考えだったが、噂通りの人格に普通に好意を持ち始めていた。
ナナもモモ同様に婚約者という立場だが、モモ程恋愛的な行為は抱いていない。が、多少出血が多い以外は出来た人物である彼とは純粋に友人のような感覚で接している。見た目の年齢もあるだろう。
セリーヌは……、本能的に彼を求めているようだ。餌として。
実は彼、現状の様に貸し借りの問題で居候をするという事は初めてであり、距離感が掴めていないのだ。お世話になりました、の一言で去っていける関係性を築きたかったのだが、それにしては彼の事情が知られ過ぎている。
この家には、帰るところもない、多勢から狙われている見た目だけでも子供な彼を黙って出て行かせるような性格の持ち主がいない。
彼もそれが嫌な訳ではないのだ。親切にされるのは嬉しいし、それには何かで答えたいとも思う。だからズルズルと滞在期間が伸びていくのだが。
彼が焦り出したのはやはりデビルーク王に会ってからだ。昔、彼が助けた者の中には彼に全てを捧げたいなどと言い出す盲目的な女性もいた訳で、その女性は例の宗教団体に入信して一生を終えた。
その事は彼も噂で耳にした程度であったが、心地よい話ではない。ただ礼を言って貰えるだけで十分であったのに。
そういう経験もあり、ナナはともかくこのままではモモが人生を棒に振りかねない。
モモだけなら強行突破は可能だが、ここで金色の闇が問題になってくる。金色の闇が頻繁にこの家に訪れるため、無理に逃げるのはほぼ不可能になった。
彼が予行演習に夜の散歩に出歩くと、敷地を出て3秒で顔を合わせる。凄まじい早さだ。これでは国外へ行く船や飛行機の下見が出来ない。
「…………どうかしましたか?」
彼が難しい顔をしていると、金色の闇が顔を覗き込みながら首を傾げた。彼を挟んで反対側ではモモが彼にもたれかかりながら寛いでいる。両手に花だった。
「別にどうもしてないよ」
彼はそう言って、食べ掛けていたたい焼きを齧る。地球に来てから頻繁に甘い物を摂取し出したのだが、まだ慣れない。受け付けないという訳ではないが1度に大量に食べるのは無理そうだった。
横に座る金色の闇にふと視線をやれば、既に6つ目のたい焼きと格闘する姿が。
「……なーんか、つまんないよなぁ」
1人だけ対面のソファでダラダラしていたナナが呟いた。アクティブな性格であるナナからしてみたらずっと家に籠っているのは耐え難いらしい。
かといって、ナナは地球での知り合いが限られている。ララの友人とは大体顔を合わせたが、それは姉の友人であってナナの友人ではなく、気軽に遊びに誘える仲ではない。
必然的にモモと行動を共にする事が多く、そのモモが彼の傍をキープしているためにひきこもっている時間が長い。
「なぁなぁ、久しぶりに街の散策に行こうぜ! 」
「駄目よナナ。外なんかに出たら旦那様が危険じゃない」
「いや、俺は留守番してるから3人で行けば良いんじゃないかな……」
「私は興味がありませんので、プリンセスお2人だけでどうぞ」
「旦那様とヤミさんを2人だけにするのは心配なので私も残りますね」
「あーっ、なんだよもう! おいオマエ! オマエだってたまには外に行って遊びたいだろ!」
モモや金色の闇では話にならないと悟り、ナナは彼を標的に変える。
確かに彼も買い出し以外でずっと家にいるのは息が詰まっていた。
「……そうだね。この町は俺を知っている奴もほとんど居ないし、こういう所じゃないと普通に道を歩けないからなぁ」
「だろ!」
ナナは手応えを感じて瞳を輝かせる。
「そんな! 危険ですよ旦那様!」
「どうせ今日は買い物も頼まれているし……」
「それはほら、私が代わりに行きますから」
実際にデビルーク星人であるモモの方が力が強いため、合理的ではある。が、それでは彼の立つ瀬がない。
「では私が買い物についていきましょう。プリンセス達は子守をしなければならないでしょうから」
金色の闇はそう言って彼を齧るセリーヌに視線をやる。
確かにそれはナナやモモが請け負った事であるのでモモは悔しそうに口元を歪めた。
「じゃ、アタシとヤミとコイツで買い物って事で」
「ア・ナ・タ・は! 本当に耳が付いてるのかしらねぇ。セリーヌちゃんの世話をするから私達は留守番をしているという話でしょう?」
「ちょっ、首は……っ」
仲の良い双子を彼は微笑ましい表情で見ながら、金色の闇の提案を吟味する。
心境の変化でもあったのか、家出未遂の後からヤケに好意的なものを感じる。元々、数少ない知り合いという立場で嫌われている事はないと思っていたが。
その好意がどういう形のモノにしろ、彼にとっては良くない話だ。
結局、買い物には金色の闇だけついてくる事になった。
彼も同じ体格の地球人よりは力があるため、そう苦労はしないのだが荷物を半分持たれていた。
金色の闇は何故か彼の頭の上にチラチラと視線をやっている。ここ数日は血塗ろになっていないので巻き込まれるのを心配しているのだろう、そう彼は推測した。アホ毛での探知を鵜呑みにした訳ではないが。
そんな時、少し強めの風が吹き彼の髪が揺れる。
不自然に頂点にある髪が浮き上がったかと思うと、そのまま停止した。勿論、彼はそれに気づいていない。
金色の闇は人知れず警戒態勢に入り、すぐ近くの看板の立て付けが歪んでいるのが見えた。
彼がその下を通りかかろうとした時、更に強い風が吹き看板が外れる。その角が彼の頭へ直撃コースだった。
金色の闇は咄嗟に前に出て看板を切り裂く。
「怪我はありませんか……?」
「あ、ああ。無いよ」
彼は目を丸くして金色の闇を見る。いつもならそのまま見ているか、離れるかのどちらかだった金色の闇が自分を助けた。
ふと、手に持った食材に意識が向き、それを守るためだったのだろうと彼は自己完結したのだが。
「……まだ立ったままですね。転んでしまうかもしれません、手を貸して下さい」
金色の闇は彼の片方の手にあった袋を髪で奪い取り、小さく柔らかな白い手で彼の手を取る。
いつもは飄々としている彼も、金色の闇のこの行動には背筋を凍らせた。普段の会話や多少のスキンシップは問題ないが、これは駄目だ。彼からしてみたら天敵に触れられているに等しいのだ。
嫌な汗をかきながら固まる彼に、金色の闇は不安そうに尋ねる。
「もしかして迷惑でしたでしょうか……」
「はは、まさか……」
悟られる訳にはいかないので、彼も表面上は平気なフリをする。
それを受け入れられたと解釈した金色の闇は少し嬉しそうに歩を進め始めた。帰った後に2人はモモに問い詰められるのだが、それはまた別の話。
・デレ期……?
デレ期
・さらっと人型になるセリーヌ
本能的に求める(意味深
・リトさんハーレムの状況
ヤミちゃんと双子以外は好感度振り切ってる状態。美柑は兄妹だから微妙な所
・看板
犠牲になったのだ
・てをつなぐ
ロリショタの仲睦まじい光景