トラウマ-ダークネス-   作:宮下

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2話

地球という星は彼にとっては実に住み易い星だった。

 

彩南町という町の住人は基本的におおらかで、外部への人間にも排他的でなく受け入れてもらえる。

 

お金を稼がなければ何も手に入れられないというのは難点であったが、それ以上の問題が無いというのが彼にとっては至福であった。

 

何処かで見かけたようなピンク髪を見かけたり、ふくよかな男性が下着1枚で駆け出すような所を見かけた気がするが概ねここまでの生活は幸せだ。

 

 

「新人君、調子はどうだい?」

 

 

彼は隣人にも恵まれた。

 

行き場がない事を伝えると、住む場所や着る物とお金の稼ぎ方を提供してくれたのだ。それも、見返りも求めずに。

 

 

「はい、今日はいつもより多いですよ!」

 

 

彼は大量の空き缶が入ったビニール袋を掲げた。

 

1kgで100円、100円あれば1食確保する事が出来る。皆で買った食材を持ちよれば鍋だって出来る。頑張ればお酒だって買える。

 

彼は詰まるところ、ホームレスの仲間入りをしていた。

 

 

 

 

 

 

 

何故宇宙船を持っている彼がホームレスに身を落としたかというと、航行中に他の大型宇宙船にぶつかり爆発四散したのだ。彼自身も粉々になり、身ぐるみはがされこの星に放り出された。

 

金色の闇の変身-トランス-のような能力があれば服を用意できたのだろうが、彼にそんなスキルはない。

 

そこを偶然通りかかった富永さん(55歳男性・無職)に助けられた。どうやらYAKUZAという組織に捨てられたと勘違いしているようだが、彼は別の星から来ましたなどと余計な事を言う事はしなかった。

 

名前を尋ねられたが、もう長い間名前を名乗っていないので忘れた事を彼が告げると富永さん(55歳男性・無職)は目元に涙を貯め辛かっただろう? と彼の肩を優しく叩く。

 

確かに何度も殺されたし、追われたしで大変な日々を送っていたので少々それをぼかして富永さん(55歳男性・無職)に彼は伝える。

 

富永さん(55歳男性・無職)は号泣し、ホームレスの仲間に彼を紹介し手を貸してやってくれと頼み込んだ。大の男が土下座までして。

 

こうして彼は大変だが平穏な日々を手に入れ、至福の時を送っていた。

 

ホームレスの楽園となっているのはある公園に隣接した雑木林だ。そこに目立たない様にダンボール・ハウスが建てられている。枝や木の葉で丁寧に迷彩装飾をする徹底ぶりだ。

 

そんな雑木林からボロボロの、半ば布切れな服装を着て現れた彼を見て金色の闇は今まさに口に運ぼうとしていた、たい焼きを地面に落とした。

 

 

「あ……、久しぶり?」

 

「何を、してるんですか……」

 

 

彼がここにいるという事にも驚いたが、随分と小汚い格好で薄汚れている事にも驚く。

 

以前の彼は病人を助けて回っていた事もあり、身形は清潔に保っていた。金は稼いでいなかったが、助けられた礼にと患者の家族からまだ使える古着などを貰っている事も聞いている。決して布切れなどではなく。

 

 

「あ、それ貰っても良いかな? 砂を払えば食べられるし」

 

 

あまつさえ、地面に落ちているたい焼きを指差してそんな事を宣う。

 

金色の闇は直ぐに変身-トランス-能力を使い、彼の首元を掴んで空へと飛ぶ。

 

こいつ放置してたらやばい、今まで知らなかったけど常識が欠けている。金色の闇はらしくない程に焦った表情である家に向かった。

 

金色の闇が言える話ではないが、彼は幼い頃に親が消えたためにまともな教育というものを受けていない。

 

それでも長年を経て、人助けと悪人への対処法等の事は学んだ。が、平和な環境なんて知らない。

 

結城と書かれた表札の家の前に降りると呼び鈴を鳴らして家主が出てくるのを待つ。

 

邪魔が入って殺せなかった、などと金色の闇の名が泣くとここ数日つけ狙った相手だが、他にこの星に知り合いがいないのだから仕方が無いのだ。背に腹は変えられない。

 

 

「はーい、どちら……って、金色の闇!?」

 

 

ターゲットである結城リトが顔を出すと、金色の闇は鬼気迫る表情で言った。

 

 

「結城リト、貴方を殺す事を取りやめる代わりに彼の世話をして下さい。そうすれば今後、貴方の命を狙う事は諦めます」

 

「…………へ?」

 

 

 

 

 

 

 

初めて彼以外で、標的を殺し損ねた。それが何故か無性に腹が立ち、依頼人との契約が切れてもこの星に残り続けた。

 

が、今となってはそんな事は後回しだ。

 

 

「あれ、その人何処かで見かけたような……?」

 

 

リトの後ろからデビルーク星の第一王女、ララ・サタリン・デビルークが顔を覗かせて彼を見てそう言った。

 

そういえば、先日デビルーク王に貸しがあると彼が言っていた。

 

 

「プリンセス、コレは一応ですが貴女の母君の恩人らしいです」

 

「んー。…………あっ! あの時のお医者さんだ!」

 

 

王女ララにも彼に対して覚えがあるらしい。肝心の本人はここまで引き擦ってきたせいでぐったりしているが問題ない。預けてしまおう。

 

 

「それでは彼を頼みます、私は探し物があるので」

 

 

ひとまず彼の宇宙船を探さなければ。恐らく、近くの海にでも不時着して回収不可能にしてしまったのだろう。彼は偶に抜けている所があるのでそうに違いない。

 

 

 

 

 

 

 

「えーっと、宇宙人……ですよね?」

 

 

リトは恐る恐るといった感じで彼に問い掛ける。

 

何と言ってもあの金色の闇の知り合いだ。もしかしたらとんでもない危険人物で、彼がいれば金色の闇が手を下すまでもないといった意味合いがあるのかもしれないという想像に辿り着き、恐怖で身体をガタガタと震わせた。

 

 

「まぁこの星の生まれではないね。そういう意味なら宇宙人かな」

 

「この人はね、宇宙一のお医者さんなんだよ!」

 

 

ララがリトの腕に抱きつきながらそんな事を言う。そういえば顔見知りみたいな話をさっきしていたとリトは思い出した。

 

 

「医者っていうと、御門先生みたいな?」

 

「……ミカド?」

 

「えっと、俺の学校の保険の先生なんだけど、宇宙人らしい」

 

「……そうかい」

 

 

この星は他の星と交流を持っていないため隠れ蓑になると思っていた彼は何とも言えない表情になる。

 

金色の闇に、今言った御門という宇宙人。更にはデビルーク王女。これは他にもいるに違いない。

 

しかし彼の宇宙船は爆発四散したために今から他の星へ行くのは現実的ではないし、自分の情報が出回らなければ良いかと気分を切り替える。

 

 

「金色の闇はああ言っていたけれど俺は特に困ってる訳じゃないから断ってくれても良いよ。住む所もあるし。その時は」

 

「へ? ……って事は、家事が絶望的だとか?」

 

 

金色の闇は世話をしてくれと言った。という事は彼の生活環境なり生活習慣なりに問題があるのだろうとリトは推測していた。

 

特に意識している訳ではないが、リトは困っている人を放っておけない性質だ。

 

そんなリトが、

 

 

「家事……? 何かな、それは」

 

「住んでいる所? ここから少し離れた公園に雑木林があるんだけど、そこにダンボールで家を作って貰ったんだ。中々に住み心地が良くてね」

 

 

彼のそんな話を聞いて放って置ける訳がなかった。

 

金色の闇の話を抜きにしても、見た目ではまだ中学生ぐらいであろう少年が野宿は駄目だ。たとえ宇宙人だとしても。

 

結局、彼の結城家への居候が決まった。




・船が船爆発四散
どこかの変わった尻尾が生えた宇宙人の船に衝突したらしい。

・ホームレスが至福とは
虫や草を食べるのが当たり前の生活を送っていたらしい。

・原作だとどの辺
地球に着いたのは1巻、現在は10巻くらい。

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