彼が結城家に居着いてから数日が過ぎた。
リトの妹である美柑は増えた居候に微妙な表情をしていたが彼の言動から放って置いたら駄目な人種である事を見抜き彼の居候を承諾した。
彼の様子を見に金色の闇が何度も結城家を訪れるのだが、その度にリトは恐怖で震える。命を狙われるなんて地球では早々ない事を経験したのだから仕方がないのかもしれないが。
「どうですか、この家の暮らしは」
「凄いね。今までに何度か食事をご馳走になった事はあったけれど、こう毎日三食なんて贅沢は初めてだ」
リトやララ、美柑の3人は学校へ行っている時間なのでこの家には彼と金色の闇の2人しかいない。
彼はニコニコと笑いながら金色の闇に告げる。
「俺はそろそろこの家を出るよ。リト君とミカンさんだっけ、2人には世話になったし言伝を頼みたいんだけど」
「は? まだあそこに戻るのですか?」
「いや、人がいない所へ行こうかと思って。ちょっと調べてみたけどこの星にも未開拓な場所はそこそこあるみたいだし」
彼の言葉には流石の金色の闇も目を丸くする。良かれと思って衣食住を確保させたのに、それを全て放り出すとはどういう事だと問い詰めるが当の本人は。
「だってほら、この家の住人がどれだけ良い人かは解ったけど……。俺は異物だから」
彼がこの家に住む事で食費が、洗濯物が、日用品が僅かだが増えた。勿論結城家の2人はそれを迷惑だとは思っていないし、同じく居候であるララも母の恩人だということで、感謝すれど邪険に思う事は無い。
「もう1つはこっちの都合なんだけど、彼らの世話になるってのも数年が限界だろう? だから、もうしばらくこの星に住む為の地盤固めがしたいんだよ」
彼は老いない。時間の捉え方に他者とのズレが生じるのは仕方のない。彼の言うしばらくは数年の話ではなく、数十年。もしかしたら100年以上の事だ。
現に、リトは高校生でありあと数年もすれば自身の将来を選択しなければいけない。尤も、ララがデビルーク王になるのだと豪語しているが。
妹の美柑にしろ、進学すれば家事が負担になり、人数が多ければ手につかなくなる事も十分に有り得る。
全く姿に変化がない存在は気味の良いものではないし、彼も親密な存在が老いて消えていくのは辛い。
「世話になったし何かお返しを……。血だとちょっとアレだし、髪で良いかな。切ってくれない?」
彼の身体は末端になる程効果が薄まる。髪の毛なら効き過ぎる栄養剤くらいのものだ。1度に大量に摂取しなければ後遺症もない。
金色の闇は二つ名の元になった金髪を変身させる。
ハンマーに。
それを彼の頭に思い切り振り下ろした。常人なら確実に後遺症の残る強さで。しかし、彼にはこれくらいやらなければ意味がない。
頭を床に埋め込ませる勢いで彼は顔から打ち付けられるが、ハンマーが退かされるとケロッとした様子で上体を起こす。
「何をするんだ」
「忠告ですが、私は貴方の生活保護と引き換えに結城リトの抹殺を取り下げています。それが放棄されたら、結城リトがどうなるか……、解りますよね?」
「なる程……」
何でお前がその条件で依頼を取り下げるんだ。とは彼は言わなかった。
なんだかんだで顔を合わせる機会は多かったし、雑談なんかもしてきた相手だ。金色の闇が彼に気を使う事は理解出来る。
「なら半年かな。もっと早く発つ可能性もあるけど、それ以上は駄目だ。一緒に暮らすのは良くないんだ。それは君が1番よく解ってる筈なんだけど」
例えばの話。彼が怪我をして、血が出て、それが何かの間違いで結城家の面々に付着する。
結果、量によっては結城リトがショタに、結城美柑が幼女になる。不可逆で。
目の前にいる金色の闇が良い例だ。今でこそ血が付着する様な殺し方はしないもの、以前は彼の返り血を浴びる事がしばしばあった。
金色の闇は本来の年齢より5、6歳幼い姿をしている。外見は結城美柑よりも年下なのだ。
仕事中は変身して誤魔化しているが、金色の闇は立派な幼女である。本人は自業自得と認めながらも時折彼に八つ当たりをする。
「こんな平和な町で何があったら血飛沫があがるんですか」
「長い間生きてるけど、君に切りつけられたのが原因でってのがベスト5に入ってる」
「仕事外ではしてませんが」
その仕事が10日に1度はあったのだが。彼の不満そうな視線を受けた金色の闇はシラを切る。
「それに、しばらくそっちの仕事は受けませんよ。余りにも取り逃がした回数が多いので協力関係かと疑われ始めていますし」
「協力関係?」
「私がわざと取り逃して、依頼料を貴方と2分しているのではないかと思われているんです」
「他の奴にも散々撃たれたり刺されたりしてるんだけどなぁ……」
「でも逃げ切っているでしょう?」
追いかけっこの最中に流れる血を集めたりする輩は流石にいない訳で、彼に手傷は負わせたがその身体を一部でも採取したという者は少ないのだ。
地面に落ちた血は砂漠に落ちた水滴の様に直ぐに吸収されてしまうし、腕を飛ばすような致命傷は、彼も長年追われ続けているだけあって回避してくる。 そもそも、見つける事自体が困難だ。
その点、金色の闇は発見率が高く、5%程の確率で極少量だが彼の身体を採取できる。依頼が集中するのも肯ける。
偶に欲張って彼を殺してもってこい、という依頼者がいるのだが金色の闇は死体の運搬は拒否して自身で回収しろという姿勢を取る。地球に来る前の依頼もこれにあたり、回収前に彼は傷を癒して逃げるのだ。
確かにこんな事では協力関係と疑われるのも仕方ない。
「つまり、もう少しサービス精神を見せろと」
「……はぁ」
彼が身体を安売りしとうと曲解した事に金色の闇はため息を吐く。コイツは誰かに保護されないと駄目みたいだ。
「ところでその袋は何? ずっと持ってるけど」
「あぁ、忘れていました。お土産です」
金色の闇が手に抱えている紙袋からたい焼きを取り出し、彼に差し出す。
「この前食べたがっていたので。どうぞ」
「あの時は胃に入れて大丈夫なものなら何でも良かったんだけど……。まぁいいや、頂きます」
彼はたい焼きを受け取るとそのまま齧る。金色の闇からすればこの星に来て初めて食べた物であり、好みにも一致する思い入れのある品である。
彼は無言で受け取ったたい焼きを押し込むように胃の中に詰め込む。金色の闇が彼をジッと見つめるが、彼は出来た性格をしていなかったので首を傾げるだけだ。
「えっと、どうでした……?」
「うん、美味しいんじゃないかな……?」
耐え切れずに金色の闇がたい焼きの感想を求めるが、彼は微妙な反応を返すだけ。
補足すると、彼にとって食べ物とは消化出来るか、毒性がないかというのが重要で次に量。栄養や味は二の次で要するに味覚がぶっ壊れている。
彼にとっての味に対する姿勢は、今後も食べていけるか二度と口にしたくないかだ。土の味までなら我慢できるらしい。
この日、金色の闇は帰った宇宙船の中で膝を抱えた。
・ヤミちゃんの姿
例のスカンクの被害を受けた時くらいのロリさ
・おう家の中で1話ってどういう事じゃ
こっちも聞きたいの
・結局何がトラウマなのさ
ヤミちゃん視点だと結構なこの絶滅危惧種の存在が結構なトラウマ