彼が本格的なニート生活を送り始める前に、結城家での役割が決まった。
買い出しと、共通スペースの掃除、それと留守番だ。
3度程、美柑“が”付添いで買い出しに行き、買い物の方法を覚えた所で毎日必要なモノをイラスト付きのメモで渡される。彼と美柑で共通して使える文字が無いためだ。
言語については触れてはいけない。日本語は宇宙的に有名な言語です。
買い出しの途中の事だった。宇宙でも数少ない、彼が二度以上遭遇している宇宙人を見かける。勿論、好印象ではない。
「貴様は……ッ!」
「……どーも。えっと、ザ何とかさん」
この町ホントに宇宙人との遭遇率たけーな。と彼は本気で人里離れた秘境に隠れ住もうか悩み出す。
実は宇宙でも知る人ぞ知る避暑地的な扱いの町だったのかもしれない、なんて馬鹿な想像を彼がし出した所でザスティンは剣を構えた。
実はデビルーク星では彼はお尋ね者なのである。犯罪者という訳ではないのでALIVE(生存状態)のみでの手配だ。彼の場合はどうしたって生きたまま連れてかれるので特に意味は無い。
しかし、ザスティンは彼を捕えたい訳ではない。
「何故貴様の様な者がここにいるのかは解らないが、取り敢えず手足を落として何処かの星へ放り出す」
「そんな邪険に扱わなくても……。アレは俺のせいじゃないし、ルシオンが短気なのが悪いだけじゃ」
彼がデビルーク星を発った時は穏便にとはいかなかった。デビルーク王が彼を気に入り、手元に残そうとしたのだ。
要点だけ纏めると、彼が王妃を口説くフリをデビルーク王の目の前でして戦艦が7隻程消し飛んだ。事後処理を隠れ蓑に彼は逃げた。それだけだ。
何が不味かったというと、王妃がその場で断らなかったのだ。相手は命の恩人で、夫と同じく種族の特性である魅了が効いてない。結果、彼の想定していた数倍の勢いでデビルーク王がブチ切れた。
爺相手に何を嫉妬していたのだと数ヵ月後に落ち着いたデビルーク王は彼を指名手配。ちなみにララはその辺の経緯を丸で覚えていない。
滞在時には彼の監視かつ護衛(彼の居場所が知れ渡っていたためその手の方が絶え間なく強襲してくる)を務め、事後処理に1番手を焼かされたザスティンが彼をデビルーク星に近付けたくないのは仕方ない。
「覚ごぉッ!?」
ザスティンが踏み込もうとした瞬間、背後から金色の刺突が後頭部を遅い呆気なく地に伏せる。
彼がザスティンの背後を見ると、金色の闇がたい焼きを咥えながら佇んでいた。髪の毛の一部がウネっている。
「あー、助かったけどやり過ぎじゃないかな?」
「死にはしませんよ。直ぐに血が上る頭なら血を抜いた方が良いかと思いますし」
「吹き出してんだけど。頭蓋骨が陥没してたりしないよな?」
金色の闇が目を逸らす。彼はため息を吐くとザスティンに近寄り、傷口に触れる。
「あまり広まってないけど、触れているだけでも傷は塞げるんだよね。血の補充とか考えたら体液使った方がいいんだけど」
「知ってますよ。何度かお世話になりましたので」
「そうだっけ?」
彼は、返り血を浴びた回数の方が多いのでは、という言葉を飲み込んでザスティンの後頭部を抑え続ける。
ここで問題なのは、彼は買い出しの途中。つまり、この殺傷沙汰が人通りが普通にある道での出来事出会った事。
金色の闇の攻撃に抜かりは無い。手は抜いたが、一般人には認識する事も出来ない速度での華麗な手際だった。
よって周囲の人からは変な鎧を着た男が勝手に騒いで突然血を噴き出して倒れた事になる。
「あー、私は医者なんで皆さん気にしないで下さいねー!」
彼がそう言って、ようやく遠巻きに眺めていた人が散り始める。
傷が塞がったのを確認して、彼はザスティンから手を離した。ザスティンの後頭部と彼の手は血濡れたままなので見た目は完全に犯行中である。
「じゃ、後は放置で」
「一応治安を守る組織はいますし、このままにしては連行されてしまいますよ?」
「それは俺の責任じゃない」
不意に彼の鼻はムズムズとしだし、思わずくしゃみをする。彼は咄嗟に口元を手で覆ったが、僅かながら漏れてしまったのだろう。
直ぐ傍にいたザスティンは飛沫した体液を浴び、急に目を開きバネのように起き上がる。
剣を持ったまま。
まるで砂場にシャベルを差し込む様に、サクッと簡単に彼の胴体に剣が刺さり、通行人が悲鳴を上げる。
金色の闇は酷いコントを見た時のように半目でその様子を眺める。
「ここは……って貴様何故そんな事に!? スマン、直ぐに抜く!」
我に返ったザスティンは慌てて剣を抜こうとするが、彼は剣を持ったザスティンの手を掴み止める。
「はいはい事故事故。気にしない気にしない。それより人気のないとこにこのままで運んでくれない? 抜いたら血塗れになるし」
「あ、ああ……」
「皆さん気にしないでー、大道芸の練習ですかゲホッ」
胴体を貫かれたら当然内臓も逝ってる訳で、彼は盛大に吐血する。ザスティンにブチ撒ける事はなかったが道路が血だらけだ。
「……し、仕込みの血糊です」
そう言いながら血を吐き続ける彼に関わるのは危険だと、通行人達は見なかった事にして早足に去って行く。彩南町の人々は適応力が高い。
「またですか」
「隕石直撃に比べたら可愛い方……」
「アレは酷かったですね。上の方だけ消し飛んで噴水になってましたし」
2人が話しているのは、隕石が建物に当たって水道管を壊して水が噴き出した話ではない。隕石が彼に当たって上半身が木端微塵になり残った下半身から血飛沫が上がった話だ。
「やー、ホントに世界を敵に回してるというか。……定期的に殺しに来るよね」
周りに人がいないならいいや、と彼はザスティンから離れてから剣を身体から抜く。出てはいけないものまで一緒に出た気がするが、急いで拾って詰め直した。
「き、貴様はさっきから何をしているんだ……?」
ザスティンはただ困惑する。先程は好戦的な態度を取ったが、実際は灸を据えるくらいで済ませてデビルーク星に連れて行こうと思っていたのだ。
それが、彼は勝手に大怪我をしてそれが当然の事のように振舞っている。
「この人は誰かに殺されないと勝手に事故に遭って死にかけますよ。月に1度程の頻度で」
「は?」
「狙われてる時でも平気で倒れるからね。追いかけっこの途中でもコケたら木の棒が脳天に刺さったりするし」
「……苦労、していたのだな」
ザスティンが彼に憐れみの視線を向ける。
「嫌でも慣れたよ。あ、悪いんだけどこの辺の片付け頼めるかな」
彼は金色の闇にそう言う。金色の闇はため息を吐きながらも地面を軽く削って血痕を消した。慣れた様子である。
彼が血塗れになったので買い出しは中断、金色の闇が彼を結城家に送り届けた。
ちなみに、このペースで流血沙汰を繰り返すと、リトのお下がりの服が全て駄目になるまで1ヶ月である。
夜、彼にはララのお付のロボであるペケのコスチュームを変更する機能だけ抜き出した発明品を与える形で話が付いた。
・死ぬのか死なないのかはっきりして
死ぬような思いをして気を失う→治って目が覚める
Angelb〇ats!みたいな想像。
・ヤミちゃんのトラウマ1
1ヶ月近く追いかけっこしてたら標的が目の前でan〇therした。自分で殺るより酷い事になる。
・痛覚迷子
一応お爺ちゃんだから……