彼は仮想空間内にひとりで放り出されていた。
この仮想空間は地球のロールプレイングゲームを参考に作られているのだが、彼は地球に来て間もなくゲームなどやった事が無い。
「おお、死んでしまうとは情けない」
彼が街を出ると数分でモンスターが彼を取り囲みリンチを始める。もう4度も教会からのリスタートをしていた。
取り敢えずNPCに言われるまま転職屋に入ったが、その結果彼は僧侶に。一人旅には向かない職業である。
他のプレイヤーと合流出来なければ詰みだ。それは一向に構わないが、取り敢えず金色の闇にだけ接触して起きたかった。暴挙に出る前に止めなければならない。
が、彼の今の状態は。
「詰んだ」
5度目のゲームオーバーを迎える。ドラゴンに焼き殺された。
再び教会に戻され、そこを出た所で運良く知り合いに出会う。
「貴方もここに飛ばされたのですか……」
「何その格好……」
救世主となる
金色の闇が身に付けているのがバニースーツでなければ彼も大手を振って再会を喜んだ。見た目の年齢が美柑より低いため、つめるべきものがない胸部が悲惨である。
バニースーツの存在を知らない彼からしたら金色の闇は血迷ったのか狂ったのか、完全に痴女な格好であるため彼は呆れを含んだ視線を向ける。
ちなみに彼は神官服モドキを着せられている。
「視線が不愉快です、潰しておきますね」
取り敢えず金色の闇は彼に目潰しをしてから今後の事を考える。
高確率でララの発明品が関わっている事が予想できるが、肝心のララの姿は見えない。あのララが発明品を使った相手に接触しないのは不自然なため事故か何かを想定したが、それでは招待状の説明がつかない。
色々と状況を想定する金色の闇だが、目が回復した彼の一言によりその悩みが全て解決する。
「この空間さ、ララさんの姉妹が用意したみたいで危険はないみたいだから暴力で解決するのは無しの方向で」
「……はい?」
彼はここに来た経緯を説明し、理解はしたがどうも釈然としない金色の闇はとりあえず髪で彼を縛り上げる。
「このまま持っていきましょうか。戦闘の役に立たないですし」
「せめて頭を上にして欲しい。こんな体質でも血は上るんだ」
最終的に、その辺で拾った紐で簀巻きにされた。
色々と飛ばして魔王城でリトや美柑。リトの友人である西園寺春菜と古手川唯と合流。
初見の2人と自己紹介を済ませる彼だが、生憎彼は名乗る名前が無いのでどうしたものかと頭を悩ませる。
そんな時、ラスボスが現れたりと色々起きた。結局は、ララに対するリトの気持ちを確かめるためにララの妹達が仕込んだ事だった。
多少のアクシデントはあったが無事に現実へと戻った。彼は何故かデビルーク星に向かう宇宙船に拉致されていたが。
「ごめんなさいね、私達が地球に行く条件として貴方を連れ帰るようにお父様に言われまして……」
「そういうことだ。運がなかったって諦めてくれ」
ナナとその双子の姉妹、モモ・ベリア・デビルークはそんな事を言う。
「でもどうして居場所が……」
「ザスティンの奴が父上に知らせたんだよ。でも、自分は借りが出来たから捕まえられないとか言ってさ」
なら報告するなよ、と彼は叫びたくなったが当の本人はここに居ないので堪らえる。
「ところで、本当に長年生きているんですか? 疑っている訳ではないんですが、私達とそう変わらないように見えるので……」
「俺だって出来る事なら後数年分は成長したかったよ、何なら爺の姿でも良かった。年齢は数えてないけど、歴史書に記録されてる事は大体体験してる」
「なるほど、凄いですね……」
「死なないってのはアタシも見たぞ。目の前でペンが……」
ナナはそう言いかけて口元を押さえる。中々にスプラッターな光景であった為、出来れば思い出したくない事だ。
「あ、リビング掃除してないや。血が落ちなくなったりしてたらどうしよう」
「アタシがしといてやったよ。そのせいで飼ってたヒルがヤケに元気になっちまったけど」
「何してんのさ……」
ヒルを飼っている、というのは決してナナが変な趣味を持っている訳ではない。
ナナは動物、モモは植物と会話できる力を持っていて、宇宙中から様々な種類を拾って集めている。ヒルはその内の一種だったに過ぎない。
「もうひとつお聞きしたいんですが、お父様とはお母様を巡って争う仲、というのは本当ですか?」
「断じて違う、アレはその場限りの狂言です」
「えーっ!? でも母上だぞ? 普通は本気で、その、ケダモノみたいな感じに……」
「俺の実年齢からしたら孫の孫よりも年下なんだけど」
「でも、お母様にはチャームがあるんですよ? 直接見たりしたら貴方でも……」
「見たさ、治療の時に。そもそも、あの種族がそれなりにいた頃から生きてるんだし、チャームが効いたら……」
そこまで言って、彼は口を噤む。もしチャームが効いたら、今頃生きてない、なんて口にした日には色々と面倒だ。
「で、何でまたルシオンは娘に俺を拉致させたわけ?」
「詳しい事は聞いてませんが、渡したい物があるそうですよ?」
「え? サンドバックにしたくなったとかじゃなくて?」
「いやいや、いくら父上でもそんな事で拉致ったりしないだろ」
「するよ。昔デビルーク星に軟禁されてた時は殆ど毎日だ」
双子が引き攣った表情になる。
彼はゆっくりと立ち上がり、服に付いた埃を払って。
「じゃ、逃げるわ」
船室から逃げ出す。その速度は凄まじく、デビルーク星人である2人が咄嗟に反応できない程だ。油断していたとはいえ、其処らの宇宙人に出来ることではない。
2人は呆気に取られていたが、クスクスと笑い出す。
「ホントに父上の言った通り、逃げるのは得意なんだな」
「丁寧に拘束具が外されているわね。最新式だったのに」
彼が座っていた位置には大量の拘束具が落ちていた。しかし、2人は慌てた様子もなく談笑を始める。
本来、大型の宇宙船には星に降りる為に使う小型船を乗せているのだが、今回に限り全て宇宙船から降ろすようにデビルーク王が命令したのだ。
彼も生身で宇宙空間には出ないだろう。少なくとも、周りに安全な星がない限り。
実際、彼は必死に脱出手段を探しているが一向に見つからないので焦り始めている。その内、黒服達が取り押さえるだろう。
ナナもモモも、そう思っていた。
問題が起きたのはデビルーク星に着いてからだった。彼が逃亡したのだ。
彼はデビルーク星に着くまでの数日を宇宙船内で逃げ続け、宇宙船が着くなり直ぐ様逃げ出した。
デビルーク星には宇宙船出航禁止の警報が鳴り渡り、捕獲隊が編成された。デビルーク王が自ら指揮を取る一大事である。
逃げ出した本人は王妃、セフィ・ミカエラ・デビルークの執務室で寛いでいる訳だが。
「貴方が来ると賑やかになるわね」
「いい迷惑だよ。ルシオンもあの時の事は冗談だって理解してる筈なのに」
「あら、冗談だったの? 随時と情熱的な求婚をされた気がするのだけど」
「それくらいしないと、あのままずっと
しばらく、セフィがペンを走らせる音だけが続く。
「ハァ……、船まで止められるなんてね。どれだけ本気なのやら」
「夫も貴方に会えるのを楽しみにしていたのよ。思い切って会ってみたらどう?」
「会ったらミンチにされるし……」
彼がそう言うと、セフィは軽く吹き出して笑う。
「フフッ、そんな事を心配して逃げていたのね。大丈夫ですよ。貴方が出て行ってからたくさん話し合ったから」
「話し合い?」
「はい。話し合いです」
セフィはペンを置くと、普段は人前では外さない顔のヴェールを外す。
「少しだけでいいのよ。ほら、私の美しい顔を立てると思って会ってもらえない?」
「断るよ」
「じゃあ、衛兵を呼ぶわね。デビルーク王の妻を襲った罪状で更に懸賞金を上げて宇宙中に手配します」
「逃げ切って見せるよ」
「ちなみに、私も追跡に出ます。国の事は全部後回しにして、貴方を捕えるまでここには帰りません」
デビルーク星の政務は大半がセフィによって行われている。セフィが星を長期間空ければ国が成り立たないだろう。
彼が本気で逃げたら、デビルーク星の体制が崩壊する事になる。それは彼も望む所ではない。
「……少し会わない内に随分と口が回るようになったね」
「あの頃よりも2人子供が増えてますからね。貴方は変わらないけど」
「良いよ。その代わり、君も同席してくれ。それならルシオンも無茶はしないだろうから」
「あら、最初からそのつもりよ?」
その後、彼はデビルーク王と対談した訳だが。
まさか下の娘を嫁にと言い出すとはセフィも予想してなかったらしい。
・バニーヤミちゃん
原作→少しある、本作→平坦。何がとは言わないですが。
・キョーコちゃんのDEBANは……
主人公さんは後ろで控えてて特に何もしなかったのでカット。
・拉致
彼の本来の日常
・双子の押し売り
実はララの婚約者にする話もあったかもしれない。ヤミちゃんが嫉妬して可愛くなる