「冗談じゃない……」
彼は呆れた様子でそう言う。デビルーク王はそう簡単に自分の意思を曲げるような事をしない。それも解っているからこそ、尚更呆れの色は強かった。
彼の唯一の弱点を知らないにしろ、彼を親族として迎え入れれば戦争が起きる。それだけの利用価値が彼にはあるのだ。
だから彼はどの星にも過度に関わらないようにしてきたし、決して深い関係を持たないように心掛けた。
「これは決定事項だ。他の星にも伝える準備をさせてある」
「また銀河大戦でも起こしたいのか?」
「俺はデビルーク王だ、文句のあるヤツは力ずくで黙らせる」
「……その縮んだ身体は戻さないけど、それでもか?」
デビルーク王は黙って頷く。彼はセフィの方に視線をやるが、セフィは首を横に振った。どうやら、今回はセフィでも説得が出来ないらしい。
「ナナやモモにはこれから伝えるが文句は言わない筈だ。元々、政略結婚の覚悟はさせていたからな。むしろ、悪い噂のないお前なら喜んで受けるだろ。アイツ等じゃ不満か?」
「そういう話じゃないだろ。俺の年齢も考えてみろ」
「中身がジジイでも身体は若いままだろ。ララより年下じゃねぇか」
「その姿でそれを言うか……」
デビルーク星人の特徴として、内包するエネルギーを大量に消費すると身体が縮むというものがある。デビルーク王も先の大戦の影響で赤子の様な背丈まで身体が縮んでいた。
「そもそもルシオン。お前、俺をサンドバッグ代わりにするために探していたんじゃないのかよ」
「それについては否定しねぇが……、お前にはデカい借りもある。いい加減、腰を落ち着けてゆっくりできる場所が欲しいだろ?」
彼はそれを聞いて硬直する。
だがそれも一瞬の事で、直ぐに肩を竦めて笑いながら言った。
「第2次銀河大戦の事は知ってるか?」
「……お前の同族がある星に嫁いで、それが気に入らなかった周りの星々が始めた戦争だろ」
「アレで十数個の星が消えた。また同じ事が起きるよ」
「俺がさせねぇ」
デビルーク王の力は強大だ。全盛期であれば並ぶ者はいない。
「……ガキんちょが見栄を張るな。自分の立場を考えろ」
だが、それは個人での話だ。戦争になればデビルーク王の周りの者達が狙われる。
セフィを、ララを、ナナやモモを。国民を危険に晒してまで彼を迎え入れるのは我儘が過ぎる。
「……どうしても受け入れねぇんだな?」
「今更生き方を変えるつもりはないよ」
暫しの沈黙。それを破ったのは爆発音だった。
何かが爆発した訳ではない。デビルーク王が
彼の首をデビルーク王の小さな手が掴み上げ、呼吸を無理矢理に止める。
「なら、力尽くだ。お前が納得するまでボコボコにしてやるよ」
苦悶の表情を浮かべていた彼だったが、ふと、その顔から感情の色が消える。
グチャリと、デビルーク王の手の中から果実が潰れるような音がした。
「っ!?」
セフィは悲鳴を上げそうになるが、手を口に押し当てそれを堪える。
ゴトリと、鈍い音を立てて何かが落ちる。支えを失った彼の身体は崩れ落ちた。
「テメェ、自分の身体に何て物を仕込んでやがる……」
「昔拘束されたときに使ってた小道具だよ。そんな大したものじゃない、ただ首を圧迫して千切るだけだよ」
彼は床に落ちたチョーカーを拾う。
「ルシオン、これ以上は止めにしよう。俺がしないといけないのは人助けとかそういうもので、争い事じゃないんだ」
彼自身が争うのも、彼が原因で争いが起きるのも彼は望まない。
「良く言うぜ。武者修行の幼気な少年をボロ雑巾みてぇにしたクセによ」
「俺にだって荒れてる時期はあるよ」
「諦めねぇからな」
「勝手にするといい。どうせ一生叶わないだろうけどね」
方法は強引だが、デビルーク王なりに彼の事を考えた事は彼も理解している。
少し調べたら彼がどういった生活を送って来たかは解る。誰もが喉から手が出る程に求める存在であるがために安住の約束された居場所はなく、本当の意味で理解者が現れる事もない。
過去に彼と親しくなる者もいたが、その者達は彼の生活のほんの一幕しか生きられなかった。その者達の手記には決まって彼より先に逝く事への懺悔が書かれている。
彼はこのまま地球へ戻るかどうかを改めて考える。
事故によって地球にしばらくいる事を考えていたが、ここはデビルーク星だ。宇宙船なら手に入る。想像していたより宇宙人が多かったあの星へ態々戻る事もない。
まぁ、彼がどう考えた所で寝ている間に地球に送り返された訳だが。双子付きで。
彼とデビルーク王との出会いは、デビルーク王が10代前半の事だった。まだ王座に就く前の話だ。
幸か不幸か、武者修行中にある星で彼に遭遇する。当時彼は精神的な疲労が重なり、端的に言って機嫌が悪かった。
長年を過ごし冷静沈着を体現していると自負していた彼でもイライラする事はあったのだ。
「お前、随分な有名人みたいだな」
「……デビルーク星人?」
デビルーク王は大戦中に生を受けたため、歴史に疎く彼がどういう存在かよく分かっていなかった。
しかも、大戦中に名を上げるのは決まって猛者であり彼もそうであると思い込んでいた。
「早速だが、修行に付き合って貰うぜ!」
そう言ってデビルーク王は彼に手刀を放ち、彼はあっさり胸を貫かれる。
呆気にとられているデビルーク王に、彼は冷たい視線を向けた。
「いきなり人を殺しにかかるとか、随分な世間は知らずみたいだね。少し痛いめに遭わせてやんよ」
彼は何をしたかというと、デビルーク王の尻尾をもいだ。
もいでは繋げ、もいでは繋げで差はあるモノのデビルーク星人の弱点である尻尾を徹底的に痛めつけた。
尻尾からビームを撃つ暇など与えない。的確に関節を決めて動きを封じたまま尻尾をもいだ。
その後、何度かデビルーク王は彼にリベンジをしようと挑むのだが彼はあれ以来攻撃を仕掛ける事はなかった。
初めてされた勝ち逃げだ。プライドの高いデビルーク王がそれを許す筈がない。彼の見た目が当時は同い年くらいに見えたのもデビルーク王の闘争心を煽った。一方的なライバル認定だ。
が、元々神出鬼没な彼だ。そもそも出会う事が稀である。
彼についての情報を集めると、綺麗に2つに分かれていた。
一方は彼の利用価値がについて。彼の利用価値や、その能力について語られる事だ。
もう一方は、救世主扱いされている彼の事だった。
奇病に侵された国を救い、不治の病を治療し、伝染病を見事に消し去った。その事に求めた対価は些細な食事や衣服、宇宙船の燃料だったとか。
出会いが出会いであったために、デビルーク王は後者については半信半疑だったが。
彼がどうしようもない善人だとデビルーク王が理解するのは、その約10年後の事。
・謎シリアス
現代風に表すと「いい加減自分の幸せも考えようぜ」。
尚、デビルーク王は世紀末な生まれなので拳で語り合うタイプ。
・尻尾もぎもぎ
ジャ〇プ作品は基本年功序列だから……。
つまり本気のお爺ちゃんはそこそこ戦える。
・輸送、双子付き
原作だと双子が家出してくるタイミング
・ヤミちゃんはよ
頑張る