トラウマ-ダークネス-   作:宮下

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9話

ある星で、力を使い果たした少女がいた。

 

周囲の建物は軒並み崩壊し、少女の他には誰一人として息をする者はいない。

 

少女は育ての親である女性の顔を思い浮かべ涙ぐんだ。

 

 

「これは君がやったのかな」

 

 

する筈のない声が聞こえた。この星のモノは少女が全て壊した筈だ、元の形をしているものなどある筈がない。

 

しかし、霞んだ視界の中には確かに人影が写っていた。

 

 

「まずは体力を回復させようか。話せない事には始まらない」

 

 

少女に話しかける誰かはそっと少女の背に触れる。

 

下がっていた体温は次第に戻り、渇き切っていた喉に水分が戻り、身体中にあった傷が塞がり始めた。

 

少女は身体に力が戻ると、直ぐに目の前の誰かの胸を突いた。

 

硬化した髪は誰かの胸を貫き鮮血が舞う。

 

どうせこの誰かも自分に恩を売って利用しようとしていたのだ。さっさと殺ってしまった方が良いに決まっている。少女はそう思い、直ぐに行動に移したのだ。

 

 

「ダメじゃないか、いきなり人を殺しちゃ」

 

 

少女の肩がビクッと跳ねる、どう見ても致命傷なのにその誰かはヘラヘラと笑っていた。

 

 

「何があったのかは知らないけれど、安心しなよ。俺は君をどうこうしようなんて思っていない。傷を治して、生きていけるようになったらさようならだ」

 

 

誰かは少女の頭に手を乗せ、少し雑に撫で回す。

 

 

「君はただラッキーと思っておけばいい。この広い宇宙で、困ってる時に頼れる人が出来たんだって」

 

 

 

 

 

 

 

金色の闇はハッと目を覚まし、辺りを確認する。

 

近くには美柑が横になって寝ているのを見て、結城家に泊まっていた事を思い出した。

 

夢を見ていたような気もするが既に内容は忘れてしまい、どうでもいい事なのだろうと切り捨てる。

 

ふと、リビングの方に気配を感じる。他とは違う特殊な気配。

 

美柑を起こさない様にそっと部屋を出てリビングへ入ると、予想通り彼がいた。

 

 

「やぁ、こんな時間に起きてくるなんて……。小腹でも空いた?」

 

「失礼ですね。貴方こそ、こんな時間に何をしているんですか」

 

 

彼は明かりも付けずに本を手に取り、ページを捲っている。

 

ジッと動かない金色の闇に観念したのか、起きている理由を話し始めた。

 

 

「落ち着かなくてね。色々と考え込まないように何か読もうかと思って」

 

「プリンセス・モモとプリンセス・ナナの事ですか」

 

「……まあ、今はそれが1番大きな問題かな。ルシオンも余計な事をするよ。そういう性格は嫌いじゃないが、向けるのは俺以外にして欲しいね」

 

「いっそ2人とも娶ってしまったらどうです?」

 

「無理だ」

 

 

強い否定の言葉に、自分の事ではないのに金色の闇の表情が強張る。

 

 

「お互い後悔しかしないよ。20年も経てば解るさ。相手は変わらないのに自分だけ老いていく辛さは女性からしたら耐えられないだろうさ」

 

「貴方の能力なら、若返りが可能ではないですか」

 

「老いを避ける為に伴侶の血肉を摂取するのか。そんな関係、俺はお断りだね」

 

「……すみません、軽率でした」

 

 

金色の闇の姿が数年前と変わらないのは、彼を傷つけその血を大量に浴びて来たからだ。

 

夫婦でそのような関係になってしまえば、そこから綻びが生じ狂ってしまうだろう。彼と金色の闇は標的と殺し屋という関係だから特に態度が変化することが無いだけだ。

 

 

「今後10年くらいは旅を止めてゆっくりするつもりだから地球には残る。けど、やっぱりこの家は出るよ。元々、俺はリト君や蜜甘さんに貸し借りや思い入れがある訳じゃないからね」

 

「迷惑だったのでしょうか……」

 

 

金色の闇が言うのは、彼を結城家に連れてきた事だろう。思えばあの時は冷静でなく、無茶な要求をしたと金色の闇は反省する。

 

 

「いや、嬉しかったよ。本当に久しぶりに家庭って感じの場所にいられた」

 

「……貴方は」

 

 

金色の闇は何かを言いかけるが、口を噤む。

 

しかし、意を決したようにその口を開いた。

 

 

「貴方は、本当にそんな生き方で満足なんですか」

 

「満足だよ。俺は。出来る範囲で人を助けて、感謝されて。それに、それを言うなら君も殺し屋なんてしていて良いのかい? この星に来てから、随分と他人にも優しくなった」

 

「私は、例えどこまで行っても兵器ですから」

 

「俺もそうだよ。どこまでいっても、俺の能力は付いて回ってくるから。……そうだな、この星でも小さな紛争は日々起きているみたいだし、後半年もしたらそこへ行くよ」

 

「プリンセス達はどうするのです?」

 

「あの2人には星に帰ってもらうしかないね。俺が本気で姿を眩ませたらルシオンも追ってこられないさ」

 

「私なら追えますが」

 

「……そう、なんだよねー。前から気になってたけど、何で簡単に居場所が解るのさ?」

 

 

実際のところ、彼は金色の闇に発見された後に本気で逃走して姿を眩ませている。毎回手法を変え、痕跡を残さないで移動しているのだ。

 

そんな彼を見つける事が出来る金色の闇に、ナナやモモが依頼をしたら。

 

 

「教えませんよ」

 

「そうかい。まあ、それも数十年の話か」

 

 

悠久を生きる彼と金色の闇では、やはり時間の捉え方が違うのだろう。彼は困った様な表情をしてみせるが、やはり些事でしかないと思っている。

 

 

「それはどうでしょうか。現に、私の身体は殆ど歳を取っていませんが。永遠の追いかけっこになるかもしれませんね」

 

「……そうか、そうだったね」

 

 

彼は開いていた本を閉じ、借りている客間に戻ると言ってリビングを出ていく。

 

金色の闇は冗談のつもりで、しかしそうであれば心地よいだろうと思い話したのだがそれを聞いた彼の表情は曇った。

 

嫌な予感がしていた。

 

 

 

 

 

 

 

金色の闇が感じた嫌な予感は翌朝、結城家の面子全員が直ぐに気付く事になる。

 

彼が失踪したのだ。書き慣れていない歪んだ字で『ちがちないでくだちい』という書き置きがある。『さ』と『ち』を書き間違えていた。

 

リトや蜜柑は純粋に彼の心配をし、ララは何故彼が家を出たのかを不思議に思う。

 

一方、ナナとモモは彼がその辺りでまた死んでいるのではという最悪の想定をして今すぐにでも探しに出ようと言い出していた。

 

そして、金色の闇は昨夜の会話で、彼がどこに反応をしたのかを今一度思い出す。

 

安易に婚約をしてはどうかと勧めた事が気に障ったのだろうか、それとも居場所が解るということに対する挑戦か。

 

何が原因であれ、彼が姿を消したのは自分との会話のせいだと金色の闇は判断する。

 

 

「彼は私が探します。慣れていますので。皆さんは普段通り過ごしていて貰って構いません」

 

 

しかし、そんな金色の闇にモモが反論する。

 

 

「いえ、私も旦那様を探します。失礼ですけど、ヤミさんは旦那様を何度も傷つけている殺し屋、ですから。万が一はない方がいいですからね」

 

「おいモモ! ヤミだってそんな事は……」

 

「解ってるわよ。ですが、私は旦那様の婚約者ですから。探したいんです」

 

「……アタシも探すよ。姉上と違って学校はないし、アタシだけ家にいるのも落ち着かないしな。それにまたどっかで血塗れになってたら周りのヤツが大変だろうし」

 

 

ナナはデダイヤルを取り出し、少し考え込んだ後で数匹の動物を呼び出す。

 

 

「アイツの持ち物ってないかな。動物達に匂いを追わせたいんだけど」

 

「あ、それなら布団とかはどうですか? まだ干してないですし」

 

 

ナナに美柑が答え、彼を追う手筈が整っていくが。

 

 

「それは止めておいた方が良いです、プリンセス・ナナ」

 

「なっ、どういうことだよ!」

 

「その動物達では、本能的に彼を襲ってしまう可能性が高いです。動物達にはこれ以上ないご馳走に見えると思いますよ」

 

 

ナナの呼び出した動物は犬に近い姿のもの、どう見ても肉食だ。

 

確かにそれは危ないかもしれないと、結局はララの発明品に頼る事に。

 

二手に別れるということで、一方は金色の闇とモモ。もう一方にララとナナという組み合わせに。リトや美柑は地球人であるので、学校を優先する事に。ララは妹の婚約者なんだから、という理由で手伝う事になった。

 

金色の闇がとモモが2人きりになった所でモモが切り出した。

 

 

「探す前にヤミさん、ヤミさんと旦那様の関係性をはっきりと教えて下さい」




・ヤミちゃんのトラウマ2
カッコ良さ気だけど、力を使い果たした自分を助けた誰かは余波で全裸。

・失踪
よくある

・全力で取りに行く第三王女
原作と違って1:1で結婚できる可能性があるから……。好きな言葉は「棚からぼたもち」※公式

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