『こ、こちら赤城!敵の爆撃により被弾!戦闘継続不可です!』
『金剛さん申し訳ないのです!電のミスなのです!』
「言い訳は後で聞く…。赤城と電は敵航空機を振り切り、鎮守府に帰還しろ。敵は俺達が惹き付ける」
『ですが!そうすると―』
「赤城、今のお前に何が出来る。飛行甲板を壊された空母は…唯の的にしかならん」
『…っ!!…ご武運を…祈ります。修復しだいすぐに戻ってまいります!』
『金剛さん!絶対!絶対皆無事に帰るのです!』
「ああ…」
駆逐艦四隻に軽巡二隻、更に空母が二隻か…。
しかもこちらの航空戦力はゼロ。制空権を完全に掌握された中での艦隊決戦とは…。どこのレイテだってんだ…。
はぁ…これがゲームなら迷わず前のセーブからロードだな…。
こんな事なら鎮守府で篭ってゲームしときゃ良かった…。
グチグチ言ってても何にもならんか…ここは腹を決めるしか無さそうだな…。
その時、敵の駆逐艦2隻から巨大な水柱が立った。
龍田の魚雷か…。
敵さんソロソロ退却しても宜しいんでなくて?
約3分の1に戦力減らされたんでしょう?
そんな事を考えながら進撃していた時、周りに複数個の爆弾が降ってきた。
敵爆撃機だ。
「龍田、敵航空機を出来るだけ惹き付けてくれ…その間に俺が奴らを仕留める」
「了解。金剛さん…くれぐれもお気を付けて」
「龍田もな…」
スピードを速め、敵に砲撃をしながら接近する。
同時に敵艦からの砲弾が無数に飛んでくる。
盛り上がった水で視界を取られる。
畜生…航空機は龍田が惹き付けてくれているからいい物…しかしこの弾幕はキツイ…。
視界が晴れた時、一発の砲弾が目の前に迫って来ていた。
咄嗟に腕で顔を庇う。
激しい痛みとともに体が数メートル吹き飛ばされる。
畜生…深海棲艦如きにやられるとは…。
水面から起き上がろうとした時、右腕に違和感を覚えた。
感覚がないのである。
いや、正確には痛みはある…がそれ以外の感覚が一切無いのだ。
不思議に思い右手を見ると。
肘関節から下が引きちぎられた様に無くなっていた…。
おいおい…マジかよ…。
まあ、手一本で済んだのは良かったが…。
こりゃあ、提督に怒られるなぁ…。
そうしている間にも敵の砲撃は絶え間なく俺を狙ってくる。
左手で体を支え起き上がり、ジグザグに動き回避する。
さて、右腕の恨み晴らしますか…。
全主砲を敵空母に向け発砲する。
そして回避運動を取る。
砲弾は敵空母に着弾する直前に駆逐艦による捨て身の防御により、敵駆逐艦と共に瓦礫となって海に沈んだ。
駆逐艦が撃沈され更に被害が広がったにも関わらず敵は進軍を止めない。
戦力差を見て勝てると思っているのか…はたまた無能なだけか…。
どちらにせよ壊滅させるだけだ。
上空では敵爆撃機が、龍田によって次々と撃ち落とされている。
気を取り直し再び砲撃を開始する。
避けては撃つを繰り返し、敵空母一隻に何とか有効弾を食らわせた。
「ハァ…ハァ…ハァ…」
止むことの無い敵砲撃で徐々に体力を奪われて行く。
龍田も疲れが出始めたのか、対空砲の命中精度が徐々に下がり、敵爆撃機が中々その数を減らさない。
このままじゃジリ貧だ…。クソ…疲れが溜まって体が鈍く…。
「金剛さん!上!」
龍田の声に上を見ると、敵爆撃機が俺に爆弾を投下していた。それは余りにも近く、咄嗟に左手で庇った。
両腕を奪われ、バランスを失った俺は体制を崩し水面に叩きつけられた。
ち…くしょ…何だってこんな…。
徐々に体が沈み始める。
「金剛さん!」
龍田がこちらに向かってくるが敵の砲撃で近づけない…。
あはは…こんな所で死ぬのか…。
というか、よく彈が当たんないな…。
など他人行儀に自分が死んでいく様を見ていた。
突然大きな音を立てて敵空母2隻が轟沈した。
龍田かと思い、首だけ動かしそちらを見るが相変わらず敵砲撃を避けるので手一杯で、とても反撃できそうにはなかった。
「やったわ!さすが私!やれば出来る子なんだから!」
何故…五十鈴がここにいる…。自室待機を命じたはずだ。
呆然としていると、空からエンジンの音が聞こえた。
敵かと身構えたが、その機体に描かれた赤い円が見えた。
味方機だ。
戦闘機の援護の中次々と敵艦へと魚雷を発射していく艦攻…。
赤城が戻って来たにしては早すぎる…。
五十鈴がここにいるという事は…加賀?
魚雷は次々と敵艦を撃沈。
敵はあっという間に全滅。
呆然としながらも龍田に支えられ、五十鈴の元へと向かう。
「あら、何時も偉そうにしてる割にボロボロじゃない」
「何故此処にいる…」
「何故って助けに来たに決まってるじゃない」
「誰が助けに来いと言った…。俺がお前に自室で待機しろと言った筈だ。何故命令を無視した」
「な、なによ!私が助けなければ今頃死んでたのよ!?」
「命令を破ったのは事実だ」
「っ!!アンタなんか助けなきゃ良かった!!」
五十鈴は鎮守府へと引き返して行った。
「…金剛さん。気持ちは分かりますが…」
「…すまんな」
「いえ…」
「金剛さん…」
声のした方を見ると加賀がいた。
「お前もだ。何故命令を無視した」
「…わかりません。ですが、嫌な予感がしたもので…」
「…そうか、だが、命令違反だ」
「はい…」
◆
ああもう!いらいらする!!
何が「誰が助けに来いと言った…」よ!助けてやったのにお礼も言わないなんてホントっ!助けなきゃよかった!!
ああ!!
拳を目一杯枕に叩き込む。
「ホコリが舞うので止めてもらえますか?」
「あんたはイラつかないわけ!?」
「…納得は出来ませんが。それなりに理由がある気がするので…」
「本当にあんたは良く落ち着いていられるわね!アイツ!お礼も言わなかったのよ!?助けてあげたのに!!」
「…お礼を言われたいが為に助けたのですか?」
「えっ?」
「お礼が目的で助けたのかと聞いているんです」
「えっ、いや、その…でも!普通助けられたらお礼するのは当たり前でしょ!?」
「ええ、そうですが…生きている。それだけでいいのでは?」
「…!…あんたと話してると惨めになってくるわ…」
コンコンっとドアがノックされた。
「どうぞ」と加賀が声をかけるとドアが開き提督が入ってきた。
「て、提督…」
「君達、今日予定は無いよね?」
「1日自室で謹慎ってエラソーな奴に言われたわ…」
「ははは、そんなイキリだたないで」
「…提督。なにか御用があって来られたのですよね?」
「ああ…君達は5年前の事を知っているかな?ちょうど今日だ」
「5年前の…今日?」
「もしかして…」
「恐らく君が考えている通りだ加賀くん。5年前…深海棲艦の大艦隊が日本に点在する鎮守府を襲撃。大勢の艦娘と軍事関係者、更には非戦闘員までが犠牲となった」
「どうしてその話を…?」
「日本各地を襲った深海棲艦の大艦隊は総計で約千隻を超えた。勿論この鎮守府にも、深海棲艦の大艦隊が襲撃した。僕が此処に来る前の話だから詳しくは分からないが、その数は百隻を有に超えていたらしい。対する鎮守府は43隻。昔はこの鎮守府も栄えていて艦娘の数も多かった。が、襲撃により鎮守府の艦隊は文字通り壊滅。生き残ったのは43隻中たったの3隻。その3人の艦娘が、金剛、龍田、赤城…」
「えっ!?」
「…!」
「僕は戦後処理係として提督を失ったこの鎮守府を任された。…当時の3人は…特に金剛は酷かった。光を一切写していない黒くくすんだ瞳でじっと部屋にこもっていた。外に無理矢理連れ出しても…一日中ぼーっと空を見上げるだけ…。まるで人形の様だった」
「そんな…」
「あはは、今の金剛くんを見たら信じられないだろうね。そのうち電くんがこの鎮守府に来て色々あって、金剛くんは今みたいに元気になれたんだ」
「私は、知らな過ぎたようですね…」
「…」
「金剛くんの無礼を許してくれとは言わない。…だが、理解して欲しい。それだけだ」
「……」
長い沈黙が部屋を包んだ。
加賀さんぐう聖