追い打ちをかける鬼畜五十鈴さん
修羅場とはこの事か
この時期が来ると唯でさえ山に隠れているこの鎮守府が、鬱蒼とした雰囲気に包まれる。
夕食どき、厨房で作業をしている金剛さんにいつものような明るさは無く無言。
どこか影のさしたような顔をしている。
そんな金剛さんの様子を察して、皆口数が少なくなるため、食堂が重い空気に包まれる。
いつも食べ慣れているご飯なのに、毎年この時期だけは味気なく感じる。
それでも食べなければ戦えないので無理やり胃に詰め込む。
そんな食堂の雰囲気の均衡が一瞬にして崩される。
「ああー!!もう!!こんな暗かったら、折角のご飯が不味いじゃない!!」
黙々とご飯を頬張っていた電ちゃんまでもが箸を止め、注目する。
立ち上がった彼女は、厨房で作業をしている金剛さんにツカツカと歩み寄る。
「それもこれもアンタが暗い顔してるせいよ!!」
「…」
金剛さんは無言で彼女を見つめる。
鋭い目で睨む金剛さんに若干の怯みを見せつつ、仕切り直す彼女。
「ゴホンっ!ご飯を作って貰ってることは感謝するわ!でも、その作った人間が暗い顔してちゃ美味しいご飯も美味しくないのよ!!」
「…」
なおも無言の金剛さん。
感情の読めない顔をしている。
彼女はずいっとその顔を金剛さんに寄せた。
その顔は怒りに満ちている。
「アンタにはもう我慢ならないわ!!言わせてもらっていい!?」
「…」
「いつまで昔のことを引きずってる気?アンタのせいで空気が悪くなってるのが分かんない―グッ!」
彼女の怒号は金剛さんの手によって止められた。
金剛さんは彼女の胸倉を掴むとそのまま壁に叩きつけたのだ。
水を打ったように静まり返っていた食堂がザワつく。
私も思わず席を立つ。
「…貴様に…貴様に何が…わかるッ!!」
「―ッ、分かるわけ無いじゃない、何時までも過去に引きずられてる"可哀想"なアンタの事なんか」
「貴様ッ!!!」
「金剛さんッ!辞めてッ!五十鈴ちゃん!!貴方も何でこんなことッ…」
「…殴りたかったら殴りなさいよ」
拳を振り上げた金剛さんを制止する。
彼女は一体何を考えているのだろう。
こんな、金剛さんの傷を抉るような酷いこと…。
胸倉を掴まれているにも関わらず彼女に全く悪びれた様子はない。
「アンタ、いつまで"被害者"でいるつもりなの?アンタがしてるのは後悔でも"皆"に対する罪滅ぼしでも無い。罪滅ぼしの名を騙ったただの"保身"よ!!」
「黙れ!!…今すぐその口を閉じろ」
「"反省"して、自分を戒めて、それで壊れそうな自分を保ってるだけ。可哀想な自分を作り上げて、それで反省しているふりをして、周りに同情されて、アンタはそうやって自分を守りたいだけよ!!」
「黙れ!黙れ!黙れ!」
「"被害者"で居れば楽だもんね、誰もアンタを責めないし、アンタの罪を問う人もいない!アンタはそうやって自分を自分で責める振りをして周りの追及から逃れたいだけ!!」
「黙れ!!」
ガッ!!
鈍い音が食堂に響く。
頬を腫らした彼女の口元から一筋の血が流れ出る。
彼女はそれを拭うことなく、金剛さんを見つめると皮肉げに口を歪めた。
「満足…?」
「…ッ!!」
金剛さんは固めた拳を緩めると、胸倉を掴んでいた手を離し、静かに立ち去った。
去り際に目元で何かが光った気がした。
解放された彼女はその場に崩れ落ちた。
ハンカチを取り出し、腫れた口元を流れる血を軽く拭う。
「電ちゃん、氷を…」
「はい…です…」
「イッタァ…口の中まで切れちゃってるじゃない…」
電ちゃんから氷を受け取った五十鈴ちゃんは口元へと恐る恐ると言った様子で当てる。
乱れた身だしなみを整えてあげる。
「五十鈴ちゃん…何であんな…」
「…別に。私は思った事を言っただけよ。アイツには前からムカついてたのよ」
そう言うと腰を上げ立ち去って行った。
◇
ノックをし、ドアを開ける。
彼女は暗い部屋の中、ベッドの横に丸まっていた。
カーテンの隙間から零れる僅かな明かりが彼女を照らしていた。
持ってきた氷を彼女の赤くなった拳に当てる。
「…赤城」
「…どうしましたか?」
「…赤城」
「…はい」
「言い返せなかった…」
「…」
「全部、全部、その通りだった…。全部…」
「…」
「…赤城。何で俺は生きてるんだ…」
「…」
「…赤城。俺は…どうすればいい…?」
腕に顔をうずめた彼女の肩が小刻みに揺れる。
そんな彼女が壊れないように私はただただ、そっと抱きしめることしか出来なかった。
◆
赤く頬を腫らした不器用なルームメイトを見やる。
全く、厄介事しか運んでこない…。
軽くため息をつき、殆どが水になった氷を変える。
「…ありがと」
「…貴方は不器用すぎるんですよ」
「ふんっ…アンタに言われたくないわよ」
「後で一緒に謝りに行きましょう」
「アタシはアンタの子供になったつもりは無いわよ。自分でしたことくらい自分で謝るわよ」
「…そうですか」
思わず笑みが零れると、彼女は睨みつけてきた。
そんな彼女を見ながら今日の夕飯の事件を思い返していた。
傍から見ても金剛さんの様子は酷かったけど、まさか彼女が行動するとは思わなかった。
この結果が少しでもいい方向に動くことを願いながら、カップに紅茶を注いだ。
赤城と加賀のオカン感
五十鈴の真意とは…
おかしな所、言い回しが変な所は随時改変していくつもりです。