幸せの形   作:もこー

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どうも、知っている人は改めまして、どうもです。
こちら艦隊これくしょんの二次創作ですが、深海棲艦にスポットを当てております。
独自解釈の部分もあり、原作での描写やアニメとの違いはあるかと思いますが、ご了承ください。


一章「ドロップ率不明」

 目が覚めてすぐ知覚したのは、果てし無く続く海上にて、六人の女に囲まれ、膝をついた自分だった。彼女達は服が焦げ付いており、先ほどまで戦っていたことが、何となく分かる。そして、次に見たのは自らの服。白を基調としたそれには、黒いラインが敷き詰められ、どこか不安を感じさせるデザインだ。なぜこんな服を着ていて、なぜ私はここに居るのか。

 

「私は大和型戦艦一番艦の大和といいます。貴女の名前は?」

 

 そうこう考えていると、六人の中でも、傘を差した女性が自己紹介に続き、こちらの名前をきいてきた。

 名前は不思議とすぐに浮かび、すぐに返事をする。

 

「無明……私は、無明」

 

 すると、大和は小さく首を傾げて、周りにアイコンタクトを送った。彼女達は首を横に振り、何やら相談しているようにも見える。

 

「まぁ、極秘建造かもしれないし、連れて帰ってから提督に聞こうよ」

 

 相談は兎の耳のような物を付けた女の子の提案で打ち切られ、大和は小さく頷くと、背負っているいかつい機械から、無線を取り出す。

 

「こちら大和、空母棲姫の轟沈を確認したのですが、正体不明の艦が出現。敵意が無いため、保護して帰投します」

 

 無線は大和からの発言だけで切られ、それをしまうと一度周囲を見渡してこちらへ向きなおった。

 保護ということは、戦闘に巻き込まれたのだろう。記憶が混濁しているのも、そのせいに違いない。

 

「そういう訳だから、あまり離れないでねー。まだ残ってるかもだし、そうなったら守ってあげるから」

 

 おさげの女性が無気力な声音でそう言い、こちらも頷いてから立ち上がる。しかし、重りのような物で、海に引っ張られるような感覚に大きくよろめくと、倒れこみそうになり、大和に支えられた。

 そこでやっと気付いたが、私の背中には、大和と比べても遜色無い、とても大きな機械が着いていた。四つの筒と、小銃が数個、更には大きな口のような物まである。

 

「え、私、何これ……!」

 

 錯乱するには十分な情報で、自分が何者なのかという不安が込み上げ、大和を押して離れると、頭を抱えて記憶の糸を探した。こんな物があるということは、私も戦っていたのだろうか。だとしたら、誰かの命を奪ったという事だ。

 

「ふむ、お前には艦娘としての記憶が無いのか。お前もまた、私達が戦った相手、深海棲艦を倒す事で人々を守る存在だ」

 

 私が錯乱し始めたのを見ると、凛々しい声がして我に帰る。その声には深い自信があり、そのおかげですぐ飲み込めたのだろう。

 自分を落ち着かせるため、深く深呼吸をすると、小さく頷き大丈夫な事をアピールする。

 

「では、無明は長門に任せます」

 

 それを見た先ほどの女、長門は、私の隣に着くと、大和にそう言った。大和も頷くとスキーのように進み出し、他もそれに着いて行く。私は記憶は無いに関わらず、特に困らずに追従できた。速度を落としてくれたのもあるが、身体が覚えていたのだろう。

 

「見た所、戦艦クラスの装備に見えるが……いや、これについては帰ってからにしておこう」

 

 暫く進んで行くと、不意に長門が話しかけてきて、自己解決したのかすぐ話を切ってしまう。こちらの機械を見ていたように感じたが、どこか変なのだろうか。確かに、前に居る大和にはかなり多くの筒が付いている。戦艦クラスということは、大和と比較したのだろうが、だとしたら確かにおかしな装備なのかもしれない。

 

 その後は特に会話も無く、私も何も考えないようにしながら着いて行った。次第に水平線には建物が映り始め、海岸沿いに建物が三棟見える。近付くにつれてそれは鮮明になり、ちらほらと人影が見えた。どうやらそれもまた女のようで、長門が言っていた艦娘なのだろう。中に一人男が混じっていたが、恐らく彼が提督だ。

 

「大和型戦艦一番艦大和、以下五名共に無事帰投しました」

 

 港から地上に上がると、大和は無精髭を生やした男に敬礼をして、そう伝える。やはり、彼が提督なのだろう。他の艦も地上に上がり、私も上がったが、背負った機械がとても重くなった気がした。

 

「ん、お疲れ様。各自艤装を預けたら、入渠してくれ」

 

 提督らしき男が指示を出すと、大和達は足早にどこかへ向かう。そして、一人残された私に、男は歩み寄ってきた。

 

「さて、俺はこの鎮守府の提督で、秋山だ。君の名前を教えてくれるか?」

 

 提督は、簡単な自己紹介をすると、こちらの名前をきいてくる。やはりといった所で、こちらも口を開いた。

 

「無明です……あの、私は一体何者なのでしょうか?」

 

 そして、口をついて出たのは、初めからあった疑問。それをすぐにきいたのは、知りたかったからというのが一番だが、周りからの視線が気になってしまったからだ。

 明らかに警戒していたり、好奇心を剥き出しだったりと、様々な視線を感じる。何も分からないままでは、こちらが不安になってしまう。

 

「ふむ……すまないが、ついてきてくれるか? 質問への答えになるかは分からないが、色々教えてやるよ」

 

 提督は少し考える素振りを見せると、周囲を見てからそう言った。気を使ってくれたのだとしたら、後でお礼を言う必要があるだろう。小さく頷くと、歩き出した提督の後ろに着いて行く。

 すると、名簿のような物を抱えたサイドテールの少女が、提督と並び会話を始めた。

 

「ほら、これ無いと困るでしょう」

 

「おー、悪いな。曙も今日は休んでいいぞ」

 

「とか言ってサボるつもりでしょ、この糞提督!」

 

 曙と呼ばれた少女はそれを提督に渡したが、見た目に反してとても口が悪い。ぜひともお近付きになりたくないが、鎮守府にはこのような艦娘しか居ないのだろうか。大和達が特別なだけで、居心地が悪いやもしれない。

 

「バレたなら仕方ないなぁ……無明に説明をしてやる必要があるから、その間に主力艦隊からの報告と、艤装の損傷具合の確認。ついでに本部へ無明について聞いてくれ。あーあと、大和を使ったから、資材についても見ておいてくれ」

 

「仕事丸投げしてるじゃない! もう、埋め合わせはしてもらうからね!」

 

 提督の指示はとても多く、曙も不機嫌そうに目を細めた。しかし、それでも拒否はせず、それだけ言い残すと、チラとこちらを見て行ってしまう。

 

「口は悪いが、根は優しい娘なんだ。まぁ、たまーに傷付くけどな」

 

 提督はそれを見送ると、こちらを見てきいてもいない補足を入れた。正直あの言葉遣いでそう言われても、説得力は皆無で、苦笑いを返すしかない。

 

「まぁ、それについては追い追いって事で。提督室に着くまでに簡単な説明だけしておくか」

 

 提督もそれは分かっているようで、同じように苦笑いをすると、説明を始めた。

 

「まずは艦娘についてだな。君達は人のように考え、悩み、喜べる。しかし、厳密には人ではない。その代表的な物が、君が背負っている”艤装”と、異常なまでの回復力。艤装は人には扱えないし、対応した艦娘じゃないと、拒絶反応を起こすんだ。とはいえ、ある程度の改装はできるから、装備を切り替えて補っている」

 

 提督の言葉に耳を傾けたが、自分が人ですら無いという事に、全く何も感じなかった。自分で自分が不思議になるが、どこかで分かっていたからだろう。

 

「次に回復力についてだが、君達の身体はとても丈夫で、ナイフじゃ目玉や脇下を狙わない限り、傷も付けられない。さらに、身体の一部、四肢や頭は、切断されない限り、治すことができるんだ。具体的には、艦娘の体液から開発した、特殊な湯船に浸かっているだけで、一日あれば完治してしまう」

 

 しかし、次の言葉には、とても大きな嫌悪感を抱いた。人のような何か、ではなく、人の形をした兵器であること。それはとても大きな違いで、いわゆる”生物”か”物”かの違いだ。少なくとも、艦娘は生物だが、それ以上に物としての意味合いが強いことは、十分伝わってしまう。

 

「まぁ、艦娘については後にして、深海棲艦だな。彼奴らには色んな見解があるが、決まっていることが幾つかある」

 

 提督は三棟の中でも、二番目に大きい建物に入って行く。中では掃除をしているらしき兵士がおり、提督に敬礼をして出迎えている。提督は軽く手を払い、兵士達も掃除に戻った。

 

「彼奴らは化け物か悪魔か、いずれにせよ人類にとって脅威であり、現在戦争中ということ。海域の制圧だけでなく、陸地への攻撃まで行うのだから、当然だろう。しかも、彼奴らには通常の兵器は効かず、艦娘の持つ艤装でのみ、有効打となるんだ。しかも、不思議な事に、深海棲艦から艦娘は産まれる」

 

「え……?」

 

 説明の最後に言われた言葉に、動揺してしまうのは、仕方のない事だろう。それすなわち、私の親に当たる存在が、化け物か悪魔、それに類似する存在なのだ。

 

「安心しろ、お前は人間に敵意をぶつけたりしてないだろ?あくまでも、比喩の一つだ」

 

 提督は慣れているのか、こちらの戸惑った様子をすぐに察して言葉をかけてくれる。

 自分の存在が分からない不安は、自分の存在に対する恐怖に姿を変え、いっそう重い何かが身体を海へと引っ張った。

 

「ふむ、お前は自分が何か気になるか?」

 

 不意な質問に意識が引き戻されると、提督がこちらを見ている事に気が付く。そのせいか、思考がそのまま言葉として、喉から溢れた。

 

「不安です」

 

 たかが一言なのに、こんなに重苦しいのはなぜだろう。後ろめたいような、胸を締め付けられる感覚がする。

 

「んー……お前はよく分からないな、他の艦娘とは全く違うよ」

 

 それに対して、提督は考える素振りをしてから、そんな事を口走った。

 長門にも言われたが、変なのだろうか。異端的な意味合いに受け取ってしまうのは、恐怖感が強いせいだと、自分でも分かった。

 

「あぁ、悪い意味じゃないから。お前は頭が回る分、色々と考えちゃうんだよ。他の艦娘は、状況を飲み込むのに手一杯だったからな」

 

 自然と顔を俯かせたが、提督の声に顔を上げた。気のない言葉だからこそ、それの信憑性が高くなり、自分の感覚のせいだと思っていたのもあり、すぐに気分は晴れる。

 

「何か……色々すいません」

 

 そして、謝りたい気分になった。自分のことばかりで目が眩んでいたことが、ハッキリと分かったからだ。

 

「気にするな。艦娘を導くのが俺の仕事だし、笑ってた方が魅力的だ」

 

 すると、提督は振り返って、不意にそう言ってくる。それに深い意味が無いと分かっていても、そういう言葉は卑怯だと、心の隅で思いながら頬を赤らめてしまう。

 

「あ、えっと……はい」

 

「んじゃ、ここが提督室な。曙から連絡が入るまでは、中で待機してもらうから」

 

 一度深く呼吸をしてから返事をすると、提督はすぐ近くの部屋に入った。中には大きな机と”!すでのな”と書かれた掛け軸があり、机には書類の束が整理されておいてある。窓からは海が一望でき、ここからこちらが来たのを確認したのだろうか。

 一緒に中に入り、提督はこちらに椅子を出してくれると、自分は机に座り、座ろうとしたが、艤装が邪魔で座れず立ち直した。

 

「えっと……これ、艤装でしたっけ。外せますか?」

 

「え?」

 

 暫し考えたが、外し方は分からず、首を傾げながら提督にきく。すると、提督は驚いた様子でこちらを見て、苦笑を零した。

 

「まぁ、君は色々と規格外だからな……」

 

 しかし、すぐ自己解決したようで、そう呟くと机から降りてこちらへ歩み寄る。

 

「あまり大きな声は出さないでくれよ」

 

 そして、そう先に言うと、こちらの腰に手を掛けるのだ。

 

「ちょ、え、はい?」

 

 否応無く心臓が早鐘を打ち始め、両腕を軽く上げる。

 それはどういう意味なのだろうか。痛いのは嫌だが、それ以上に公的秩序に反する何かかもしれない。何て思うのは、女性としての身体ならば、当然の反応だろう。

 

「いくぞ……!」

 

 提督はこちらを見ると、改めてそう言い、力を込めた。

 

「……っひゃう!」

 

 すると、艤装が外れると同時に、何かが抜ける感覚がして、変な声を出してしまう。金属音を聞いたような足の竦む感覚と、冷たい何かが背筋から抜けて行く感覚。それ等が同時に現れ、艤装の落ちた音が聞こえた時には、提督を突き飛ばしていた。

 

「いってぇ……」

 

 しかも、提督は机にぶつかったかと思えば、その机が大きく動き、書類の束は宙を舞う。そして、提督は顔を顰めると、背中をさする事もできず身悶えた。

 

「す、すいまっせん!」

 

 そんなのを見てしまうと、平静でいられる訳もなく、駆け寄ろうとする。しかし、背負っていた艤装がよほど重かったのか、足の浮くような感覚がして、提督に辿り着く前にこけてしまった。手を付きはしたが、頭から床に飛び込んだせいで、額を強く打ち付けてしまう。

 

「いや、大丈夫だが……大丈夫か?」

 

 重力が夢遊するような、気持ち悪い感覚に襲われている中、提督は少しよろけながら立ち上がると、こちらに手を伸ばしてくれた。自分もよほど痛いであろうに、私のことを気遣ってくれている。

 

「だ、大丈夫です」

 

 それに甘んじるというのも気が引け、顔を上げてすぐ首を振ると、自分で立ち上がった。突き飛ばした本人が気を遣われるというのは、申し訳ない気持ちにさせられる。

 

「にしても……無明は戦艦並の火力がありそうだな……」

 

 しかし、提督はあまり気にしていないようで、定位置から大きくずれた机と、散らばった書類を眺めるのだ。その様子を見る限りでは、特に身体を痛めている訳でもなさそうで、自然と私は首を傾げる。

 

「えっと、慣れてたりするんですか?」

 

 慣れてでもいなきゃ、こうもいかない。それはそれでおかしいが、ピンピンしているのだから、これくらいしか理由が思い付かないのだ。

 

「そうだな。酒が入ったりすると、戦艦や重巡の艦娘は元々力加減が曖昧なのが、更に分からなくなるんだよ。酒の場だから勿論俺も弾けてる訳で、そんな時に突っ込みをされたら……こうなる訳だ」

 

 提督は苦笑を零すと、書類を拾い上げ、肩を竦ませて見せる。どうやら当たっていたようだ。こちらも苦笑を返すと、酒だけは呑まないと決めておく。

 

「まぁ、それはさておき、艤装が無い状態に慣れた方がいい。ただ歩くのもなんだ。適当に案内役を呼ぶから、鎮守府を見て回ってきたらどうだ?」

 

 提督は書類をずれた机に乗せると、そんな事を言い始めた。確かにありがたい話ではあるが、本当にいいのだろうか。港では警戒心を露わにした艦娘もおり、とてもじゃないが歓迎されてばかりとは思えない。

 

「ありがたい話ではありますが……」

 

「そうか、じゃあ早速連絡入れるとしよう……加賀か、赤城もいるか?あぁ、そうなんだよ。鎮守府の案内役を頼みたくて……ん、お前達が一番適任だと思ったんだが……そうかそうか、なら頼むよ。今から提督室に来てくれ」

 

 提督は分かってか分からずか、こちらの言葉を最後まで聞かず、すぐに壁に着いている内線を繋いでしまった。

 

「折角だから、一航戦の二人に頼んでおいたよ。彼女達は今回の相手だった、空母棲姫に深い関係がある。もしかしたら、何か知ってたりするかもな」

 

「……はい」

 

 ここまできたら、どっちであっても今更は言えない。大人しく頷くと、提督は私の艤装を重そうに持ち上げ、机に置いた。

 特に話すことも無いため、窓に近寄ると、無心に水平線を眺めるのだった。

 窓から外を眺める事およそ十分。扉が叩かれ、名簿のような物を見ていた提督と二人、そちらに視線を移した。

 

「一航戦赤城参りました」

 

「同じく加賀、参りました」

 

 扉が開くと、黒い髪を腰辺りまで伸ばした女性に続き、肩までしかない短髪を、横で小さく結んだ女性がそう言う。

 

「固くしなくていいっていつも言ってるだろう?」

 

 提督はそれを見ると苦笑を零し、手に持っていたそれを机に置く。提督はやはり緩い部類の人間のようで、そう言うと机から降りた。

 

「またそうやって……この娘にもそんな調子なのかしら?」

 

「勿論。あ、妬いてるのか?」

 

 加賀と名乗った女性は、深いため息をつくと額を押さえて言う。しかし、提督はまともに相手をする気が無いようで、そう返すだけである。

 

「提督、私達も”一応”指輪を頂いています。そういった不謹慎な事は、言わないでいただきたいのですが」

 

「指輪……プロポーズ? あ、でも私達って……」

 

 赤城は不機嫌そうに口を開き、左手の薬指に輝くそれを自分の顔の前に出して見せた。それだけなら痴話喧嘩で済むが、その言葉の中には、かなり大変な単語が入っている。

 指輪ということは、結婚しているのだろう。しかし、私達とはどういう意味だろうか。更に言うなら、艦娘は人ではないというなら、それはどういった扱いになるのだろう。

 

「私達艦娘には仮結婚が許可されています。ただ、あくまでも仮ですので、色々と法律が未定なんですよ。まぁ、この人の場合はそれ以前の問題ですが……」

 

 こちらが困っていたのをすぐに察し、加賀は淡々と説明をしながら歩み寄り、私の手を掴む。加賀が不機嫌な事は一見で分かり、そのまま引っ張られたが、逆らわずに大人しく着いていった。

 

「あー……あか……」

 

「事後処理はご自分でなさってくださいね。では、私達は彼女を案内してきますので」

 

 私がそのまま廊下まで連れて行かれると、提督が助けを求めるように赤城を呼ぶ。しかし、赤城は名前すら言い切らせず、そう言うと部屋から出て扉を閉めてしまう。

 

「えっと……」

 

「提督はあのくらいが丁度いいんですよ。あの机も、どうせ提督が何かしたのでしょう?」

 

 扉が閉まるとあまりにも気まずく、何とか話を振ろうと思い口を開いた。しかし、加賀にそう言われてしまうと、返事よりまずは苦笑をこぼす。

 たしかに提督にされた事がきっかけではあるが、提督のせいではない。あまりの信用の無さに、そうするしかなかった。

 

「私は赤城、彼女が加賀です。貴女の名前は?」

 

「えっと、無明です。とは言っても、名前しか分かって無いんですよね」

 

 加賀は口を閉じると手を離し、腕を胸の下で組むと、何かを思い出すように、窓を見て顔を顰めてしまった。

 赤城はそれを見ると、改めて名前を名乗り、こちらに名前を聞いてくれる。私としては渡りに船で、遠慮なく話に乗せて貰う事にした。

 

「無明……聞いた事の無い名前ですね。まぁ、その件は提督が調べてくれますよ。まずは、ここの施設から知っていけばいいですから」

 

 赤城は少しばかり考える素振りを見せると、結局はそう言って歩き出してしまう。加賀は相変わらず不機嫌で、赤城が歩き出すと、そそくさとついて行く。どうもやりにくい感触は否めず、逃げ場が無い事を確認して、苦笑するだけであった。

 赤城に着いて行くと、まずは浴室の前に着く。たしか、私を拾ってくれた六人は入渠していた筈。ある程度時間も経っているが、彼女達は居るだろうか。

 

「ここはお風呂場で、傷を癒す時はここに着ます。傷が治る速さには差がありますが、私達空母と戦艦の場合、長いと一日や二日かかったりします」

 

 しかし、赤城はそれだけ言うと移動を始め、内装を見させてはくれなかった。確かに覗きをする趣味は無いが、少しは安心できる相手に会いたい。

 とはいえ、勿論そんな事は言えず、ただ着いて行く。

 加賀もまだ不機嫌なままで、赤城が触れない所を見ると、下手に手を出さない方が良さそうだ。

 

「ここが工房で、装備換装や開発等はここでしています。ちなみに、艤装の無い艦娘が出る事もあり、そのための艤装を作ったりもしています。私と加賀も艤装が無かったのよ」

 

 廊下を暫く歩き突き当たりのドアに来ると、赤城はその先にある渡り廊下を指してそう言った。どうやら一番大きな建物と繋がっているようで、その建物がまるまる工房らしい。

 

「へぇ……赤城さんはどのように生まれたのですか?」

 

 赤城と自分が違うとなると、やはり気になるのは出生。私には記憶も無く、自分が何者なのかもハッキリしなかった。赤城も分からなかったのだろうか。

 

「私は目が覚めたらここに居たから、どこで生まれたかは分からないの。ただ、自分には何かしら使命があるのだと、何となく感じた。こう、本能的にね」

 

 赤城はこちらの質問に苦笑を返し、やはりあまり記憶は無いらしい。それでも、私は何も分からなかったのだから、だいぶ違うのだろう。

 

「私は何も分からなかったから……そういうのは少し羨ましいです。目が覚めたら艤装も着いていたし、記憶も無かったので、長門さんにたしなめて貰ってなかったら、どうしていたやら……」

 

「なるほど……」

 

 赤城は何かを察したようで、こちらの話を聞くとほんの少しだけ考える素振りを見せ、元来た道を戻っていく。

 その含みのある行動に疑問を覚えたが、加賀が着いて行ったのを見ると、早足で二人の後に着いて行った。

 まだあまり情報は無いが、私の知らない何かがそこにあり、見えない恐怖が迫っているのだと、抽象的ながら感じる。このまま知らないでいるにはそれが大きく、私は知るべきなのだと、本能的に感じた。




こちら一日おきの投稿ですので、また後日お越しください
ではでは。
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