鎮守府に着いてすぐ提督は開発棟に入って行き、私は手持ち無沙汰に提督室で待機していた。窓から海を眺めるくらいしか娯楽が無く、仕事も無いのだから、ある種の苦痛を感じる。
「……ダメだよね」
ともすれば、気になるのはクローゼットや机の中身。暇を持て余していると、くだらない事が気になりだす。面白い物があるとは思わないし、勝手に見るのが失礼だとも分かっている。
少し紛らわそうと、机に置かれている書類を手に取った。しかし、それは朝食前に見た物で、好奇心は余計に膨れる。
少しくらいなら、罰も当たらないだろう。
「うん、これは秘書艦として、提督が怪しい事をしてないか確かめるためだから……」
自分で自分に言い訳をすると、早速机の一番上に二つある棚の中で、鍵の無い方を開けた。中にはスゴロクや携帯ゲーム機が詰まっており、あまりの清々しさに苦笑いがこぼれる。
一番開きやすい場所に入れている物なのだから、一番使っているのだろう。つまり、遊び倒していることだ。
「これは没収ですね」
片っ端から机にそれを出し、何となく大義名分ができた気になる。職務に影響が出てしまっては、それこそ大きな問題だ。私はただそれを予め排除しているだけ。つまり、いいことをしているに違いない。
「さて……何となく予想が着いてしまうのが、何とも」
次に開けたのは一番下の大きな戸で、そこには予想通り酒が入っていた。しかも、開けた瞬間から冷たい空気が溢れ、無駄な設備が整っていることが分かる。もしかしなくても、私が叩き割った机もこんな感じだったのだろうか。
酒については詳しくないが、とにかく日本酒ばかりだということは分かった。これは一つ二つ没収したところでキリがない。後日改めて言っておこう。
「あれ、開かない……鍵掛けてるとなると、余計気になるじゃないですか」
そして、一番上にある二つ目の棚を開けようと思ったが、鍵穴があるだけあり、ちゃんと鍵がかかっている。さすがに重要文献はこうして保管しているのだろうか。いかがわしい物が入っていない事を祈るばかりだ。
「あとはここだけですか」
少し残念な気分になりながら、中央の棚を引く。そこにはちゃんと書類の束があり、取り出すと中身の確認を始めた。
どの書類にも”作戦概要”と書いてあり、これは過去にあった戦闘の記録なのだろう。適当にめくっていると、だんだんと紙が古ぼけていき、一番最後の紙を手に取った。
「敵艦隊前線泊地殴り込み……何か、おかしな名前ですね」
他の書類には海域の名前と、戦闘を行った日付と時刻しかなかったのに、これにはそれが無い。”敵艦隊前線泊地 殴り込み”と表紙に書いてあるだけだ。
しかしながら、なぜだかそれが気になった。何とも言えない使命感のような物で、他の書類を棚へと戻す。
「これを見たら、提督の仕事も分かるのかな」
表紙をめくると、まずは作戦に参加していた艦娘の名前が並んでいた。主力艦隊には、長門・北上・島風・瑞鶴・飛龍・曙の六名の艦娘の名前がある。これは曙が大和だったが、私が最初に会った六名だ。主力艦隊に名前が載っているということは、やはりかなりの手練れらしい。
その後ろにはひたすらに第二第三と艦隊が書かれており、どれを見ても大体知っている名前が混じっていた。
「何というか、それっぽい!」
提督が仕事をしているということが分かり、何となく嬉しくなる。ちょっとした親心だろうか。
「あ、無明じゃない。何がそれっぽいのよ?」
私の声を聞いてか、ドアが不意に開き曙が顔を出した。私の手には書類が握られており、咄嗟にそれを背後に隠してしまう。
「え、あ、いや。提督っぽいなー、何て……」
明らかに変な愛想笑いになってしまい、椅子に座ってそう言い訳をしてみた。しかしながら、曙は訝しんで私を睨んでいる。明らかに疑われており、ただでさえ下手な愛想笑いが更に悪化した気がした。
「ふーん……それで、何を隠したの?」
どうやら隠したのが見られていたようで、曙はこちらに歩み寄ってくる。こうなるともう誤魔化しは利かず、おとなしく白状することにした。
「えっと……提督の机漁ってたら書類を見つけて、提督も提督らしい仕事してるんだなーって……」
悪戯の見つかった子供の気持ちだろうか。とても罪悪感を感じて、隠した書類を曙に突き出した。曙なら見逃してくれるかもしれないという、淡い期待があったことは確かだろう。
「……どこまで見たの?」
しかしながら、曙の声は強張っていた。顔を見ると青ざめており、これがいかに大変な事なのかを察する。
「参加した艦娘の欄までしか見てないです! あ、いや、もっと見ようとしてたのはそうなんだけど……ごめんなさい!」
とにかく謝った。悪いことをしていた自覚もあったし、何となく大義名分を得て浮かれていたのも確かなのだ。素直に非を認めて頭を下げるくらいしか、私にはできない。
「あ、いや、そう……提督に怒られるから、もうやめなさいよ?」
曙はなぜか安心したように少し表情を緩め、そう言うと私からそれをひったくる。よく分からないが、二度と提督の机を漁らないとだけ心に誓った。
「まさかアンタだけ残していくとは……丁度いいし、一緒に来なさい。丁度アンタの艤装が整備終わった所なのよ」
「はい!」
もはや自分には断る理由がなく、曙も書類を元の場所に戻した。曙はやはり話が分かる。曙は私を先に提督室から出すと、部屋に鍵をかけて歩き出した。
それにしても、あんな反応をされるとは思ってなかった。そんなに危険な事だったのだろうか。曙には聞きにくいが、他の艦娘に聞けばその疑問も分かるだろうか。
「あ、これについてはあまり詮索しないように。あの戦いは本当酷かったから……思い出したくない艦娘もたくさん居るのよ」
そうこう考えていたが、釘を刺されてしまい諦めざるを得なくなった。といっても、曙が青ざめていたのもそれが原因だと分かれば、詮索する必要も無い。
曙が先行して向かった先は開発棟で、私は初めてそこに入った。中は広々としており、よく分からない機械がたくさん置いてある。作業をしていた男達は一度こちらを見て、初めて見た顔だったからか、終始視線を感じた。
「何か腹立つわね……」
曙もその視線を感じたのか、小さく呟くと階段で二階へと上がる。
二階にはよく分からない機械の代わりに、よく分からない工具が散乱していた。そして、その中心には提督と、一人の男性がしゃがんでいる。
「提督、無明を連れてきたわよ」
「お疲れ、今日はもう仕事無いから、ゆっくりしといてくれ」
曙はその場で提督に声をかけ、返事を受けるとさっさと階段を降りて行く。どことなく冷たい気がしたが、気のせいだろう。
「ほれ、こっちだ」
呆けていると提督に手招きされ、私は小走りで近づいた。
そこには私の艤装があり、もう一人の男はまじまじと私を見てくる。男は眼鏡をつけており、体系としては小太りながら身長が低い。いかにも特殊な性癖をもっていそうな顔立ちで、緩んだ口元が少々苦手に感じた。
「君が無明か……んー、いいね!」
「え、えっと……」
「きもいからやめろ。ほら、さっさと帰れ」
男は眼鏡のフレームに手を添えてそう呟き、満足気にガッツポーツをしてみせる。私が困っているのを見た提督も、そう言ってくれた。しかしながら、こうも見ただけで嫌悪される人というのも、少々かわいそうに思えてしまう。
「酷いなー、君が呼んだから来てあげたんだよ? まぁ、楽しかったからいいけどさ。この子、大切にしてくれよ?」
「はい……?」
男は早口で何やら言うとそのままどこかへ行ってしまい、一応頷いたがいまいち理解が追い付かなかった。
「アイツの事は気にしなくていい。それより、これ一回付けてもらえるか?」
「あ、分かりました」
提督も苦笑いを受けべており、あの人は変人なのだと勝手に決めつけておく。どうせ間違ってはいないだろう。
提督に言われたまま艤装に触ったが、不思議な事に装着の仕方はすぐ分かった。外し方は分からなかったのに、なぜなのだろうか。
艤装の前に座り込むと、以前は無かったベルトのような物を腰に巻き付け、胸の下にも同じようにベルトを付ける。何となくだが、長門のそれに似ている気がした。
「良さそうだな、それじゃあ一回海まで来てくれ。武装の確認をする」
そのまま立ち上がると、提督はそう言って携帯で何やらメールを送り始める。電話じゃないのは少し珍しく感じたが、ここは禁止なのだろうか。
提督は一瞬渋い顔をして携帯をしまい、私を見ると階段を降りて行く。私もそれについていったが、やはり艤装があると歩き難い。階段でこけそうになったが、そこはやはり提督が支えてくれた。
それは普段通りの気遣いなのに、やけに違和感を感じる。何というか、素っ気ないような気がするのだ。
「提督」
「ん、なんだ?」
それが嫌で声をかけたが、こちらには話のできるような知識は無い。
「えっと……何でもないです」
一応考えてみたものの、考えようと思うとむしろ浮かばず、苦笑いで誤魔化してしまう。やっと分かったが、提督の口数が少ないのだ。だからそう感じるだけで、集中していたり真面目な提督はあまり話さない、それだけだろう。
「そうか、何かあったら俺に言えよ?」
提督の返事はそれだけで、その後はお互いに一言も話さずに開発棟を出た。すると、丁度宿泊棟から長門と瑞鶴が現れ、こちらを見つけると歩み寄ってくる。しかも、その二人には艤装がついていた。
「他にも声をかけたが、丁度昼時というのもあって瑞鶴しか捕まらなかった。すまない」
「いや、十分だよ。瑞鶴も、ありがとな」
「気にしないで、新人がポカやらかして困るのは私たちだもん」
ちょっとした疎外感。新人なのだから当然といえば当然なのだが、話に入り難い。思えばあの宴会の時を除いて、ほとんどが一対一か、私を中心とした話になっていた。だからこそ、何も感じなかったのだ。
「あの日振りね、手加減はしないから、覚悟しなさいよ?」
「あ、はい!」
どうしたものかと視線を泳がせていると、瑞鶴から声をかけてもらい、返事をする。
しかしながら、手加減はしない、というのはどういうことだろうか。もしかしなくても、戦わされるのかもしれない。
「とにかく、早くしないと食事が遅くなるぞ?」
「そうだな、さっさと武装確認を済まそう」
長門の申し出に提督は頷き、海岸の方へと歩いていく。二人もそれに続き、私はそれから少し離れてついて行った。
潮風が吹き抜け、それがやけに塩辛く感じる。漠然とした、嫌な予感。それを口には出せないまま、沖にたどり着いてしまった。
「さて、まずは武装確認だ。46cm砲を二門と、元から積んでいた艦上戦闘艦を除く艦載機三種。性能に関しての詳しい事は、使ってみなければ分からない」
提督は振り返り、私の武装名を教えてくれた。しかし、イマイチ分からない。それがどんな物かもそうだが、扱い方すら分からないのだ。
「え、五つも付けて大丈夫なの?」
「問題無い。無明は特別だからな」
瑞鶴から質問が出たが、提督の返事は簡単だった。しかしながら、私のやる気を出すには十分で、特別という言葉が少し嬉しい。
「まずは主砲二門、扱い方は長門に聞いてくれ」
提督はそれだけ言うと、私達から離れて行く。代わりに長門が向き直り、炭酸のような刺激を感じた。長門の表情は険しく、私は気持ち姿勢を正す。
「先に言うが、これは兵器だ。使い方を間違えたら、大きな被害が出る。そして、自分の命すら時には奪うことを忘れるな」
「……はい」
その刺激の正体が、並ならぬ緊張だと分かるのに、あまり時間は掛からなかった。長門のそれは、私が初めて会った時に似ている。風呂場で会った時に気付かなかったのは、私が本当の意味で幼かったからだろう。
「まず、艤装の制御にはマニュアルやコントローラは無い。一人一人の意識で、いかに想像できるかだ」
長門の説明は抽象的で、イマイチ理解できなかった。想像しろと言われても、自分が戦う姿すら想像ができない。
「難しいです……」
「そうだな、難しい。私も慣れるまで時間がかかった。そこで、一つコツがある。百聞は一見に如かずと言う。私がやるから見ててくれ」
長門は私の言葉に頷き、海へと向き直る。その背中がやけに大きく感じて、目を見張った。
「激しい轟音と共に、体を震わせる程の衝撃が伝う。そして、一つの弾が狙った方向へ飛んで行くんだ。海には大きな水飛沫が上がり、私達を濡らす……ここまで、しっかりと想像するんだ。そして……」
長門は自分の想像するソレを口に出し、片手を海へ向ける。緊張の走る刹那、長門の掛け声が発せられた。
「全主砲斉射、撃て!」
その言葉を遮るように爆発音がすると、黒い何かが水面に吸い込まれ、私達へと水飛沫を飛ばす。
その迫力に言葉を失い、胸躍る快感と興奮が私を貫いた。
「何か決め台詞を付けて、いつでもそれを想像できるようにする。さぁ、試しにやってみろ」
振り返った長門はとても凛々しく、一目惚れしそうになる。カッコイイ。一つだけの単純な感想が、こうも気分を高揚させてくれるとは、思いもしなかった。
「はい!」
私もその隣に並びたい。その気持ちだけが先行し、考えるより先に長門の隣に並ぶ。
「ふぅ……」
一つ呼吸を置き、想像の世界へ思考をひたす。
鼓膜を揺さぶる轟音に、体をもっていかれそうな衝撃。そして飛翔するのは黒い塊だ。海に浮かぶ標的にそれは吸い込まれ、爆煙と共に標的を葬る。
決め台詞ならもう決まった。
「……沈め!」
深く息を吸い力強く怒鳴る。それに応えるように轟音が鳴り響き、海面を力の限り叩きつけた。
水飛沫が頬を濡らし、長門よりも大きな粒が体を叩く。あまりの興奮に、言葉を失う。
「……やるな。私も本気だったのだが、また鍛える必要がありそうだ」
長門の称賛が耳に届き、思わず提督に振り返った。提督も小さく頷き、頬を緩める。
成功したのだ。それも、長門や提督に認めて貰えるほどの、大成功。
「ありがとうございます!」
思わず長門に振り返り、深々と頭を下げる。これは、長門の教え方が上手かったおかげだ、私だけの成果ではない。
「いや、感謝するのは私の方だよ……提督、私はもう行く」
長門は険しい表情でそう言うと、返事もまたずに歩き出した。
もしかしなくても、怒らせてしまっただろうか。たしかに、ここでお礼を言うのは嫌味っぽいやもしれない。
「あ、えっと……」
「怒ってないわよ。アレでプライド高いから、悔しかっただけ。今頃、陸奥を探してるんじゃない?」
どうしようかと視線を泳がせていると、瑞鶴が呆れ顔で肩を竦ませていた。
よく分からないが、怒らせてしまった訳でない事だけは分かり胸を撫で下ろす。
「それじゃ、次は艦載機の扱い方ね。えーっと……無明は弓か札か、それとも別の何か?」
瑞鶴は小さく手を叩いて話を進めたが、私を一通りみると提督に顔を向けた。何の相談をしているかイマイチ分からない。瑞鶴が困っている事だけは分かるが、提督も首を傾げた。
「そういえば、なんだろうな。艤装内に格納されてるのは確認したらしいが、詳しいことは分からず終いだったよ」
「えっと、艦載機の方も主砲と同じ感じでいいんですか? それなら多分できると思います」
提督も困っていた様子だったが、特に迷う要素を感じなかった。先程ので慢心しているのではなく、純粋にその姿を想像できたからだ。
私の偽装には口のような物がある。それが大口を開けて、蜂の巣を突いたように艦載機が飛び出して行くのだ。飛んで行く艦載機はどんな形をしているだろうか、それだけは纏まって居ないが、それを除けば失敗する気がしない。
「そうか、なら一回試してみてくれるか?」
「あ、でも、一回瑞鶴さんのを見たいです。艦載機の形は知らないので」
私の言葉を聞いた端鶴は提督とアイコンタクトを取り、提督が頷くのを見ると弓を取り出した。すると、長門と同じように雰囲気が変わる。さきほどまでの軽い言葉使いを思い出せないほど、鋭い眼力で水平線を見て、背中の矢筒から矢を引き抜いた。
一呼吸置き弓を構えると、端鶴は呟くように言葉を選んだ。
「全機発艦」
放たれた矢は少し進むと光に包まれ、小さな飛行機へと姿を変える。それはすぐに高度を上げて行き、少しすると急降下と共に海へと爆弾を叩き付けた。水飛沫が上がり、その中をかきわけるように艦載機は端鶴の元へ戻り、矢へと姿を変える。
一連の動作の凄さは私には分からない。それでも、とても美しく見えた。
「……こんな感じよ。長門が言ったのに足して、艦載機が自分の所へ戻ってくる所まで想像しなさい」
「はい、分かりました」
端鶴の雰囲気が和やかになったかと思うと、口を開きアドバイスをくれる。あまりにもその差が激しく、戸惑いながらも頷いて返した。
そして、私は海へと向き直る。少し想像を変える必要があるが、おおむね変わらない。艦載機が口から飛び出し、海へ爆弾を叩き付けたら戻ってくる。そう、それだけなのだ。
「期待してるよ」
何となく、その言葉が一番合う気がした。軽く偽装の横を撫でてやると、閉じていた口が開き、磯の香りと共に艦載機を吐き出す。それは端鶴の出した物とは似ても似つかず、形を保っていなかった。飛行機のようになったかと思うと、すぐに形が崩れ、丸くなったり棘の塊になったりと、点でバラバラだ。しかし、それを見てまずは愛らしく感じた。必死で形を作ろうとしているのに、それが叶わない。何て可愛いのだろうか。いずれ形が定まる時は、どのような形になるのだろうか。これが、親心なのだろう。
それは端鶴の艦載機の行った場所まで飛んで行くと、同じように急降下して爆弾を叩き付ける。しかし、それは端鶴のやってみせたのよりも、とても綺麗に見えた。形こそ歪だが、海面スレスレで体勢を立て直し、真っ直ぐこちらへ飛翔する。
私は自然と頬が緩んだ。
「お帰り」
それは艤装の中へと戻って行き、口はゆっくりと閉じる。
端鶴を見たが驚いた様子で、提督もまた同じように目を見張っていた。
「形は定まってなかったけど。やるじゃない……まあいいわ。私はご飯食べてくるから」
端鶴は不服そうにそう呟き、長門と同じようにさっさとどこかへ行ってしまう。端鶴もまた、長門と同じなのだろうか。
「予想以上だな……艦載機については詳しく調べたいが、それにしても凄い。これはもしかすると、もしかするかもしれないな」
提督は一人でブツブツと何か言っており、私の姿が目に入っていないようであった。何となくそれが嫌で、歩み寄ると口を両手で塞ぐ。
こういう時は褒めるべきだと、そう思う。女心としてでなくとも、ここはちゃんと褒めてほしいと思う物だ。知らないけど、そうだと思う。
「勝手に一人の世界に入らないでください」
「あ、あぁ、すまん。かなり上手かった。火力は長門を超え、艦載機の扱いに関しても一航戦といい勝負できる。本当、いっそうお前に興味が沸いたよ」
手を離してそう言うと、提督も小さく頷く。
そして、浴びせられた賞賛の言葉。自分で促しておいてどうかとも思うが、とても恥ずかしい。
「ありがとう、ございます……」
頬を指先で掻くと、顔を逸らした。こうして褒められるのも、そういえば始めてな気がする。とても気分が高揚し、自分が褒められて伸びるのだと何となく察した。
「明日演習をしようと思う。6対6での模擬戦だが、お前の相手には大和と一航戦の二人、それと大井に木曽。あとは島風だな。お前の性能をとにかく試したい」
提督は興奮しているようで、こちらに話していたはずなのに、いつの間にか一人会議になっている。私も苦笑するしかなく、それを大人しく聞くことにした。
「味方はそうだな。伊勢日向と北上、あとは川内と……」
しかし、そこまで語ると提督は言葉を濁し、表情を険しくする。何か考えているのは一目で分かり、私はその先をただ待った。というよりも、この雰囲気で話かけれない。
「……なんでもない。そろそろ昼食を取ろうか」
提督はとても上手な愛想笑いを浮かべ、私の手を引くことなく歩き出した。その時、胸の奥が小さく痛む。その痛みの正体は分からないが、今は分からなくていい。平和というものを、長く感じていたいのだ。
ではまた明日会いましょう