幸せの形   作:もこー

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最近暑くなってきましたが、ネット小説は手汗の心配が無くていいなーと思うこの頃。


第七章「見えない真実」

 私は、また夢をみた。今度は意識も鮮明で、辺りを見渡そうとする。しかし、身体は言うことを効かずに勝手に走り出す。

 空は青く、床はもっと青い。ここが海上だと気付くのに、少しだけ時間がかかった。

 

「……!」

 

 不意に口が開くと、何かを叫んだ。しかし、それは膜に覆われたように篭り、よく聞き取れない。

 耳から血が溢れ、鼓膜が破れていることに気付く。そして、唐突に立ち止まると、後ろを見上げた。頼りなく緑の光を発する黒い艦載機があり、小さな銃口が強い光を放つ。海面には細かな水飛沫が上がり、私は海へ飛び込むようにそれを避けた。海面に叩きつけられたが、やはり痛みは無く、立ち上がりながら空を見る。

 艦載機は機銃を既にやめており、黒い塊を私の頭上へと放った。

 濃厚な恐怖と、圧縮された死の香り。黒い塊は私へ迫り、視界は閉ざされる。

 少しすると瞼の裏が白み始め、自然と目が覚めた。額には汗が滲み、心臓は太鼓でも叩いてるように暴れ狂う。それでも思考は明瞭で、ずっと前から目覚めているようにも感じた。

 

「……提督を起こさなきゃ」

 

 時計に視線を移すと、既に短針は8を指しており、そう呟くと立ち上がる。少し前にあった恐怖が嘘のようで、怖いくらいに冷静だ。

 提督室を出ると、私は階段を上って行く。時間も時間なため、誰かに会うということもなく、会議室に着くとノックをした。

 

「提督、朝ですよ」

 

 しかし、それに対しての返事は無く、遠慮がちに扉を開ける。

 見渡してもそこに提督は居らず、一応奥まで見に行ったが、提督の姿は無かった。まさか、誰か別の艦娘の部屋に泊まっているのではないだろうか。それなら大問題だ。曙に合わせる顔が無い。

 

「こういう時に、携帯があればいいのに……」

 

 ありもしない事を独り言ち、会議室から出て提督室へと戻った。探しに行った所で見つけれる気がしないし、見つけたとしても、中に入る勇気が無い。それに、行き違いになったのかもしれない。

 と思ったが、提督が居る筈もなく、無人の提督室へと入って行った。

 布団を畳み、髪を手櫛する。あとは、ただ茫然と海を眺めた。あの夢は何だったのか、もしかしたら、私の前世かもしれない。だとしたら、最初の夢は何なのだろうか。ひたすらに海底を歩いていたのは、沈んだ後の記憶か。だとすれば、これは記憶が遡ってきているのだろう。ともすれば、次の夢では出撃前の姿が見えるかもしれない。

 ちょっとした期待と、それを覆いつぶす不安。

 昔の私は上手くやっていただろうか。一人で戦って沈んでいたし、もしかしたら、嫌われていて見捨てられたという事もありうる。鎮守府は他にもたくさんあると出雲が言っていたから、ここでないのは確かだろう。ここだとしたら、提督がそれを許さない筈だ。

 時折時計を見ても、時計の長針は数分刻みでしか変わらない。暇であることと、些細な不安がそれをより際立たさせている。とても長い時間、いや、そう感じていただけで実際は十分と少しくらいかたった頃、扉が開いて曙が現れた。

 

「おはよう。提督が工房に来てくれって」

 

 そして、曙の声がやけに遠く聞こえる。まるで、別の世界に居るような、私がここに居ないような、そんな感覚だ。

 

「……分かった」

 

 これもまた、不安のせいだろう。提督に会ったらきっと良くなる。あの人といると、とても安心できるのだ。

 曙は首を傾げたが、特に言及せずに部屋から出ていき、私もそれに続いて出ていく。早く提督に会いたい、何よりも、提督の傍に居たい。

 私は駆け出し、曙を追い越すと急いで工房まで向かった。手櫛した髪が乱れるのを感じるが、それもどうでもいい。とにかく、私は急ぐ。工房に入ってすぐ視線を浴びたが、不快感よりも先行する気持ちのおかげで、何も感じなかった。

 階段を上りきると提督が艤装の前に座って書類を見ており、私の気持ちが昂るのを感じる。

 これは、何なのか、私には分からない。どんな感情なのだろう。曙なら、この正体に気づけるのだろうか。

 

「お、来たか」

 

「提督」

 

 提督は普段の様子で私に声をかけ、対照的に私は急いで提督の元へ駆け寄った。

 

「どうした、何かあったのか?」

 

 その言葉はとても優しく、私の心にそっと染みていく。温かい、そう、この温もりがほしいのだ。そうに違いない。

 

「少し、怖い夢を見ただけですから……」

 

 先ほどまで、私はとても冷たかったのだ。機械のような、目的に対して思考するだけの道具。それがとにかく怖かった。

 

「昔に関する記憶か?」

 

「黒い艦載機に追われて、爆弾をぶつけられる夢でした」

 

 提督は私の言葉に興味を持ったようで、私も正直に答える。何だって構わない、どんな形でもいいから、温かくなりたい。

 

「そうか……今度調べてみる。とりあえず、艤装を付けてくれるか?」

 

「……はい」

 

 提督は少しすると考えるのを止め、私はおとなしく艤装を装着した。

 提督はなぜ分かってくれないのだろうか、鈍いのか、気づいていて放置しているのか。どちらにせよ、喜ばしい事ではない。とても複雑な気分になる。

 艤装は前回よりも軽く、とても付け心地がよかった。

 

「軽量化と、武装の変更をしておいた。主砲を一門に減らして、近接武器を付けたが……まぁ、保険だ」

 

 提督の説明を受けて背中の艤装をまさぐると、たしかに何か棒のような物が口から飛び出ている。装着と同時に出る仕組みになっているのだろう。

 それを試しに引き抜いたが、とても大きな槍だった。しかしながら、私の力で振るう分には丁度いい。四人分くらいの長さがあるが、保険としては十分すぎる。

 

「一応演習の予定だが……やれるか?」

 

「え……大丈夫、です」

 

 槍を艤装にしまいこむと、提督は少し考えるそぶりをしてから聞いてきた。私もこのタイミングで聞かれるとは思っておらず、少し考えてから肯定する。

 どうせ、この感覚は一時期の迷いでしかない。こんな事で、提督のみならずたくさんの艦娘に迷惑をかけるわけにはいかないだろう。

 

「そうか、なら作戦会議しながら朝食を摂ろう」

 

 提督はそう言うと歩き出し、私は艤装を付けたままそれに続く。軽量化したと言っていただけあり、よろけたりすることは無かった。というより、慣れたのかもしれない。

 開発棟を抜けて食堂へ向かう。外食しに行くらしき艦娘と何度かすれ違い、簡単に挨拶をした。その度に、形のない恐怖が顔を出す。こんなに不安なのは、初日以来な気がする。

 

「おー、二人ともおはよ」

 

 宿泊棟に入ると、丁度階段から降りて来た北上が挨拶をしてくる。独特の雰囲気があり、何となく少しだけ楽になった。

 

「おはよう。また大井に捕まってたのか?」

 

「そうなんだよー、大井っちがさ。やれハンカチだ。やれ髪のセットが違うーとかなんとかで、お母さんみたいでさー」

 

 呆れた口調で話しているのに、北上が嬉しそうに見える。仲が良いのが伝わり、少しばかり羨ましかった。

 曙との仲が悪いとは言わないが、良いと断言できるほど関わっていない。北上のように、惚気半分で話せるようになるには、どのくらいの時間が必要なのだろうか。

 

「惚気は今度聞いてやるから、顔合わせ済ますぞ?」

 

「はーい」

 

 北上は否定せず、提督に続いて食堂へ入って行く。私もそれに続いて入るが、やはり人は少なく、私達の他には三人しか居なかった。

 

「おはよう、私は日向で、こっちが伊勢だ。今日はよろしく」

 

「よろしく、私達は宴会行かなかったし、今日が初合わせだよね?」

 

 よく似た二人だが、一見して分かるほど性格が違うようだ。日向と名乗った方は冷静沈着なイメージなのに、伊勢と紹介された方は、少々落ち着きが無いように見える。姉妹だとしたら、何となく納得できるだろう。

 

「おはよ、夜戦は好きだけど、夜戦馬鹿じゃないからね!」

 

「おはよー」

 

「あ、おはようございます」

 

 そうこう考えていると北上と川内が挨拶をし、私も我に返った。川内だとすぐ分かったのは、夜戦馬鹿の噂のおかげだ。

 

「えっと……初めまして、航空戦艦……なのかな。の、無明です。今日はよろしくお願いします!」

 

 こちらも挨拶を返したが、上手く話せない。胸の奥にある、変な感覚が原因なのは分かっているが、最後を強調して誤魔化した。

 

「待て待て、確かに戦艦並みの力に艦載機もあるが、お前は航空戦艦じゃない。特異型空母一番艦無明だ」

 

 私が自己紹介をすると、すかさず提督が訂正し、私は首を傾げる。出雲の話では、私が航空戦艦だと断定していたが、なぜ空母なのだろうか。それほどまでに、昨日の艦載機が凄かったとしたら、端鶴にもうしわけない。

 

「まぁ、顔合わせが済んだ所で、お互いを知らないとな」

 

 提督は私と北上を誘導し、私を提督の隣に、北上を伊勢達の隣に座らせる。二対四の形だが、深い意味は考えないでおこう。

 

「まず、伊勢と日向は航空戦艦だ。武装に関しては、主砲二基六門に電探、あとは瑞雲。昼と夜で殴り合いに強い影響力を出して貰う。次に北上、お前はとりあえず、加賀と赤城を狙うな。長門が最重要目標だ。長門さえ無力化すれば、夜戦で押し切れる。川内は、わざわざ言う必要も無いよな?」

 

「夜戦きたー!」

 

「ちょ、ちょっと待ってください!」

 

 提督は流れるように説明したが、大きな問題が説明されていない。一航戦は、空母群の中でも飛び抜けている。それに対して、対空装備が少なすぎると、知らないなりに感じた。

 

「まぁ待て、無明の装備を説明する」

 

 提督に制止されると黙らざるを得ず、おとなしく口を閉じる。一人を除いて黙っているし、何か意味があるのだろう。

 

「無明には主砲一基三門、艦載機三種、近接武装一つを載せた。理由としては、無明の艦載機は射程が短い。代わりに、素晴らしく高精度だ。それこそ、夜戦で使えるかも知れない」

 

「夜戦で艦載機って、いくらなんでも無理じゃない? 提督が無明を信用してるのは分かったけど、視界提供はどうするのさ。真っ暗な夜戦だと、どうしたって艦載機が目標を見失うし、着艦もできないじゃん」

 

 私が口を開くより先に伊勢が言い、私は開きかけたそれをきつく締めた。実戦経験は無いのだから、変に口を挟むべきではない。

 

「それがな、無明は指示を出すだけで、実際の操作はしてないんだ。無明が相手の位置を正確に把握していたら、砲撃となんら変わらず動かせる。かなり異例だが、俺なりに確信があるんだ。信用してくれ」

 

「んー、まぁ、それは信じるとしてもさー。それって、上手くいくの? 自動なら自動で、あの二人と制空権を争えるか、私は怪しいと思うけどなー」

 

 艦載機は想像した通りに動くと思っていたが、操作する物とは感じなかった。瑞鶴が悔しがっていたのは、練習を頑張ったからなのだろう。それに、北上の疑問も気になる。操作できないということは、勝敗が明確になるということだ。技量で負けたら、その時点で対抗手段が無い。

 

「それについては、秘策がある」

 

 提督は意地悪そうな笑みを浮かべた。この人は、作戦指揮を楽しむ人なのだろう。それも、勝利に固執するような、端的に言うと強い人。提督の地位は、さして苦痛を感じず獲たのかもしれない。提督の片鱗を見た気がした。

 

「まぁ、提督が言うなら大丈夫だろう。しかし、最後の一人がまだ着てない。まさか、五人で十分とは言わないよな?」

 

 日向の反応が、その実力を裏付ける。確信何て物は、提督の自信一つで十分なのだろう。

 しかし、今更だがたしかに一人足りない。基本的に六名で動くと出雲が言っていたし、長門達も六名だろう。

 

「あー……たしかに遅いな。無明、頼めるか?」

 

「え、私ですか?」

 

「お前が適任なんだよ。一番手前の整備室に居ると思うから、引きずってでも連れてきてくれ」

 

 提督は少し考える素振りを見せ、苦笑いしながら私を指名した。嫌がって来ていないなら、北上のような性格の方が向いている筈。何より、面識の無い相手を引きずってくるのは、いくらなんでもやりたくない。

 

「ですが……」

 

「上官命令だ。殴り倒してでも連れてこい」

 

 反論しようとしたが、提督は強く言い切り、私は項垂れて食堂から出て行った。何も、あんな言い方をする必要は無いと思う。もしかしたら、怒らせてしまったのだろうか。

 だとしても、私としては不本意なのだから、お互い様に違いない。

 

「……はぁ」

 

 などと言い訳を考えたが、本館に入った辺りでため息をついた。提督なりに理由があるのだろう。戻ったら素直に謝らないといけない。

 何はともあれ、整備室に引きこもっている誰かを連れて行かなければいけないのだ。名前くらい聞いておけば良かったと、反省するしかない。

 

「入りますよ」

 

 二階に上がってすぐの整備室を叩くと、そのまま中に入った。

 

「え……なんでアンタが来てるのよ」

 

 そこには、艤装の前で蹲っている曙が居た。何をしているのか分かるより先に、曙は立ち上がり私に向き直る。

 

「えっと、整備室で引きこもってる奴を連れてこいって言われて……」

 

 理由を説明しながら曙を見たが、微かに目が赤らんでいた。目にゴミが入っていたのだろうか。

 

「……卑怯よ、まったく……」

 

 曙は呟くと、深く深呼吸して艤装を付けた。島風の物とは似ても似つかないが、これが駆逐艦の武装なのだろうか。主砲らしき物はおろか、魚雷すら無い。あるのは、これでもかと付いた機関銃。とてもじゃないが、実戦武装には見えない。

 しかし、私はそれよりも曙の様子が気になっていた。どうせ作戦については分からないのだから、それも当然かもしれない。しかし、それを差し引いても、曙の様子が変だった。

 どちらかと言えば涼しい気温なのに、額に汗が滲んでおり、前髪が張り付いている。顔色も悪く、明らかに体調が悪い。

 

「大丈夫?」

 

「大丈夫よ、ちょっと寝不足なだけ。提督には何も言わないでよ?」

 

 無理しているのは分かり、一応聞いたが、曙に釘を刺されて提督への抗議は諦めた。

 曙はさっさと部屋から出て行き、私もその隣へと駆け寄る。一体何があったのか、それを聞こうにも、曙の雰囲気が聞く事を拒んだ。殺気立ってるような、怯えているような、よく分からないが、良くないということだけは分かる。

 

「えっと……長門さん達に勝てるかな?」

 

「……クソ提督が指揮してるなら、負けはありえないわよ。まぁ、作戦通りに進めばの話だけど……」

 

 曙の返事は含みを持っており、表情が険しいせいで、詳しく聞けなかった。今まで見たことが無い曙の姿に、戸惑いを隠せない。怒っているのは見たことがあるが、これは正体が分からないのだ。怖いとすら思う。

 結局それ以上の会話も無く、食堂に着くと曙が立ち止まり、私が扉を開けた。

 

「連れてきましたよ」

 

「よろしく」

 

 扉を開けてすぐ集まった視線は、曙が入ってすぐ別の何かに変わる。なぜかは分からないが、不信感なのだと分かるのに時間はかからなかった。

 曙は無愛想にそれだけ言うと、提督の隣に腰掛け、私は曙の隣に座ろうとして、提督が自分の隣へ誘導する。何となく腹が立つが、先ほどの事もあり、大人しく従うことにした。何よりも、この場の雰囲気が気になる。

 

「えっと……六人目って、曙?」

 

 どうやら、私が感じた物は間違って居ないらしい。川内は微妙な表情で確認し、頬を軽く掻く。

 

「そうだ。何か問題でもあったか?」

 

「川内が失礼だったのは確かだが、私達だって、信用できない相手に背中は任せられない」

 

 提督は来然とした態度で返事をし、それに日向が食いついた。曙が何をしたというのか、私は何も知らないが、曙のよく分からない雰囲気は、これが原因に間違いない。

 

「日向、やめなって……」

 

「でも、日向の言葉はその通りじゃない?私は聞いただけだけど、やっぱり嫌だなぁ」

 

 伊勢が困った様子で止めに掛かるが、北上も日向に同調する。伊勢も口振りから察するに、嫌がっている事はすぐ分かった。

 曙が何をしたというのだろう。北上は話を聞いただけのようだが、それでも不信感を拭えない内容らしい。

 しかしこの反応は、あまりにも酷いのではないだろうか。

 憤りが腹の底で煮えたぎるのを感じ、気付いたら拳を握り締めていた。

 

「お前等の言いたい事は分かる。でもな、いつまでも今のままとはいかないんだ。戦力にならない艦娘の行き先は知っての通り……なら、仲間に手を貸してやろうとも思うだろ?」

 

 提督はそれに気付いたのか、机の下で私の手に自分の手を置く。そして、ゆっくりとなだめるように言葉を繋いだ。提督も怒りそうであったが、そうしなかったのは、それなりに理由があるからだろう。

 私はゆっくり力を抜いた。

 

「査定入ったの……?」

 

「少し前に警告された。今回は演習だし、相手も曙については知ってる。お願いできるか?」

 

 微妙な表情をしていた川内も、提督の言葉を聞いて真顔に変わる。よく分からないが、説得できたということだろう。

 

「それなら、仕方ないかな。でも、あまり期待しないでよー?」

 

「なぁに、無明が居れば大丈夫だ」

 

 北上はすんなりそれを受け入れ、提督もなぜか得意気に返事をした。信頼されてるのは嬉しいが、事情の説明くらい欲しい。

 

「曙は、任せてください!」

 

 それでも、曙に対する風当たりが緩むなら、少しくらいの無茶は構わない。事情なら、また後で聞けばいいのだから。

 

「よし、それじゃあ曙の武装確認だ。曙には機銃しか載せて無い。しかし、これは対空仕様って事じゃないんだ……」

 

 その後、提督は秘策についての話をし、私は終始無言の曙を気にかけながら、話に耳を傾ける。意外な作戦だったが、そんな事が気にならないほど、私は不安だった。

 話は終わり、朝食も済ませてやっと、自由な時間ができる。

 提督と曙は、私を連れて部屋の隅へ行く。昔何があったのかを聞かせてくれるのだろう。

 

「さて、無明の聞きたい事に答えるとしようか」

 

 黙って視線を逸らす曙を見ると、提督から話を切り出した。

 

「俺が提督としてここにきて、一番最初に、敵前線泊地に殴り込む大きな作戦があった。これについては、多少書類を見たんだろ?」

 

 私は黙って頷き、提督は話を続ける。

 

「その作戦で色々あって、曙は海戦に強いトラウマがあるんだ。皆からしたら、パニックになった曙に背中を撃たれかねない。何て考えても、不思議は無いさ」

 

 提督の言葉は突然で、飲み込むのに時間がかかってしまった。曙が雑務に追われていたのは知っていたが、そんな理由があるとは思う訳がない。何か役職が無いと、ここに置いておけないのは当然の事。なら、私が秘書艦をしたということは、それなりに意味のあることだったのだろう。

 

「詳しい理由については、俺から話すことじゃない。曙が気を許せると思ったら、話してくれるさ」

 

 提督は曙に視線を移してそう言うと、私たちだけを残してその場から離れた。

 曙にちょっとした好機をあげたいのだろう。提督の言っていた期待というのは、本当はこのことに関してなのではと、心の隅で感じる。

 

「提督って、ずるいですよね」

 

 曙が迷った様子なのを見ると、ついそう零していた。どうしたって、こんなの結果が見えてしまう。その二つあるどちらでも、曙にとっては辛いのだ。虎でもこんなことはしない。

 

「だから、私も少しだけずるい事言いますね」

 

 それに従うのが少し癪に障るし、私は私の意志があって、曙にだって当然ある。だからこうして少し悩むし、あの夢の事が気になって怖い。そんな当然が怖いのだ。見えないから怖いなら、見えてしまえばいい。

 こうした気持ちになったのは、あの夢のおかげなのだろう。

 

「私は、曙の事が好きですよ」

 

「……バカみたい」

 

 私は笑って見せたが、曙は顔を逸らして呟いた。曙のそれは見えないけど、曙には私のこれが見えただろうか。提督の背中を追っていく彼女に、私は笑顔のまま小さく手を振った。

 でも、ここで満足してはいけない。長門達に負けないよう、私は私にできることを探すため、談笑している伊勢達の元へ向かった。




お疲れ様です、また明日会いましょう。
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