※デレが無いかも、今回は。
地底にあるとある橋、一人の橋姫がそこに居た。
「ああ、妬ましい、妬ましい」
「相変わらずだな、パルスィ」
彼は彼女に声をかけた、いつだか惚れた彼女に声をかけた。
「あら、久しぶりね。今日は何をしに来たの?」
「君に会いに来たんだよ、ちょっと話をしたいと思ってね」
「そう、そのために彼女たちの誘いを断ったのね」
彼女は彼にそう告げた、しかし彼にはその意味が分からない。
「え?」
「彼女たちに慕われる貴方が妬ましい、貴方を慕える彼女たちが妬ましい」
「パルスィ?」
「それじゃあね」
「あ、パルスィ! ……今日もか、やれやれ、強敵だな」
彼には分からぬことを言って彼女はその場を立ち去った、それを見ていた彼はふられたなとため息をついた。
「ああ、妬ましい、妬ましい」
彼の家には少女がいた、紅白の巫女と白黒の魔法使いがいた。
「ねえ、いいかしら?」
「うん? 何だ、霊夢?」
「明日人里に買い物に行く予定なんだけどちょっと付き合ってくれないかしら?」
「え? ああ、そのくらいなら」
巫女の誘いを受ける彼を、魔法使いは遮った。
「ちょっと待て、明日は私が誘う予定だったんだぜ」
「そんなもの早い者勝ちよ、遅いアンタが悪いんでしょうが」
「何だと?」
「何よ?」
険悪な雰囲気をかもし出す二人を、男はため息をつきながらなだめることにした。
「落ち着け二人とも。霊夢も言ったとおり早い者勝ちだ、魔理沙は明後日な」
「ええ、それでいいのよ」
「……」
男に笑顔を向ける巫女を、魔法使いは暗い目で見ていた。
「ああ、妬ましい、妬ましい」
彼の家に一人の蓬莱人が来た、彼女は酒を片手にやって来た。
「おーい、今日も飲ま……慧音?」
「妹紅、何をしに来たんだ?」
そこには既に教師がいた、彼女は皿を片手に立っていた。
「あいつと飲みに来たんだよ、そういうそっちは何なんだ?」
「差し入れを届けに来たんだ」
「そうか、じゃあもう用は無いよな?」
「何を言っているんだ? せっかくだからここで食べていくことになったんだ、そっちこそお呼びじゃないぞ?」
「……」
「……」
二人は険悪な視線を向け合った、一触即発という言葉を表していた。
「ん? 何だ、妹紅も来たのか。じゃあお前も飯を食っていくといい、慧音も構わないよな?」
彼は来ていた蓬莱人を誘う、それに彼女は嬉しそうな表情を浮かべる。
「……ああ、そうだな」
そんな彼の選択に、教師は不満そうな表情を浮かべている。
「じゃ、今日は寝かさないぞ?」
「ははは、お手柔らかに頼む」
「…………」
男と笑う蓬莱人を、教師は暗い目で見ていた。
「ああ、妬ましい、妬ましい」
白玉楼で彼は壁に背を預けて眠っていた、剣士は彼の膝に頭を乗せて微笑んでいた。
「妖夢、ちょっと近いんじゃないかしら?」
「何を言っているんですか、これぐらい普通ですよ。まあ? 食べ過ぎて身体が重い幽々子様には無理な話でしょうがね?」
亡霊姫の苦言を聞かず、剣士は亡霊姫を煽る。亡霊姫は不遜な剣士に、いつもの柔和な笑顔を崩す。
「……へえ、言うじゃないの、妖夢」
「事実でしょう?」
静かに殺気を撒き散らす二人にあてられたか、彼はゆっくりと目を開ける。
「……んん、ん? ……妖夢?」
「あ、おはようございます」
「……ああ、……そうだな。…………」
寝ぼけた彼は膝の剣士を疑問に思わない、彼女を睨む亡霊姫を疑問に思わない。ぼんやりとした顔のまま、彼は何気なく剣士の頭を撫でる。
「わっ!?」
「ん……、……撫でやすい頭だ」
「え、えへへへ……」
「…………」
男に撫でられ喜ぶ剣士を、亡霊姫は暗い目で見ていた。
「ああ、妬ましい、妬ましい」
そんな日常、そんな日々。いつものそれは唐突に、神社で全てが壊れだす。
「いい加減にしろ!!」
「魔理沙!?」
彼に迫る巫女に向かって、魔法使いは感情を露にする。
「いっつもいっつもベタベタとくっつきやがって、気に入らないんだよ、霊夢!!」
「はあ、嫌ねえ、負け犬の遠吠えは」
「お、おい、霊夢!!」
彼の制止を聞くこともなく、巫女と魔法使いは殺気を放つ。
「せっかくだ、ここでけりをつけてやるよ、霊夢!!」
「あんたなんかが勝てると思っているの? 魔理沙!!」
「待て、二人とも! ぐあっ!?」
二人を止めようとした彼は、二人の戦闘の余波で吹っ飛ばされる。……いや、それは戦闘などと生温く表現していいものではない。
それはもはや、殺し合いだった。
「ああ、妬ましい、妬ましい」
彼は幻想郷を彷徨った、力の無い彼は誰かを頼らなければ彼女たちを止められなかった。だが、誰も耳を貸さなかった、誰も彼の為に戦おうとしなかった。何故なら……。
「喜べ妹紅! 死ぬまで殺し続けてやる!!」
「はっ、死ねない痛みを知らない奴がえらそうにのたまって! 返り討ちにしてやるよ、慧音!!」
「中途半端に現世に留まって、未練たらしいったらありゃしない。だからここで完全に引導を渡してあげますよ、幽々子様!!」
「ふん、人でも亡霊でも無い半端ものが粋がって。完全な亡霊にして意を殺してあげるわ、妖夢!!」
誰もが誰かと殺し合っていた、彼が親しくしていた誰もが。力の有無も強弱も問わず、誰もが誰かを殺していた。
「ああ、妬ましい、妬ましい」
「何でだ、何で皆……」
彼は地底にまで流れていた、止められる誰かを探していた。親しきものたちの狂気に、彼はもう限界だった。
「ああ、妬ましい、妬ましい」
聞き覚えのあるその声に、彼はゆっくりと顔を上げる。
「パルスィ……」
「私が想ってしまう貴方が妬ましい、私以外に想われる貴方が妬ましい」
「……まさか」
その言葉に彼は気付く、橋姫の持つ能力を。この状況を作り出せる、嫉妬を操る彼女の力を。
「恋する彼女たちが妬ましい、恋われる貴方が妬ましい」
「お前が、お前がやったのか、パルスィ?」
「ああ、妬ましい、妬ましい」
「何でだ、何で彼女たちを」
彼の疑問に彼女は笑う、無意味な質問に彼女は嗤う。
「何故? 嫉妬に理由が要るのかしら? 恋に理由が要らないように、妬みにも理由は必要ないの。でもそうね、しいて言うなら……」
彼にゆっくりと近づきながら、座り込む彼の元に歩きながら、呆然とした彼の顔を見つめながら。
「恋敵には、嫉妬をするものでしょう?」
とびっきりの笑顔でそう言って、橋姫は彼を抱きしめた。
「ああ、妬ましい、妬ましい」
はい、パルスィ回です。真面目な話、まさかここまで書きにくい題材だと思っていませんでした。パルパルさんは扱いが難しすぎました、普通にパルっちゃうとここではらしさがなくなるし、かといってそれ以外の扱いも難しいし。能力を大分適当に解釈して書いてみましたがどうなんだろう、前回といい今回といいどうにもすっきりしないなあ。リクエストに応えられているのかどうにも、だなあ最近は。
切り替えていきましょう、はい。何とこの作品のUAが一万まで行きました、元は裏でやって行くつもりだった病愛録がここまで伸びるなんて思っていませんでしたよ。こうなると次の目標は何になるんだろうか、評価に色がつく? そもそも色って何でしょうか? 正直ハーメルンのシステムはよく分からんのですよ。
で、次回です。次回は閻魔様かこまっちゃんのどちらかになる予定です、多分映姫様の方が先になると思います。それと私は最近別の作品も書き始めたのですが、そっちのリクエストと混ざることが時々あります。ルーミアのヤンデレを考えていた途中であっちのリクエストだったと気付いたことがあったりします、ちなみにヤンデレというより単なるサッドエンドになりました。無駄に三つも書いているのですからそれぞれできちんと頭を切り替えなくてはなりませんね、はい。ではまた。