東方病愛録   作:kokohm

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『一人ではなく、二人なら』




※秘封倶楽部についてそこまで詳しくないので完成度に期待しないでください、今回は難しい。


秘封倶楽部の愛

 ……ああ、これは夢か。少し前の、もう戻らない日常の夢か。

 

「もしもし」

「何だ、蓮子」

「あら、断言しちゃっていいのかしら?」

「阿呆、お前のところの番号からかかってきてお前の声がすればお前で間違いないだろうが」

「相変わらず乗ってくれないのね、残念」

「いいから本題を話せ、明日の映画のことか?」

「正解、実はちょっと用事が入ったから待ち合わせに遅れそうなのよ」

「どれくらいだ?」

「三時間くらいかな」

「おい、それだと映画を一本見終わるぞ。仕方ない、集合時間をあとに……回せないのか」

「そ、メリーと連絡をつけられないのよね。メリーの携帯が修理中だから」

「明日修理が終わって映画を見る前に取りに行く予定だったからな、全く面倒な」

「だから予定通りの時間に行ってメリーに事情を伝えて欲しいんだけれど」

「……仕方ないか、来るは来るんだな?」

「ええ、遅れはするけれど行くわ」

「分かった、ではまた明日」

「ええ、また明日」

 

 

 

 宇佐見蓮子、物心ついたときからの付き合いで、俗に言う幼馴染。こいつといるとストッパーというかツッコミというか、そういう立ち位置にばかりなっていた気がする。ただ、不思議と嫌いではなかった。

 

 

 

「おはよう、お待たせしたかしら?」

「いや、今来たところだ」

「そう、蓮子はまだ?」

「ああ、アイツは遅れるそうだ、三時間ほど」

「はい?」

「言葉通りだ、急用が入ったらしい」

「急用って、蓮子ったら相変わらず適当なんだから」

「いつものことだ」

「さすが幼馴染ね、慣れっこ?」

「不本意ながら、な。それでアイツが来るまで適当に時間を潰そうと思うんだが、まずは電話か?」

「そうね、付き合ってもらえる?」

「構わないさ」

「そう、ふふふ」

 

 

 

 マエリベリー・ハーン、蓮子の紹介で出会った大学からの付き合い。蓮子は彼女の名前を呼びづらいとかでメリーと呼んでいるが、そんなに難しいだろうか? まあ周りでも彼女のことをメリーと呼んでいる奴が多いから呼びづらいんだろうな、俺は普通に本名で呼んでいたが。それが礼儀だと思うんだがな、俺は。

 

 

 

「……ん……」

「お目覚め? いい夢だった?」

「……ああ、そうだな」

 

 目が覚めた、現実はいまだ変わらず。当然か、変わるはずが無い。

 

「ねえ」

「答えは変わらん」

「つれないわね」

 

 変わらない、変わらないから、変わるはずが無い。

 

 

 

 

 夢は進む、あの日を目指して進んで行く。

 

「私は、貴方が好き」

「……」

「いつも誰かの手助けをする貴方が、それを誇ろうとしない貴方が。そして、私の名前を呼んでくれる貴方が。私は、好き。……ねえ、貴方は私のことをどう思っているの?」

「…………友人、だ。それ以外の何者でもない」

「…………そ、う」

「すまん」

「……いいえ、いいのよ」

 

 

 

 マエリベリーに告白された時、俺はついにきたかと思った。そうだ、前から彼女の想いには気がついていた、だがそれだけだ。俺は彼女の想いを受け止める気はなかった、本当に友情以外のものを感じたことがなかったからだ。付き合い始めてから始まる愛もあるはず、だからとりあえず付き合っても良かったのかもしれない。ただ、それは不誠実な気がした。俺はどうしてもそれが受け入れられなかった、だから彼女の願いを断った。……もし、受け止めていればどうなっていたのだろうか。

 

 

 

「ねえ、私のことはどう思っている?」

「何を……」

「答えて、お願い」

「……幼馴染、だ」

「そうじゃないわ、分かっているんでしょう?」

「…………家族、みたいなものだ。少なくとも今まで恋愛感情を抱いたことは無い」

「……そう、分かったわ」

 

 

 

 蓮子にそう聞かれたとき、俺と蓮子は違ったのだなと思った。俺は蓮子をもうひとりの家族のように思っていた、蓮子は俺を恋愛対象としてみていた。何かきっかけでもあったのだろうか、俺はそれを見逃してしまったのだろうか。蓮子が去った後そんなことを考えていた。……もし、その機会があったら俺は蓮子に恋していたのだろうか。

 

 

 

「おはよう、いい朝よ」

「……そうか」

 

 また目が覚めた、……今日は君か。

 

「朝食の準備は出来ているわよ、食べさせてあげるわね」

「……ふん」

「はい、あーん」

 

 何も出来ない、彼女に従うしか無い現状だ。まったく……、なさけない話だ。

 

 

 

 

 夢は続く、少しずつ進んでいく。……そして、あの日が訪れる。

 

「……んん……」

「あ、気がついた?」

「ん……?」

「まだちょっと寝ぼけているのかしら? 蓮子、貴方どれだけ盛ったのよ?」

「そんなにおかしな量は飲ませていないはずなんだけど」

「俺は……、確か蓮子の家でマエリベリーと……。っ!? これは?!」

「ごめんなさい、あんまり私達もそんなものを付けさせたくは無いんだけど」

「さすがにそれを外すと逃げるでしょうしね、貴方のことだし」

「これは……、お前達の仕業、なのか?」

「そうよ、私達の仕業」

「どういうつもりだ、蓮子! マエリベリー!」

「ねえ、私のことはどう思っている?」

「俺の質問に」

「答えて頂戴、お願いだから」

「……幼馴染」

「じゃあ、私の事は?」

「……友人」

「……ふう。でしょうね、そんなことは分かっていたわ」

「だから、私達は決めたの」

「決めた……?」

「私では貴方を振り向かせられない、ただ同じサークルの友人じゃあ無理だった」

「それは私も同じ、幼馴染なんてものは何の役に持たないものね」

「おい、何を」

「だから、私達は考えたの」

「そう、一人が駄目でも二人なら、ってね」

「……? どういう意、っ!? お前ら、馬鹿か!?」

「あら、分かっちゃったの?」

「さすがは幼馴染、私の思考は筒抜けね」

「馬鹿か?! 二人で迫ればいいというものじゃないだろうが!? アニメや漫画じゃないんだ、皆で仲良くなんてことが出来るわけが無い!!」

「出来るわよ」

「貴方と」

『私達なら』

「……狂っている、そんなことを本気で、本気で出来ると思うなんて……」

「よく言うじゃない」

「狂えるほどの恋、ってね」

 

 そう言った蓮子とマエリベリーの笑顔を見て、何故今まで興奮していたのか分からなくなった。体の力と、何かが抜けてしまった。

 

「……よくは、言わんさ」

「そうかもね」

 

 他人事のように言った俺の言葉に、蓮子も他人事のように答えた。そして、目が覚めた。

 

 

 

「……ふん」

「あら、今日は早起きね」

「ここ最近は随分とお寝坊さんだったのに」

「見ていたい夢でもなかった、それだけだ」

「そう」

「ねえ、私達のことはどう思っている?」

「……さあ、な」

 

 何が答えなのだろうか、何を答えるべきなのだろうか。もう分からない、なにも分からない。

 

 

「そう」

「だったら」

『もっと、がんばらないとね?』

 

 二人の笑顔を見ていると、無垢なようで狂気なようで、不思議なその笑顔を見ていると、もう何も分からないのだ。

 

 

 

 ……ああ、これが夢だったら良かったのだろうか。これが悪夢なら……悪夢なら? これは良くないことなのか? 望んでいないことなのか? 分からなくなってきた、何も分からなくなってきた。もう、何も。

 

 

 

 誰か、教えてくれないか?

 




 はい、秘封倶楽部回です。お待たせした上にこのクオリティ、申し訳ありません。新作を投稿している場合じゃなかったですね、はい。

 今回はいくつか展開を考えたのですが紆余曲折あってこれに落ち着きました、しかしパンチがなくなった感。ここまで頭の中に文章が浮かばなかったのは初めてかもしれない、やっぱり秘封倶楽部は難しいですね。

 さて、次回の話ですが。リクエストからスカーレット姉妹か輝夜になるかと思います、もしくは今ちょっとだけ書いている紫になるかも。一応展開は頭の中にあるのですが文章化には時間がかかると思います、他の作品も書かないといけないし。

 そうそう、二十話ではアリスの話を書く予定です。何故アリスかというとそれが私がこの作品を書こうと思ったきっかけだからです、その辺りは感想欄にも書いているのでここでは省きます。それとアリスが書き終わったら一回アンケートでもとってみたいなと思っています、病愛録のお話のトップ3を決められたらなとか思っているので良ければご協力ください。ではまた。

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