東方病愛録   作:kokohm

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『貴方にとって、私達は』






※今回大分話が分かり難いです、あまり深く考えず雰囲気だけを読んでください。


スカーレット姉妹の愛

「……ふう」

 

 ここ、紅魔館に客人として滞在を始めてもうどれくらいになるのだろうか。一年、いや、二年は経っているか。確か幻想入りしたのが秋ごろで、今見る雪が幻想郷で三度目もののはずだから。

 

「あら、寒かったかしら?」

「いや、そんなことはないよ」

 

 確かに雪の降るような気温ではあるが紅魔館のバルコニーはそう寒くは無い、これもパチュリーが館全体に施している魔法のおかげだろうか。まあそうでもなければ、傍らにいる吸血鬼姉妹はともかく、俺のような真人間は暢気にお茶会など出来ないが。

 

「そう、ならいいのだけれど」

「あ、これ美味しーい!」

「こら、フラン。あまりがっつかないの」

 

 ……それにしても、これで俺よりもはるかに長い時を生きているというのは何とも不思議な話だ。見た限りは無邪気にお菓子を味わう妹と、それを窘めようとする少し大人びた姉の、あどけない二人の少女にしか見えない。

 

「ねえねえ、お兄さま。この後雪合戦しようよ、美鈴も誘ってさ」

「雪合戦? ああ、それも面白いかもしれないね。でも美鈴はどうだろう、彼女にも仕事があるからね」

「いいわよ、別に。どうせこの雪なら誰も来ないでしょうし、雪玉を当てる的にしてあげるわ」

「レミリア、そういうのは止めておいた方がいい。何か起こったときに咲夜から怒られるのは美鈴なんだからね」

「……そう、貴方がそういうのならそうしましょうか」

「ん、それがいい」

 

 素直に納得してくれたレミリアの頭を撫でる、彼女はあまり好んでいないのかもしれないがどうしてもこういうことをしたくなる。

 

「あ、お姉さまずるい! お兄さま、フランもフランも!」

「ああ、はいはい」

 

 無邪気だな、この子は。今時こういった素直な子供は見ないような気がするから何か新鮮だ、まあ外とは色々と違うのかもしれないな。

 

「えへへ。じゃあ適当な妖精メイドたちを引っ張ってくるね、先に外で待っているよ!」

「あ、こら! ……まったく、落ち着きが無いんだから」

「いいじゃないか、子供は元気な方がいい」

「……子供、ね」

「どうかしたかい?」

「……いえ、何でもないわ」

 

 ああ、やっぱり子供っぽいのを気にしているのかな。でもあまり気にしないでいいと思うんだけどな、大人らしさは成長すればついてくるものだし。

 

 

 

「ねえ、少し聞いてもいいかしら?」

「ん? 構わないけれど」

 

 二人と雪合戦をした日の夜、大図書館で本を読んでいるとパチュリーに声をかけられた。ここではいつも静かに本を読むか研究をしている彼女にしては少し珍しい。

 

「貴方、レミィたちのことはどう思っているの?」

「どう? …………妹、みたいなもの?」

 

 いきなりの質問に目を丸くしたけれど、素直に思ったことを告げる。世話になっている身で言うのも何なんだけどあの二人は妹っぽい感じだ、フランにいたっては呼び方がもうそれだし。

 

「それはフランだけ? それともレミィも合わせて?」

「レミリアも合わせて、だね」

「ふうん……、気がついているんでしょう?」

 

 これは……、そういうことか。

 

「……何のことかな」

「惚けないで、二人の気持ちのことよ。あの二人があなたのことを想っていることぐらい分かっているんでしょう?」

「…………まあ、ね。そりゃあ気がついているよ」

 

 そう言って本を読んでいる間に冷めてしまった紅茶を一口飲む、苦味を感じないのは茶葉がいいのと入れた咲夜の腕がいいのだろうか。それはともかく、今はレミリアたちのことか。

 

「でもあれは」

「言っておくけど、あの二人は見た目や言動ほど幼くはないのよ。恋を知っていて誰かを愛することを理解している、子供の言う好きなんかじゃない大人の愛。だと言うのに貴方は放っておくの?」

 

 ……そうかもしれない、が。

 

「……どうしても大人には見えないし感じられないんだよね、俺には。俺にとって二人は子供にしか思えない、だから彼女たちの想いには答えられない」

「努力するつもりは無い、と?」

 

 努力、ね。まさか愛だの恋だのでその言葉を聞くとは、想いってものは努力して持つようにするものじゃないだろうに。

 

「努力してどうなるってもんでもないんだよ、こういうものはね。こっちはどうか知らないけれど、外で生きた人間にしてみれば彼女達はそういった感情を向けるにはよろしくないと考えちゃうんだよね」

「倫理観ってことかしら?」

「そうだね、俺にとって子供は手を出す対象じゃない。見守る対象だよ」

 

 実年齢はともかくとしてあの二人は見た目が幼すぎる、俗に言うロリコンって人種ならともかく俺の趣味嗜好じゃない。というかそういう対象にすること事態不可能だ、そういう考えが身についている。

 

「……じゃあ、二人が成長したらそういう目で見ることもあるのかしら?」

 

 パチュリーにしては随分としつこいな、やはり友人のことだからなのか?

 

「どうだろうね、俺は今の二人を知っているから二人が大人になったとしてもそのイメージに引っ張られると思う」

 

 たぶんそうなるだろう、あくまで俺にとって二人は妹みたいな存在だ。以前二人の成長を予測した結果とやらの姿絵を見せてもらったことがあるがあの時も感心はしてもどきりとはしなかった、あんなに魅力的な姿だったのに。やはりもうそういったものが染み付いてしまっているのだろう、こればっかりはもう動かないに違いない。

 

「そう……」

「そもそも二人が大人に、俺が多少なりとも意識するような姿に成長する前に、俺は死んでいるだろうけど」

 

 五百年ぐらい生きてあの姿なら大人になるまでに後何百年かかるか分からない、人の身でそれを待つのはまあ無理な話だ。

 

 

 

 ……んん? ……ああ、夢か。もう春になったのに冬頃のことを夢に見るとは思わなかった、少しだけ懐かしい。夢心地な頭が現実を見始めるのを感じながらベッドを降りて身体を伸ばす。

 

「……ん?」

 

 何か、違和感を覚えた。正体不明の違和感に残っていた眠気も吹き飛びそれを探り始める、しかし。

 

「何だ?」

 

 まったく見当がつかない、何に引っかかっているんだ、俺は?

 

 

 

 結局その違和感の正体は分からずに数日が経った、しかし違和感は消えるどころかよりいっそう強くなっていく。何だ? 俺は何を分かっていないんだ?

 

「……」

「どうしたの、お兄さま?」

 

 ……ん? フラン? 何時の間に近づいたんだ? ……違うな、俺がフランの接近に気がつかないくらいに考え込んでいたのか。

 

「お兄さま?」

「ああ、いや、ちょっとな」

 

 いかんいかん、無視は良くないな。フランが不安そうな表情を浮かべている、とりあえず頭でも撫でて宥めないと。……うん? 撫でた感じに違和感が……。

 

「……!!」

 

 気がついた、フランの頭の位置がいつもより高い。理解した、これはフランが成長しているって訳じゃない。思い至った、これは、俺の方が小さくなっている。これか、ここ最近の違和感は、これなんだ。

 

「どうしたの、お兄さま?」

「フラン、俺は……、俺の身体は、どうなっている?」

「……ああ、気がついたんだ」

 

 俺の言葉を聞いたフランが笑う。だがそれは、いつも見ている彼女の笑顔じゃない。これは、これは初めて会った時の。

 

「フラン、これはお前の」

「じゃあ、早めようか、お姉さま」

「え?」

「そうみたいね」

 

 フランの言葉と後ろから聞こえたレミリアの声に振り向く前に、俺の意識は遠のいていった。

 

 

 

「ねえねえ、お兄さま!」

「ん? なに?」

 

 相変わらず元気だな、フランは。何で僕がお兄さまなのか分からないけど、僕とフランってそんなに変わらないのに。

 

「雪合戦しようよ、雪合戦!」

「うん、一緒に遊ぼうか。レミリア、君はどうする?」

「ええ、一緒に遊びましょう」

 

 楽しいよね、冬の醍醐味だと思う。

 

 

「ねえ」

「なに、レミリア?」

「私たちのことはどう思っている?」

「え? ……その、ノーコメントで」

 

 そんな恥ずかしいこと答えられるわけ無いじゃないか、レミリアったら何を突然。

 

「……そう」

 

 何故か、レミリアは満足そうに笑っていた。

 

 

「ねえ、お兄さま」

「な、何?」

 

 近い、近いって!

 

「私と、お姉さまのことはどう思っている?」

「そ、それは、その……。好き、だよ」

「そう、良かった!」

 

 彼女の笑顔に心臓が飛び跳ねる、やっぱりこの二人は……。

 

「じゃあ、これで終わりだね、お姉さま」

「え?」

「そうみたいね」

 

 ……最後に僕が見たのは、見たことの無いフランの笑顔だった。

 

 

 

「……む……」

 

 ここは……俺は……。

 

「気がついた、お兄さま?」

「……フラン?」

 

 何だ……? 違和感が……。

 

「……っ!」

 

 思い出した、そういうことか。なるほど、だから二人が成長しているのか。だから、俺の二人への感情が。

 

「思い出したようね、説明の手間が省けるわ」

「……そうか、お前達はこれが目的だったんだな」

 

 俺を幼くしてお前達と一緒に成長させる、俺にとってのお前達のイメージを変えた状態で俺の人格を戻す。そうすれば身体に染み付いたイメージが変わる、そう考えたわけか。ああ、自分でも言っていて良く分からない。まあ誰に説明するわけでもないのだから構わんか。

 

「そういうことよ、どう? 私達はどう思える?」

「私達はお兄さまにとっての何?」

「……ふん」

 

 そんなもの、決まっているじゃないか。

 

 

 

 

 俺の答えに、二人はにっこりと微笑んだ。

 




 はい、スカーレット姉妹回です。今回は二人の甘やかされて幼児退行したというリクエストを受けて書いたものでしたが、まあその原型が無いですね。本来は色々と書こうと思ったのですがテンポが悪くなるし何より上手く形にならなかったので止めました。リクエストをどう料理するかはあくまで私次第、ということで一つ。

 で、色々と訳が分からないと思うので適当に解説いたしますと、彼にとって二人は妹でしかなかったのでどうにかしたいと二人は思った。それで彼の人格を眠らせた上で自分達と同じぐらいの見た目まで若返らせて一緒に成長するようにした。大人になり彼の感情も変わったことを確認できたところで眠らせていた本来の彼の人格を目覚めさせた。そして彼の意識を新しい記憶が感じていたそれに引っ張らせることで二人へのイメージを変えようとしたという話でした。…まあ分かりませんよね、説明になっていないし。今回はちょっと私の方が引っ張られすぎました、今後はこういうことが無いようにしたいですね。

 それと、リクエストに関してなのですが。リクエストは受け付けておりますし皆さんのアイデアも尊重するつもりですが、何分未熟な私では無理な時は無理なのでご了承ください。

 ええと、随分と長くなりましたが次回の話です。次回は二十話目ということで私がこの作品を投稿することとなったアイデアを形にするつもりです、細かいところは感想のところで書いているのでそこを見ていただければ。主役はアリスとなるのですが正直アリスらしい話にはならないと思います。それでもよければ次回も気長にお待ちください。

 さて、活動報告に書きましたが今回は他の作品と同時に投稿しております。もし少しでも興味が湧けばそれらも読んでいただけると幸いです。ではまた。

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