東方病愛録   作:kokohm

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「さあ、もう一度!」




※今回も深く考えずにお読みください、ぶっちゃけ最後の三百文字ぐらいがこの話の全てな気がする。


八雲紫の愛

「やっほー」

「……魔理沙か」

 

 家の縁側に現れた少女に男は眉をひそめる、あからさまに歓迎していないことが分かるだろう。しかし少女、霧雨魔理沙は彼の表情など気にも留めず靴を脱いで上がりこむ。

 

「遊びに来たぜー、とりあえずお茶をくれ」

「ふん……」

 

 眉をひそめてはいるものの男は奥へ茶を入れに行く、少しして彼は彼女の分を湯飲みを持って戻ってきた。

 

「おっ、サンキュー」

「それで、何の用だ?」

「何の用って、もう言ったじゃんか。遊びに来たんだよ」

「用が無いなら帰れ、俺も暇じゃない」

「まあまあ、いいじゃないか。それよりお茶菓子はないのか?」

「……」

 

 はあ、とため息とついて男は席を立つ。先ほどと同じように奥に引っ込んだことから察するにおそらく魔理沙の頼みを叶えに行ったのだろう。

 

「何だかんだ言って優しいよな、本当に」

 

 そんな彼の態度に笑いつつ魔理沙は出されたお茶を一口飲む。その美味しさに顔をほっこりとさせている彼女であったが、突如その表情が一変した。

 

「あっつい!!」

 

 身体にかかったお茶の熱さからばたばたと暴れまわる魔理沙、その物音に気がついた男は奥から戻ってくる。

 

「何だ、騒々しい」

「あっちちちち!!」

 

 のたうつ彼女の周りを見てみれば地面に落ちて割れた湯飲みがあった、状況的には彼女がお茶をこぼして湯飲みを割ったように見える。

 

「湯飲みを割ったのか、よくもやってくれたな」

「違う! 湯飲みが勝手に落ちて割れたんだ」

 

 しかし彼女はそれを否定する。いわく、持っていた湯飲みがいきなり動いてお茶をこぼしたのだと。しかし、

 

「うるさい、言い訳のつもりか」

 

 男はそれを一刀両断する。まるで彼女のことを信じていないように見える。

 

「なっ! 言い訳って、何を」

「割ったのなら素直に謝れ、阿呆」

「だから私は割ってないって! ああ、もういい!!」

 

 そう言い捨てて魔理沙は彼の家を飛び出す、そしてそのまま箒に跨り空へと帰って行ってしまった。

 

「……すまん、魔理沙」

 

 それを見送った男は割れてしまった湯飲みを片付けながら彼女に詫びる、あえて彼女には聞こえないタイミングで。そうだ、彼には分かっていた。これが彼女の失敗ではないということを、彼女は嘘をついていないと言うことを。何故ならそれは、今まで彼の周りで何度も起こったことなのだから。

 

 

 最初の方は時折気配を感じる程度であった、そのうち家の物の配置が変わったりなくなったりすることが起こるようになった、そして一緒にいる人に何かしらの不幸が訪れるようになった。話している相手が何かを落として怪我をした、親しい友人が何人も事故に会った、家族に大事が起こった。彼は何もしていないのに、彼には何も起こっていないのに、彼の周りだけが不幸になって言った。

 

 

 そんなことが起こるようになってから男は周囲から疎まれ始めた。そんなことは関係ないと付き合いを止めない者も居た、たが男はそれを受け入れることが出来なかった。男は家族も、友人も、親友も、恋人も、全てを絶って一人になろうとした。……死を、選ぼうとした。……その結果、男は、幻想郷へと迷い込むことになった。

 

 

 

 そして、男は知った。男を不幸にした人物、いや、妖怪の正体を。

 

 

「……相変わらず性悪な女だな、お前は」

「あらあら、何のことかしら?」

 

 彼の呟きに応じる声、女の声。見なくても分かる、それが誰の声なのかを。

 

「わざとらしい。そんなに俺が誰かといることが気に食わんか」

「ええ、私はとびっきりに嫉妬深いのよ?」

 

 そう言ってそのスキマ妖怪は、八雲紫はとても楽しそうに笑った。これが私の愛なのだと悪びれもせずに笑う彼女、男を愛するが故に自分以外を捨てさせた彼女。

 

「……ふん」

 

 男はそんな彼女に、自らに全てをなくさせたその妖怪に、眉をひそめることしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 ……それからどれ程経った時であろうか、彼は虚空に声をかけた。

 

「……紫」

「あら、貴方の方から呼んでくれるなんて珍しいわね。とうとう私の愛を受け入れてくれる気になったのかしら?」

「お前に聞きたいことがある」

「何かしら?」

「お前は俺を好いているのか?」

「いいえ、愛しているのよ」

「お前は幻想郷を愛しているのか?」

「ええ、私にとって幻想郷は我が子同然の存在。私は幻想郷を愛している、無論貴方も同じくらいに」

「……なら、お前はどちらを選ぶ?」

「え?」

 

 男の問いに紫は首を傾げる、不思議そうな顔を浮かべている彼女であったがその顔は驚愕に染まる。

 

「っ!? これは、まさか貴方?!」

「この家を外界から切り離した、たとえお前でもここから抜け出すことは出来ない。そうだろう?」

 

 気付けば彼の家は結界に閉ざされていた、それこそ紫のスキマですら出入り不可能なほどの結界に。

 

「馬鹿な、貴方にこんなこと出来るはずが……」

「俺に魔法は使えない、だが使うことの出来る人物は知っている」

「彼女に、魔理沙にこれほどまでの魔法は使えないはず……」

「魔理沙一人じゃない、魔理沙、アリス、パチュリー、三人の力を借りた。三人の魔女が作り上げた傑作、お前如きには負けん」

「私はいつも貴方を見ていた、その中でどうやって……」

「嘘だな、お前は一日中行動できるわけでは無い。お前が眠っている間、お前の監視がないときに魔理沙たちと接触した。お前が見ている間は不仲を演じ、お前のいない間に策を弄した」

 

 呆然としながらこぼした紫の疑問に男は淡々と答えて行く、

 

「そんな、そんなはずが無い! 魔理沙たちが貴方に協力するはずが無い!!」

「お前は分かっていない、お前が思っているほど絆というものは脆くない」

 

 外に居た時はどうしようもなかった、友がいたところで不幸しか生まれなかった。だが今は違う、原因を知っておりそれをどうにか出来る手段もある。だから男は賭けた、彼女達の友情に。……もしくは、それ以上のものに。

 

「そんな、そんなはずが…………」

「この結界を破る方法は一つ、完全に下界と切り離される前にこの家の中にある魔法陣を刻まれた物体を完全に破壊することだけだ。制限時間は約三十分、それまでに破壊できなければお前はここに閉じ込められることになる。さあ、探してみるがいい。そうしなければ、お前はここから出られず、お前の愛した幻想郷は崩壊することになるぞ?」

 

 彼女がいなければ幻想郷を保つ結界は維持できない、短期間ならともかく完全に彼女がいなくなってしまえば幻想郷は崩壊してしまうだろう。

 

「そんなことをすれば魔理沙たちだって消滅するのよ!? それでも貴方は!?」

「……早く探さないとどうなっても知らんぞ、紫?」

「くっ!? ええい!」

 

 男の様子に説得は無意味と悟った紫は部屋を出て家中を探し回る、彼女が外へと戻る手段を探し出す為に。

 

「…………約束は守れん。……すまん、魔理沙」

 

 彼女が部屋を離れた後、男は申し訳無さそうに呟いた。

 

 

 

「はあ、はあ、はあ……」

 

 息を乱れさせながら紫が男の元へと戻ってきた、その顔には焦燥が浮かんでおりいつもの冷静さはまるで感じられない。

 

「後五分、といったところかな」

 

 家中を探し回った、あるもの全てを手当たり次第に破壊した。だと言うのに結界は未だに解けていない、二人は未だに閉じ込められている。

 

「……教えなさい、魔法陣は何処にあるの!」

「さて、何処だろうな?」

「っ!」

 

 飄々とした男の返答に紫の頭に血が上る、彼女は男の体を殴り飛ばした。見た目に騙されるが彼女もまた妖怪、その身体能力は人間よりもはるかに上だ。その一撃に男の身体は壁へと叩きつけられた。

 

「あ……」

 

 初めて彼に危害を加えてしまった、そのことに紫は動揺する。今までは彼の周りのみで彼の直接危害を加えたことなどなかったし、そのつもりなどなかったというのに。

 

 殴り飛ばされた男は傷みに顔をしかめるものの、何故か勝ち誇ったような顔をする。まるで、それを待っていたかと言う風に。

 

「そうだ、お前は結局幻想郷の方が大事なのさ」

「そんなことは……」

「俺への愛と幻想郷への愛、まるで同等のように語っていたがなんてことは無い。お前のとっての一番は俺じゃない、俺の人生を壊したお前の愛は所詮その程度でしかない」

「違う! 私はあなたの事を」

「ふん、これを見てもそう言えるのか?」

 

 そう言って男は上着を脱ぎ捨てる、そこにあったものは。

 

「……!? 貴方、そんな、そんな馬鹿なことを!?」

 

 彼の体には魔法陣が刻まれていた、紫が捜し求めていたそれが。つまり、紫は彼女にとって最愛の男を殺さなければ、彼女のとって最愛の場所に帰ることが出来ないと言うことだ。

 

「さあ、選べ。俺と共にここで生きるか、俺を殺して幻想郷に戻るか。選べ!!」

「……っ」

 

 男を選べば幻想郷を失う、幻想郷を選べば男を失う。どちらの選択も紫にとって受け入れがたいものであった、だからこそ彼は選んだのだ。己の人生を壊した相手に一矢報いるために。

 

 

 

 ……そして、彼女は一つを選んだ。

 

「ざまあ、みろ……」

 

 痛みの中そう言って、最後に男は笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 とある屋敷の床の間で、彼女はぼんやりと座っていた。

 

「……紫様」

「……あは」

 

 ぼうっとしていた彼女であったが、己の名を呼ぶ式の声に堰を切ったように笑い出した。

 

「あははははは!!! すごい、すごいわ!!」

「紫様」

「聞いて、藍! 彼ったらまた私の予想を上回ったのよ! ああ、彼ったら何度でも私を喜ばせてくれる! 愛してくれる!!」

 

 狂ったように笑う彼女は傍にたたずむ式にその笑みを向ける、しかしその目は彼女では無い別の何かに向いているように見える。

 

「……」

「さすがよ、さすが! 貴方は何度でも私を拒む、私の企みをぶち壊す! そう、それでこそ!」

「…………」

「さあ、次はいつの彼を呼びましょうか! 過去? 未来? それとも平行世界? さあさあ、もう一度! もう一度、私達の愛を始めましょう!!」

 

 そう叫ぶ己が主を、式は静かに見つめていた。

 




 はい、紫回です。大変お待たせして申し訳ありません、そして輝夜回を待ち望んでいた方は申し訳ありません。ちょっと文章が纏らなかったのでこちらを優先させてもらいました、アイデア自体はあるんですけどね。次こそは輝夜で出来る限り早めに投稿したいですね。…あ、アンケートについてですがそんなに集まらなかったので集計結果はなしです。まだ答えてくださってもいいんですよ、なんてね。

 …さて、今回の内容については色々と突っ込みどころがあると思います。今回は彼が彼女を愛していないとか、これは能力の拡大解釈が過ぎるんじゃないかとか。…ただ、一つ言っておきます。




 …別に、紫がそれを出来るとは言っていないんですよ?



 ただ、紫が出来ると思っているだけです。今回出てきた彼は実在していたのか、式の態度は何なのか。そのあたりは何とも考えられそうですね、正直前書きで書いたことが全てのお話です、ある意味では最後だけで十分なのですよ。とりあえず今回はここまでにしておきましょうか、何かあればいつものようにご質問ください。ではまた。

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