東方病愛録   作:kokohm

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「違うのです」


※ちょっとした疑問なのですがかつての聖は若返りの維持に妖力を使っていたのですよね? じゃあ今はどうやって維持しているんでしょう、どこかで固定化したのかな? 個人的には維持は問題ないけど、若返りと言うか不老の術には妖怪の妖力が必要とか考えています。え? 何故それをここで書くのかって? さて、何ででしょうね……。


聖白蓮の愛

 命蓮寺を訪れる者はそれなりに多くいる、仏門に帰依しに来たもの、説法を聞きに来たもの、そこにある何かを利用しようとする者。良くも悪くもこの寺には訪問者が多い、ただ時にはまったく何があるわけでもなく、偶々ここを訪れるものもいる。彼もまた、そういうものの一人であった。

 

「聖、ちょっと迷子さんを連れてきたよ」

「迷子、ですか?」

 

 その村紗の言葉に振り向いた聖は、驚愕の表情を浮かべて呟いた。

 

「命蓮……!?」

「はい?」

 

 その反応に首を傾げるその彼は、聖白蓮の弟、数百年前に無くなった聖命蓮に見間違うほどによく似ていた。

 

 

「そうでしたか……」

「はい、気付けば此処の近くに立っていました。とりあえず村紗さんに連れてきてもらったのですが、正直何がなんだか分かっていなくて」

「ふむ……」

 

 似ている、見れば見るほどに。今は遠い過去の記憶とはいえ彼女は片時も弟の顔を忘れたことはない、そんな彼女が勘違いしそうになるほどに目の前の彼は若いころの弟と瓜二つであった。

 

「では少しの間、ここで生活をしてみますか?」

「え?」

「仮にもここは寺であるので生活などは普通の方には少々大変なものかと思いますが……」

「いえ、置いていただけるだけありがたいです」

「ならしばしの間ここでこれからのことなどを考えられるといいでしょう、微力ながら私も力添えいたしましょう」

「何から何まで、お世話になります」

 

 外来人である以上彼にとっては博麗神社に向かうことが何よりも近道だと聖は知っていた、でも思わずそれを隠してしまった。その理由は最愛の弟と同じ顔をした男の存在に、どうしても懐かしさを隠すことができなかったのだ。

 

 

 

「慣れましたか、ここでの生活は?」

「ええ、まあそれなりに」

 

 あれから数週間ほどが経ったであろうか、未だに彼はここに居続けていた。別に彼の意思だけでここに残り続けているわけでもない、彼がここを出ようとするとさりげなく聖が止めにかかっていたからだ。

 

「では貴方も修行などをしてみますか?」

「あー……すみませんがそれはご遠慮させていただきます。お世話になっている身でなんですがどうにも宗教というものは合わなくて……」

「そうですか、それならそれでかまいませんよ。仏教とは強制するようなものではありませんからね、ですがもし気が変わったら言ってくださいね?」

「はい、覚えておきます」

 

 

 そんな珍しく個人に執着している聖に、共に居続けて来た仲間達が疑問を抱かないわけがなかった。

 

 

「姐さん、彼はいつまでここにおいておくつもりなのですか?」

「彼次第です、彼が出て行くというときまで私は彼をここに住まわせるつもりです」

「そうですか……」

「何か問題が? 彼の生活態度などは特に問題ありませんし、進んで様々な雑事をすませてくれています。……もしかして、男性ということで警戒でも?」

「あ、いえ。そういうことじゃないんですが……」

「?」

「何でもないです、じゃあ私はこれで」

「はい、分かりました……?」

 

 

 一輪は何を気にしているのであろうか、聖にはいまいちピンときていなかったがあまり気にしてもしょうがないだろうと思うのであった。

 

 

 白蓮との会話を終えた一輪はその足でその足で友人たちの元へと向かう、集合予定であった彼女の部屋には既に村紗と星の姿があった。

 

「どうだった?」

「彼次第、だって」

「……聖次第、じゃなくて?」

「姐さんがそんなこと言う訳ないでしょう?」

「でも一輪はどう思ったのさ?」

「……少なくともそう思っているようには見えなかったわね、でも私には間違いなく姐さんが彼に執着しているように見えたわ」

「無意識ってこと? 彼が弟さんに似ているからつい?」

「そうなんでしょうね、たぶん」

「別に彼が悪いってわけじゃないんだけどさ、良い人だし。でもねえ」

 

 聖が妙に執着しているというのが気にかかる、それが二人の共通認識だ。聖との付き合いも長いがあんな姿は今まで見たことがなかった、そのことが二人にはどうにも引っかかるのだ。

 

「問題ないでしょう、おそらくは」

「星?」

 

 先ほどまで黙ってお茶を飲んでいた彼女であったが、何の問題もないと二人に告げる。

 

「彼女は己が欲に囚われるような人ではありません、それは貴方たちも分かっているでしょう?」

「それは……」

「ならば何も心配することはありません、私達は彼女を信じていればいいのです」

 

 そう星は締めくくったものの、未だに村紗と一輪はその懸念を捨て去ることが出来なかった。ただどちらにしろ、今の自分達に何が出来るわけでもないというのもまた分かっていた為に、結局はただ見守り続けるしかなかったのだ。

 

 

 

 

「うわっ!?」

「!!?」

 

 ある日のことだ、外を歩いていた時に命知らずな妖怪に襲われたのは。勿論そんなものが束になったところで聖に傷一つつけることは出来ない、だが彼は別だった。

 

「大丈夫?!」

「はい、大丈夫です」

「……ああ、よかった…………」

「聖さん……?」

 

 無事な姿の彼に思わず聖は抱きついた、安堵と恐怖が彼女にそうさせたのだ。そして、それからの彼女は彼に対して過保護になっていった。

 

 

 

「人里に行くのですか? でしたら私も」

「大丈夫ですよ、そんなに遠くでないのですから」

「いえ、何かあってからでは大変です。私もついていきます」

「はあ、すみません」

 

 おそらくは思い出してしまったのであろう、自身の弟を亡くしたときのことを。その死が彼女に死への恐怖を与えたように、その事件が彼女に彼の死への恐怖を与えた。だから彼女はよりいっそう、彼の傍にいるようになった。

 

 

 

 当人に自覚があったかは分からないが聖は何も弟そっくりだから彼に執着していたわけではない、勿論当初はそれが多くを占めていたのだろうが次第に彼そのものに魅力を感じていたからだ。しかしそのことを彼女は自覚していない、彼女は自分が彼に親しみを感じているのは自覚しているがそれがあくまで彼が弟にそっくりだからだと思っていた。

 

 まあそう思ってしまうのも無理はないだろう、弟と同じ顔を持つ彼に対して自分が恋慕の情を抱いているなど早々自覚できまい。彼女にとって彼は弟と同じ顔をした男性であり、言ってはなんだが亡くしてしまった弟の代理のようなものであった。

 

 

 ……だから、だからなのだろう。ある日思わず、彼女は呼んでしまった。

 

「命蓮」

 

 そう、彼のことを呼んでしまったのだ。

 

 

「止めてください!」

「っ!?」

 

 その激昂に思わず聖、そしてその場にいた者たちの動きが止まる。常に笑顔で温厚な彼がここまでの怒りをあらわにしたということに、誰もが驚愕していた。

 

「僕は! 僕は貴方の弟ではありません!僕の名前は命蓮ではありません!!」

「あ……」

 

 その言葉に白蓮は自分が何を言ってしまったのかを遅ればせながら理解した。そうだ、今自分は彼を、彼の存在を否定する言葉を言ってしまったのだ。

 

「お願いですから! …………僕を、見てください…………」

 

 彼もまた感じていたのだろう、自分を見る白蓮の目に。そしてその目が映しているのが必ずしも、彼だけではないということに。耐えがたいものだ、自分を見てもらえないというのは、自分が誰かの代わりだと思ってしまうのは。そんなことに今更気がついた聖は、その場を去っていく彼の後を追う事も出来ずにその場に座り込んでしまった。

 

 

 

 座り込みうつむく聖、そんな彼女に星は声をかけた。

 

「聖」

「星……」

「聖、彼は貴方の弟ではないのです。どれだけ似ているのかは知りませんが、彼は違うのです」

 

 違う、その言葉を聞いた聖はピクリと肩を震わせる。それに気付かず星はさらに口を開く。

 

「ですから彼と貴方の弟とは切り離して見てあげてください。二人は別人なのですから」

「……ええ、そうでしたね。そう、彼は違うのです、命蓮とは……」

「分かってもらえたようですね」

「そのようですね、私はちょっと勘違いをしてしまったようです。……ええ、そうでした」

 

 顔をうつむかせたまま聖は立ち上がり、そしてボソリと、間近にいた星ですら聞き取れないほどの小声で呟いた。

 

「そう、彼はまだ死んでいない……」

 

 

 彼に謝りに行ったのであろう、彼が去っていった方に歩いていく聖の姿に満足そうに星は頷く。

 

「これ大丈夫でしょう、うん」

「……そう思うかい、ご主人?」

「え? だって分かってくれたじゃないですか?」

「まあそうなんだけどね……」

 

 キョトンとした表情を浮かべている星を尻目に、傍で様子を見ていたナズーリンは苦々しげに呟いた。

 

「もしかしたらその方が良かった、そう思うときがくるかもしれないよ」

 

 

 

 

 その夜、彼女は人知れず寺の外を歩いていた。

 

「……ふふ」

 

 彼と上手く仲直りできたのであろうか、その表情は喜色満面であった。

 

「そうでしたね、彼は命蓮ではないのです」

 

 だがよくよく見ればその笑顔は何処かおかしいと感じてしまう、確かに笑っているのに何故か笑っていないようにも見える。

 

「そう、彼は命蓮とは違う。決して死んだりすることはないのです」

 

 何かが彼女のたがを外したのであろうか、その目には怪しげな……狂気の色が映っていた。

 

「さあ、そのための準備を進めなくては。今度こそ、今度こそ私は……」

 

 

 ……彼女が抱いているのが姉弟の情なのか、それとも恋慕の情なのか、あるいはそれらをまぜこぜにした表現しようのない感情なのか。そんなことは誰にも、彼女にだって分かりはしないだろう。

 

 だが……、それとは別に分かっていることもある。遠からぬ将来に、再び幻想郷を異変が襲うということが………………。

 




 はい、聖回です。ちょっとまたもや頑張ってみました、流石に次はマジで遅いです。他の奴も書かないといけないのでね、病愛録は少し休みます。

 今回はちょっといまいちかな、とか思っています。狂気も薄いし、展開も無理やりだし。もし時間をかけてもこれ以上のものにはならないと思ったのでこのまま通しましたが、なかなか納得のいくものは書けませんねえ。それと今回は都合上前書きで長々と書いてしまいました、前回の後書きで書いておけばよかったと反省しきりです。まあすんだものは仕方ない、次に行きましょう。何かあったら感想で突っ込んでください。

 そんなわけで次回、たぶんルーミアになるのかな? もしかしたら変更するかもしれませんがね。たぶんルーミアはヤンデレではないと思います、ですが十中八九サッドエンドとなるでしょう。さて、今来ているリクエストが八雲家、ルーミア、小鈴、諏訪子、小悪魔だったと思います。もし抜けていたら教えてください、ちょいちょいリクエストが増えるので私が忘れている可能性があるので。ではまた。

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