あれは、一目惚れというやつだったんでしょうか。
先輩と初めて会った、いえ先輩を初めて見たのは入学してすぐのことでした。まだ学内の道も分からずに適当にさまよっていたときに、二階の窓からあの人を見つけました。その時には私は思ったんです、あの人の傍に居てみたいって。何故かは分からなかったけど、そう強く思ったんです。
「早苗、学校どうだった?」
「神奈子様。はい、仲良くなれそうな人が多くてどうにかなりそうです」
「そうか、そりゃあ良かった」
「はい、……それと」
「うん?」
「その、気になる人を、見つけまして、その」
「おやおや、早苗にも春が来るのかな。ま、お前さんの青春なんだから上手くやりなよ」
「はい!」
でも、どうしたら仲良くなれるんでしょうか? うーん?
「話は聞いたよ、早苗」
「諏訪子様?」
「私は縁結びのおまじないを知っているんだけど、知りたかったりする?」
「! はい、教えてください!」
「じゃ、早速教えてあげるよ」
なるほど……。よし、これで仲良くなって見せます!
「……諏訪子、それって効果あるのかい?」
「さあね、所詮はおまじないだから。だけど神から教えられたおまじないってのは効きそうだと思わない?」
「なるほどね、まあ結局のところは早苗次第か」
「そうだね」
おまじないの内容は簡単なものでした、毎晩寝る前に縁を結びたい相手のことを思うだけ。
たったそれだけのことだけど、私はそれを信じました。毎晩毎晩、おまじないをしていました。あの人と仲良くなりたいって。
……でも、ある日見てしまったんです、あの人が女の子と仲良く話しているのを。もしかしたらあの人を誰かにとられてしまうかも知れない、そう思った私は一念発起して話しかけてみることにしました。
「こ、こんにちは?」
「……こんにちは?」
最初の会話はこんな感じでしたね、恐る恐る言った私に対してあの人は、先輩は何か不思議なものを見る目でした。
それから度々、私は先輩と会うたびに挨拶をするようになりました。
「先輩、偶然ですね」
「君は、……ああ、確か……東風谷、だったか?」
「はい、東風谷早苗です!」
「うるさい、図書館では静かにしろ」
「す、すいません」
……まあ、こんな風に最初は失敗ばっかりだったけど、でもそのうち先輩との距離も少しずつ埋まっていくようになっていきました。
「こんにちは、先輩」
「……ああ、君か。何だ?」
「えっと、姿を見かけたので」
「そうか、……もういいか?」
「はい、すいませんでした」
「奇遇ですね、先輩」
「東風谷? ……確かに奇遇だな」
「えっと」
「道端で立ち話もあれだな、あっちの公園に行くぞ」
「あ……、はい!」
「先輩、ちょっといいですか?」
「東風谷か、ああ、何だ?」
「勉強で分からないところがあって、教えて欲しいんです」
「俺が? まあ、分かる範囲なら」
「ありがとうございます!」
「先輩、先輩!」
「何だ?」
「一緒に写真を取りましょうよ! いい景色ですよ!」
「悪い、写真は嫌いなんだ」
「えー……」
「……分かった、分かった。そこのアイスを買ってやるから機嫌を直せ」
「わーい!」
勉強のことだったりちょっとしたことだったり、会うたびに私は先輩に話しかけました。先輩も最初こそは怪訝そうな顔をしていましたけど、だんだんと警戒を解いてくれて、時々笑顔を見せてくれるようになりました。
そんなある日のことでした、私がそれを聞いたのは。
「早苗」
「……はい? どうかしましたか?」
「ああ、私は決めたよ、早苗」
神奈子様による幻想入りの計画、神奈子様達が在り続けるための賭け。風祝として私も幻想入りするのに否はありませんでした、……だけど。
「どうすれば、いいんでしょうか」
日課となったおまじない、先輩の写真を握り締めながら先輩のことを想う。……明日、話してみるしかないですね。
「……来たか、東風谷」
「先輩、もう来ていたんですね」
「ああ、呼びつけておいて待たせるなよ、まったく。それで? わざわざ呼び出して何の用だ?」
「……その、転校することに、なりまして」
「……そうか、それはまた、寂しくなるな」
「はい……、たぶん、もう会えないと思います」
「もう? 外国が何処かに行くのか?」
「そんな感じです」
「……会いに行けたら会いに行く、落ち着いたら連絡しろ」
「え?」
「多分無理だが、一応な」
「……はい」
そうして私は、幻想郷に渡った。
最初は不安だったけれど徐々に幻想郷にも慣れてきました、でも。
「……はあ」
「どうした、早苗? 元気が無さそうじゃないか」
「神奈子様……。先輩のことを思い出していまして」
「先輩? ……ああ、お前が入れ込んでいた男のことか。すまないな、早苗。私達の勝手にお前をつき合わせてしまって」
「いえ、私にとってはお二人の傍にいることが当然なのですから、気にしてはいません」
……でも、やっぱり忘れられないんですよね。
「先輩……」
会いたいです、先輩……。
先輩の声を聞きながら、私はそれを望んでいました。
「……諏訪子」
「けろ?」
「早苗のおまじない、あれはまだ続いているのかい?」
「んー、たぶん」
「そっか、ま、これでよかったと思わないとね」
「それはどうかなあ」
「なんだい、何かあるのかい?」
「おまじないを甘く見ない方がいいって話だよ、私としても予想外なんだけどね」
「……まずいか?」
「そうでも無いと思うよ、少なくとも早苗にはね」
「なら、今はいいか」
ある日、私は人里にお買い物に来ていました。必要なものを買い揃えてそろそろ帰ろうと思ったとき、私は我が眼を疑いました。
「……え?」
まさか、あれって……!
「先輩! 先輩!!」
「……まさか、東風谷?」
「先輩!!!」
そうだ、先輩だ! どうして? ううん、そんなの関係ない! 先輩が居れば何でもいい!
「何でお前がここに? もしかして、お前の言っていたのはここのことか?」
「はい! そうです! 先輩、先輩!!」
思わず抱きついてしまう、外の世界ではこんなに積極的なことは出来なかったのに。でも、それぐらい嬉しい!
「落ち着け! そんなにくっつかなくても何処かに行ったりしない!」
「あ、すいません、先輩に会えたのが嬉しくて。先輩はどうしてここに?」
「よく分からん、気がついたらここにいた。何が何だかさっぱりだ」
「そうでしたか、あ、せっかくだからうちに来ませんか? この世界のことも教えられますし」
そうだ、せっかくだから神奈子様と諏訪子様にも紹介しましょう。うん、それがいいです。
「ああ、そうだな、そうしようか。……東風谷」
「はい?」
「また会えるとは思っていなかった、お前に再会出来てよかった」
「……はい! 私もです。また先輩に会えるなんて」
多分満面の笑みで、私は言いました。
「まるで奇跡ですね!」
そう、奇跡は起こるんです!!
「奇跡、ねえ」
「どうしたの、神奈子?」
「いや、あんなものは奇跡とは呼ばないと思ってね」
「そうかもね、正確に言うのならあれは“のろい”だもんね」
「早苗は疑問に思わなかったのかね、彼の態度の変化に」
「普通なら行く先々で会えば偶然よりも作為を感じる、早苗の行動を不審に思ってもおかしくないはずだったんだよね」
「実際最初の方はそうだったみたいだけどね」
「ま、しょうがないんじゃない? だって」
「“のろい”も“まじない”も同じ“呪い”だからね」
「……なるほど、アンタの仕業かい?」
「うんにゃ、私は何もしていないよ。予想以上に早苗との食い合わせが良かったってだけだよ」
「……そういうことにしておこうか。それにしても、彼、本当に気付いていないのかね? いくら呪の影響を受けたからってあれは気付きそうなもんだけれど」
外に居た頃から気がついていた、早苗の狂った行動には。何故そうも偶然出会えたのか、それは早苗が尾行をしていたから。何故彼の写真を持っていたのか、それは早苗が隠し撮りしたから。何故分かったのか、早苗の部屋に入ればその異常さはすぐに分かる。壁一面に張られた彼の写真、パソコンの中の彼との会話データ、保管されている彼から貰った飴の包み紙まで含めたすべての物。考えなくても分かる、早苗は異常だ。だが、どうして彼は気がつかなかったのか。それは呪のせいか、それとも……。
「どっちでもいいんじゃない? 二人とも幸せそうだし」
「……ま、そうかもね」
早苗の狂った行動を止めさせるために神奈子は強引に幻想郷に居を移した。それは一見成功したように見えて、結局は悪化させただけだったのか、二人を狂わせただけだったのか、どうだったのであろうか。だが、一つだけ言える事がある。
「ふふふふふふ、もう一度出会えたんです、奇跡のように。だから、もう離しませんよ」
東風谷早苗は、
「せんぱい?」
幸せなのだ。
はい、予定に無かった早苗回です。やっぱり頭痛がするときに書くもんじゃないですね、どうにも上手く形にならない。急に暑くなったのが悪いです、直射日光は私の敵のようですね。
今回は感想にてハッピーエンド? を見てみたいと言われたので突貫で書いてみた回です。ハッピーエンドですよね? まあちょっと微妙かなとは思いましたけどね、二、三時間でパッと書くとこんなもんです。
ご希望のキャラだったりシチュエーションだったりを伝えてもらえればこんな程度でよければ書くつもりではあります、こっちのアイデアとの兼ね合いもあるので必ずしも書くとは限りませんけどね。今のところ、妹紅、文、チルノ、慧音、紫、フラン、ぐらいは何となくアイデアがあるので、その他のキャラで何かアイデアがあれば、ですかね。
しっかしこっちのアクセスが伸びているなあ、何でこの時点で不帰録の半分近くあるんだろうか。皆ヤンデレが好きなのかねえ、などと思ったり。ではまた。