こいしの無意識に関しては適当で。ちょっと予定と方向が変わりましたけど……。
今日、妖怪の女の子に会った。
出会ったのは人里の外、自分が時折山菜などを採りに行く場所だ。人里の外、妖怪の活動範囲内でもある場所に女の子がいた。一応自分は知り合いの巫女や魔法使いのおかげで自衛手段ぐらいは持っている、だが目の前の少女がそうであるようにはあまり見えない。何かの理由で人里の外に出た少女が迷子になって途方に暮れている。その可能性を考えた自分は、彼女を連れて人里に一旦帰ろうと思い、彼女に声をかけることにした。
彼女は最初のうちはぼんやりとしていたように見えたが、自分が声をかけるにつれて段々と反応が大きくなっていった。妙に楽しそうというか、嬉しそうというか、そんな反応だった気がする。とりあえず、この辺りはそれほど安全ではないと告げたところ、なんとその少女こそが妖怪であったのには驚いた。幸いにも彼女――古明地こいしは人を積極的に襲うタイプの妖怪ではなかったらしく、自分が襲われるようなことにはならなかった。
人かと思ったら妖怪に声をかけていた、という状況にどうしようか考える自分にこいしは無邪気な笑みを向けてくる。……まあ、こういうのも悪くはないか。そう思った自分は少しばかり彼女と話をしたあと、分かれて人里に戻ることにした。……ああ、あと何故かお兄さんと呼ばれるようになった。微妙に照れくさい。
今日、またもやこいしと会った。しかも人里の中で。
こいしがぼーっと立っているのを見つけて思わず声をかけた。覚えてもらっているだろうかと少しばかり不安? を感じていたのだが、どうやら彼女の方も自分を覚えていてくれたらしい。嬉しそうに自分のことをお兄さんと呼んだ。
何故ここにいるのかと聞いてみたが、どうにも要領を得ない。無意識の仕業、らしいのだがどうにもピンと来ない感じだ。だがまあいいかと思い、では人里に居てもいいのかと聞いてみたが、ばれてなさそうだからいいんじゃないかとのこと。人を襲ったりしないのだから別にいいか、と自分もそれ以上に気にしないことにした。その後、せっかくだからと茶屋で団子をおごっていたのだが気付けばこいしは姿を消していた。これも無意識とやらの仕業だろうかと思いながら、その日は家に帰った。
戸を開けたら目の前に人がいて驚いた。こいしだった。
自宅を出ようとしたら目の前にこいしがいた。どうやら彼女の方も驚いているようで、そういった感じの反応を見せていた。どう反応しようかと少しばかり悩んだが、彼女を家にあげることにした。出かける予定はあったがどうせ大した用事でもない。そう思ってこいしを家にあげることにしたのだが、その時の彼女の反応が僅かに気にかかった。何と言うのだろうか。呆然、というのも違うし、上の空、というのも違う感じだった。……強いて言うなら、恍惚? …………そんなわけもないか。ああ、あと彼女はいつぞやのように突然姿を消していた。一体どういう風になっているんだろうな、彼女の能力というやつは。
……ふむ、何かが変だ。
最近、家の中の小物の配置が違っているような気がする。気のせい、というには少々引っかかる違和感だ。とはいえ騒ぎ立てるのも大仰が過ぎるだろうし……。とりあえず、放置だな。
…………確定だ、な。
今日、職場でこちらに来てから友人となった同僚にこのようなことを言われた。――お前、妹が居たんだな、と。
は? と自分が返すと向こうも、は? という顔をしていた。どういうことかと思い話を聞きだすと、彼は昨日、自分の家を訪れていたらしい。ちょうど自分が家を出ていた時間だったようで、それはつまり彼は誰とも会わずに帰ったということになるはずなのだが、そうではなかったらしい。信じがたいのだが、自分の家に少女が居たのだそうだ。それでその少女に自分のことを尋ねると、お兄さんは今出かけているといわれ帰ったのだそうだ。
勿論、自分は一人暮らしだし、そもそも自分に妹など居ない。そのことを同僚に返すと同僚はひどく驚いた顔をして、その中には僅かに怯えの色が見えた。おそらく、幽霊か何かに会ったのではないかと思ったのだろう。まあ、自分も同じ考えなのだが。小物の違和感も合わせると自分の家に何かいる可能性が高くなってきたようだ。……さて、どうしたものか。
……不気味だ。
例の違和感がますます強くなってきている、というより確実に物の配置が変わっている。この前などしまっておいたはずの布団が出され、その上で誰かが寝転がっていたような痕跡があった。いい加減気味が悪い。そう思っていたのだが、今日のそれは今まで以上だった。
――仕事から帰ったら、台所に出した覚えのない鍋があったのだ。恐る恐るその鍋の蓋を開けると、中には煮物らしきものが入っていた。その瞬間、背筋が凍った。見た目は普通の料理だ、別にゲテモノだったりグロテスクだったりということはない。だが、そんな普通の料理がいつの間にか用意されていたということが恐ろしく感じた。いっそ血のスープとか、そういったものの方がましだったのかもしれない。意図の分からないその料理を受け入れる事が出来ず、それを捨てた後自分は家を出て外で食事をとった。その日は、そのまま家に帰らなかった。
……最近、ひどく疲れる。
未だに家の中の異変は収まらない。時には料理が用意され、洗濯や掃除などが行われていることもあった。だが、それを受け入れる事が出来るほど自分は図太くはない。……いい加減にして欲しい、そう切実に思う。
――しかも、だ。そういった精神的な疲労に引っ張られているのか、最近は身体の方の調子が悪くなってきた。正確には寝て起きたときに身体がひどく疲れているのだ。寝ることにもエネルギーは消費されるから疲れること自体はおかしくないのかもしれないが、その度合いがひどい。まるで一晩中外を走っていたのかというレベルで疲れているのだ。毎晩ではないが、それでもきつい。一度博麗の巫女の少女に依頼して来てもらったのだが、その時彼女はこの家から妖気を感じると言っていた。その妖気の持ち主が元凶なのだろうか? よく分からないが彼女はもう少し調査を続けてくれるとのことだったので、それを信じて待つことにする。正直引越しも考え中だ。
……そう言えば、妖気で思い出したが……。
――最近、こいしを見ないな…………。
今日、人間の男の人に会った。
出会ったのは何処か、いつものように無意識に来た場所なのですぐに何処とは分からなかった。またかあ、などとぼんやりしていたら、急に声をかけられた。内容と声からして人間の男の人だろうか、そう思いながらその声の方向に目を向けたところで――思考が止まった。
――この人だ、とよく分からない感情を得た。よく分からずに止まっていた私にその人は声をかけ続けてくれる。その声を聞くうちに段々とその良く分からない感情が分かるようになってきた。
……ああ、これがそうなんだ。
ようやく納得できた私は目の前の男の人に反応を返した。とりあえずあっちが勘違いしていること、私が妖怪であることについて話すと、その人は若干罰が悪そうな顔を見せた。そんな顔が何となくおかしくて笑うと、その人も困ったように頭をかいた後、微笑み返したくれた。
その後は少しの間雑談をした。互いの名前や住んでいるところ、その他諸々。途中で目の前の人のことを名前で呼ぼうとして、なんとなくしっくり来ない感じがした。いや、正確には他にいい感じの呼び方があるような気がしたのだ。心の中でそれらしい呼び方をいくつか考えていると、お兄さんという呼び方が何故かしっくり来た。だからお兄さんと呼びかけてみたら、あちらは軽く面食らったような顔をした後、まあいいかと呟いていた。そう呼んでいい、という意味だと判断した私が、それからはお兄さんと呼ぶようにした。
お兄さんが帰った後、じっとその場所でお兄さんと会ってからのことを考え続けていた。考えるだけで身体が、心が喜んでいると感じた。気付くと何時の間にやら地霊殿の私の部屋にいたけれど、かまわずずっとお兄さんのことを考え続けた。
今日、気付けばお兄さんに会っていた。何時の間に人里に来たのだろう。
声をかけられた瞬間に、お兄さんの声だと分かった。嬉しい、と思った私はお兄さんに笑顔を向ける。そうするとお兄さんの方も、少し安堵したかのような笑顔を見せてくれた。これもまた、嬉しい。
どうしてここにいるのかとお兄さんに聞かれて、ようやく自分がいる場所が人里なのだと気がついた。まあいつものことといえばいつものこと、無意識の仕業だろう。もしかしたら無意識にお兄さんのことを思っていれ、それで人里に来たのかもしれない。その辺りのこともお兄さんに話したのだが微妙に変な表情をされた。説明が分かり難かっただろうか?
その後はお兄さんに連れられて、団子屋さんでお団子を食べさせてもらっていたのだが、気がつくと隣のお兄さんがいなかった。むしろ無意識に私が移動していたようだった。残念だな、と思いながら今度もお兄さんに会えることを私の無意識に祈ってみた。
気がついたら目の前に人がいてびっくりした。お兄さんだった。
何処だろう? と思った瞬間にお兄さんが目の前に現れた。私もびっくりしたがお兄さんも予想外だったのか驚いていた。両方とも一瞬だけ硬直して、その後お兄さんの方から家に上がっていくように言われた。
ちょっとドキドキしながらお兄さんの家に上がると、そこかしこからお兄さんの気配――匂い? がする。まるでお兄さんに抱っこされているみたいな感じになって、もっとドキドキした。落ち着かないぐらいドキドキして、お兄さんの話もあんまり聞けなくなっていた。その上、気がついたらお兄さんの家から出ていたみたいだし。……また、行きたいなあ。
……あれ? ここ……。
気付くとお兄さんの家にいた。最近ずっとお兄さんのことを考えていたのが私の無意識に影響したのかな? よく分かんない。でも、どうしようかな。なんかお兄さんはいないっぽいし……。……ちょっとだけ、探索させてもらおうかな。
妹、かあ……
また気付けばお兄さんの家にいた。だからそのままぼんやりとお兄さんの気配を感じていると誰かが来たようだった。思わず返事をしてしまった時点で、あ、と思ったけどそのまま出てみることにした。どうやらお客さんはお兄さんの同僚さんらしく、お兄さんに何か用事があったらしい。お兄さんと呼んだことで私のことを妹だと勘違いしたみたいだったけど、うーん……。ちょっと違うかなあ? 何と言うか……、妹だと物足りない? 感じ。悪い気分じゃないんだけど、やっぱり…………。
えへへ……
気付けばまたお兄さんの家にいた。どうしようかなってまた思っていると、いいことを思いついた。お兄さんに何かをしてあげたい、と思ったのだ。だから、何をするのがいいのかな、って思って、手料理を作ることを思いついたんだ。
お姉ちゃんが持っている本とかだと好きな人のために手料理を作るのは好感が上がるらしい。そのことを思い出した私は早速お兄さんのために料理を作ることにした。あんまり経験はなかったけれど、それなりに形になったんじゃないかなって思う。お兄さんはこれを食べてどう思ってくれるかな、って思うと心がわくわくしていた。でも、その調子でお兄さんが帰ってくるのを待っているとまた景色が変わっていた。あちゃあ、自分のことだけどタイミング悪いなあ……。
……あ、メモとかを残していないけど、大丈夫だったかな……? ……ま、いっか。
嬉しい、本当に――嬉しい。
気付けばしょっちゅうお兄さんの家にいるようになってきた。だからお兄さんのために家事とか、お掃除とか、そういったものをよく行うようになった。こういうことをやっているとお兄さんのために動けている気がして、本当に嬉しい。……まあ、時々お兄さんの匂いに包まれる嬉しさに負けちゃう事があったりするんだけど。
……でも、お兄さん本人には中々会えないんだよね…………。お兄さんの家は一応知っているけどお兄さんが普段何処にいるのかは知らないし……。寂しいなあ、って思う。
ああ、だけどその代わりかなり嬉しいこともある。よく分からないけれど、気付いたらお兄さんの匂いが自分の体からするときがあるのだ。これが本当に嬉しくて、お兄さんに会えない寂しさも少しはマシになっている。これはこれで悪くない、よね。
――ああ、そうそう。もう一つ気になっている事がある。その、お兄さんの匂いがするときなんだけど、身体が変な感じなんだよね。疲れている? でも充実感もあるような、そんな良くわかんない感じ。んー……、何だろ? でも悪い気分はしないし……、いいかな。
――そろそろ会いたいなあ、お兄さん。
はい、こいし回です。こういう系のオチは他のやつと毛色が違うので、不安ですねえ。
今回は先に彼視点、次にこいし視点で書いてみました。最初は交互に書いていたのですが、互いの認識の違いを分かりやすくするにはどっちがいいかなと思って、結局この形式になりました。どうでしょうかね。……それにしても、こいしはここまで良いことだと思ってやれているのは、ある種壊れているからなのでしょうかねえ。
内容に関してですがこいしの能力は結構適当な感じにしています、どういう風にすればいいかよく分からないし。あと何故かこいしが匂いフェチっぽくなってしまった、何故だ。他には……ああ、今回のオチですね。最初は体型なり何なりに触れるオチにしようかと思ったんですが、そこまで時間も経っていないかなと没に。というか今回のオチって分かってもらえていますかね。鈴仙回が反応鈍かったからどうにも、なんですけどねえ……。じゃあ書くな、という話でもありますが。でもこいしをストーカーで留めてもつまらんなあ、ということで。
さて、何だかんだとそろそろ四十話です。また三十話のように短編をいくつか書く形式になる予定です。まあその前に次回ですが。次は誰にしましょうかね。ではまた。